アクセスゲームズは、PC版『D4: Dark Dreams Don’t Die』を6月6日にSteamおよびPLAYISMにてリリースする。価格は1480円。PLAYISMでは無料の体験版も配信されている。本作は特に海外で高い評価を浴びた『Red Seeds Profile』(国外での名は『Deadly Premonition』)の開発者SWERY氏による最新作だ。2014年9月にXbox One版がリリースされ、ダウンロード本数が130万本を突破。さらにファンからの熱い要望に応える形で、PC版の発売が決定した。
おそらく今までに『D4』を購入した人は次のどれかにあてはまるだろう。Xbox Oneを所有していて日本のゲームを試しにプレイしてみようと思った人、『Red Seeds Profile』の魅力に毒されたSWERY教のカルト信者、あるいは奇妙な運命を辿って本作を購入することになった人。だが『D4』は、『Red Seeds Profile』好きのSWERY信者たちはもちろん、より幅広い層のプレイヤーにも受ける作品かもしれない。その上でこのゲームは「This is the SWERY」でもある。
万人向けの明るいSWERYワールド
プレイヤーが操作するのは「デイビッド・ヤング」という名の私立探偵だ。デイビッドはかつてボストン市警の麻薬捜査班に所属する刑事だったが、妻リトル・ペギーの殺害事件をきっかけに退職している。妻の最後の言葉「Look for D(Dを探して)」を頼りに、妻の死の真相をずっと追い続けており、その中で麻薬「真血(リアル・ブラッド)」を巡る事件に関わってゆく。
本作の物語を一文で表すのなら、「過去に飛べる私立探偵の奇妙な事件簿」だ。デイビッド・ヤングは、強い思いがこもったまま持ち主を失った遺物“メメント”に触れることで、過去へと“ダイヴ”する能力を持っている。プレイヤーはこの能力で、現実世界の探偵事務所と過去の世界を行き来しつつ、さまざまな事件や物語の真相を辿っていく。信じられないほど大食らいの相棒「フォレスト・ケイスン」、謎のネコ系女子「アマンダ」との事務所でのやり取りは、見ているだけで楽しいし笑える。『Red Seeds Profile』のような病的な空気感はやや抑えられているが、強烈なキャラクター、奇天烈な世界観は相変わらず健在で、万人向けに調整された明るいSWERYワールドが展開されてゆく。少なくともシーズン1では。
ゲームプレイは探索パートとクイックタイムイベント(QTE)パートにわかれており、全体像は至極シンプルなアドベンチャーゲームである。マウス操作でクリックしてエリアを移動し、オブジェクトを調べたり触れたり、あるいはNPCたちに話しかけて物語を進める。ときには四つ葉のクローバーを拾い上げたり、制限時間内に飛行機の窓の安全チェックをしたりと、ミニゲームに興じてもいい。扉などのオブジェクトにアクションする際や、時おり挟まれるイベントシーン時には画面上に矢印が表示され、それに添ってマウスを動かす。ハードコアゲーマーが忌み嫌うQTEだが、この部分に関してはもう少しあとに語るとしよう。
“印象の表示”に見る新たな世界観
オープンワールドではなくなり、ゲーム内の時間に沿って動くNPCなどは登場しなくなったが、本作でも『Red Seeds Profile』で見られたような世界観の作り込みは健在だ。およそ1500円のシーズン1と銘打たれているだけあり、『D4』のゲームボリュームはそれほど無いのだが、それでもゲーム中にはうんざりするほどの大量のオブジェクト、各種ミニゲームや追加の事件が登場する。
特に1つのメカニックの登場により、世界観の作り込みさらに深まっているとも言っていいだろう。それがオブジェクトに触れた際の“印象の表示”である。ゲーム中、プレイヤーはオブジェクトやキャラクターにマウスカーソルをかざすことで、そのオブジェクトの情報やデイビッドが思った感情を表示させることができる。例えば小汚いシャワールームのドアにも、デイビッドと亡き妻の思い出がつまっており、プレイヤーはそれを垣間見ることができるわけだ。
『BioShock』で見られるような、「録音テープなど複数のアーカイブスからプレイヤーが物語の背景を形作る」手法と異なり、この印象表示はとても直接的に見えるかもしれない。だが構造的には同じものだ。さまざまなオブジェクトに対するデイビッドの考えを知ることで、主人公であるデイビッドのキャラクター像がメリハリと立体化してゆき、物語への感情移入を加速させる。
唯一の欠点は、先ほども記したようにオブジェクトがあまりにも多すぎる(さらに一部のオブジェクトにはエピソード毎に異なる印象パターンまで用意されている)ことで、すべての印象を表示しないと気がすまないようなプレイヤー、あるいは実績解除マニアにとっては、うんざりとする面もあるだろう。デイビッドがなにを考えているのか覗くのは楽しいのだが、全部知ろうと身構えると、ちょっと疲れてしまうところもあるのだ。
