PC版『DEAD OR ALIVE 5 Last Round』レビュー 「Dead or Good price」

 

PC版『DEAD OR ALIVE 5 Last Round』はXbox 360版にPCの恩恵を生かした。その恩恵とは、リッチなハードウェア性能に応じた高画質設定だ。しかし、世評は冷ややかな目を向けている。弊誌英語版は、発売2日目にSteamキー2次販売店(通称: 鍵屋)が15ユーロ(弊誌英語版調べ)で販売している状況を通じ、安価販売の原因を5点あげた。「高い要求スペック」「開発者のMOD懸念発言」「Xbox One版・PS4版にある新グラフィックエンジンの未実装」「ゲームパッド振動機能の未実装」「Steam実績の未実装」だ。

本稿はシリーズ作を通じて本作を総評し、PC版の製品情報をくわしく紹介する。なお、弊誌英語版にならい、レビュー対象はPC版リージョングローバルとする。日本PC版のレビューではない点は留意されたし。

 

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DEAD OR ALIVE 5 Last Round
開発・販売: コーエーテクモゲームス
発売日: 2015年3月30日
定価: 39.99ドル
プラットフォーム: PC(Windows)
(この情報は上記のとおり、PC版リージョングローバルのものである)

『DEAD OR ALIVE』(以下、DOA)シリーズは3Dポリゴンをもちいた格闘ゲーム、通称3D格ゲーだ。1作目は1996年に発売し、『バーチャファイター』『鉄拳』にならぶ長寿シリーズとなった。『DOA3』以降はアーケード版がなく、ゲームセンターを中心とする国内の格闘ゲームシーンから外れた印象はある。しかし、『DEAD OR ALIVE 5 Ultimate』(以下、DOA5U)アーケード版でゲームセンターに復帰し、対戦動画や大会動画も増え、格闘ゲーマーのあいだで認知が広まりつつある。また海外では、Xbox 360ローンチタイトル『DOA4』が、国際的なeスポーツ大会「World Cyber Games」で採用された。

 


新規層を受け入れつつ、既存層に新たな風を吹き込む調整

 

本作『DEAD OR ALIVE 5 Last Round』(以下、DOA5LR)は、2012年に発売した『DOA5』を2年以上かけて調整したシリーズ最新作だ。セールスポイントは高水準のグラフィックにあり、2015年4月15日発売の格闘ゲーム『Mortal Kombat X』と比べても、2年以上前のグラフィックエンジンで健闘している。なかでも女性キャラクターのモデルはシリーズを通して定評があり、『DOA5U』では貧乳の新キャラクター「マリー・ローズ」を、『DOA5LR』では巨乳の少女「ほのか」を追加するなど、ファンの多様なニーズに応えている。

 

『Mortal Kombat X』PC版(左)と本作PC版(右)の比較。左はカメラ効果やテクスチャ解像度などゲーム技術の進歩がみられる。それをさしおいても、右は一級品の画質だ。
『Mortal Kombat X』PC版(左)と本作PC版(右)の比較。左はカメラ効果やテクスチャ解像度などゲーム技術の進歩がみられる。それをさしおいても、右は一級品の画質だ。

 

黒のコンボ4発目を白がホールド。コンボしかえし体力1/3を奪った。
黒のコンボ4発目を白がホールド。コンボしかえし体力1/3を奪った。

グラフィックとならび、シリーズ1作目よりつづく「ホールド」も健在だ。コンボを食らう側が打撃対策(ホールド)で反撃できるというもので、昆虫のようなワンパターン行動を罰する独自のシステムであるが、コンボする側に最後までリスクがつきまとう点は他タイトルの格闘ゲーマーに嫌われていた。本作はここに手を加え、従来作よりホールドの有効時間を短くしてコンボする側の有利を大幅に増やした。他タイトルの格闘ゲーマーがこれまで感じた負担を減らすとともに、ホールドの万能感をなくしシリーズファンに緊張をもたらしている。

格闘ゲーム以外の要素も変更がある。大きなものはストーリーモードだ。各キャラクター固有の物語ではなく、1本の時間軸にさまざまな事情をもったキャラクターが登場し物語が広がる群像劇となり、本作から『DOA』をはじめるプレイヤーにも背景がわかりやすい。しかし、この手法は主人公とその周囲に焦点があり、物語への関与がうすい脇役の出番は少ない。また、バージョンアップで追加されたキャラクターは登場しない。

 

コメディからシリアスまでたっぷり3時間。後半は使い慣れていないキャラクターで高難度AIと戦うが、「敵の連続技をすべてガードしてから投げ」を意識すれば少し楽になるだろう。
コメディからシリアスまでたっぷり3時間。後半は使い慣れていないキャラクターで高難度AIと戦うが、「敵の連続技をすべてガードしてから投げ」を意識すれば少し楽になるだろう。

