『TRAUMA』-夢からの脱出

6本目の今回は『TRAUMA』。開発は Krystian Majewski 氏を中心としたチームです。「トラウマ」といえば日本語では心的外傷のイメージが強くありますが、"trauma"では身体的なダメージの意も含まれています。

PLAYISM で配信中のインディーゲームのインプレッションをお届けします。毎週火曜更新予定。

6本目の今回は『TRAUMA』。開発は Krystian Majewski 氏を中心としたチームです。「トラウマ」といえば日本語では心的外傷のイメージが強くありますが、"trauma"では身体的なダメージの意も含まれています。"trauma center"で「外傷センター」、映画やドラマなどで見たことのある方もいらっしゃるでしょう。ちなみに『超執刀カドゥケウス』の英語名は『Trauma Center: Under the Knife』でした。いろいろと貫禄があります。

プレイ時間: 約1時間
プレイ状況: エンディング到達

本作は古典的な一人称ポイントアンドクリックタイプのアドベンチャーゲームです。触り心地は少し前に大流行した脱出ゲームタイプで、すぐになじむでしょう。特徴的なのはマウスジェスチャー風の操作による視点移動やインタラクトがあること。とくに重要となる魔法陣風の入力はゲーム中で容易に知ることができます。

『TRAUMA』を語る上で外せないのがその演出です。じつのところ"特定の画面で特定のジェスチャをすればクリア"なだけのミニマムなゲーム部分を、表現力が力強く支えています。ジェスチャの軌道のグラフィックス、軽快ながらも「交通事故にあった人物の夢の中」を伝える重みのある画面遷移、多くない画面数でも奥行きを感じさせる構造。ゲームは構成要素ごとに不可分であることはいうまでもありませんが、とくに本作はシンプルであるがゆえにそのこだわりが際立っています。

また、ステージ自体はコンパクトなものの順繰りに紡がれる主人公の物語は、全4面でそれぞれがマルチエンディング。一応のボリュームはあります。自力で全エンディング・全コレクション制覇するとすればそれなりの時間がかかるでしょう。

 

こうしてジェスチャーのヒントが与えられます。 色彩と音響のジェスチャーです。
こうしてジェスチャーのヒントが与えられます。

色彩と音響のジェスチャーです。

 

また、第一印象でいわゆる雰囲気ゲーの烙印をおされそうな印象がありますが、その実は存外ゲームしています。マルチエンディングに収集要素、これだけでもポイントアンドクリックとしては十二分です。ただし、「このアイテムをとってフラグを立てて次のアイテムを取って」といったたぐいのフローはなし。ここは開き直りというよりは、むしろ夢の中の世界・心象世界を漂うというコンセプトからすれば不要だったと解釈できます。

ストーリーテリングはアブストラクトで、プレイヤーの想像力に任せるタイプなのでやや好みがわかれるかもしれません。しかし、その手の作品の中でも比較的具体性に富んでおり、ひとつひとつ紐解けば主人公の内面を垣間見れるというのは悪くないところです。個人的には、なんでもかんでも受け手に丸投げするスタンスは好きではありません。

 

何かがえぐられるテキスト。
何かがえぐられるテキスト。

 

少し気になったのはそもそもの大前提、設定の部分です。重傷を負った主人公が見ている夢というところ、ここに多少引っ掛かりました。というのも私はとある理由で本当に短時間ながら生命の危機にさらされたことがあるのですが、こうした具体性のある夢を見ることができなかったのです。もっとサイケデリックで意味不明な内容でした。

もしかすると、長時間病棟で寝込まざるをえない人間ならではの体験なのかもしれませんし、単に人体の個体差なのかもしれません。いずれにせよ、「一度死にかけてみないとこのゲームの伝えたかったことがなにかは真に理解することができないのではないか」と感じてしまいました。まあ、こればかりはどうしようもありません。ただ、仮に『TRAUMA』が製作者の空想の産物ではなく実体験の追体験装置だとすれば、それはじつに興味深いこと。実話ベースなのか否か、それだけが気になります。

 

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ゲーム自体とは直接関係ありませんが、本作は PLAYISM にて Pay What You Wan (PWYW)方式がとられています。クラウドファンディングが普及し、「カネ払いたいやつはいくらでも払うがよい」なる風潮が広まっていますが、PLAYISM 的にはあまり多くない事例です。下限は100円から。趣味趣向にもよりますが、この作品になら100円を払ってもよいと少なくとも私は感じました。それくらい、オーソドックスでありながら独特、シンプルでありながら細やかなところで気の利いた作品です。少なくとも、一発ネタ的に勢いでコインいっこいれて不愉快な心持ちになることはないでしょう。

 

プレゼントのおしらせ(終了)

最後に、読者の皆さまへプレゼントです。

本記事に言及する Tweet をしてくださった方のなかから1名様へ本作の PLAYISM 用コードをさしあげます。@GamersGeoJP (注: 本アカウントは@AUTOMATONJapanへ変更されています)をフォローしていただいた上で、ご応募の旨と弊誌 URL を明記しつぶやいてください。「もう持っているけど布教用にもう1つ欲しい」「脱出ゲームぽいのが好きだ」「とにかく精神世界の旅路ならばそれで満足だ」等、一番いいツイートをしてくださった方にお渡しします。締め切りは12月29日です。当選者の発表はコードの配信をもって代えさせていただきます。

Nobuki Yasuda
Nobuki Yasuda
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