“レトロ系”に終わらない愛の2DドットRPG『Undertale』レビュー、あなたが「現実」から「ビデオゲーム」へと帰るとき


米国のインディーデベロッパーToby Fox氏は、2DシューティングRPG『Undertale』を2015年9月15日にリリースした。同作は2013年にKickstarterキャンペーンを始動し、2400人弱の支援者から5万ドル以上の開発資金を獲得したタイトルだ。リリース後は近年のレトロ調グラフィック作品としては異例の大ヒットを遂げており、Steamにはすでに1万件以上のレビューが寄せられた。そしてそのほとんどが本作を絶賛している。

もし本作のトレイラーなどを見て『MOTHER』を思い浮かべたのなら、その直感は正しくもあり、間違いでもある。今回のレビューでは単純な「レトロ系RPG」に終わらない『Undertale』の魅力を読み解いていこう。

※本記事では、『Undertale』の体験版に登場する序章のシーンのスクリーンショットを掲載しています。また実際のキャラクター名やストーリーの流れはありませんが、物語全体を俯瞰で見た際の評価や考察を記しています。ネタバレにはご注意ください。

そしてけっしてインターネットで『Undertale』のことについて調べないでください。
ネタバレは『Undertale』を殺します。

 

 

シューティングを組み込んだコマンドバトル

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地上に住む人間と、地下に住むモンスター

今よりも昔、『Undertale』の世界では問題なく共存していたはずの人類とモンスターのあいだで争いが起きた。戦いのすえ、人類側はモンスターたちに勝利し、彼らが2度と地表に現れないよう魔法の力で地下深くへと封印する。ゲームの舞台となるのは、それから何年かが経過した201X年。プレイヤーの分身である「子供」は、入れば二度と帰ることができないと言い伝えられている「エボット山」へと登り、穴から地下世界へと落っこちてしまう。「子供」は様々なモンスターたちと交流あるいは戦いながら、人間が住む地上へと帰る方法を探しださなければならない。

まず本作のひとつめの特徴として、『Undertale』の戦闘は「コマンド形式」と「シューティングゲーム」を組み合わせた特殊なデザインが採用されている。『Undertale』の戦闘では、モンスターからの攻撃ヒット判定は数値などによって割りだされるのではなく、“モンスターが撃ってくる弾幕攻撃を回避したかどうか”で決定される。プレイヤーは白い枠のなかに配置されたハート型の自機を操作して、モンスターの攻撃を回避するのだ。ここで攻撃に触れてしまうたびに、モンスターの攻撃力から自分の防御力を引いたダメージ数値が体力から削られる。

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攻撃は「FIGHT」コマンドで行う。敵の攻撃ターンは避けに徹することになり、自機は弾を撃てない

開発者のToby Foxというのは恐ろしい人間で、『Undertale』において彼はその強烈な才能を爆発させている。それは「人の心を揺さぶる」という才能だ。アドルフ・ヒットラーが演説の天才だとするのなら、Toby Foxは“ビデオゲーム演出の天才”である。愛さずにはいられないキャラクターと、心の琴線に触れるBGM群、そして次から次へとよく思いつくなというような演出を駆使して、プレイヤーの心を問答無用で揺さぶりかけてくる。ときに笑いを呼び、ときに涙を誘い、ときに身震いするような恐怖を味あわせてくる。

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カットシーンやイベントシーンだけでなく、戦闘でもところせましと発揮されるToby Fox節の演出

特に素晴らしいのが、前述したモンスターの攻撃を回避する「シューティングゲーム」における演出である。敵が繰りだしてくる攻撃は本当に本当に多彩で、様々な“仕掛け”も作りこまれており、プレイヤーを飽きさせないように楽しませてくれる。

またボスモンスターとの戦闘では会話のやり取りや各場面と攻撃がリンクすることがあり、ストーリーをよりいっそう盛りあげてもくれる。

筆者はRPGにおける雑魚敵との戦闘は、画面を見ずにボタンを連打するぐらい嫌いだが、『Undertale』では通常モンスターとの戦いすらも楽しいと感じたほどだ。 Toby Fox氏の演出力が加わったこのシューティング風の戦闘が、本作をただのレトロ風RPGに終わらせず、真新しく感じられる最新のビデオゲーム作品に昇華させているといえるだろう。

