『Blood Bowl 2』はアメリカンフットボールをモチーフにしたターン制ウォーストラテジーの続編だ。オーク・エルフ・ドワーフなどファンタジーでおなじみの種族が残虐性あふれる球技に挑む。もちろん、敵チーム全員を事故でノックアウト・殺害してもよい。厳密なルールがうみだす中毒性はそのままに、画質・ユーザーインタフェース(以下、UI)を大幅に改善した。キャンペーンモードのチュートリアルとストーリーは、プレイヤーをベテラン監督に育てあげる。1試合約1時間かかるハードコアな内容だが、筆者は本作を2015年下半期の注目タイトルに推薦する。
『Blood Bowl 2』
開発元: Cyanide Studio
販売元: Focus Home Interactive
価格: 44.99ドル
発売日: 2015年9月22日
プラットフォーム: PS4/Xbox One/PC(Windows)
『Blood Bowl』の起源はアナログゲームだ。「Warhammer」シリーズのメーカーGames Workshopが1987年に発売し、約20年もルールを改良しつづけた人気と歴史をもつ。最終版ルールを適用したビデオゲームが2009年に発売。本作はその続編にあたる。タイトルでもある架空の球技“ブラッドボール”(以下、球技をカタカナで表記)は、モチーフ元のアメフトと同様、選手の特色をいかす戦略性が高いスポーツである。ファンタジー世界の種族とダイスをもちいたウォーストラテジーで、この戦略性を強調した。
スポーツ産業の恩恵
ブラッドボールの魅力は高い戦略性とラフファイトにある。この2点を紹介する前に、本作で追加した要素を述べておこう。それは見るスポーツだ。前作から改善した画質・UIを基軸に、スポーツ産業をファンタジー世界で再現する「ブラッドボールの背景」をつくりあげた。これがキャンペーンモードをプレイするモチベーションとしてはたらき、新規プレイヤーをブラッドボールファンに育てあげる。
背景強化の基軸となる画質・UIについて前作と比較しよう。画質は次世代ゲーム機水準となり、選手のクローズアップに耐えるものとなった。選手同士の格闘やボールパスにスポーツゲームのカメラワークを取り入れた演出はスポーツ実況を想起する。UIもファンタジー色を前面にだした木製のボードから、テロップやピクチャーインピクチャーをもちいたものとなった。これまたスポーツゲーム・スポーツ実況から取り入れたものだ。舞台はファンタジーながら、今時のスポーツ番組としてなじみ深い見栄えとなり、不便を感じない。
本作最大の工夫は、スポーツゲームから借りたそれらの見栄えを、「スポーツ産業が発達したファンタジー世界」という背景で説明した点にある。背景の強化はゲーム開始5秒で見てとれる。ブラッドボール公式チャンネル「Cabalvision HD」がはじまるのだ。スタジオの実況・解説がゲームをスポーツ番組の体でもりあげる。会話にちりばめられた単語をはじめ、スタジアムの広告・カメラマンなど、文脈や造形から意味を読み取るハイコンテクストな背景はとてもナードだ。実例に、一文を意訳しておく。
“Thanks, Bob. If you would like to join in the conversation then we have all the tools of anti-social media at our disposal, including FaceTome and Twerper.”
ありがとう、ボブ。その話題に参加したい視聴者は、FaceTome・Twerperといったアンチソーシャルメディアの番組アカウントでどうぞ。
(FaceTomeのTomeは大きな本、TwerperのTwerpはくだらないやつという意味)
全15試合、約16時間のキャンペーンモードはその愉快な背景の集大成だ。ストーリーは、今は凋落したかつての名門チームを復興する王道もの。スター選手の参戦や数々のアクシデントがシーズンをもりあげる。チュートリアルもかねており、本作からはじめたプレイヤーをベテラン監督に育てあげる。
本作の画質・UI・背景で、ブラッドボールは「するスポーツ」から「見るスポーツ」へと発展した。現実のスポーツがテレビを通じて人口を得たように、ファンタジーのスポーツも水晶球を通じて人口を得た。ファン人口は選手人口に、そして未来のスター選手につながる。この仕組みはプレイヤーにもはたらき、約20年の練磨を経たルールがもつ残虐性のとりこにする。
ボールをもって走れ!
