もし『P.T.』の続編を待っているのならホラーゲーム『Layers of Fear』は間違いなくプレイすべきだ

2015年8月27日、『Layers of Fear』がSteamにてリリースされた。今月になって突如ティーザー映像が公開された本作は、無名の開発スタジオ「Bloober Team」が手がけていたこともあり、当初はさほど注目を浴びてこなかったが、それは間違いだった。

2015年8月27日、『Layers of Fear』がSteamにてリリースされた。今月になって突如ティーザー映像が公開された本作は、無名の開発スタジオ「Bloober Team」が手がけていたこともあり、当初はさほど注目を浴びていなかった作品と言えるだろう。しかし早期アクセスにて販売されているにも関わらず、本作は間違いなく今年一番チェックすべきホラーゲームの一つだ。少なくとも『P.T.』の続編に恋い焦がれているのなら、購入しても損は無い。

参考記事: 『Layers of Fear』ふと目をそらすと“なにか”が変わる、狂気に囚われた画家の心を覗くホラーアドベンチャーゲーム

『Layers of Fear』は、狂気に陥った「画家」の精神世界を探索してゆく一人称視点のホラーアドベンチャーゲームだ。プレイヤーは画家の屋敷にある真っ白なキャンバ スから狂気の心の世界へと引き込まれてしまう。プレイヤーはさまざまなアイテムやイベントから画家がどうして狂ってしまったのかを知りつつ、無限に変化す る画家の屋敷を進んでゆき、彼の絵を完成させなければならない。

インディーゲームでは星の数ほどの一人称視点ホラーゲームが登場している。その大半は「ゲームエンジンで薄暗い3D環境を構築して操作キャラクターとのっぺらぼうの怪物を入れてみました」みたいな出来だが、『Layers of Fear』は近年稀に見るクオリティの一人称視点ホラーゲームだ。薄気味悪いグラフィック、心臓の奥まで響く重厚なサウンド、派手に動きまわる演出、そのどれもが一級品で、前述の酷い作品群と比較するのはお門違いである。

ただ『Layers of Fear』は単純にクオリティが高いだけでなく、『P.T.』と同じく「アセットを上手く使い回している作品」であることも評価しなければならない。『P.T.』と同様に、『Layers of Fear』では同じような屋敷の廊下や部屋を延々と進むことになる。どこかで見た廊下、どこかで見た部屋。同じ場所から起き上がり、何度もキャンバスがある部屋へと帰ってゆく。プレイヤーは奇妙なループ感を味わうことになるだろう。

それなのに『Layers of Fear』をプレイしていても飽きないのは、一つひとつのトリックや出来事に力が込められており、絶妙なテンポでプレイヤーを怖がらせるためだ。扉から流れ出る血、鳴り響く女性の泣き声、そういった小さな要素がプレイヤーの心を焦らし、ここぞとばかりに演出シーンで跳ね上がらせる。

あるいは同じような空間が続いているからこそ、徐々に狂気に染まっていく屋敷の変化がより際立つのかもしれない。画家の人生の狂気と屋敷の変貌がリンクしてゆく様は、プレイヤーに多大なる興奮と恐怖を与える。

ゲーム自体のデザインを見ていくと、『Layers of Fear』は現時点で“お化け屋敷タイプ”のホラーゲームである。一部パズルを解くような場面はあるものの、プレイヤー側から能動的に行動するような場面は無く、展開や道筋も完全なる1本道だ。そんななか、開発陣はこのゲームの魅力的なメカニックとして、“プレイヤーの視線と状況の変化”を伝えている。これはプレイヤーが視線を動かすと、いつの間にか周囲の状況が変化しているという代物だ。

「後ろを振り返ると……」という構文はホラーでのお決まりの一つだが、これをゲームメカニックとして採用したホラーゲームは今までそれほど無かったように感じる。『Layers of Fear』にはこういった視線の遊びがたくさんあり、プレイヤーを視覚の外から驚かせることが大好きなのだ。

それほど怖くないかもしれないが心拍数が跳ね上がる序盤のシーンを一つだけ伝えよう。プレイヤーが廊下を歩いていると、突然目の前の扉が乾いた音をたてながら開いた。薄暗い闇の向こうからは、誰かが部屋を開いているように見えるが、実際には絵が開いた扉の隙間から見えるだけである。『Layers of Fear』内では、こういった“視線の遊び”が張り巡らされている。

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随所に盛り込まれた”視線の遊び”

幻と消えた『Silent Hills』のティーザーゲーム『P.T.』の後継者を語る作品は数多くあるが、『Layers of Fear』は真の後継者候補の一つとなるだろう。『P.T.』のループ感のあるゲームプレイや例の女性キャラクターなど、『P.T.』を強く印象していることはプレイしているとよくわかる。惜しむらくは、本作がまだ早期アクセス段階のタイトルであるという点だ。ゲームプレイはおよそ1時間程度で終ってしまう。早期アクセス段階を終了するには2か月から3か月ほどがかかる見込みとなっており、今年の冬以降まで完成を待つというのも一つの手だろう。ただ特に目新しいバグも見当たらないため、早期アクセスを気にしないのなら、980円を支払ってまだ未完の画家の精神世界へ飛び込んでしまってもいい。

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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