ドイツのインディーデベロッパーSteven Colling氏は、酒場運営とビール醸造のシミュレーションゲーム『Orcish Inn』を開発中だ。本作は昨年10月に正式発表され、Steam Greenlightに登録されたばかりのタイトルである。オークが酒場を営むシュールな構図が受け、国内で紹介された記事が1000リツイート以上を記録したのは記憶に新しい。だが本作の正体は、予想以上に本格的なビール醸造シミュレーションゲームだった。今回は公開されたプレアルファ版から、具体的なゲームプレイを紹介する。
オークがマスターの酒場シミュレーション
『Orcish Inn』の名の通り、本作はオークが酒場を運営するシミュレーションゲームだ。主人公は寡黙なオークであり、来る客もみなオーク、たまにやって来る商人ですらオーク。なぜか登場するキャラクターはオークばかりである。プレイヤーは酒場のマスターとなり、ビールの材料となる作物を育て、モルトやワートを作り出し、ビールを醸造する。できあがったビールをお客たちに振るまい、得た資金で酒場をさらに拡張してゆく。
まずゲームをスタートすると、プレイヤーは酒場のマスターの食事や睡眠を管理しなければならないことに気づくだろう。マスターには、「Satiation(満腹度)」と「Stamina(体力)」の2つのゲージがある。両方のゲージが底をつくとその場で気絶してしまうのか、酒場の運営資金をいくらか失った状態で、ベットの上から目覚めることになる。
まず手っとり早い食事の確保手段として、釣り竿で魚を釣るといいだろう。釣り竿を取り出し、湖へと浮き餌を投げるだけだ。浮きが激しく揺れ始めたら、クリックすることで魚かガラクタを釣り上げることができる。体力はベッドで眠ることで回復できるが、ユニークなのが昼夜によって回復速度が変化する点だ。昼間にベッドで眠るよりも、日が落ちてから夜に眠る方がマスターの体力はすぐに回復する。昼に働き、夜に寝る健常者のライフサイクルが『Orcish Inn』では求められる。昼夜逆転の生活はご法度だ。
農作業と品質クオリティ
魚を釣り、ベッドで眠ることを覚えたら、次は農作業だ。マスターは9個のツールを所持しており、前述した釣り竿はそのなかの1つだ。同じくツールの1つであるショベルは、さまざまなオブジェクトを作ったり、土地を整えたりすることができる。ショベルで農作業用に土地を耕したら、ツールの種ポーチから種を取り出して蒔く。時間が経過するにつれて作物が育つので、鎌を装備して収穫する。
『Orcish Inn』では様々な種類の植物が存在し、それぞれ使用目的が異なれば、成長する環境も違う。たとえば「Barley(大麦)」はビールやパンの材料となり、水分をよく含む土地で成長する。ビールの味に影響を与える「Hop(ホップ)」は、土壌に水分だけでなく、栄養素も必要だ。植物の成長に影響を与える要素は全部で4つ。それぞれ「Wetness(水分)」、「Eutrophy(栄養)」、「Windbreak(防風)」、「Plant Density(密度)」に分別される。プレイヤーは、ツールのバケツで土に水を撒いて水分量を高めたり、畑のそばに石壁を立てて風を防ぐなどして、各植物に適した環境を整えてゆく。
『Orcish Inn』にて重要な要素の1つとなるのが、"アイテムのクオリティレベル"だ。全アイテムには1つ1つに無星から星6個までのクオリティレベルが設定されており、実際に使用した場合の効果やトレードでの売買価格、ビールの完成度などさまざまな箇所に影響を与える。たとえば、無星よりも星6個の木材の方が、かまどにくべた時により長く燃える。ビールの醸造に品質の高い材料を使えば、ハイクオリティなビールを完成させることができる。ゆえに、高品質な作物を育てるために土いじりすることは、本作において非常に重要な仕事の1つなのだ。
大麦とホップを収穫したら、商人のHawkerと会おう。気球でやってくるオーク商人Hawkerは、各種資材やダイナマイト、食料のパンなどをゴールドを支払って購入することができる。彼から「Yeast(イースト菌)」を購入すれば、ビール醸造の準備は整う。
