『トゥモローチルドレン』社会実験アクション 個を捨て全で運営する街シミュレーション

『トゥモローチルドレン』は、数十人のプレイヤーが協力して1つの街を運営するゲームである。作品の舞台となるのは、冷戦中にソビエト連邦が生みだした人類の意識集合体「ボイド」によって滅びつつあるifの世界だ。

ソニー・コンピュータ・エンタテイメント・ジャパン・アジアQ-Gamesは、ソーシャルアクションゲーム『トゥモローチルドレン』を開発中だ。同作は今年8月、ドイツにて開催されたgamescom 2014にて正式発表された。サンドボックス要素や資源採掘など、一見すると『Minecraft』や『Terraria』に近い印象を受ける本作だが、実際のプレイフィールは大きく異る。今回、筆者は11月10日から11月24日まで開催されたアルファテストに参加した。

※ 同記事にて記しているゲーム内容は、アルファテスト時点のものであり、最終的な製品版とは異なる可能性があります。

 


滅亡しつつある世界で「街」から人類の復興を目指す

 

『トゥモローチルドレン』は、数十人のプレイヤーが協力して1つの街を運営するゲームである。作品の舞台となるのは、冷戦中にソビエト連邦が生みだした人類の意識集合体「ボイド」によって滅びつつあるifの世界だ。各プレイヤーは、世界を救うために作りだされた存在「プロジェクションクローン」を操作する。島で資源を集め、街を発展させ、ボイドから生まれた巨大獣「イズベルグ」を撃退し、人類の復興を目指す。ゲーム内では、街の規模を拡大し、人口を増加させることが、大枠の目標となる。

本作はプレイヤーが自由に行動可能で、極端に制限が少ないタイプのゲームだ。できることが多すぎて、ゲームを初めて起動するとなにから始めればいいのかすらわからない。ゲームプレイは、島を中心とする「資源の収集」と、街を中心とする「運営と防衛」に大きく二分される。この2つのロケーションを中心としたサイクルを覚えてしまえば、街を発展させる流れを簡単につかむことができるだろう。

 

ソ連の実験により生みだされた人類の意識集合体「ボイド」。底なし沼のように世界中に広がっている。ボイドは人間たちの意識に反応し形状を持つ特性がある。ゲーム内では、巨大獣「イズベルグ」や、様々な場面を再現した「島」となって具現化している
ソ連の実験により生みだされた人類の意識集合体「ボイド」。底なし沼のように世界中に広がっている。ボイドは人間たちの意識に反応し形状を持つ特性がある。ゲーム内では、巨大獣「イズベルグ」や、様々な場面を再現した「島」となって具現化している

 

「資源の収集」では、プレイヤーは街の近くにある「島」へと移動し、様々な資源を採掘する。人間の感情によって形状化したボイドを、ピッケルやシャベルで掘り進めてゆく。鉄や石炭などは、建築物や乗り物を作る、あるいは修理するのに必要だ。食料は街に住む住民たちが毎日消費する。ダイヤモンドを使用すれば、街を拡張することができる。また島のなかで発見できる「マトリョーシカ」は、人民再組成機と呼ばれるマシンに乗せると、一定時間で街の住民へと変化する。これを集め街の人口を増加させるのも、資源を収集しているプレイヤーの重要な役割である。プレイヤーたちは街を維持し防衛するため、常に資源を集め続けなければならない。

「街の運営と防衛」では、プレイヤーたちは集まった資源を消費して、砲台や砲弾や防御壁などを作る。発展させた街が破壊されないよう、巨大獣イズベルグが近づく前に撃退する。プレイヤーがPS4の電源を落としているときでさえもイズベルグは攻撃してくる。みなで協力して、常に目を光らせなければならない。また食料を落とす苗木の植林や、便利な施設と乗り物を生産し提供するのも、街にいるプレイヤーたちの役目である。

ゲームの流れについて大きく二分して説明したが、実際には両方の仕事に手を出すような、ハイブリッド型のプレイヤーの方が数は多い。どのようなスタイルで仕事をするのも、あるいは仕事をせずにほかのプレイヤーの邪魔をするのも、本作では自由だ。ゲームスタート時には5種類の職業が存在する。またプレイ中にレベルアップすると、各ステータスを伸ばすこともできる。自分のプレイスタイルに合わせてプロジェクションクローンを選択し、育成してゆくといいだろう。

 

パラメータには作業速度、耐久力、攻撃力、労働評価、俊敏さ、バッグ容量が存在。街なかの自販機で購入できるPerkには、さまざまな特殊能力が備わっている。ただしどちらも頻繁に強化できるわけではない
パラメータには作業速度、耐久力、攻撃力、労働評価、俊敏さ、バッグ容量が存在。街なかの自販機で購入できるPerkには、さまざまな特殊能力が備わっている。ただしどちらも頻繁に強化できるわけではない

 

 

平均的な能力を持つシチズンに、採掘能力に優れたマインワーカー、イズベルグの撃退に特化したコンバッタントなど、5種類の職業が選択できる。ただコンバッタントを選択したからといって、必ずイズベルグと戦闘しないといけないわけではない。
平均的な能力を持つシチズンに、採掘能力に優れたマインワーカー、イズベルグの撃退に特化したコンバッタントなど、5種類の職業が選択できる。ただコンバッタントを選択したからといって、必ずイズベルグと戦闘しないといけないわけではない。

 

 


「個」を捨て「全」のために働けるか?

