『Diablo』や『StarCraft』などで知られるBlizzard Entertainmentは、近年『Hearthstone』など過去には触れてこなかったジャンルの新規フランチャイズ開発に積極的だ。2016年5月にリリース予定の『Overwatch』も、Blizzard初となるFPSジャンルのタイトルである。6対6のマルチプレイヤー対戦FPSとなっており、プレイヤーは20体以上のさまざまな能力を持つ「ヒーロー」を選択して戦う。『World of Warcraft』を下敷きにしない新たな世界観、世界各国のファンを魅了するであろう個性豊かなキャラクターたち、長期的なベータテストの実施など、Blizzardが本腰を入れて取り組んでいるタイトルであることがうかがえる。
『Overwatch』を端的に言い表すのならば、『Team Fortress 2』のようなクラス制FPSと『League of Legends』のようなMOBAを融合させたタイトルというのが手っ取り早いだろう。ただオープンベータテストをプレイした限りでは”MOBAの系譜”から捉えるべき作品であり、三人称視点MOBAである『SMITE』の次に一人称視点MOBAの『Overwatch』が来たと言った方が正しい。慣れ親しんだFPSのフォーマットはとてもとっつきやすいが、その本質は戦略性とチームワークを過酷なまでに求められるMOBA。『TF2』のようなお祭りクラス制FPSを『Overwatch』で期待していたのならそれは間違いだが、やりごたえのあるチームワーク発揮型の対戦ゲームを求めていたのなら真っ先に飛びつくべきだ。
相手のチームワークを崩すゲーム
『Overwatch』はオブジェクティブ型のチーム対戦FPSだ。現時点では「エリア確保」や「ペイロード」などのルールがあり、「King of the Hill」形式で互いに1つのエリアを奪いあったり、それぞれのチームが攻守に別れて戦ったりする。プレイヤーたちはたった6人で協力しなければならず、人数の少なさからも、メンバー構成やチームワークが重要になるのは言うまでもない。選択できるヒーローは現時点で21人存在し、「Offense(攻撃)」「Deffense(防衛)」「Tank(盾役)」「Support(支援)」の4種類に分類されている。体力を回復する「Support」はチームに必ず1人は必要だし、攻める側でも守る側でも前線を維持し押し上げる「Tank」も重要。チームの火力を底上げする「Offense」や、敵を釘付けすることに長けた「Deffense」も必須だ。MOBAの「Top・Mid・Jungle・ADC・Sup」ほどロールや行動方針が区別されているわけではないが、バランスの悪い構成ではチーム力で即座に負け敗北することになる。
MOBAと違うのは、”マッチ中でも操作するヒーローを交代することができる”点。試合状況によってヒーローを交代することが可能で、チームの構成力で負けても、気軽に「ならこいつを投入しよう」と変更することができる。ヒーローの構成が1人変わった結果、チームの状況が一変し逆転勝利あるいは敗北してしまうというのは、『Overwatch』では珍しくない。またRPG的な要素も排除されているため、一度キルされたら相手に経験値やマネーが入り差がつけられてしまうといった心配もない。
ただ、だからといって本作がMOBAより気軽にプレイできる作品であるかというと、そうでもないと筆者は思う。少なくともベータテストをプレイした限りでは、やはりMOBAらしい戦略性やチームワーク性が求められる作品だ。たとえば『Overwatch』でよく見る戦い方の1つが、「Tank」が前面でシールドを展開し、その後ろから「Attack」や「Deffense」が攻撃を仕掛けるというもの。さらに「Support」が彼らの体力を回復し、また奇襲系のヒーローが迂回して相手の陣を崩してゆく。これがメンバー間で連携が取れていないと、「Tank」は単独で突っ込んで蜂の巣にされてしまい、シールドがないため「Support」が簡単に処理され、「Attack」や「Deffense」は回復支援が受けられずジリ貧で倒されてしまう。そしてこの負のループが延々と続き、結果としてまったく歯が立たずに簡単に負けてしまうことがたびたびある。
『Overwatch』とは実は、”互いに相手チームのチームワークを崩す部分”がコアなのだと感じる。腕前が立つ1人のプレイヤーの活躍が勝利へと繋がることもあるが、チームワークが崩れたチームの瓦解はそれ以上に早い。相手のチームワークが崩れたあいだに、もう片方のチームはエリアを確保したりペイロードの車を押したりする。一度チームワークを崩されたチームは、そこから立て直すことができないと、まるで完敗したかのように黒星をつけられてしまうのだ。
MOBA好きはぜひプレイを
『Overwatch』はMOBAを普段プレイしているプレイヤーはもちろん、チームワークがものを言うクラス制FPSを求めていたファンにもおすすめしたい作品だ。唯一懸念したのは、FPSのフォーマットを採用している『Overwatch』のゲームプレイスピートはそれなりに早く、また視界も『SMITE』のような三人称視点や一般的なMOBAの見降ろし視点と比較すると狭いという点。そのため、上手くほかのメンバーと連携を取る前に瞬殺されてしまうシーンがしばしばある。スナイパーに前線に出た瞬間に処理されたり、奇襲系のヒーローにリスポーン後に瞬殺されてしまったり。相手チームのチームワークで戦況を固められてしまってもFPSの腕があれば逆転できるという捉え方もあるかもしれないが、個人的にはこういったシーンに出会うと、もっとチームワーク力とチームワーク力の純粋な戦いを楽しみたいという気持ちに駆られてしまった。もちろん、腕前が下手な負け犬の遠吠えだと言ってもらってもいい。
この点を『Overwatch』はもっと改善できるはずである。特に味方と連携するためのコミュニケーションツールはまだまだ貧弱であり(ボイスチャットは標準搭載されているのだが)、迂回路から後ろに入ってきた敵やスナイパーの位置を伝えるスポット報告機能や、よりわかりやすい味方メンバーの位置や進路方向を表示するツールなどがあればと感じることは多い。この点が今後のアップデートで製品版リリースで改善されれば、よりチームワークを持ってして戦う楽しさがダイレクトに感じられるのではないかと思う。発売後も末永くゲームをサポートするBlizzardだから、期待はできるはずだ。
また、海外のサーバーでプレイしたため断言すべきではないのだが、本作のFPSとしての難易度は意外にも”ゆるい”と感じる。確かに「Tracer」のようなプレイヤースキルがモロに反映されるヒーローも存在し、猛者に一方的に狩られるシーンにはよくよく直面する。ただプレイする側として見ると、どんなヒーローも『Unreal Tournament』や『Quake 3 Arena』ほど複雑な操作は必要ない。特にヒットボックスはかなり大き目に感じるところで、ヒーローにもよるのだが、敵に攻撃を当てるのにそこまでのエイム力は求められない(たとえばスナイパーを使うのが嫌いの筆者でも、本作のスナイパーは他の作品のものと比較してもかなり敵に弾を当てやすい部類だと感じる)。また一部のヒーローは、FPS的な腕前にそれほど依存せずとも活躍できる。トレイラーを一見すると強いFPS臭も感じられる『Overwatch』だが、そういった点に臆さずMOBA好きもほかのプレイヤーもぜひ触れてみて欲しいと思う。
おりしも今週、日本語版版『Overwatch』の発売がPC/PS4バージョン共に正式発表されたばかりだ。予約者には期間限定のベータテストアクセス権が提供される予定で、今回のファーストインプレッションを読んで気になったユーザーはぜひ検討してみて欲しい。筆者は日本でも『Overwatch』が流行してコミュニティが築かれ、いい試合ができるようになりたいと願う。