『Space Food Truck』プレビュー 1人で遊んだほうが楽しい4人協力デッキ構築型ゲーム

『Space Food Truck』は銀河の星々を巡って食材をあつめ、顧客に料理を振る舞うデッキ構築型ゲームだ。最大の特徴は、登場する4人のクルー=デッキが協力するゲーム設計にある。役割のちがう4デッキを同時につかうカードゲームが気軽に遊べるのは、デジタルならではの恩恵といえよう。

『Space Food Truck』は銀河の星々を巡って食材をあつめ、顧客に料理を振る舞うデッキ構築型ゲームだ。最大の特徴は、登場する4人のクルー=デッキが協力するゲーム設計にある。役割のちがう4デッキを同時につかうカードゲームが気軽に遊べるのは、デジタルならではの恩恵といえよう。しかし、ゲーム特徴にあげる協力マルチプレイは、悪意で簡単に崩壊する原始的な代物だ。1人で遊んだほうが4倍楽しい。

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Space Food Truck
開発元: One Man Left Studios
価格: 19.99ドル
プラットフォーム: Windows/Mac/Linux
発売日: 未定(2015年11月24日アーリーアクセス開始)

本作は2015年8月5日、Kickstarterに失敗した。目標3万5000ドルのところ、あつまったのはそれを大きく下回る約8800ドルであった。掲載されたコンテンツはゲームのかたちをなしており、クラウドファンディングに跋扈する誇大広告は微塵もない。アルファ版のビデオフッテージもあり、ゲームの開発も十分に進んでいる。唯一の失敗をあげるなら「協力マルチプレイ」をうたったゲーム特徴であろう。仲間内でプレイするならまだしも、見ず知らずのゲーマー同士で協力しあえるものなのか。オンラインマルチは数あれど、『League of Legends』をはじめとするMOBAや『機動戦士ガンダム ガンダムVS.ガンダム』シリーズなどの「協力対戦」形式をのぞくと印象に残るものは少ない。それほどプレイヤーを協力させるのは難しいのだ。投機者が遠のくのも無理はない。

泣くほどウマいSFめし! Kickstarter失敗で入手できないものかと心配したが、アーリーアクセスがはじまってなによりだ。ちなみにこの料理の材料は「宇宙ケール」と「ポスト・チェダーチーズ」。ハチャメチャなネーミング。
泣くほどウマいSFめし! Kickstarter失敗で入手できないものかと心配したが、アーリーアクセスがはじまってなによりだ。ちなみにこの料理の材料は「宇宙ケール」と「ポスト・チェダーチーズ」。ハチャメチャなネーミング。

本稿は2015年11月24日開始のアーリーアクセス版をもって、上記の不安を一掃し、注目に値するユニークなカードゲーム体験を紹介する。なお、Steamアーリーアクセスで2か月の練磨を経て発売する予定だ。

 

カード贈与で協力してピンチをのりきれ

本作はデッキ構築型ゲームに該当する。このジャンルにおけるルールと周辺情報は弊誌『Star Realms』レビューをもって割愛する。特徴は、宇宙船クルーの4人それぞれがデッキをもつ点だ。仲間へカードをわたしてトラブルに対処するユニークなルールは、デッキ構築型ゲームに協力というあらたなプレイ体験をもたらした。

4人は運命共同体。ひとりが仕事をしなければ、ほかの3人がこまるのだ。毎ターン仕事できるよう、つねにデッキを強化しよう。
4人は運命共同体。ひとりが仕事をしなければ、ほかの3人がこまるのだ。毎ターン仕事できるよう、つねにデッキを強化しよう。

ゲームの目的は銀河に点在する3つのパーティー会場に宇宙の料理をとどけることだ。宇宙船ギャラクシーグルメ号のクルーは「艦長」「料理人」「科学者」「修理工」の4人。それぞれ特技カードをもち自分の仕事をこなす。艦長は宇宙船を操舵し食材をあつめ、ショップにカードを補充する。料理人は食材を料理し、不要なカードを破棄する。科学者は各クルーの特技カードをアンロックする。修理工は宇宙船を修理・強化する。各々が自分の仕事をまっとうし料理をとどければ勝利。その前に船のHPがゼロになれば敗北だ。

