『D.C. Re:tune ~ダ・カーポ~ リチューン』開発者インタビュー。なぜ今「ダ・カーポ」のリメイクなのか?今の時代に向け「変わったこと」と「変えなかったこと」を訊く
『D.C. Re:tune ~ダ・カーポ~ リチューン』のディレクター林氏へのインタビューを実施。フルリメイクの背景や開発の方針について伺うことができた。

ブシロードは5月12日、CIRCUSが手がける『D.C. Re:tune ~ダ・カーポ~ リチューン』を10月30日にリリースすると発表した。対応プラットフォームはPC(Steam/Windows)/Nintendo Switch。
『D.C. Re:tune ~ダ・カーポ~ リチューン』は、2002年にCIRCUSより発売された恋愛アドベンチャーゲーム『D.C. ~ダ・カーポ~』のフルリメイク作品だ(関連記事)。現時点で『D.C. ~ダ・カーポ~』シリーズは5作目までリリースされており、コンシューマー版への移植やファンディスク、アニメ化などのメディアミックス作品・グッズ等も多数制作されている人気シリーズである。“妹系美少女ゲーム”の中でも代表的な一作と言えるだろう。
弊誌ではこの度、オリジナル版から制作に携わっている本作ディレクター林氏へのインタビューを実施。フルリメイクの背景や開発の方針について伺うことができたので、以下で紹介する。
――まずは、自己紹介をお願いいたします。
林氏:
CIRCUSの林です。シリーズでは1作目『D.C. ~ダ・カーポ~』から制作に携わっており、当初はグラフィッカーを担当しておりました。今作では、ディレクションと制作進行を担当しております。
――『D.C. Re:tune ~ダ・カーポ~ リチューン』について、作品紹介をお願いいたします。
林氏:
オリジナルをご存知の方に向けては、”発売から23年経った、今のCIRCUSが送る『D.C. ~ダ・カーポ~』”と言えるかと思います。一方、オリジナルをご存知でない方に紹介するとすれば、一年中桜が咲き誇っているちょっと不思議な島を舞台にした“こそばゆい学園恋愛ストーリー”ですよ、といった感じですね。
――ざっくりと、どのようにリメイクされているのか教えて下さい。
林氏:
まず、キャラクターデザインを今風に新しくして、それに合わせてキャストの方も全員新しく配役し直しております。また、演出まわりも当時の『D.C. ~ダ・カーポ~』を再現するというよりは、「今のD.C. ~ダ・カーポ~」っぽく作り直してあります。また、新しくした機能もあります。シナリオに関しては核になる部分は変更していませんが、新規キャラクターを追加したり、一部既存キャラクターのシナリオに加筆をするなどの形で変更を加えたのが大きなポイントとなっています。

なぜ今、ブシロードとの「ダ・カーポ」リメイクなのか?
――今回、「ダ・カーポ」1作目のリメイク版を開発することになったきっかけを教えてください。
林氏:
オリジナル版『D.C. ~ダ・カーポ~』がリリースされてから23年ほど経ちまして、幸いなことにシリーズとしても最新作『D.C.5 ~ダ・カーポ5~』に至るまで長く続いてきました。そんな中でユーザーから「これから『ダ・カーポ』シリーズに触れるには、どこからプレイするのがいいのか」と尋ねられることもあります。こちらとしては1作目から入ることもお薦めしたいんですが……どのバージョンもなかなか現行機で遊ぶ環境(Windowsの該当OSやPS2などのコンシューマーゲームハード)を用意することの方が困難という状況にぶつかるわけです。
そのため、いつかは一作目をリメイクしなきゃという思いはずっともっていたのですが、考えるべきことや決めなければならないことが多くあるため、長らく「いつ、どのように?」という決め手にかけて実際には動き出せずにいました。そこでちょうど、ブシロードさんからお声がけいただいたことが大きなきっかけになって、一緒に動き始めたという形です。
――ブシロードさんのお声がけがあったからこそ実現できたと。
林氏:
意思決定できたのはまさにそのおかげといった感じです。
ブシロードさんとは、「ヴァイスシュヴァルツ|Weiβ Schwarz」などでの長いお付き合いが元々ありましたので、弊社のコンテンツを非常に大事に扱っていただけるという信頼も寄せています。リメイクのお話をいただいたときも、「ブシロードさんであれば、『D.C. ~ダ・カーポ~』を大事にしてくれる」ということがわかっておりましたので、やることはすぐ決まり、割とトントン拍子に進んでいった印象です。
――信頼の下地があっての座組と。
林氏:
そうですね。

