Daybreak Game Company(以下、Daybreak社)が開発・運営を手がける『Landmark』は、美しい世界に自分の土地を所有し、その中でプレイヤーは想像力の赴くままに建築・造形を楽しめるサンドボックス型MMOである。
『Landmark』はもともとその名を『EverQuest Landmark』とし、世界的大ヒットをおさめたMMORPG『EverQuest(EQ)』シリーズの最新作として開発されていた『EverQuest Next(以下、EQN)』から派生し、建築に特化したゲームとして2014年3月にアルファテスト版が登場。EQの舞台であるノーラス世界の雰囲気をいち早く味わえるとあって、本タイトルは大きな注目を集めた。2014年5月14日にSteam早期アクセスが始まり、現在はクローズドベータテスト中。今年の3月に「2016年春の正式リリース」が発表されたが、ここに至るまでの経緯はDaybreak社の前身Sony Online Entertainment(以下、SOE)が売却されるなど少々複雑である。これについては後述するとして、筆者が個人的に「現時点で最高の建築愛好家向けゲーム」と信じて疑わない『Landmark』の世界を紹介していこう。
なお、本記事は『Landmark』未体験のビギナーを対象としているが、度重なる大型アップデートによりアルファ版からの変更点も多い。しばらくぶりのプレイヤーは復帰に向けて最新バージョンの予習代わりに目を通してもらえれば幸いだ。
ずっと住みたくなる、自分だけの景色を探す旅へ
過去に『Landmark』をプレイ済みのユーザーも、現バージョンでは再度キャラクターメイキングからゲーム開始となる。当初は『EQN』に登場する種族が追加される予定であったが、残念ながら今選べるのはヒューマンの男女のみ。髪型・身長・肌色といった外見のカスタマイズと、3種の武器&洋服セットから1つをチョイスし名前を入力。どれを選んでも性能差や有利不利は一切ない。選ばなかった残り2つの武器も序盤の簡単な素材で作成できる。
キャラクターを作成したら所属ワールド(サーバー)を5つから選択。ワールド間の行き来はいつでも、何度でも自由にできるので友達と違ってしまっても問題ない。各ワールドには25個のLandscapes(旧名称:islands)があり、原則1つのLandscapesに異なる2つのバイオーム(環境)が設定されている。各バイオームは伐採できる木の種類が違う程度だが、何よりも大きな差はその景色だ。自分好みのバイオームを決めたなら、確保できる空き地があるかどうか探しに各Landscapesを訪ねよう。
Desert
Old Growth Forest
Tundra
Tropical
Deciduous Forest
Volcanic
プレイヤーはゲーム開始時からインベントリに「Claim Flag」なるアイテムを所持している。いいなと思ったLandscapesに空き地があれば、そこにFlagを使用し「この土地もらったぁ!」となるわけだ。ただし『Landmark』における土地は有限で、他プレイヤーの土地に近すぎる場所は所有できない。まず最初にMキーで全体マップを開き、空き地があるかどうか確認をしよう。一部では「過疎化で『Landmark』が空き地だらけ」という声も見かけるが、やはりバイオームには人気・不人気があり、見た目が明るく美しいTropicalやOld Growth ForestなどはびっしりFlagで埋まってることが多い。ここで妥協すると後から「やっぱり自分の土地から見える景色が気に入らない……」と引っ越すプレイヤーも実は多いので、根気よくClaim可能なエリアを探すことをおすすめしたい。
『Minecraft』にも『7 Days to Die』にもできないことができる
さて、冒頭で筆者が「現時点で最高の建築愛好家向けゲーム」と大きく出たのには理由がある。ハウジング要素が大好き、生活系コンテンツを愛してやまないゲーマーの多くが作りたいものは「私の考える最高のマイ・スイート・ホーム」なのだ……たぶん。ゲーム内で手に入る家具や装飾品で内装を作りこんだり、もうちょっと自由度の高いゲームであれば”エクセル方眼紙”を使った間取り図から設計するなど、凝り性のプレイヤーにとってハウジング要素は時間を忘れる楽しいオママゴトのようなもの。だがしかし、この欲求を満たしてくれるゲームというのは意外に少ない。
『Minecraft』は言うまでもなくビルダー魂を満足させるタイトルの1つではあるが、あくまでレゴのようなブロックの世界。MODで対応可能な部分も多いが、リアルなグラフィックを求める層には物足りない。ここ最近のアップデートでとみにクラフト系コンテンツを強化してきた『7 Days to Die』はリアルなグラフィックだが、あくまでサバイバルゲームなので作れる家具の種類が少ないのと、そもそも建築要素に美しさ・かわいらしさは求められていないのが残念だ。その他ハウジング要素をもつRPGは星の数ほどあるが、あくまでおまけコンテンツ。その点『Landmark』はもともとが大型MMORPG『EQN』開発のために、クラフト&ビルド要素だけを切り出した巨大な実験場のようなゲームゆえ、美しいグラフィックで、いちから理想のマイホームづくりに着手可能という、ビルダーにとっては夢のような環境が揃っているのだ。
いささか長い前置きになってしまったが、ここからは『Landmark』で土地を手に入れた後できること、作れるものをスクリーンショット中心にお伝えしていきたい。