ターン終了時のショップ画面。ザップマートでカードを購入する。買うカードがなければ、右下の「無駄カード」を手にする羽目となる。デッキに有用ではないカードが増えるのは避けたい。
ターン終了時のショップ画面。ザップマートでカードを購入する。買うカードがなければ、右下の「無駄カード」を手にする羽目となる。デッキに有用ではないカードが増えるのは避けたい。

各クルーはターン終了時にショップでカードを購入する。本作は毎ターン最低1枚はカードを購入しなくてはならない。手札の価値がなければ効果が低いカードを嫌でも手にすることとなり、これがデッキ性能の弱体化をまねく。また、各クルーのターン開始時に必ずトラブルが発生する。自分の手番がまわってくるまでに4回もトラブルが起きるため、生存にはデッキ性能の強化がかかせない。

クルーの特技カードを使うには、対応する部屋に移動しなくてはならない。画面は修理工が自分の部屋に戻れず、特技カード(緑)をもちあましてる状況だ。さらに、宇宙船のシールドも剥げ、生命維持装置も壊れている。
クルーの特技カードを使うには、対応する部屋に移動しなくてはならない。画面は修理工が自分の部屋に戻れず、特技カード(緑)をもちあましてる状況だ。さらに、宇宙船のシールドも剥げ、生命維持装置も壊れている。
ビデオゲームではなじみうすいが、手札を渡して協力するテーブルゲームは多い。TRPG「パラダイス・フリートRPG」はこのルールをさらに拡張した。作戦を綿密に立てる時間があればチーム内で手札を自由に交換できる。
ビデオゲームではなじみうすいが、手札を渡して協力するテーブルゲームは多い。TRPG「パラダイス・フリートRPG」はこのルールをさらに拡張した。作戦を綿密に立てる時間があればチーム内で手札を自由に交換できる。

宇宙船という運命共同体ゆえ、1人が手札の不運にみまわれるとクルー全体の失点になる。ここで協力要素の出番だ。クルーが他のクルーと相部屋することでカード贈与ができ、クルー間でデッキを調整する仕組みとしてはたらく。デッキが弱いクルーに価値の高いカードをわたし、ショップでの購入をたすける。仕事させたいクルーに電力の高いカードをわたし、特技カードの使用をたすける。種を明かせば簡単な仕組みだが、デッキ構築型ゲームと協力ゲームの架け橋となる本作の焦点だ。デッキ強化とトラブル対処を同時にこなしたときは「グッジョブ&ナイスワーク」と思わず賞賛したくなる。

 

プレイヤーへ無責任に委ねた協力マルチプレイ

4つのデッキとカード贈与は、クルーが協力する様子をうまく表した。シングルプレイ時は一度に4つのデッキを構築するユニークなカードゲームが楽しめる。この協力要素に不備はないが、同ルールでマルチプレイが成立するかどうかは話が別だ。プレイングへの信賞必罰がルールになく、各プレイヤーを協力プレイへ誘導できていない。

アーリーアクセス中でネットコード不調の報告もあるからか、プレイヤーはすくなく、マルチプレイの体験はむずかしい現状だ。それでも、マニュアルとホストゲームの設定からある程度の推測はできる。マルチプレイはチャットがついただけの原始的なものである。勝利条件などの詳細設定がない点も考え、各クルーをそれぞれプレイヤーが操作する、シングルプレイの延長となろう。見ず知らずのオンラインプレイヤーとチームを組むには、どうしてもぬぐえない懸念がある。それは悪意の廃除だ。