前章で紹介した魅力「戦略」「ラフファイト」は、球技とウォーストラテジーを融合した厳密なダイスルールからうまれる。その奥底にある残虐性は、ゴア描写のようなプレイングへの報酬ではなく、殺らねば殺られるという生存本能にうったえた強烈なものだ。ゲームメイクで肯定され気兼ねなくできる残虐行為が、興奮と中毒性をもたらした。
まず戦略について。ルールブックを要約するとつぎのものとなる。“ボールをもつ選手の安全を確保するためにタックル(隣接時の妨害判定)ゾーンを展開できるよう、邪魔な敵選手をブロック(戦闘判定)する。”この判定すべてにダイスをもちいるため運要素が強い。ダイスをもちいた戦略ゲームは、その運に頼らない部分で優位をつくるのが肝だ。
ターン強制終了ルールはそのリスクとリワードの幅を大きくした。ダイス判定の結果で自チーム選手が転倒、またはボールを落とすと相手に手番が移る。ウォーストラテジーとしてみれば、自分のターンで選手を多く動かせば優位になる。リスクの少ない順から選手を動かすのが定石だ。しかし、ボールを負う球技としては、ボールコントロールというリワードを追求して選手を動かしたい。このリスク・リワードは完全なトレードオフではなく、両立した解がある。手番の制限時間はその解を求める思考量を問い、プレイ体験の密度を高めている。
つぎはラフファイトについて。これは見た目のことではない。転倒した選手が負傷判定に失敗すると、スタン・KO・負傷・死亡する。そして選手の数量差がゲームメイクの有利に直結する。つまり、敵チームの有能な選手を退場させる行為も、ボールを追いかける行為と同様、ゲームを優位に運ぶ。相手を負傷させた選手が経験点を得てレベルアップする仕組みは、報酬でプレイングを敵選手の排除へ誘導している。
ラフファイトは数量差をうみだし戦略に影響する。数量差をいかした戦略もまたラフファイトに反映される。実際に退場させなくとも、負傷を嫌うよう誘導し、選手の持ち味を封じて優位を得るのだ。スキルをもたない選手ひとりで、スキルをもつ敵選手ひとりを封じたなら、不等価の交換が成立する。試合前半で点を得ても、フィールド上の選手が半分になってしまえば、後半は凄惨な内容となるだろう。
戦略とラフファイトは勝負事にまつわる一要因だが、種族に大きな身体能力差があるブラッドボールにおいては、それを露骨に押しつける無慈悲さ・冷酷さが勝利へつながり、嗜虐心を大いに満足させる。極端な能力差があるハイエルフ対ドワーフの試合を例にあげよう。移動力・敏捷力に優れたハイエルフが点をとるのは間違いない。しかし、最後まで立っているのは戦闘力・耐久力に優れたドワーフだ。そして、勝利を手にするのは、戦略とラフファイトのせめぎ合いに潜む残虐性を発揮したチームである。ブラッドボールの魅力はその嗜虐心にあり、球技とウォーストラテジーを融合したゲームルールがそれを約束する。
隣の芝生は青いが、こちらの芝生は赤い
『Blood Bowl 2』は中毒性の高いルールをそのままに、豊かな背景をふんだんにいかしたキャンペーン(チュートリアル)と、改善した画質・UIでプレイアビリティを高め、万人に門を開いた。だが、プレイヤーを選別するハードコアなつくりは変わらない。ストラテジーはけっしてカジュアルなゲームではないが、本作のハードコア要素はジャンルとべつのところにある。
もっとも大きな選別要素は試合時間であろう。演出をすべてカットしても1試合1時間はかかる。試合時間の短いゲームならプレイ回数を調整すればよいが、本作は「プレイするか、しないか」しかない。もちろん、ハードコアなゲーマーは人生を設計して時間をつくるだろうが、すべてのゲーマーがその領域に達している訳ではない。
