2月22日は猫の日。猫の日でもオススメしにくい、2016年に発売された猫ゲームたち
2015年は、猫ゲームにおける戦国時代であった。かわいい猫となって家を荒らしまわる『Catlateral Damage』、猫と釣りをするというシンプルなテーマながら中毒性を持つ『Cat Goes Fishing』、お菓子を求めて世界を旅する2Dアクション『Nyan Cat: Lost In Space』などさまざまな良作に恵まれた年だったといえる。しかし、2016年はまだ2か月しか経過していないが、すでに猫ゲー界には暗雲が立ち込めている。今回、2月22日の「猫の日」にちなんで、2016年にすでに発売されている、他人にはオススメしにくい、やや残念な猫ゲームたちを紹介していく。
The Cat Simulator
猫が好きな人の中には、猫になりたいと考える人もいるのではないだろうか。『The Cat Simulator』は猫になりきる3Dアクションゲームだ。部屋を動きまわり、物を落としたりネズミを捕まえたりしながらスコアを稼いでいくのが本作の目的である。早期アクセスの初期であるがゆえに、ステージがひとつしか用意されていないのは仕方ないとして、中身のほうも物寂しいのが本作の特徴だ。とにかくスコアを稼ぐために、まばらに配置されているオブジェクトに体当たりしてくのがゲームの基本となる。しかし、一人称視点でしか操作できないため、スコアを稼ぐためにプレイヤーが体当たりしたオブジェクトが、その後どこにいったのか視認することも難しい。さらに、スコアを獲得する際に表示される文字の解像度は崩れていたり、いくらスコアを稼いでも競いあうシステムもなく評価もされないなど、寂しさを感じさせる要素が充実している。
ただ実は、そういったさまざまなプレイしづらさは本作の大きな問題点ではない。本作のもっとも問題がある部分、寂しい部分は、猫要素が欠けているところにある。前述したように本作は一人称視点しか用意されていないことにより、ゲーム中は猫の姿を一切見ることができない。プレイヤーは一人称視点で、猫とはあまり縁のなさそうな無人のパブで、いろんな場所に不自然に配置されている瓶や盾をひたすら落とし続けなければならない。時折ネズミが現れ、うまく追いつけば高得点を稼げるといった要素もあるが、筆者の考える「猫要素」はそういうことではないのである。唯一猫らしさを感じさせてくれるのが鳴き声。プレイ中、思い出したかのように唐突にかわいらしい「ニャー」という声が響く。この瞬間だけは自分が猫のゲームをしていることを思い出すことができる。あなたは必死に猫になりきろうと没入する一方で、静まり返ったパブに響き渡る鳴き声を聞きながら、深い孤独に苛まれることになるだろう。
『The Cat Simulator』は2014年にKickstarterのファンディングを試みたが目標額の15%ほどしか集まらずキャンセルされてしまったいわくつきの過去を持つ。2年の歳月を経て2月13日から早期アクセスが開始されたが「デモですらない」「Unityのアセットをそのまま使っているだけ」と厳しいSteamレビューが集まっている。これらの批判に対し開発元のCat Studioは怒りの声をあげている。
“早期アクセスであるということは、バグもたくさんあり、未完成であるのはユーザーもわかっているはずだ!我々をサポートするつもりがないならば、そもそもゲームを購入しないでくれ!”