ホストゲーム画面。友人のみ参加の設定のほかは何もない。この画面で勝利条件や船HPを詳細に設定できれば、ある程度は自分好みのセッションができるのだが。
ホストゲーム画面。友人のみ参加の設定のほかは何もない。この画面で勝利条件や船HPを詳細に設定できれば、ある程度は自分好みのセッションができるのだが。
協力型ボードゲーム「ゾンビタワー3D」。全員生存の勝利を手にしたあと、各プレイヤーだけが知る勝利条件の達成数で真の勝者を決める。これはプレイヤー個別の動機となり、「仕切り屋」の存在を否定する。
協力型ボードゲーム「ゾンビタワー3D」。全員生存の勝利を手にしたあと、各プレイヤーだけが知る勝利条件の達成数で真の勝者を決める。これはプレイヤー個別の動機となり、「仕切り屋」の存在を否定する。

プレイヤー個別の貢献度や、チームワークがないセッションを手早く(5分以内に!)敗北させる難度といった、行動を評価する仕組みがない。協力ゲームにおける信賞必罰はプレイングの指標だけではなく、ゲームをまもる重大な役目をもつ。悪意あるプレイヤーがセッションに参加したとき、他プレイヤーが不快と感じる前にゲームを終わらせるのだ。こういった人の手によらず悪意を廃除する仕組みは、プレイミスと悪意の混同をふせぐよう機能する。つまるところ、本作のシングルプレイをそのままマルチプレイにすると、プレイヤーを保護できていないのだ。

さらに、プレイヤー間の意思疎通がチャットのみという仕様がそれを助長する。自由な意思疎通を可能とするが、裏返せば侮辱・恐喝といった暴力を容認する原始的なものである。また、プレイヤー個別の貢献度がなくゲームへの勝利方法が1種類しかないため、ゲームに熟達した上級者が「仕切り屋」となり、他プレイヤーの自由意志を妨害するだろう。本作の原始的なマルチプレイ仕様は、協力プレイにまつわる不快感をすべて内包している。

 

いっそ4v4の対戦ゲームにすればよかった

現時点の『Space Food Truck』はシングルプレイで楽しむ協力ゲームだ。1人で4人分のデッキをつかい、カード贈与でデッキ構築とトラブル対処を両立するユニークなルールは、カードゲームファンにとってあらたな体験となるだろう。愉快なアートワークと、ビデオゲームならではの演出もぬかりなく、好感がもてる出来映えだ。なにより、コンポーネントが多いデッキ構築型ゲーム+協力ボードゲームを、手軽にプレイできる点はありがたい。デジタルならではのカードゲームといる。もちろん、商品説明に「1~4人」とさえかいていなければ、だ。

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現時点のマルチプレイは、アーリーアクセス中であることを差し引いても原始的な代物だ。ここからプレイヤーの意見をフィードバックするつもりで、あえて味付けしなかったのだろう。それにしても意見をだすとっかかりがない。オンラインプレイヤー同士を協力させたいのか、いがみ合わせたいのか。プレイ体験の方向性をルールで定めてからにしてほしかった。これならシングルプレイのルールで先に料理の配達を競う対戦形式のほうがよかった。4v4の協力対戦ゲームであればいうこと無しだ。アーリーアクセスで得たフィードバックと売上げによる豊かな味付けを期待したい。もちろん、シングルプレイ専用ゲームとみなしてしまえば、魅力あるソリティアが今すぐ遊べるので安心されたし。ここからどこまで楽しくなるのか、完成が待ち遠しい。

Hikaru Nomura
Hikaru Nomura

高校卒業後、ペンキ塗り・コンビニバイト・警備員・システムエンジニア・ネットショップの店長などで食いつなぐ。趣味はスーパーカブにまたがってのドライブ、海外SF小説(オールタイムベストは『スキズマトリックス』)、ゲーム実況、たまに同人活動。

宇宙ストラテジーと格闘ゲームを好む。リズムゲームとビジュアルノベルは苦手。FPSは酔う。中段や弾幕は見えない。Arcen Games信者であり、Stardockian(Stardock信者) でもある。英語は苦手だが、気合で翻訳して遊ぶ。

ゲーム大会の最高成績は2013年トライタワー末塔劇『チェンジエアブレード』部門第4位。

オールタイムベストゲームは『ニュースペースオーダー』。

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