長い試合時間は本作のチームマネジメント要素を薄くする。最初のレベルアップに2、3試合かかり、チームがそだつまでスキルが乏しい。種族差を強調したブラッドボールの本質をもっとも味わえるのだが、ファンタジーのウォーストラテジーとしてみれば、選手がそだつまで殴り合いしかできないのは寂しいものがある。育成要素に注力した『実況パワフルプロ野球』シリーズでは、試合の大半をAIが処理するサクセスモードで、育成にかかる時間を大幅に短縮している。そのようなチームマネジメントを優先した試合処理があればよかったのだが、本作は1時間かゼロだ。中間はない。
1ターンの操作が長い手番交代制も選民要素のひとつだ。プレイ時間のうち半分は相手チームの操作をながめることとなる。手番交代制のアナログゲームでは、プレイヤーが共同してルールを処理することで、プレイ体験を共有しゲームの没入度を高めている。これこそがアナログゲームの核であり、ゲームに対して誠実な紳士的プレイが不可欠とされる理由だ。ビデオゲームはルール処理の煩わしさを取り払ったのと引き替えに、プレイヤーがなにもしない拘束時間をうみだした。人気アメフトゲーム『Madden NFL』などリアルタイムの球技ゲームとちがい、本作は相手の手番に能動的な操作はできず、試合時間の半分近くが拘束時間となる。もちろん球技・ターンベースだけでなく他ジャンルでも攻守の概念からうまれる手番待ちはあるが、1試合3分で終わるならまだしも、1時間のうち半分を占める相手の手番を、思考時間として受け入れるには少々の訓練がいる。
本作は『Blood Bowl』シリーズをもっとも手軽に遊べるゲームだ。だが、他の球技ゲームとくらべたとき、1試合のプレイ時間は避けて通れない。ここは、隣の芝生が青いことをうらやむのではなく、こちらの芝生が鮮血で赤く染まることを誇るべきだろう。サッカー選手の言葉「ラグビーは紳士がやる野蛮なスポーツ、サッカーは野蛮人がやる紳士的なスポーツ」にならえば、ブラッドボールは野蛮なオークでも紳士なヒューマンでも参加できるスポーツだ。つまるところ他競技の亜種ではなく独立したひとつの競技であり、ダークエルフやスケイブン(ネズミ男)が居ない世界のスポーツと比較しても魅力を損なうだけである。キャンペーンモードを見るスポーツとして堪能し、ルールに熟達すれば、1試合1時間というハードコアなつくりを妥当なものと感じるだろう。
Welcome to Cabalvision HD!
『Blood Bowl 2』はファンタジー世界におけるスポーツの王者だ。もとよりこのジャンルのライバルは魔法界の大人気スポーツを描いた『ハリー・ポッター クィディッチ・ワールドカップ』しかないが、スポーツ産業が発達したファンタジー世界というコンセプトを貫徹した背景は、本作を唯一無二のものにしている。まずはキャンペーンモードを見るスポーツとして楽しんでほしい。そうすれば、厳格なゲームルールの根底にある残虐性のとりこになるだろう。
キャンペーンが終わったら、選手を雇用しリーグに参加しよう。ブラッドボールのリーグ規定により、チーム評価の差が大きいときは、スター選手の参加や、フィールドにファイヤボールを撃ち込むといったハンディキャップがつく。選手の育成要素とマルチプレイの公平性を両立した仕組みが白熱の試合内容を保証する。
発売時点でカメラワークやパス演出に一部の粗があるのと、前作の23種族とくらべてわずか8種族しかいないのに加え、試合時間の改善がなかったのは欠点だ。特にタックル・ブロック時のクローズアップ演出はパターンが少なく、負傷判定に成功し無傷のときは省略するといった短縮設定もないため、無用の長物と化しているのは残念である。
だが、その欠点をもって本作の購入を時期尚早と評するのは、画質・UI・背景の一新がもたらしたプレイアビリティの改善を軽視している。ハードコアなゲーム内容をそぎ落とすことなく、新規プレイヤーのタッチダウンをうながした点を賞賛したい。さあ、いますぐCabalvision HDにチャンネルを合わせよう。2015年秋冬ゲームのキックオフを飾るのは『Blood Bowl 2』だ。