『Sorcerer King』レビュー ラスボスがいつもあなたのそばにいるRPG
『Sorcerer King』は、ターン制4Xストラテジー(以下、4X-TBS)のルールで遊ぶロールプレイングゲーム(以下、RPG)だ。ルールの根底に4X-TBSがあり、プレイヤーとラスボスの国力を非対称にすることで、ゲーム展開が魔王討伐のシナリオになるよう仕向けた。本作と比較的近いシミュレーションRPG『ファイアーエムブレム』で例えるなら、プレイヤーはマルス王子とその一党だけでなく、国家そのものを操作し、育て、強大なメディウス軍に立ち向かうようなものだ。これは4X-TBSとRPGの融合に挑戦した野心作である。
『Sorcerer King』
開発・販売: Stardock Entertainment
発売日: 2015/07/16
価格: 39.99ドル
プラットフォーム: PC(Windows)
開発はストラテジーの老舗Stardock。同社は2010年からファンタジー4X-TBS『Elemental』シリーズを展開しており、本作はその4作目にあたる。ランダム生成マップ、タクティカルコンバット、シリーズ作の豊かな背景など、いくつかの点を過去作から踏襲している。欠点だった映像面は改良され現代ゲームの及第点に達した。ディテールを適度に略したカートゥーンタッチはキャラクターアイコンやイベントのイラストとも相性がよく、絵本の挿絵を想起する。
これだけ過去作からの踏襲・改良がありながらも、タイトルでシリーズ名をだしていない点は特記に値する。これは、過去作の印象を受け継がないことで、ちがうジャンルであるとアピールするためだろう。同社社長Brad Wardell氏は本作のジャンルを「4X-RPG」とした。中毒性高い4X-TBSの「One More Turn」に、プレイ意欲をかきたてるRPGの「物語」を加えた新しいジャンルだ。
4X-TBSの力で魔王を倒せ
本作は探索・拡張・開発・殲滅要素を主軸にした4X-TBSだ。しかし、ゲーム参加者はプレイヤーとAIのふたりしかいない。おおくの同ジャンル作が採用する、多数のライバル国家による群像劇とちがい、敵・味方・勝利条件が最初からさだまっている。ゲーム展開の始点と終点を固定し、その道筋をしぼることでシナリオをうみだした。そのあらすじは、勇者が魔王を討伐する王道ファンタジーである。
シナリオの把握に役立つ背景を要約する。前作『Fallen Enchantress: Legendary Heroes』から200年後。魔法戦争・堕ちたる魔女・伝説の英雄といった戦乱は終わり、魔術王「ソーサラーキング」が世界を支配する暗黒時代。彼は世界創造の魔法スペル・オブ・メイキングを唱えるべく、世界各地に点在する魔力の結晶エレメンタルシャードを破壊しはじめた。その動きをいち早くさっした人類最後の都市の王は、ソーサラーキングへの蜂起を画策する。これが大まかな背景だ。
プレイヤーはその人類最後の都市の王となり、わずかな手駒とたったひとつの都市ではじまる。それに対し、AIが担当するソーサラーキングは本拠地のほかにいくつかの要塞、世界各地にモンスターのねぐらをもち、無尽蔵に兵隊をうみだす。RPG『ドラゴンクエスト』のラダトーム城と竜王軍の関係と思えばよい。この戦力差をうめるべく、おおくのRPGは雑魚モンスターを狩って勇者を育てるのだが、本作は4X-TBSの手法で国を育てる。国土をひろげてエレメンタルシャードを保護し、そこから得られる魔力で新技術・新魔法を習得する。都市開発し、強力な兵士や装備品、クラフト(アイテム作成)の設計図を入手する。少数部族と外交し、彼らの信頼を得て同盟をむすぶ。これらすべてを同時にこなし対抗勢力をつくるのだ。
このプレイヤー側の展開を成立させるため、もうひとりのゲーム参加者ソーサラーキングに、ある制約が課せられた。彼も4X-TBSをプレイすれば、ゲーム開始時の戦力差でプレイヤーを押しつぶしてしまうだろう。ゆえに、別のゲームルールを適用し、勝利条件をちがうものとした。このように、参加者が同じルールでプレイしないゲームを「非対称ゲーム」とよぶ。
ゲーム難度を調整する魔王
ソーサラーキング側のゲームルールは4X-TBSではない。彼の勝利条件は「終末カウンターを最大にする」だ。この終末カウンターはゲームの制限時間として機能するほか、モンスターの強さにも影響する。また、プレイヤーの成長にあわせて妨害・侵攻の頻度もあげる。これらはFPS『Left 4 Dead』の難度調整システム「AI Director」と同様、ゲーム展開にあわせた難度調整として機能する。「魔王役」という別ルールは、シナリオ上の勇者と魔王の立ち位置を明確にした。
