『The Political Machine 2016』インプレッション 今年もやります!トーキングヘッドたちの大統領選挙
アメリカ大統領選ストラテジー『The Political Machine 2016』は、強烈な風刺を土台に本年の大統領選を俯瞰する教材ゲームだ。民主政治の根底「投票制」をゲームルールで諷し、「すべて票集めの要素でしかない」と等しくあつかうことで、本年注目の政治問題に公平な見解をもたらした。
候補者を模したトーキングヘッドや、教科書を模したチュートリアルの落書きなど、そこかしこに不真面目なジョークが仕込んである。しかしながら、本作でとりあつかう政治問題は生々しい。ビデオゲームの規制、マリファナの合法化、ISISとの対決など、どれも難しい話題だ。ここで、タイトルの語源が19世紀の風刺戯画にあることを明かしておく。焦点は、候補者の中傷や政治問題の偏見でなはく、100年以上前から揶揄されつづけた投票制にある。いまさら目くじらをたてられることもないので、安心して楽しんでほしい。
『The Political Machine 2016』
開発元: Stardock Entertainment
発売日: 2016年2月5日
価格: 9.99ドル
プラットフォーム: PC(Windows)
とにかくカネをあつめて票に換えるゲーム
ゲームの目的は投票結果で過半数を上回ることだ。プレイヤーは共和党または民主党の大統領候補者となり、対立政党の候補者と一騎打ちで、全米をまたにかけた選挙キャンペーンをくりひろげる。
1週間を1ターンとし、候補者はスタミナのつづくかぎりキャンペーンと献金パーティにあけくれる。焦点はカネと票があつまるサンフランシスコ・テキサス・フロリダ・ニューヨークだ。序盤はこれらの州に選挙事務所をたてつつ、メディアを利用して住民の関心を自分側へ操作する。また、フィクサーやスピーチライターといったコンサルタントを雇う施設や、ガンオーナーズや女性団体にはたらきかける施設などもそろえていく。中盤は飛行機代もやりくりできないほどカネにこまるようになり、献金パーティを連発することとなろう。終盤はメディアよりも即効性のある演説に有り金を残らずつぎこみ、残りわずかな浮動票をもぎ取るのだ。
このデフォルメ化した大統領選をより印象づけるべく、本作はリアルなデータをとりあつかった。各州の投票数や献金残高、政治問題への感心は、国勢調査にもとづくものだ。こうして、政治問題に踏み込まず、住民の気をひく手段の位置づけにとどめることで、票集めマシーンの風刺とゲームルールを結びつけた。
アメリカ大統領選スピードラーニング
『The Political Machine』はタイトルに年度があるとおり、大統領選の年ごとに改訂版を発売している。しかしゲームルールは初版から変化していない。プレイ体験や後味の苦さは2004年版のWIRED誌レビュー記事どおりである。また、大統領選を題材としたゲームは他にもあり、それらとくらべ本作のプレイ体験は特出していない。
本作の価値はそこではなく、風刺によって確立した大統領選の俯瞰にある。政治問題も、各州の格差も、票集めマシーンの手にかかればすべて等しいものとなる。勝つためなら手段を選ばないゲーム性が政治バイアスをとりのぞくのだ。この風刺による濾過と、大統領選にあわせたデータの更新、さらに他作品よりも安価で入手も容易な点もあわさり、本作はアメリカ大統領選スピードラーニングのニッチにおさまった。
ここで、2012年版所持者は50%OFFとなること、2012年版でも同様のサポートがあったことも付け加えておこう。シリーズのファンなら、たった5ドルで今年の大統領選の要約をゲームで体験できるのだ。もちろん、本稿ではじめて知った方にも、アメリカ大統領選をちがう視点で楽しむ教材としてオススメする。特に本年の「ゲーム」は興味深い。共和党候補ドナルド・トランプ氏と、2月の党員選挙で名が上がった候補者(参考: CNN)とで、キャンペーン戦略はおおきくちがったものとなる。