 

ゲームを熟達するための教材がゲーム内に用意してある点もあげておきたい。ゲームの基本的動作から対戦向けの細かなテクニックを網羅した1時間半のチュートリアルと、キャラクター固有のコンボ練習もある。これらは近年発売した格闘ゲームのすべてが搭載しているものではないので、新規層への配慮要素として特記する。

 

格闘ゲームは「難しい」。だが、それを補ってあまりある奥深さもある。実に丁寧なチュートリアルで得た知識は勝利への第一歩となろう。
格闘ゲームは「難しい」。だが、それを補ってあまりある奥深さもある。実に丁寧なチュートリアルで得た知識は勝利への第一歩となろう。

 

以上をもって本作の簡単な総評とする。過去作からの変更点はすべて新規層獲得にあり、高水準のグラフィックに見ほれた他タイトルの格闘ゲーマーが不快に感じないよう配慮されてある。その調整は、従来作のファンに緊張をもたらしつつ喪失と感じない程度にとどめてあり、グラフィック技術の進歩とあいまって「進化を遂げた」とよろこべる。

 


さらなる高画質が選べるPC版

 

各プラットフォームの差異は大きい。くわしくは公式サイトの比較表にある。PC版に焦点をしぼると、オンライン対戦モードが未実装の点と、おっぱいの揺れ具合を激しく設定できない点をのぞけば、Xbox 360版(以下、360版)と同じ製品内容だ。なお、オンライン対戦モードは発売後3か月以内にパッチで配信予定とある。

 

公式サイトの比較表を抜粋し、別ページのPC版製品情報を追加した。360版の内容はPC版にもある。オンライン対戦モードの出来映えに期待する。
公式サイトの比較表を抜粋し、別ページのPC版製品情報を追加した。360版の内容はPC版にもある。オンライン対戦モードの出来映えに期待する。

 

PC版独自の特典は高画質設定できる点だ。コンシューマー版より高い解像度を選べるほか、アンチエイリアス処理(以降: AA処理)、影の設定ができる。下記はその設定項目だ。

  • 画面設定: ウィンドウモード/フルスクリーン
  • 解像度: 1074×768/1280×720/1366×768/1600×900/1680×1050/1920×1080/3840×2160
  • 影の表示: ON/OFF
  • 影の解像度: 1024×1024/2048×2048/4096×4096
  • AA処理: OFF/FXAA/SSAA(x2)/SSAA(x4)

360版は1280×720、影ON(影の解像度は未公表)、AA処理 OFFとなる。高解像度化は、モデル・テクスチャが未対応のためさほど恩恵はない。それに対し、AA処理 はわかりやすい。FPSとちがい、カメラよりもキャラクターが動くため、背景とキャラクターの境界線で目立っていたジャギー(ドットのギザギザ)などがなくなった。影も一度無効にしてから有効にもどすと差が歴然だ。近年のPCゲームに近い高画質で楽しめる。

 

左より360版(720p)、PC版画質最低(720p)、PC版画質最高(1080p)。背景の鉄柱や、背景と白い服の境界線でジャギーが緩和されている。また、高解像度でサングラスのフレームも鮮明になった。(拡大画像)
左より360版(720p)、PC版画質最低(720p)、PC版画質最高(1080p)。背景の鉄柱や、背景と白い服の境界線でジャギーが緩和されている。また、高解像度でサングラスのフレームも鮮明になった。

 


フレームレート実測

 

ミドルスペックのデスクトップ・ノートPCで高画質設定したときの影響を記す。調査の焦点はフレームレートと操作遅延だ。細部の鮮明さは勝敗に影響しないため割愛する。なお、フレームレートの測定にはFrapsをもちいた。

  • AMD FX-8350 + Radeon HD 7850
    フルスクリーン・解像度1920×1080・影の解像度4096×4096・AA処理 SSAA(x4)で60fps

  • Lenovo Y50(intel Core i7-4710HQ + NVIDIA GeForce GTX 860M)
    上記の設定では60fpsを確保できなかった。次の設定となる。フルスクリーン・解像度 1920×1080・影の解像度 1024×1024・AA処理 SSAA(x2)

ハードの処理能力を超える画質を設定すると60fpsを下回る。そのとき、スローモーションのようにゲーム速度が低下した。フレームを飛ばしてゲーム速度を維持する仕組みはなく、60fpsで安定するよう画質を設定する必要がある。フレームレートテストや画質の自動設定もないので、最適な設定はユーザー自身で探さなくてはならない。CPUよりGPUの負担が大きいので、ビデオカードがローエンド品のときは注意されたし。

 