奥の深いビール醸造
ビールの醸造は3つの工程に分類される。「Crops(収穫した作物)」から「Molt(麦芽、以下モルト)」を作り、そのモルトからさらに「Wort(麦汁、以下ウォート)」を作り出す。麦汁とイーストが用意できれば、いよいよビールをクラフトすることができるが、本当のビール醸造が始まるのはここからだ。高品質な材料を使用するのはもちろん、プレイヤーはオークたちの嗜好に添って、さまざまなビールの味付けを試行錯誤しなければならない。
ビールのテイストを大きく決めるのは、モルトを作る際に使用した作物の種類だ。しかしその際に使用した水の量によって「Tint Darkness(色の深み)」が決定し、さらにウォートを作り出す際にも水の量によって「Full Body(濃厚さ)」が決まる。ビールの醸造時には、ポップの量で「Acerbity(酸味)」、イーストの量によって「Alcholic Strength(アルコール度数)」が決定する。ここにさらにフレーバーを付け加えることが可能だ。基本となるテイストと、4種類の味と色の微妙な違い、さらにフレーバーと材料のクオリティが、ビールの味わいを決める。
ゲーム中には「Clan(以下、クラン)」と呼ばれる派閥が存在し、来客するオークたちはそれぞれ異なるクランに所属している。各クランはビールに対して異なる嗜好を持っており、高い政治意識を持つThe Raven Covenantは「Tint Darkness」の度合いが高いビールを、商人クランであるThe Hawkerは「Full Body」の度合いが高いビールを好む。さらにThe Hawkerは、「Belladonnna(ベラドンナ)」のフレーバーをくわえたビールが好きだ。醸造所を拡大して2種類のビールを作るのか、あるいは両者の好みを補うような完璧なビールを生み出すのか、プレイヤーは頭を悩ませることになる。
プリアルファ段階ながらシミュレーションゲームとして確立
ここまで記したビールの醸造が『Orcish Inn』におけるメインの流れとなる。ほかにもプレイヤーは、醸造所を改築してビールの生産量を増加させるほか、酒場の内装を整える必要もある。美味しいビールと綺麗な酒場で来客したオークたちを満足させるのが、『Orcish Inn』における最終目標だ。特定のオーククランの満足度が規定値を達成すると、新たなクランがやってくるようになる。客足が増え、さらに味の嗜好が異なるクランの種類も増加するなかで、どこまで捌き切ることができるのか、酒場のマスターの手腕が問われる。
今回プリアルファビルドをプレイして感じたのは、『牧場物語』や『Minecraft』の飼育・農耕要素をプレイしていた時の感覚だ。土壌管理やビール醸造など、各要素は一見複雑に見えるかもしれない。プリアルファのチュートリアルの時点で、項目が171個もあることにはうんざりするだろう。だが一度覚えてしまえば、ゲームの流れをすぐに理解することができ、親しみやすいチャレンジ要素となる。ビジュアルやアニメーションは決して豪華ではないが、プリアルファの段階でありながら、『Orcish Inn』はすでにシミュレーションゲームとしては確立されているといえる。このほかにも、天候や季節要素、ツールのアップグレードなど、様々な要素が登場する。
なお、個人的に気にいったのは、Shiftキーを押した際のアイテムの大量移動や、Altキーを押した際に画面上のストレージ内のアイテム数を確認できるなど、プリアルファの時点でショートカットキー機能が充実している点だ。開発者のSteven Colling氏は、おおくのシミュレーションゲームをプレイし、簡易操作のできない作品に苛立ってきたに違いない。
シミュレーションジャンルの海外インディーゲームと言えば、昨年の同時期には『Banished』がかなりいい出来だったが、『Orcished Inn』も同じく骨太のシミュレーションゲーム。『Banished』をやり込めたなら本作も気に入るはずだ。『Orcish Inn』は2015年中期のリリースを目指しており、公式サイト上にて今回のプリアルファ版の配信も開始されている。