“モンスターを倒さなくてもいい”という自由

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「FIGHT」か「MERCY」か

次に『Undertale』のゲーム全体の様相を見てみよう。NPCたちと交流しつつストーリーを進め、モンスターとの戦闘で貯めたお金で装備品やアイテムを買い、さらに先へと進んでゆく。ゲームのデザイン自体はオールドクラシックなRPGだが、本作最大の特徴は「モンスターを攻撃することなくクリアできる」点だ。モンスターとの戦闘に突入した場合、プレイヤーは「ACT(行動)」や「MERCY(慈悲)」の各コマンドを駆使することで、モンスターと友好関係を築いて、相手を倒すことなく戦闘を終了させることができる。

“モンスターと戦闘せずに進むRPG”と聞くと、かつてラブデリックが開発した『moon』を思いだす人も多いかもしれない。一方で『Undertale』は戦闘ができない『moon』とは異なり、「MERCY」だけでなく「FIGHT(戦う)」コマンドも用意されており、モンスターをその手で倒すこともできてしまう。

そしてこの選択は、ただ気分でモンスターを倒すか倒さないかを選ぶというものではない。なぜならプレイヤーはモンスターを倒さないと「EXP」を獲得できず、「LV」を上昇させることもできないのだ。情けをかけてモンスターを救い続けていれば、当然ゲーム後半に突入しても主人公のステータスは低いままであり、プレイヤーは強大なボスモンスターたちに縛りプレイで挑戦するかのような苦戦を強いられることになる。またプレイヤーの言葉に耳を傾けず、こちらへとがむしゃらに襲いかかってくるモンスターもいる。

“EXP稼ぎ”をせずに強大なモンスターを倒せるのか、こちらを容赦なく攻撃してくる敵を説得し続けられるのか。『Undertale』においては、平和を望めばみんなが仲良しの世界がただ訪れるというわけではなく、プレイヤーにデメリットや苦難も突きつけられるのだ。だからこそ、自由がありつつもそれぞれの選択には重みがあり、プレイヤーもより物語に感情移入できる。

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“敵は倒さなくていいですよ”との謳い文句があるくせ、容赦なく突きつけられる「殺るか殺られるかの世界」

開発者が愛した”本当に生きているゲームの世界”

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愛にあふれすぎ

シューティングを組み込んだ独自の戦闘システムやToby Fox氏の素晴らしい演出、またモンスターを生かすか殺すかを選べる選択肢。『Undertale』を様々な面から評価したが、本作がどういった作品なのかを簡潔に評するのなら、それはもう「開発者に愛されすぎたゲーム」だ。Toby Fox氏が『Undertale』の生きとし生ける者すべてに愛を注いでいるのは明白で、村人AやモンスターAといった同じグラフィックのモブキャラ的な存在は(いるにはいるが)ほとんど登場しない。懇切丁寧にFox氏が描くキャラクターの造形や動きや心理描写が、プレイヤーになんともいえない愛らしさというか、多幸感を与えてるのである。

そしてFox氏は『Undertale』のワールドを”本当に生きているゲームの世界”へと落とし込み、現実とゲームの境界線を行き交う作品へと仕上げている。個人的な解釈ではあるが、本作は過去に『MOTHER』や『moon』をプレイしていたが、今はもうゲームで遊んでいないようなプレイヤーへ向けた作品だ。君たちがふたたびゲームへと帰ってきた物語が、『Undertale』では描かれるのである。

ストーリーへの言及は冒頭で述べたようにできる限りやめておくが、ひとつだけ言わせていただくなら、物語は結末直前に“大きな転換”をむかえることとなる。その“転換”はややプレイヤーを置いてけぼりにするレベルのもので、その際に登場する“あいつ”との交錯もあいまって、プレイヤーは深く失望し混乱することになるだろう。だが本作のキーワードのひとつは「Determination(決意)」である。けっしてあきらめずに、ゲームのクリアを目指してほしい。あっけにとられたたまま物語は突き進むことになるかもしれないし、ちょっとくすぐったいぐらい青臭いシーンもあるかもしれないが、おそらくプレイヤーを納得させるであろうエンディングが待ち受けているはずだ。