Steam版『N++』インプレッション ミニマリズム、トランス、ニンジャのメディテーション
『N++』は無料ゲーム『N – The Way of the Ninja』からつづくプラットフォーマー(足場を飛び渡るステージクリア制アクションゲーム)の最新作だ。Steam版は、2015年7月28日に発売したPS4版の忠実な移植である。専用タイトルで、日本発売未定のゲームが他機種に進出し、販路が増えたのはうれしい。両機種でカスタムステージを共有し、コミュニティのコンテンツも喪失していないので安心されたし。
『N++』Steam版
開発: Metanet Software Inc.
発売日: 2016年8月26日
価格: 14.99ドル
プラットフォーム: Windows
シリーズの概要は鍵をとって出口へ向かうプラットフォーマーだ。ロジックパズルはなく、アクション性を追及したつくりである。電流イライラ棒めいたものや、山を飛び谷を越えるもの、といったステージが存分に楽しめる。この点は、Xbox 360/DS/PSPリリースの過去作『N+』で、アクションゲームファンに周知であろう。本稿で始めて知ったゲーマーに向け次章で詳細を記し、終章で本作の見どころを紹介する。
Nは一日にして成らず
本作も過去作と同様、スイッチを押して、開いた出口に飛び込めばステージクリアとなる。5面構成の1エピソードに課せられた制限時間は1分半。地雷やロボット、誘導ミサイル、レーザーなどに触れると死ぬワンミス制。難度は高いがリスタートの回数制限はなく、ステージ開始時まで残り時間が戻るため、気兼ねなく試行錯誤できる。
操作は左右移動とジャンプのみである。『スーパーマリオブラザーズ』同様、助走をつけると慣性がきいて遠くまで飛べる、運動量と重力を意識する昔ながらのジャンプアクションだ。壁や坂を蹴り運動量を上に向けて高く飛び、坂に落下して重力を横の運動量に転換し、左右入力や壁張りつきで運動量を相殺する。このように、入力は簡単で結果は直感的だが、ニンジャの域に達するには理念の体得を要する奥深さがある。
シリーズの魅力は、プレイヤースキルを高めるカリキュラムと、それを存分にいかせる難度だ。練習用ステージだけで125面もある。本番は過去作セレクション500面に加え、新種の敵やトラップが登場する新作が500面と十分なボリュームだ。それらをフラットにレベルデザインした点は特記に値する。庭に麻を植え、それを毎日飛び越す忍者の伝統訓練と同様、確実な上達を約束する。
ステージ中のゴールド配置も憎らしいほど見事だ。練習用ステージでも、全回収を目指せば難度が跳ね上がり、気を引き締めて挑まねばならない。高難度ゲームと名高いシリーズだが、操作レスポンスの不備は一切なく、やりこみに応える仕掛けにあふれている。
時間感覚の喪失、反復、そしてN
本作のゲーム内容は、ステージ数と新種のトラップをのぞけば前作と同じである。変わらぬNがそこにあり、スキルベースのアクションゲームとして完成形のひとつに到達している。だからといって、前作プレイヤーには過ぎ去った魅力だと断ずるのは早計だ。ヴィジュアルとBGMの調整で、プレイフィールは前作から大きく改良された。
まずはディティールを削いだヴィジュアルだ。『N+』では主人公をカメラが追いかけたが、今作は一画面固定となった。背景の模様はなくなり、主人公も“ニンジャ装束”を模したデザインから棒人間に。出口に到達したときのエモーションも、宙返りやガッツポーズはなく1種類。つぎに、BGMを大量に追加したが、メロディが薄いトリップ・トランス・ミニマル系テクノで統一してある。テーマ曲といえるものがない。
もともと少ないケレン味を更に廃した大胆なミニマリズムだ。前作を知っていると初見の印象は悪いが、ステージ難度があがるとプレイフィールにマッチしだす。スキルを駆使する心地よさや、シビアな操作で集中が高まり、交通事故や絶叫マシンのように「時間の流れが遅く感じ」だす。正にそのとき、固定画面で変化がない見栄えと、メロディがないリズムビート、そしてミスプレイの繰り返しが、反復の中の変調に意味を見いだすトランス状態へプレイヤーを誘導する。これが本作で到達した境地だ。
もちろん、上記のコンセプト「反復」の目的は、プラットフォーマーの上達に不可欠な反復練習との合致にある。フラットなレベルデザインをもって上達の実感を保証し、達成感を中毒域に高めた。始めてのゲーマーはもとより、前作プレイヤーならなおのこと、本作を通じてあの体験を得られるだろう。致死トラップをくぐりぬけゴールドを集めるそのとき、瞑想めいた無心に至るあの没頭感―― それこそが、説明書にある「N」、 The Way of the Ninjaである。