――今回のフルリメイクにおける開発テーマや軸にしたコンセプトを教えてください。
林氏:
実は、それについては長い間悩んでいた部分です。元々「自社でやるとしたら」と考えていた段階では、リメイクではなくリマスターという道も考えられましたし、自社リメイクのやり方もあります。いずれにしても、どういうターゲット層に向けて作っていくかという点で選択肢がいろいろあり、決めかねておりました。
ブシロードさんと打ち合わせを重ねていく中で、「新キャラを入れてみませんか」や「デザインや音声まわりも新しくするのはどうでしょう」という提案をいただき、「新しくする」ということを前提に考えることで、アイデアが広がっていく面も出てきました。そこで徐々に、23年前当時のファンのみなさんに「懐かしいもの」として提示するという形よりは、今のリアルタイムなファンや「これから『ダ・カーポ』を知っていただける人々」に向けて作っていきたいという方針が自分の中で固まりました。
――新旧要素のバランス配分という点では比較的、新規層に向けての意識も高いと。
林氏:
もちろん0:100というようなことはありませんが、比重としては確かに新しい人へ向けての意識は強いです。
これまでの1作目から『D.C.5 ~ダ・カーポ5~』までのシリーズ作品は、「ひとつの連なり」として作ってきたところがあります。今回のリメイク版は、そこに続いたり、上書きしたりするものではなくて、ある種別軸の新しいシリーズのようなイメージ・位置づけで立ち上げたいなという思いがありました。もちろん自分自身オリジナル版スタッフでもあるので、核の部分を大事にしたいという思いも同時に持っています。
加えて、普段通りに自社での制作・販売となると、PC向けパッケージ版のみからのスタートとなる可能性がありましたが、今回はブシロードさんとご一緒させていただくことによって、Switch版もSteam版も出しつつ、多言語も対応しましょうということになったので、実際により新しいところへリーチできる可能性が高まりました。コンセプトに合致した動き方ができることが相乗効果となって、目指すべきところが固まったという感じがします。
――新規グラフィックは、どのようなディレクションで作られたかお聞きしたいです。オリジナル版の持ち味も残しつつ、絵における“今風感”やトレンドを盛り込むのは難しそうですが。
林氏:
ここも、ゲーム全体のコンセプトに沿って進めたところではあります。新しい人々に受け入れていただけるようなデザインを模索したいと思っておりました。しかし同時に、キャラクターとしての記号のようなものは残すべきだと考えているので、そこはしっかり残しつつ今風にしましょうという、ある種の無茶振りをする格好になりました(笑)
しかし、キャラクターデザイン担当のたにはらなつきさんと鷹乃ゆきさんはこれまでにも長く一緒にお仕事してきたところはあるので「ツーカー」と言いますか。こちらは信頼してお願いして、お二人には素晴らしい匙加減で応えていただけた結果として、今回のデザインになりました。ディレクションというより、お二人のお力のおかげです!(笑)

――キャスティングについても、新規キャストの配役方針やお芝居のディレクションなどが気になります。
林氏:
自分がオリジナル版スタッフでもあるため、頭の中に元々のキャラクターの声というのはあってしまったんですけれど、今作としては一旦リセットしました。
それから、新しくなったキャラクターデザインやキャラクター性というものをゼロベースで見直して、このキャラクターたちに今声をつけるなら……というところから考えて希望を出させてもらいました。
収録に際して、オリジナル版をご存知の声優さんもいらっしゃったのですが、みなさんに「オリジナルの『D.C. ~ダ・カーポ~』は意識せずに、今作のキャラクターとしてご自分らしいお芝居をしていただきたい」とお伝えして進めました。
――グラフィック、キャラクターボイス両面において、“新しさ”のエッセンスを多めに入れるバランス配分であると。
林氏:
そうですね。新しく知っていただく方々に「良いね」と言っていただけるようなところを目指しました。

――新キャラの風祈(ふうき)はどういうキャラクターで、どういう狙いをもって作られたのでしょうか。
林氏:
これはオリジナル版をご存知の方向けの話になっていきますが、長らく「ダ・カーポ」シリーズ作品を作ってきたからこそ作れるキャラクターを、本作に入れられないだろうかということをまず考えました。
その上で、今までの「ダ・カーポ」シリーズに出てきたキャラクター達よりも一歩、その世界を別軸で広げてくれるようなキャラにしたいというところから、風祈というキャラクターを作っております。
――風祈が絡むシナリオ回りで、これまで含めた「ダ・カーポ」全体の世界観や設定に関する謎も、付随して解明されていくポイントもあったりしますか。
林氏:
そういう作り方の選択も一時は考えていたのですが、「リチューン」は別軸で作ると決めましたので、オリジナル「ダ・カーポ」シリーズの世界の謎を直接的に解決したり、解明したりするヒントになることは基本的にはないと思っています。
ただ、シリーズの謎が垣間見えるところはあるとは思っています。これは「こっちでこうなら、あっちもこうだよね」という風に、ユーザーの方が想像をかき立てられるというようなことはあるかなといった感じです。
――“IF”のような。
林氏:
そうです。直接的にこちらで明言することは基本的にありませんが、シリーズをプレイした方なら「こうなのかな」と思うようなばめんはあるかと思います。
――これまでのシリーズを遊んできた方でも、ここから初めて「ダ・カーポ」に触れる方でも共通に楽しめるようにはなっていると。
林氏:
はい、そのつもりでやっております。

