『Starbound』レビュー 探索も建築も楽しみたい、欲張りなあなたのためのサンドボックス
約2年半にもわたる早期アクセス期間を経て、Chucklefishは7月25日に『Starbound』の正式版をリリースした。価格は1499円で、Steamにて販売されている。
『Starbound』は探索や建築、サバイバルといった要素が楽しめるサンドボックス型の2Dアクションゲーム。『Terraria』でアーティストを担当していたFinn “Tiyuri” Brice氏を中心として開発されていることもあり、同作の精神的続編との呼び声が高い。今回は、どのようなゲームなのかという説明に加えて、『Terraria』とはどう異なっているのかという比較を含めつつレビューしていきたい。
惑星をめぐる楽しさ
『Starbound』の基本的な流れは、宇宙船に乗って銀河をめぐり、惑星を探索していくことだ。はじめに、プレイヤーは最低限の装備だけ持った状態でとある惑星に送り込まれ、そこで手持ちの宇宙船を再び動かす動力を手に入れることになる。そうして動力を入手し複数のイベントをこなすと、はれて宇宙船で広い銀河を渡り歩くことができる。宇宙船での移動中にイベントなどはなく、行き先を選択すれば到着を待つだけになるが、近付くにつれて目的の星が見えてくるなど、星間を飛行する際には高揚感がある。
惑星は「バイオーム」によって差別化されており、灼熱の星や緑の多い星など生態系もさまざまだ。星の特色によって採取できる素材のほか、フィールドの地形や、住んでいる民族も異なっている。またバイオームは地下にも存在しており、同じ灼熱の惑星でも、地下に油田が眠っているところもあれば、あたりが人骨だらけといった個性がある。
ほかにも、ひとつの星に複数の種族が生息しており、彼らは集落や城を建造している。こういった原住民は好意的に接しながらクエストを依頼してくるものもいれば、プレイヤーを攻撃してくるなど反応はさまざま。以前レビューを書いた『No Man’s Sky』は完全なる自動生成で多様な惑星を形成しているが、『Starbound』はバイオームや種族のパターンを組み合わせて惑星のバリエーションを増やしており、それぞれの星にうまく個性を生み出している印象だ。
こうした豊富なバリエーションのおかげで、探索に飽きが来ない。惑星によって風景が大きく変わるので、視覚的に常に新鮮な気持ちになれるし、惑星には必ず原住民が存在しているので、彼らの暮らしを見るというのも探索の動機になる。流石に長時間プレイしていると新鮮さは失われていくが、コンテンツが潤沢なゆえに、遊びつくしたと思っても、プレイ中に新たな発見をすることも珍しくない。
そして『Starbound』がほかのサンドボックスゲームと異なる点は、「メインストーリー」が存在していることだろう。New Gameを選択しキャラクターを作成すると、この手のジャンルでは珍しく、カットシーンからゲームは始まる。シナリオの導入が終わると、地上へワープし木を切るといった恒例の流れにつながっていく。このストーリーは、短期的な目標をプレイヤーに提示し続け、サンドボックスゲームにありがちな「何をすればいいかわからない」という目標の喪失を防いでいる。ストーリーを追いながらゲームの流れを学習し、そこから自分の楽しみ方を見つけるといった導入としての機能を持っているので、サンドボックスが苦手なユーザーも入っていきやすい。
シナリオの内容もゲームジャンル上の演出の限界がありながらも、しっかりとストーリーテリングされている印象だ。登場するキャラクターは一癖も二癖もある奇人ばかりで愛着が湧くし、ストーリー専用の ダンジョンがいくつも用意されている。ただ、このストーリーは、サンドボックス要素をサポートしているというレベルに留まっており、お使い的な内容も多く、あくまで本来の楽しみである探索と建築を助ける要素のひとつである。
横の『Starbound』縦の『Terraria』