魔王のステータスはふたつある。先にあげた「終末カウンター」と「脅威度」だ。終末カウンターは魔王の力をあらわし、時間経過・エレメンタルシャードの破壊・プレイヤー軍中核「ヒーローユニット」の戦闘敗北で増加する。この数値が高いと強力なモンスターが出現し、魔王軍が唱える戦闘魔法・マップ魔法も強力になる。これはゲーム内の時間経過にあわせた難度増加としてはたらく。
脅威度はプレイヤーへの妨害頻度をあらわし、魔王軍の要塞・拠点の撃破、プレイヤーの都市拡大・エレメンタルシャードの保護で増加する。脅威度がゼロのときは無干渉だが、値が高いと要塞からモンスターの大隊が出現し、プレイヤーユニットや都市、エレメンタルシャードを積極的に攻撃する。これはプレイヤーの進捗にあわせた難度増加としてはたらく。
ゲーム中に難度調整する仕組みは、ゲームが意図を超えて容易・困難にならないよう、シナリオに序盤・中盤・終盤の局面をつくる。それにより、シナリオをマップの地点から切り離した。これはRPG『ロマンシングサガ』のフリーシナリオ制を4X-TBSに適用したものといっても差し支えない。フリーシナリオ制はモンスターの強化、イベント発生・消失フラグといったゲーム内の時間経過を戦闘回数で判別し、イベント攻略順序の自由度をもたらした。本作はターン数で時間経過を、プレイヤー国力でゲーム進捗を判別し、4X-TBSのルールで物事に取りかかる自由度を保っている。
魔王の難度調整はプレイヤーへ適度な困難を課し、非対称ゲームで生成したシナリオがゲームになるよう正しく運用する。これはゲーム設計でプロット(物語の要約)を生成したといってもよい。本作はここに難度調整と関連するイベントを追加し、その自動生成プロットを物語へと強化した。
ゲーム設計をいかに物語へと昇華するか
物語とは主人公の選択と結果の連続だ。ゲーム特有の物語への没入感は、主人公とプレイヤーの選択を一致させることでうまれる。本作『Sorcerer King』はその選択と結果の連続をゲーム難度に反映した。選択式イベントの「クエスト」で主人公の性格値が増加し、以降のクエストに別の選択肢をもたらす。追加の選択肢はゲーム展開を優位に運び、魔王の難度調整の対抗策として機能する。
クエストは大きくわけて3つある。ミニクエスト。少数部族との外交。最後に、魔王の来訪だ。ミニクエストはマップ上に点在する宿屋・廃虚の村・洞窟などで、ユニットがそのタイルに入ると発生する。事件対処や探索の報酬として、兵士や装備品、クラフトの材料・設計図などを得る。それらは選択肢で変化し、終末カウンターが増減するときもある。追加の選択肢はより良い報酬をもたらす。
少数部族との外交は、ユニットが彼らの都市・ユニットと遭遇してはじまる。物資贈与や連続したミニクエストなどに応えると友好度が増加する。魔王も彼らに働きかけており、先に友好度を最大まで上げた陣営に参加する。敵に回ればプレイヤーを襲う兵隊をうみだし、味方にすればさまざまな援助を得る。ヒーローユニット提供、終末カウンター減少のほか、定期的に種族特有の兵士、装備品、クラフトの材料・設計図などを提供し、ゲーム攻略に大きく役立つ。追加の選択肢はこの友好度を容易にあげる。
魔王の来訪は先の2種とちがい、ターン開始時にランダムで発生する。その内容は脅威度により変化し、脅威度ゼロのときは甘言とともに援助を申し出るが、値が高いと敵意をあらわにしプレイヤーを脅迫する。また、都市作成やエレメンタルシャードの保護といったプレイヤーの成長にも連動しこのクエストは発生する。ほとんどの選択肢はリスクだが、追加の選択肢は脅威度の増加をふせぎ、ペナルティで出現するモンスターのランクをさげる。
これら3種類は階層式の構造だ。ミニクエストを積極的にこなして主人公の性格値をためると、少数部族との外交や魔王の来訪で追加の選択肢を得て、ゲーム展開を優位にはこぶ。クエストの積み重ねと追加の選択肢は、魔王の難度調整というゲーム設計に影響する。そしてゲーム設計から生成されたプロットも変化する。こうしてプロットはプレイヤーの選択と結果に左右される物語となり、RPGのプレイ体験を4X-TBS上に実現した。
無限の物語となりえるか
以上で4X-TBSとRPGの融合、4X-RPGについての紹介とする。ここであえて4X-TBS・RPGの各面を分離し、リプレイアビリティ、物語への没入感などを焦点に特徴を述べる。
まず4X-TBS面について。最大の焦点はリプレイアビリティだ。本作はAIライバル国家の相互作用による群像劇ではなく、それと比べれば多少おとる。しかし、ランダム生成マップで都市の立地条件や少数部族・エレメンタルシャードまでの距離、クエストの内容が変化する。マップやシナリオが固定されたRPGと比べればはるかにおおい。