変更点もあるし、それは“隠さない”
――頼子さんはオリジナル版では隠しキャラだったという認識ですが、「リチューン」の公式サイトでメインキャラクターとして公開されています。これにはどういった狙いがありますか。
林氏:
狙いというか、ある種私の感情論みたいなところもあるんですけど……おっしゃるとおり、頼子さんは隠しキャラでした。すみません、どうしても私も「頼子さん」と呼んでしまうんです(笑)隠しキャラという性質上オリジナル版のリリース前には露出させられなかったり、良いキャラなんだけどあまりプッシュできないというところもありました。そのため、ユーザーさんの中でもメインキャラより若干印象が薄いと感じられた方もいらっしゃったと思います。
しかし、もう長い時間経ちましたしアニメ版やそのほかのメディアミックスなどで描いていただくことも多かったので、「もう、いることはみんな知ってるだろう」ということで、最初から出させてもらいました。「頼子さんもメインのヒロインです、愛してください」というメッセージも込めて(笑)
――こちらもサイトでの公開情報を見ての質問ですが、萌先輩のキャラクター設定が大きく変わっているように見えます。この意図をお聞かせいただければと思います。たとえば、姉妹の担当する楽器が木琴&フルートの組み合わせから、ピアノ&ヴァイオリンになった理由なども気になります。
林氏:
ここはだいぶ迷いました。おっしゃるとおり、萌は眞子の姉なのですが、当時「お姉さんとしての萌」という人物をあまり描けていなかったんです。萌は萌の問題、眞子は眞子の問題を抱えていて、それぞれが独立している関係性だったところがありました。
ただ、『D.C.Ⅱ ~ダ・カーポⅡ~』以降で「姉キャラ」というものを描けるようになってきたので、今このタイミングで1作目をリメイクするに当たって「姉キャラはちゃんと必要じゃないか?」と思いました。今回、「リチューン」を描くに当たって眞子のシナリオを掘り下げてかなり加筆しています。オリジナル版では眞子のシナリオは少し短めだったのですが、今回は他のヒロインと同じくらいまで広げております。
その関係もあって、広げて深まった眞子というキャラクターの「姉としての萌」を描こうとした時に、姉妹の関係や家族としての萌、主人公純一の「先輩としての萌」というのも、より見せられるようになりました。その上で、どういう萌にしていくのが良いかを考えていった結果、今の萌になりました。
――個人的に、キャラの再構築にもちゃんと理由があるので納得感があります。
林氏:
ありがとうございます。楽器のことに関しては、今回のキャラクターに合ったものにしたいという意図ももちろんあるのですが、ユーザーに対して「ここ、変わってますよ」ということを分かりやすく見せておいた方がいいかなということもあって、表記しております。知らないまま実際にプレイした方に「先輩変わっててショック」と思わせてしまうよりは、先にお知らせしておこうという意図ですね。