左より360版(720p)、PC版最低画質(720p)、PC版最高画質(1080p)。影をOFFにすると、物体が落とす影が別物体に反映されない。影の解像度が小さいと、影の境目の画素が荒くなる。これらはゲーム内容に影響しないので、60fpsで安定する設定を優先されたし。(拡大画像)
左より360版(720p)、PC版最低画質(720p)、PC版最高画質(1080p)。影をOFFにすると、物体が落とす影が別物体に反映されない。影の解像度が小さいと、影の境目の画素が荒くなる。これらはゲーム内容に影響しないので、60fpsで安定する設定を優先されたし。

 


周辺機器のトラブル

 

問題はコントローラだ。キーボードによる操作も可能だが、1/4回転・半回転コマンドがあるため、ゲームパッドやジョイスティックはかかせない。周辺機器メーカーのコントローラは割愛し、家庭用機ゲームコントローラの対応状況を記す。

 

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× PS3用SIXAXISワイヤレスコントローラ(USB接続)

○ PS3用リアルアーケードPro3

○ Xbox 360用有線パッド

○ Xbox 360版DOA4同梱ジョイスティック

なお、PS3用SIXAXISワイヤレスコントローラはUSB接続すると充電モードとなり、Windowsでは使えない。有志作成のドライバでWindows用ゲームパッドとして認識させ動作テストしたが、ゲーム中、ボタン・レバーは入力を受け付けなかった。自宅のコントローラで正常にプレイできない場合は、上記の対応コントローラの購入を検討してみるのもいいだろう。

 


市場価格を超えた価値

 

以上の製品情報をもって発売直後の世評をみると、過剰反応であったといえなくもない。もちろん、製品情報の告知にまつわるメーカーの落ち度はある。Xbox One・PS4版のみ「やわらかエンジン」でグラフィック強化といったプラットフォームによる内容の差異を、早期予約開始時ではなく、発売2週間前に告知した(ソース: PC Gamer)ことで、PC版を早期予約した消費者の反感をかったのだ。つまり、その世評はメーカーの評価とゲームの評価を混同している。

ゲームの評価にしぼり、弊紙英語版がとりあげた不評要因を再考する。「高い要求スペック」については2年前のゲーミングPCでも十分に動作し、「ゲームパッド振動機能の未実装」もプレイに致命的な欠陥をもたらすものではない。「Xbox One版・PS4版にある新グラフィックエンジンの未実装」については、かわりに4KHD解像度・AA処理がある。「開発者のMOD懸念発言」(ソース: MCV)は度を越えたヌードMODなど(ソース: Niche Gamer)についての苦言であり、MOD文化を敵視したものではない。Steam掲示板で「SweetFX」や「GemFX」といった汎用グラフィックMODを導入する話題が黙認されている点をかんがみ、この程度であればメーカー回答にある『モラルとマナーをもって楽しむ』うちに入ると思われる。

 

画像右は汎用グラフィックMOD「SweetFX」で彩度などを変更したもの。有志によるプリセットもあり、簡単に導入できる。
画像右は汎用グラフィックMOD「SweetFX」で彩度などを変更したもの。有志によるプリセットもあり、簡単に導入できる。

 

ゲームパッド対応を把握し、「Steam実績の未実装」に目を閉じれば、PC版は360版の画質強化版だ。アーケード版にストーリーモード・チュートリアル・キャラクター別コンボ練習を追加したにとどまらず、ハードウェア性能に応じて高解像度・AA処理・影の高解像度に、MODまで楽しめる。弊誌英語版のとおり15ユーロで販売していたのなら、米Amazonで価格25.90ドル(5月8日時点)の360版よりも安いPC版はお買い得だ。現在価格に興味があれば読者が普段使う購入サイトでしらべられたし。

 

360版の価格について補注。『DOA5U』から無料でアップデートできるが、『DOA5LR』で追加されたキャラクターは有料DLCとなる。海外360版DLCは5人セットで19.95ドル。
360版の価格について補注。『DOA5U』から無料でアップデートできるが、『DOA5LR』で追加されたキャラクターは有料DLCとなる。海外360版DLCは5人セットで19.95ドル

 

本作PC版の評価をしめる。本稿のゲーム内容紹介で興味をもち、ミドルレンジ以上のゲーミングPCとジョイスティック(または360用ゲームパッド)があり、同じ環境の友人がいるなら、購入予定リストに記すのを勧める。購入は、メーカーの告知どおりオンライン対戦モードが搭載されてからでも遅くはない。それまで、日本全国の一部のゲームセンターで稼働中の『DOA5U』で腕を磨いておき、購入後に対戦のコツを友人にレクチャーすれば、仲良く楽しめるだろう。

最後に、本稿はPC版リージョングローバルのレビューであり、日本PC版のレビューではない。日本PC版はSteamで販売、価格は7344円となる。