内政は簡略化された。これは内政運用の手際がゲーム攻略に直結しないよう配慮したためだ。ユニット数・資源タイル保有数に制限があり、その上限は都市数によってきまる。都市数=国力となるのだが、都市をつくると魔王の脅威度もあがる。同様に、新技術・魔法習得はエレメンタルシャードの保護によって加速するが、これも脅威度上昇につながる。ゲーム進捗にあわせた難度調整を正しく機能させるため内政を簡略化したが、それでも4X-TBSの探索・拡張・開発・殲滅要素は色濃く、「One More Turn」の中毒性は失われていない。
RPG面の焦点は物語への没入感だ。本作の物語はクエストを主軸とするが、そのクエストはテキストのみだ。登場する商人やモンスターといった人物は画像表示されない。ヒーローユニットによる会話の掛け合いもない。これは画像や会話という強い印象が選択に影響するのをふせぐためだが、少し寂しいものがある。実際、本作でキャラクター性がもっとも出ているのは魔王役のソーサラーキングだ。クエスト数はもっともおおく、6人の主人公それぞれにあわせた会話があり、そのうえゲーム中に難度をあげるという強烈な個性をもつ。
キャラクターの成長もRPGにおいて大事な要素だ。戦闘敗北でも復活するヒーローユニットとちがい、通常ユニットは死ぬと失われる。いわゆるロスト要素であり、これはタクティカルコンバットの緊張感をもたらすが、プレイ意欲を断絶する喪失感にもなりかねない。本作はその対策として、通常ユニットの成長を経験点によるレベルアップと、クエストやクラフトで入手する装備品のふたつにわけた。レベルアップはヒットポイント上昇のみで恩恵が少ない。攻撃・防御は装備品で強化し、ユニットが死んでも手元に残る。装備品の入手を成長要素とし、魔王の難度調整がロストの喪失感に直結しないよう配慮している。
本作のコンセプトは4X-TBSとRPGの融合作「4X-RPG」であり、各面の要素はそれにあわせた折衷案というべき設計だ。ゆえに、各面単品では純粋なジャンル作と比べて底が浅くみえる。ここで、もう一度ひとつにまとめてみると、それらの要素は折衷案以上のものとして機能しだす。4X-TBSはプレイ意欲をうむ物語と、魔王の難度調整を得た。RPGはランダムマップによるリプレイアビリティと、ゲーム敗北という緊張感を得た。これらの融合要素こそが特別なプレイ体験をもたらしているのだ。無限の物語とよぶのは大げさだが、プレイヤーごとに用意された特別な物語であるのはまちがいない。
One More Turn. One More Story!
『Sorcerer King』はプレイヤーごとに用意された特別な物語だ。それは、非対称ゲームで生成したシナリオを、ゲーム中の難度調整でプロット化し、総計400種以上のクエストで補強するゲーム設計からうまれた。物語をもとにシナリオを組み立て細部をゲーム化する、これまでのゲームブック手法と逆にあたる。
本作にもっとも近いプレイ体験は、ずばり、テーブルトークRPGだ。優秀なゲームマスターとのセッションで得られる緊張と緩和、困難と達成、カタルシスがここにある。ゲームマスターはもちろん魔王役のソーサラーキング。フードを深くかぶった闇の魔王が卓につき、マスタースクリーンごしにプレイヤーへ話しかけるシーンを想像できれば、本作の本質をつかんだも同然だ。この存在感は過去作の魔王役と比べても希有で、タイトルに彼の名を冠してあるのもうなずける。
近年のファンタジー4X-TBSは豊作で、その中でも、本作と同シリーズの前作『Fallen Enchantress: Legendary Heroes』と、『Age of Wonders III』『Endless Legend』の評価は高い。本作はそれら評価作とちがうニッチにたどり着いており、プレイ体験が重複することはない。ファンタジー作品が好きな4X-TBSファン・RPGファンは迷わず購入されたし。プレイ中は常に「One More Turn」と口にし、クリア後は次のプレイをはじめながら口にするだろう。「One More Story!」(もっと物語を!)と。
余談。本作のゲーム設計は、Arcen Games開発のRTS『AI War』に類似している。これについてはメーカーフォーラムでも話題になり、開発者は好意的にコメントした。『AI War』はゲーム中の難度上昇ルールが明確になっており、プレイヤーはその欠点を突いて攻略するゲームだ。筆者レビューで詳しく紹介している。興味があれば一読されたし。