――なるほど。変わっているところは変わっているとはっきり打ち出しているんですね。
林氏:
はい。そういった点はもちろん新しい方に向けてはいるのですが、当時を愛している方々にもやはり注目していただいているので、そういったユーザーに向けて「今回はこうさせていただいてます。それでも良ければ楽しんでいただきたいです」というところを、見せていくべきかなとは思いましたね。
――旧作ファンにちゃんと発信して、期待値を適切にするのも重要ですよね。
林氏:
そうですね、そういうつもりでした。もし「ダ・カーポ」シリーズ自体が、たとえば10年前くらいに一度休眠に入っていた作品で、今回出すのが久しぶりの復活作だったならば、当時の方向けというところを強く意識したかもしれません。しかし、長く続いていて今愛してくださっている方たちもいらっしゃいますのでそういった今の方へ、そしてもっと新しいところにという意図もありました。
――キャラクター設定をひとつ変えることで、全体的なキャラの相関やシナリオロジックも大きく変わって大変そうですが。
林氏:
萌や眞子の深まった部分は、二人が出てくる場面はもちろん、出てこない部分にも影響を及ぼしてはいます。そこは破綻ないよう注意して見直しています。
今の時代の倫理基準にあわせるための変更はない
――ちなみに……全年齢向けとはいえ本作は美少女ゲームです。今の世相に合わせてロマンス表現が厳しく規制されているのではないかと思ったりもしますが、そのあたりの調整はどのようにされましたか。
林氏:
今の倫理基準に合わせるために特別に何かをしたというところはありません。それこそ、テキスト面に関しては、一部のキャラクター性が変わった部分を除けば基本的にPS2版以降いじっていません。
――それを聞けて、安心しました。システム面では何か便利なものや新しい機能の追加はありますか。
林氏:
テキストベースの恋愛アドベンチャーに慣れ親しんでいる方にはお馴染みの機能(スキップやオート、リプレイなど)はもちろん一通り備えています。それ以外ですと、今回「ジャンプ機能」というものがあり、誤って進みすぎてしまったときにちょっと戻るということもしやすくなっています。
それから、まだあまり紹介したことはありませんでしたが、「辞書機能」というものも追加しました。今回は日本語・英語・簡体字・繁体字の4言語に対応しているため日本国外のユーザーにもより楽しんでもらい、日本の文化に少しでも触れていただけるように実装しました。たとえば、「桃太郎」のことは日本人ならばみんな知っていると思いますが、海外の人は「何これ」となるかもしれませんよね。そういうときに、辞書に単語が登録されて、その意味を各言語で説明してもらえるという感じです。
――セーブスロット不足などを感じることもなさそうでしょうか。
林氏:
おそらくキャラクターごとにセーブを分けて遊んでも十分なだけのスロットがあると思います。また、「シナリオ回想モード」ももちろん実装してありますので、気になるシナリオはそちらから見直していただくことも可能です。

「ファンタジー日本学園ゲーム」として
――新しいユーザーに向けて、本作で得られるゲーム体験はどのようなものか、改めて紹介をお願いします。
林氏:
「ダ・カーポ」シリーズを長く作り続けていくうちに、ある種ガラパゴス化した部分があるので、なかなか難しい質問でもあるのですが(笑)「昔懐かしい恋愛アドベンチャー」の空気感を残しつつ、キャラクターと主人公の関係や距離感を感じられるのが「ダ・カーポ」らしさのひとつかなと思っています。オリジナルの『D.C. ~ダ・カーポ~』の頃にはなかったキャラクター同士の距離感の演出なども、その後のシリーズで培われてきた側面がありますので、「ダ・カーポ」らしい空気感と、今らしい見せ方のマッチングを体験できるのではないかと思います。
――本作は英語圏でもリリースされますか。英語でプレイするユーザーに向けて、本作を紹介してください。
林氏:
実は、多言語対応に挑戦するのはほとんど初めてと言っていいくらいですので、難しいですが(笑)ある意味で、国外の人々がファンタジーとして思い浮かべる日本像というものがあると思うんです。そんな“ファンタジー日本”の学生たちが通う、“ファンタジー日本”の学園生活や青春、そういったものが味わえる作品になるかなと思っております。
――たしかに、「ダ・カーポ」はリアルとファンタジーのちょうど中間くらいの感じがしますね。ちなみに、この「リチューン」に始まるリメイクの形式を今後続けていく可能性はどのくらいありますか。
林氏:
個人的な希望で言わせていただくとやりたいですし、やるべきかと思っております。さきほど申し上げたとおり、別軸のシリーズとしてやっていきたいという希望や意図を持って今作を作っていますので、できたらこの軸で『D.C.Ⅱ』『D.C.Ⅲ』のリメイクも実現できればリメイクシリーズとしての展開を見せられるかなと思います。
ただしあくまで企業体なので、結局は反響次第というか、みなさんの応援次第かな……とは思います(笑)なので、応援いただけると嬉しいなというところです。それと……ひとつお伝えしたいことが。
――はい、なんでしょうか。
林氏:
オリジナルの「ダ・カーポ」シリーズファンに向けてなのですが、今回は別軸として「リチューン」をやっていこうという風に思っています。リメイク……「リチューン」が出たからこれまでの「ダ・カーポ」シリーズの展開が終わってしまうということはありません。
――気になるところでした。
林氏:
はい、心配される方もいらっしゃるので伝えたく。今までの「ダ・カーポ」も続いていきますし、「リチューン」は「リチューン」で続けていきたいと思っています。応援よろしくお願いします。
――ありがとうございました。
『D.C. Re:tune ~ダ・カーポ~ リチューン』はPC(Steam/Windows)/Nintendo Switch向けに10月30日リリース予定。現在、キャラクター別特典つき限定パッケージ版の予約も受付中。ショップごとのオリジナル特典も存在するため、詳細はX公式アカウントを参照されたい。
[聞き手・執筆・編集:Kei Aiuchi]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]