『The Flame in the Flood』レビュー――かわいい愛犬と行く大洪水ラフティング、衣食住なし


The Flame in the Flood』は、未曽有の大洪水によって崩壊したアメリカを舞台に、愛犬とともに手製のいかだに乗って急流を下りつつ旅をするサバイバルゲームである。フルリリース日は2月24日。Steamを通じて購入することができ、執筆時の価格は19.99ドルだ。

フルリリースにあたって追加されたキャンペーンモードを開始すると、導入にあたるカットシーンがはじまる。プレイヤーキャラクターである女の子「スカウト」のもとに、彼女の愛犬「イソップ」が赤いリュックサックを引きずってくる。大洪水によって文明社会が流されたあとでは非常にめずらしいことだが、なかにはポータブルラジオが入っていて、電波に音声が乗っている。ノイズだらけではっきりとは聞き取れないが、とにかく誰かが放送を行っているわけだ。

ここからシームレスにゲームが始まる。スカウトはイソップとともに元いたキャンプ場で資材を集め、手製のいかだに乗り込み、流れのはやい急流を下っていく。この「いかだパート」とでも呼べそうなパートでいかだを操作し、岸辺に着岸すると「サバイバルパート」とでも呼べそうなパートが始まる。このパートでスカウトを操作してさまざまな物資やアイテムを確保し、野生動物や自然環境の脅威に立ち向かいつつ、自分の状態を示す四つのパラメーターを維持していく。

いかだパート。
いかだパート。
サバイバルパート。
サバイバルパート。

四つのパラメーターは「腹ぐあい、水分、体温、体力」とでも訳せそうで、どれかひとつでも底をつけばすぐに死がやってくる。この四つの終わりなき不足を満たすためにはそれなりの努力が必要になる。これとは別にいかだの強度も設定されていて、流れを下っているあいだに障害物に繰り返しぶつけると、いかだが壊れてしまいゲームオーバーとなる。過酷な環境で生きのびるために絶え間なき自己管理に励むわけだが、これが非常に楽しい。インベントリを整理したり、どの順番で食事をするか考えたり、新しいアイテムをクラフトしたりと、制限された条件のなかで自由に思考するよろこびがある。

プレイヤーは無人のガソリンスタンドや釣り具屋、キャンプ場、教会などから資材を集め、防寒のために衣服を縫い、いかだをアップグレードする。罠をしかけて野生動物を仕留め、その過程で負傷した場合はアイテムで治療する。基本的にプレイヤーキャラクターよりも野生動物のほうが強く、即応性のある武器は手作りの弓矢くらいのものだ。プレイヤーは知恵を絞って、厳しい環境に順応していく。

生き延びるために、たき火で暖を取る。スカウトのカメラ目線が気になる。
生き延びるために、たき火で暖を取る。スカウトのカメラ目線が気になる。

ところで、ここまで書いてきて気づいたが、本稿を『Don’t Starve: Shipwrecked』のレビューだと言い張っても、あるていど通用してしまうだろう。あの作品と本作のコンセプトの違いをごく乱暴に指摘すれば、いかだに乗って旅をするのが急流か南の海かという差異くらいのものだ。どちらも物語性にたいする距離の取り方はおなじくらいで、ゲームプレイそのものに重きが置かれているあたりも類似している。

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左: 『Don’t Starve: Shipwrecked』参考画像。
どちらも「いかだに乗って生き延びるサバイバルゲーム」だが、おなじコンセプトでも料理人によってこれだけの違いが生まれる。

では、この二作の違いとはなんだろう? 『Don’t Starve: Shipwrecked』では、ごくふつうのマップの延長線上で、はじめて目にする巨大な怪物が居眠りをしていたりする。本作では、朝の光に照らされて水しぶきをあげる急流を下っていると、いかしたカントリー・ミュージックが流れはじめる。前者は冒険の感覚を強めるが、実際に対処しなければならない脅威が増えることになる。後者は歌の力で冒険を盛り上げてくれるが、演出に趣を添えているだけで難易度にはまったく寄与しない。

サバイバルもかなり趣を異にする。本作では、クラフトのレシピは全体を把握できるくらいの数に抑えられている。「アイテムAを作るためにはアイテムBとCが必要で、Bを作るためにはDが、Cを作るためにはEが必要(ちなみにCは夜間の作業場でしか作れない)」といった複雑さはほとんどない。プレイヤーの脅威となる環境や野生動物の数もそこまで多くはないし、進むにつれてグラフィックがミニマルに変化するマップは、基本的におなじ要素を継承しつつも、資源や脅威のみがランダムに再配置されていく。

またキャンペーンモードにおいては、(おそらくこれが最も重要なレベルデザインなのだが)ゲームオーバーになっても、すこし巻き戻った地点からリスタートすることができる。この機能が、ゲームプレイをそれなりに新鮮なものに保ち続けてくれる。というのも、ゲームオーバー時にすべての装備を失ってリセットされるようなデザインの場合、その次のプレイ時になにかしら新しい要素が出てこないことには、おなじ作業の繰り返しになってしまうからだ。

もちろん、おなじ作業の繰り返しをもっとうまくやれるようになるたのしみも確保されている。そちらはエンドレスモードで、純粋に生き延びることが目的だ。しかしキャンペーンモードの肝となっているのはこの絶妙な難易度設定であり、物語の力に引っ張ってもらいながら先に進むタイプのプレイヤーも、うまく波に乗れるようになっている。

本作は、新しい要素があらわれる頻度はそこまで高くない。キャンペーンを開始して五時間もすれば、いかだのアップグレードはすべて完了するだろうし、巨大な熊を退治して、その皮であたたかいジャケットを作ることもできるだろう。その体験はすばらしく楽しいが、何度もはじめからやりなおしていたら退屈してしまうはずだ。この巻き戻しのデザインは秀逸かつ、必要不可欠なものだろう。

物語については、ナラティブは終始控えめである。時折、着岸できる岸辺にNPCがいて話をすることができるし、進むにつれてメイン・ストーリーとなるポータブルラジオの謎も解明されていくのだが、そこまでイベントが頻発するわけでもない。物語はあくまでゲームプレイに付随するもので、パンにつけるバターのようにささやかだが、あったほうがいいのは間違いない。

ちなみに筆者は、このパンにつけるバター的な物語がけっこう好きだ。キャラクターたちは古風な感じのくだけた言葉で話す。 むりやり日本語に当てはめると、上方落語っぽい。
ちなみに筆者は、このパンにつけるバター的な物語がけっこう好きだ。キャラクターたちは古風な感じのくだけた言葉で話す。
むりやり日本語に当てはめると、上方落語っぽい。

『The Flame in the Flood』は次から次へと新しい要素を提示してプレイヤーを陶酔させるゲームではないが、洗練された要素を控えめに提出することで、難易度が高くなりすぎないように、それでいて飽きがこないように細心の注意を払っている。前述の『Don’t Starve』シリーズをやりつくすほどのマニアにはすこし食い足りないかもしれないが、サバイバルというジャンルの入門にはぴったりの、ほどよくまとまった、いい雰囲気の良作である。

ところで犬はかわいいし、物語においてわりと重要な役割を負っている。
ところで犬はかわいいし、物語においてわりと重要な役割を負っている。