Cat Simulator
「ユーザーvs開発者」という人間同士の争いが勃発し、ゲーム内容と相まって、もはや誰も猫に興味がなくなりつつある様相を見せる『The Cat Simulator』。298円というお手軽な値段は魅力だが、購入の際にはよく考えてほしい。猫を楽しむことと、猫になることは似ているようで異なっているのだ。
Psychocat: The Answer
『Psychocat: The Answer』は、ひたすら障害物を避けていくアーケード風の3Dアクションゲームだ。答えを探し続けるZagという名の猫の物語、とSteamストアページには表記されているが、答えとは何なのか、どういう経緯なのかなどといったことはゲーム中では全く語られない。
「ごく一部の人はゲームをプレイ中に気分が悪くなるかもしれません。その時は医師の診断を受けてください。」という不穏な警告画面から本作は始まる。プレイヤーは猫のキャラクターを操作し、方向キーを使いながら障害物を避けてスコアを伸ばす。しかし本作はこの説明ほど簡単に遊べるものではない。プレイ中に出現する赤と青の壁を通り抜けると、それぞれ左右や上下の操作が反対になる。その両方が反転する壁などもあり、プレイしているうちに目が回ってきてしまう。こういった高い難易度のゲームの例に漏れず、本作も失敗するとすぐにリトライできる仕様となっている。しかし、ゲームオーバーの演出もなければ失敗のエフェクトすらなく、障害物に当たるといきなりスタートからやり直しになる。アマチュアのゲームにはありがちな仕様であるが、あまりの淡白なリスタートには、時間が巻き戻されているような不安な気持ちを抱かされる。
しかし本作においてもっとも恐ろしいのは、そのビジュアルだ。「気分が悪くなったら医師のもとへ行け」という警告文に相応しい色彩の暴力がプレイヤーを苦しませる。ステージは常に虹色の世界。ゲームをいくら進めても、あなたは無数の原色にしか出会うことができない。ゲーム後半になればモノクロのステージに変わるようだが、そこまでたどり着くまでにほとんどのプレイヤーが虹色に苦しめられて力尽きることとなるだろう。プレイを開始した頃こそはサイケデリックな世界観と思ったものだが、プレイ時間を重ねるうちに自分の視界に謎のチラつきが生まれ始めた。速くなるスクロール、複雑になる操作、溢れだす虹色。本作をプレイした後しばらくは、筆者の視界には無数の光線が飛びかっていた。
『Psychocat: The Answer』はお手軽なリプレイ性、ほどよい爽快感、98円という値段を考慮すればさほど悪いゲームではない。しかし、本作はプレイヤーが猫を操るという点以外は、猫らしさは全く感じられない。むしろ私は、このキャラクターが人間である方がしっくりくる。本作を猫の日にあえてプレイし、眼を痛める必要はないだろう。
A Wild Catgirl Appears!
猫といえば美少女。そう考える人は少なくないだろう。『A Wild Catgirl Appears!』はバタ臭い少女が数多く登場する美少女恋愛アドベンチャーゲームだ。
本作は、突如部活に入ることを強いられた主人公が、人が少ないと休んでもバレにくいからという理由で幽霊部と化しているコーディングクラブに入る。そして、ふとしたきっかけでゲーム開発を始め、ゲーム用にデザインしていた忍者の格好をした猫ガールが現実世界に登場するというどこから突っ込めばよいか迷ってしまうファンタジーな青春物語だ。主人公は女子高生で攻略対象は全員が女性。このゲーム用にデザインした忍者の格好をした猫ガールというのがタイトルのA Wild Catgirlにあたる。もちろんこのキャラも攻略対象だ。
まず、本作にはスキップが存在しない。もちろんバックログやクイックセーブ、クイックロードも存在せず、セーブに至っては分岐があるゲームとしては考えられない3スロットである。この仕様は『Life Is Strange』や『シュタインズ・ゲート』のような昨今トレンドになりつつある、時間を巻き戻すことができるアドベンチャーゲームへのアンチテーゼかもしれない。
しかし、数ある要素の中でもっとも恐ろしいのがグラフィックだ。もともと好みの分かれる立ち絵が特徴的な本作であるが、それすらも小さな問題とも思える。
特徴的なのがこのシーン。オタクでありながら可愛らしかった主人公が一転。原型を留めない落書きのような容貌に変化している。この画像に代表される、いわゆる一枚絵と呼ばれるグラフィックはどれもこのような落書きのようなグラフィックだ。途中でイラストレーターが抜けてしまったのではないかと容易に想像できるこの悲惨な一枚絵を見た時は怒りよりも同情が先行してしまった。