遊べる海外ドラマ
本作はミステリーアドベンチャーゲームと題されているが、例えば過去の世界でのデイビッドの行動が現実世界にさまざまな影響を与える、あるいはそれを元に物語を進めるといった、複雑なゲームメカニックや推理要素は存在しない。『Red Seeds Profile』のような“驚異的な”オープンワールドアクションもない。それどころか、意図的にプレイヤースキルが要求される箇所が極力排除されている。
まずプレイヤーが推理しなければならない選択肢やパートはほぼ存在しない。キャラクターとの会話で選択肢は出るが、その場でリトライすれば総当りが可能であり、クイズでは親切にも間違えたか正解した選択肢にマークまで付けてくれている。また、集めなければならない証拠品や情報についても、ゲーム中には「ヴィジョン」と呼ばれる能力があり、使用すれば触れるべきオブジェクトがハイライトされる。ゲージの制限はあるが、回復アイテムはそこら中にあり、ほぼ無制限で使えると考えてよいだろう。
つまり『D4』では、プレイヤーが悩んで立ち止まることなどそうそうない。おそらく、チューインガムをふくらませながらでも画面上の指示にちょっと気をつけて操作すれば、半オートマチックで謎が解明され物語が進んでゆくデザインなのだ。一部の難しい部類のパズルにはギブアップも用意されており、ゲームポイントを支払えば先に進めてしまう。前作『Red Seeds Profile』のような難解なゲームプレイを想像しているのなら、『D4』はそれと正反対の作品だと考えてよい。ここまで簡単に進めてしまうと、『D4』とは「遊べる海外ドラマ」を意図してデザインされていることがうかがえる。
高品質なQTE
ほぼクリア率100パーセントのシンプルで簡単な作品に仕上がっているにも関わらず、『D4』のゲームプレイは奇妙な充実感を味あわせてくれる。本作の開発は「感覚再現」というキーワードをメインに進められてきたが、その正体を率直に言うならば、『God of War』や『Heavy Rain』のような「細部までこだわった高品質なQTE」と言うほかない。単に画面上に操作指示を表示するなんちゃってQTEでは無く、タイミングや表示、演出などがしっかりと作り込まれている。
開発者SWERY氏の言葉を借りるなら、本作のQTEにおいて重要なのが「シンボル化」と「なにをするのか理解できる余地」だ。まずシンボル化とは、たとえ実際のアクションが複雑でも、操作までも複雑で難しくしないという考え方だ。例えば扉を開く際には、ノブをひねって押す行為をそのまま操作にするのではなく、左側か右側にカーソルを動かすというシンプルな操作に置き換える。1つ1つの操作をシンプル化することで、連続したQTEでもテンポよく感じることができ、わずらわしさが排除されている。またカットシーンにおけるQTEでは、画面に操作指示が表示されると共にスローモーション演出が入り、プレイヤーが次になにをするのかを映像から確認しつつ操作を入力する余地がある。各QTEにおける画面演出、テンポも派手で、この辺りの押して楽しいゲームは『スペースチャンネル5』のような音楽ダンスゲームに近い感覚を受ける。
ただし本作のQTEすべてが成功しているとは思えない。特にドアを開く、棚を開くといった探索シーンにおけるQTEは、部屋をくまなく調べる際には何度も入力を要求されることになり、どうもわずらわしいように感じられる。たとえば一度開いた扉はQTE操作をなくすなど、探索シーンをよりスムーズ化することができたのではないだろうか。大量のオブジェクトをくまなく探索したいプレイヤーにとって、一部のQTEは障害となっている。これと同様に、本作にはスタミナシステムが存在しており、デイビッドがアクションを起こす度に減少してゆく。探索に没頭しているとこの管理が意外に厳しく、ゲーム中に登場するアイテムやショップ(アマンダ、白猫)で食事をすれば済むのだが、どうもゲームのテンポを害しているように思えた。
奇才SWERYの世界観を楽しめる方舟『D4』
なお本作のPC版は、マウス1つで操作が帰結する操作形体となっており、プレイにわずらわしさは一切感じなかった。本当に海外ドラマを見るように、利き手でマウスを持ちながらソファに座り『D4』を見る、というプレイも可能だろう。
『D4』のプレイを終えると、本作は奇妙で強烈なSWERY氏の世界観を世界に知らしめるため用意された、素敵な“方舟”のように感じられた。一部ゲームのテンポを害する要素があり、『Red Seeds Profile』のようなカルト感も和らいではいるが、誰もが遊んで楽しめる万人向けの作品に仕上がっている。そして最後に付け加えなければならないのは、シーズン1の『D4』は完全なるクリフハンガーで終ってしまうということだ。一人のファンとして、PC版のリリースよって続編の登場が加速することを願うとしよう。