 

『トゥモローチルドレン』は、「カスケード型ボクセルコーンレイトレーシング」と呼ばれる照明表現により、フォトリアルでありつつレトロな雰囲気もある、独自のグラフィックスタイルを実現している。世界観やビジュアルは、ソビエト連邦や東ドイツなど冷戦時代の社会主義国家をベースとしている。とはいえ、ゲーム内のルールもガチガチの社会主義に縛られているわけではない。本作はゲーム開発者の意地の悪さが垣間見える、「社会実験場」のような作品なのだ。

ゲームが進み街が巨大化するにつれ、資源の消費量は徐々に増え、防衛ラインも伸びていく。お気にいりの街をデザインし、自由に建物を構築するというよりも、いかにほかのプレイヤーと協力し街を維持するか。これが本作の根幹のデザインだ。つまり街を発展させるには、私利私欲に走らず、ほかのプレイヤーと協力することが必須だ。特に後半になるにつれ協力体制は必須となるのだが、本作にはそれを邪魔するゲームデザインが多数盛りこまれているのである。まるで開発者が、「社会主義の理想通り、みな平等で働けるのならやってみろ」と、挑戦状を叩きつけている感すらある。

本作の重要なデザインとして、ほかのプレイヤーは「アクション」をとっている瞬間しか表示されないというものがある。ただ歩いていたり、アイテムを確認し ているだけのプレイヤーは表示されない。だが物資を拾ったり砲台で攻撃するなど、なにか行動しているプレイヤーは数秒間だけほかのプレイヤーから見えるのだ
本作の重要なデザインとして、ほかのプレイヤーは「アクション」をとっている瞬間しか表示されないというものがある。ただ歩いていたり、アイテムを確認し ているだけのプレイヤーは表示されない。だが物資を拾ったり砲台で攻撃するなど、なにか行動しているプレイヤーは数秒間だけほかのプレイヤーから見えるのだ

プレイヤーは様々な仕事をこなすことで、労働局から「労働評価」と呼ばれる、ゲーム内通貨のようなスコアを与えられる。この「労働評価」を消費することで、自身のツールやPerkを購入したり、施設や乗り物を生産することができる。ただしこの労働評価は、途中経過に関してはほとんど評価されず、実際にアクションを起こしたプレイヤーに対してより多く与えられる性質がある。たとえば危険な島のなかで物資を採掘したユーザーよりも、送られてきた物資を安全な街なかでかっぱらい、納品したユーザーの方が労働局からは高く評価される。苦労して採掘した物資を横から奪われたとき、平常心でいられるだろうか。

ショップや施設の生産所に行列ができてしまう。ほかのプレイヤーが購入したツールやPerkはしばらく売りきれる。生産した乗り物は共有のため、ほかのプレイヤーにすぐ奪われてしまう。ゲームをクリアするには、個を捨てて一致団結し、ほかプレイヤーと協力しなければならない。だが同作には、プレイヤーたちの仲を悪くするような仕掛けが満載だ。チームワークを捨てるとチームが負けてしまうマルチプレイヤーゲームはよくある。だが『トゥモローチルドレン』では、単なる1マッチの敗北の変わりに、長い時間と労力をかけて築いた街が崩壊してしまう。

 

各プレイヤーが持っているリュックサックの容量はかなり少ない。島から街へと資源を運搬するなら、バケツリレーのように運び、定期バスの荷台の乗せるのが一番早い。各プレイヤーと意識が噛みあうかがカギとなる。
各プレイヤーが持っているリュックサックの容量はかなり少ない。島から街へと資源を運搬するなら、バケツリレーのように運び、定期バスの荷台の乗せるのが一番早い。各プレイヤーと意識が噛みあうかがカギとなる。

 

ロケットランチャーなどで街を破壊し、資源を消費して修理し続ければ、安全に労働評価を獲得できる。好評・悪評システムが存在しており、酷いプレイヤーは 警察に拘留されるが、賄賂で抜けだすことができる。また、アクションしている瞬間しかほかキャラクターは表示されない仕組みなので、賢くズルをすることは 可能なのだ。とはいえ、同作には"引っ越しシステム"が存在する。ほかプレイヤーが引っ越し費用を投じると、別の街へ強制的に移動させられてしまう。悪事もほどほどに。
ロケットランチャーなどで街を破壊し、資源を消費して修理し続ければ、安全に労働評価を獲得できる。好評・悪評システムが存在しており、酷いプレイヤーは 警察に拘留されるが、賄賂で抜けだすことができる。また、アクションしている瞬間しかほかキャラクターは表示されない仕組みなので、賢くズルをすることは 可能なのだ。とはいえ、同作には"引っ越しシステム"が存在する。ほかプレイヤーが引っ越し費用を投じると、別の街へ強制的に移動させられてしまう。悪事もほどほどに。

 


希薄なようで濃い社会関係が鍵を握る"ソーシャルゲーム"

 

『トゥモローチルドレン』における他者との繋がりは一見すると希薄だ。特定のアクションを取っているプレイヤー以外は、一切ディスプレイに表示されない。評判システムやあいさつなどのアピールアクションは搭載されているものの、具体的な意見を言いあうチャットは搭載されていない。しかし実は、他者との意思疎通が難しいにも関わらず、同作は他者との協力体制が鍵を握る、"チャレンジングなソーシャルゲーム"なのである。

アルファ段階でありながらも、独自のデザインを垣間見せている『トゥモローチルドレン』。製品版では島や資源の種類など、現在以上のコンテンツを用意できるかが重要になるだろう。基本的には作業ゲームならぬ"労働ゲーム"であり、いかにプレイヤーを飽きさせないかが鍵となるだろう。今回のテストは日本国内限定であったが、世界中のプレイヤーたちに解放されたとき、"全で協力する社会"がはたして実現するのか見守りたい。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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