しかし悪いところばかりではない。本作は日本への強いリスペクトが秘められている。作中幾度も日本のゲーム会社やゲーム作品がパロディとして登場し、日本で有名な“あのプール”まで背景に使われるなど、開発者の偏った日本の知識が遺憾なく発揮されている。シナリオも「物語最序盤から登場し、主人公に尽くしている幼なじみがとにかく蔑ろにされる」という日本の美少女恋愛ゲームの王道を追求する徹底ぶりだ。この点をよしとするかは難しいところだが、少なくとも日本に対する情熱は感じられた。
このように『A Wild Catgirl Appears!』は日本への愛に満ち満ちている作品である。とはいえ、前述した闇鍋のようなキャラクターや設定、アンチテーゼを意識させるシステム、安定しないグラフィックなどプレイするためには越えるべきハードルがいくつも用意されている。いくら猫が好きなユーザーでも「猫ガール」のためにだけに頑張る必要はないだろう。ちなみに筆者は幼なじみのRiaちゃんがタイプである。
Kitten Rampage
『Kitten Rampage』はかわいくも凶暴な子猫が遊びまわる3Dアクションゲームだ。本作も早期アクセスタイトルとなる。同じシミュレーションゲームでも『The Cat Simulator』とはやや趣旨が異なっており、イタズラというよりも破壊がテーマだ。大きな箱庭が用意されており、プレイヤーとなる猫は、顔から発射するガトリングやレーザーであらゆるオブジェクトを破壊していく。
まず気になるのがその操作の複雑さだ。移動は基本的にWキーとSキーの前後のみ可能となる。横に移動したい時や横を向きたいときはAキーとDキーを用いるが、これらは猫の向きを90度変えるだけで、横方向に進まない。ではマウス操作で視点を変更できるのかというと、それもできない。マウスの左クリックを押せば攻撃できるが、マウスにそれ以外の役割はなく、シューティングゲームにおける重要ポイントと言えるエイミングもままならないのだ。この不便極まりない操作を改善する方法がひとつだけ存在する。左Altキーを押すと、マウスを使った左右への視点移動が行えるようになる。しかし、Altキーを押してもなお視点の上下移動は不可能となっており、やはりエイミングはままならない。
派手なグラフィックも独特のものだ。Unityを用いて開発されている本作は、とにかく色使いが全体的にどぎつい。オブジェクトやフィールドの色彩は豊かなのだが、色がどれも明るすぎるのであまりに目に優しくない。そこへさらにエフェクトが加わってくる。爆発したオブジェクトのエフェクトはとにかく派手で、破片が宙に残る演出も相まってとにかく画面が見辛くなる。目が痛くなるわけではないのだが、とにかく画面が賑やかで何が起こっているかわからないという事態が多々発生するが、無人のパブでネズミを探す寂しいゲームよりはマシなのかもしれない。
しかし、本作の見どころはその下品さにあるだろう。基本操作のひとつにジャンプアクションがあり、この猫、ジャンプするたびにお尻から“アレ”を排泄する仕様となっている。マップには段差も多く用意されていて頻繁にジャンプすることになるので、感覚としては十秒に一度は“アレ”を出していることになるだろう。また、嘔吐爆弾なども用意されており、下品なアクションのバリエーションにぬかりがない。今後のアップデートではさらなる下品なアクションが追加されるとの噂もあるようだ。基本行動のジャンプアクションに排泄行為を混ぜ込むことで、普通に遊んでいるだけでも下品なプレイが強いられる開発陣のアイディアにはただ脱帽するしかない。
『Kitten Rampage』は荒々しさと愛らしさを両方含む不思議な作品だ。ただプレイ中は、愛らしく時に凶暴な猫を眺めることができるなど、これまでの作品のなかではもっとも「猫」を感じさせる作品であることは間違いない。だが、立ちはだかるのが価格だ。巨大なマップが用意されており、細かく作りこまれているゴージャスなタイトルであるが、980円は少々重い。2月9日にリリースされたばかりで、まだまだ早期アクセスは序盤。もう少し様子見してから購入すればより遊びやすいタイトルになっているのではないか。
「猫の日」特集ということで、2016年に発売された猫ゲームを紹介させて頂いた。どの作品も猫への愛で溢れていることには間違いない。しかし、猫への愛が溢れているからといってゲームとしてオススメできるかは別問題だ。我々は猫を愛するユーザーだからこそ、時に毅然とした態度で猫ゲームを批評しなければならない。2016年もまだまだ始まったばかり。これから発売されるであろうまだ見ぬ猫ゲームに期待したい。