本作が『Terraria』とどう異なるか説明をするならば、「縦」か「横」かの違いが一番しっくりくるように思う。『Terraria』も作成するワールドサイズを大きくすれば「横」への遊びも充実している。しかしそれ以上に『Starbound』の横幅は大きい。本作の横幅はフィールドが横へ広いという意味のみならず、多様な惑星を自由に行き来できるという意味合いが大きい。プレイヤーが望めば氷の惑星から砂の惑星にひとっ飛びできるし、廃墟の惑星にもすぐにジャンプして移動できる。こういった点は、ロケーションがバイオームの自動生成に依存し、そしてその固定バイオームと付き合っていく必要がある『Terraria』よりも横に強いと言えるだろう。
縦に関しては、『Terraria』に分があるように思う。『Terraria』は天空には空島が存在し、地下は深さによってバイオームが変化するなど縦方向への作り込みが圧巻だ。『Starbound』にはそれほどの縦の厚みはない。空に島や宝箱といったものは用意されていないし、地下は浅い。最下層に存在しているのも特定のイベントに必要な「コアフラグメント」と溶岩のみだ。もちろん、『Starbound』の地下にも砦や旧時代の文明といったオブジェクトは存在しているが、ボスやイベント、多様なバイオームが用意されている『Terraria』のコンテンツ量には遠く及ばない。
こうした縦コンテンツの欠乏は、ある意味『Starbound』には合致したデザインである。というのは、『Starbound』は次々と惑星を渡り歩いて行く作品だからだ。惑星に拠点を作りそこに定住するのもひとつの楽しみであるが、新たな刺激を求めて能動的に探索していくのが本作のコンセプトであるように思う。星の大地は横につながっており、ずっと右へ移動していくとスタート地点に戻ってくる設計だ。端的に言えば、どうせそのうち離れるであろう惑星の地下を、労力をかけて探索するのは少々面倒くさいのだ。地上をざっとみてどういった種族やオブジェクトが存在しているのかを一通り確認し、さっさと次の惑星へ向かうサイクルがお決まりとなっていくので、『Starbound』は横に広い楽しみ方を推奨する作品だと言えるだろう。
こういったプレイヤーの能動性を引き立てるデザインもあいまって、『Terraria』のようなプレイヤーの不意を突く刺激は少ない。ゴブリンの襲撃やブラッディムーンといったランダムイベントもないので、拠点を作って暮らしていても、たまに敵が寄ってくることなどはあるが、天候が変化するだけで環境が激変することはない。『Starbound』にはアジトで休んでいるプレイヤーを刺激するギミックはなく、アクシデントやランダムイベントには期待しないほうがいいだろう。
奥行きのある戦闘と建築
『Starbound』の目玉要素のひとつは、戦闘への特化だ。特に近接戦闘に関してはよりアクション要素が強くなっている。『Terraria』を筆頭に、これまでの2Dのサンドボックスゲームの戦闘は、敵に攻撃を当てるというよりも、武器を振り続け敵と適切な距離を保つことが求められていた。『Starbound』には武器の種類によってモーションが異なり、そのモーションを理解しなければ敵に攻撃は当たらない。ほかの作品と同様に適切に距離をとる必要はあるものの、それに加えて攻撃するタイミングも重要となり、戦略性が増している。武器ごとの特色も強く、短剣は手数が多く、ハンマーは溜めが必要といったクセがある。片手武器をふたつ装備するか、強い両手武器をひとつ装備するか、といったプレイヤーに合わせた戦術選択も可能となっており、戦闘へのこだわりが垣間見える。
SFがテーマの作品ということもあり、遠距離武器の代表である銃のバリエーションも充実している。ハンドガンからアサルトライフル、レーザー銃などが用意されていて、近接武器と遠距離武器を状況によって使い分けながら戦闘が繰り広げられる。ストーリーではこうした戦闘のテクニックを試されるシチュエーションも多く、戦闘の奥深さには満足できるのではないだろうか。
建築に関しても、ほかのサンドボックスゲームと比較しても質・量ともに幅広い。木のブロックひとつをとっても「まだら模様の木ブロック」や「模様のない木ブロック」 などがあり、建築素材を細かく選ぶ ことができる。また、惑星の原住民の住まいやダンジョンには多様な種類の家具が存在しており、これらは一度スキャンすればピクセルと呼ばれる貨幣で製造できるようになる。惑星の特色に合わせた建築をすればより雰囲気が増し、氷の惑星に巨大なかまくらを、汚染された惑星にシェルターを作るのも楽しい。
『Starbound』のように定住よりも移動にウェイトが置かれているサンドボックスでは「惑星を次々と移り続けるならば、凝った建築をする意味がないではないか」との指摘を受けがちであるが 、テレポーターがそうした懸念を解消している。
建築した場所に旗やテレポーターを設置し “母惑星”を設定すれば、距離のある惑星からでもすぐに飛んでいけるので、気兼ねなく拠点となる遠く離れた星へと旅立つことができる。また、拠点には建築の楽しみだけでなく、さまざまな恩恵がある。一定の条件下では拠点にNPCが住むようになり、その住民から家賃を徴収できる。正式版からはこういった住民が宇宙船のクルーを志願するようになり、仲間にできるようになった。クルーには惑星の原住民なども誘うことができ、家を作って大きくしていけばお金が増え、仲間も増えていくなど拠点を建設する意義は大きい。こうした仲間はプレイヤーのスペックに基づいてパラメータが決まるものの、AIは賢いとは言えず、すぐに死んで宇宙船に戻っていくなど戦闘ではあまり頼りにならない。戦力としては頼りない彼らだが、連れて歩くと「これなに?」「ワクワクする!」など周囲のオブジェクトに対しコメントしていき、良い意味でやかましく可愛らしいので、単純ににぎやかになるという点ではクルーシステムは嬉しい。
正式版ではクルーシステムのほかにペットシステムが本格導入されたが、ペットは戦闘に参加せず見て楽しむ意味合いが大きい。ペットには好き嫌いがあったり、細かくパラメータが設定されているなどこだわりが見えるが、現時点ではただ家にいる存在になりがちで、まだまだ発展途上だろう。
あえて本作の課題を指摘するならば、未実装要素がまだいくつか見当たるという点だ。たとえば、人間はインベントリが多く、鳥は空を滑空できるといった種族特性はまだ実装されていない。また本作にはダンジョンの構造などを表示するミニマップが用意されておらず、こちらも実装の予定が示唆されているものの、現時点では存在せず不便だ。個人的に『Terraria』では空を飛ぶことが楽しいと感じていただけに、Modを導入しないと空を飛ぶ手段がないのは単純に寂しい。ほかにも車やヨットなど乗り物なども実装されているが、使いどころがあまりなく企画倒れ感は否めない。ただ、先日の「1.1アップデート」では釣りシステムや新たな種族が追加されるなど、こういった要素が将来的に改善される兆しもあるので、今後のアップデートに期待したい。
探索と建築を両方楽しみたいあなたに
『Starbound』といえば、その早期アクセス期間の長さを揶揄されることも多いタイトルであるが、時間をかけただけあり間口が広くスケールの大きな作品に仕上げられている。探索によって基本的な素材を集め、冒険に飽きれば好きな惑星を見つけて建築をする。素材が足りなくなればまた探索に出かけるというサイクルが、積極的に戦闘をしたり地下に潜ったりしなくてもよいというデザインのおかげで、小気味よく展開されていく。数多くの惑星が用意されているのでそうそう探索に飽きることはないし、素材の種類が多いのでこだわった拠点を建築できるなど、ゲームの根幹となる要素がしっかりできているのが嬉しい。
もう少しコンテンツがあればと思う部分があるものの、約1500円という低価格でありながら息長く遊べる作品だ。『Terraria』とは異なる魅力を多く持つ作品ではあるが、基本的な楽しみ方は似ているので、『Terraria』を好んだユーザーは馴染みやすいだろう。加えて、ストーリー制のおかげでサンドボックスには興味があるけど何をすればいいかわからず手が出せないというユーザーにもおすすめできる。2Dで描かれる、とっつきやすくかつ広大な銀河を、ぜひその手で体験してみてほしい。