この世界の最小単位は1×1×1voxels(ボクセル)という立方体。ClaimFlagで土地を手にれると、薄く青い壁に囲まれた525×525×450voxelsという巨大な空間が出現し、プレイヤーはこの空間内であれば、元からある地面も含めて好きなようにオブジェクト制作を楽しめる。
希望の土地を手に入れたらさっそく建築……といきたいところだが、建築するためには資源が必要だ。プレイヤーは最初からピッケルと斧を所持しており、とりあえずはそのあたりの木を片っ端から切り倒し、地表に見えるカラフルな鉱石・宝石を掘って集めればよい。初期の採取道具は、採取可能な範囲が小さく速度も遅いが、これらの道具類も必要素材を集めていけば高機能な上位版を生産できるのでしばしの我慢である。
少しばかり必要な素材を集めたら、いよいよ建築へ。Tabキーで建築用UIに切り替えると画面下部・左端に各種ツールが表示され、このツールと集めてきた土や砂、鉱石、宝石、木材などの素材で物づくりを進めていく。
最初に欲しい素材を選んだあとAddツールを選択し、マウスホイールで任意のボクセル数まで拡大縮小したら左クリックするだけ。画面は7×7×7の四角いブロックだが、球体なども選べる。
青いDeleteツールを選び、消したいブロックをクリック。画面は球体状にしたDeleteツールをブロックの一部にあてて消去し削り取ってカーブにしたところ。球の直径もマウスホイールで拡大縮小可能だ。
範囲選択ツールはボクセルの四隅をドラッグ&ドロップして拡大・縮小でき、建物の壁をつくったり広い範囲で色を塗り替えるといった作業を、一度に行える。慣れないうちはちょっと扱いづらいが、大きなオブジェクトを作る上では欠かせないツールだ。
『Landmark』はこのツールの操作性にややクセがあり、自由自在に使いこなせるようになるには数時間ばかりの練習が必要かもしれないが、マスターしてしまえばここでは紹介しきれないようなテクニックで、建物の細部まで作り込めるようになる。初心者でもいわゆる箱型の“お豆腐ハウス”であれば、ゲームを始めたその日のうちに作れるはずだ。家の外壁が整ったら、次は内装に挑戦してみよう。Propと呼ばれるアイテムはゲーム内に最初から用意されているベッドや机、ケーキやバラの花束といったプレイヤー側では作れない装飾品のこと。Propの生産とデコレーションに手を出し始めると、本当にいくら時間があっても足りないのだ……。
今は亡き『EQN』の冒険部分を垣間見れる地下世界
建築は好きだが、そうはいってもそれだけのゲームでは飽きてしまう。もう少し刺激的なコンテンツが欲しい!と感じたならば、画面左上の青いアイコン「ToggleTravelMenu」を押してみよう。登録済みのフレンドのClaimや、自分のClaimにボタン一つで移動するTravel機能が利用できるのだが「An Underground Adventure」を押すと、自分が今いるLandscapesの地下へテレポート。地表にはない鉱石と宝石を採掘できるほか、モンスターたちがうごめく地下世界を発見できるはずだ。
モンスターを倒すと鉱石などの資源のほか、新しいPropレシピをまれにドロップする。新しいレシピが増えるのがうれしくて、いつしか建築よりも地下世界で過ごす時間が長くなるプレイヤーもいるとか、いないとか。地下を探索していると広大な空洞に行き当たることもあり、神殿のような不思議な建物。あるいは謎の巨大オブジェに遭遇するだろう。これらは過去に行われたコンテストで入賞した、一般ユーザーデザインによるオブジェである。さらに遡れば、こういったゲーム内コンテストで入賞した、質の高い作品をMMORPG『EQN』内に実装する計画が語られたこともあり、ちょっとしんみりした気持ちになる。
大型MMORPGの時代は終わりを告げたのだろうか?
ゲームそのものの紹介からは離れてしまうが、ここで少し『Landmark』を語る上でどうしても欠かせない『EQN』とMMORPGという1つのジャンルについて触れさせてほしい。
先述のとおり『Landmark』はビルド&クラフト要素に重点を置いた1つのゲームとして独立しながらも、SOE(当時)が開発中の『EverQuest Next』の実験場として強く結びついた作品だった。ローンチ当初は『Landmark』内でプレイヤーが制作した家やオブジェクトはユーザー間で取引可能、さらには設計図化し『EQN』に転送・復元できる機能が予定されており、今までにない取り組みは大きな注目を集めていた。
しかし2015年にSOEがソニーから独立し、Daybreak Game Companyへと改名。同年の2月11日には大規模レイオフを発表。その中には単なる開発者の立場を超えて、自身もプレイヤーとしてさまざまな建築テクニックを研究・公開していた人気スタッフDavid Georgeson氏も含まれており、ファンの間では当時「もうこれでLandmarkもEQNも終わりか」という悲観的な空気が流れたことすらあったのだ。独立直後のDaybreak Game社はTwitterなどを通じ「今後もEQNの開発は続けていく、何も変わらない」と発言。実際『Landmark』ではその後も細かなアップデートと修正、時にワールドリセットがかかるような大きな追加要素も実装され続けたため、『Landmark』の存在を通して『EQN』の新情報発表を待ちわびていたMMORPGファンは決して少なくはなかった。
その後の2016年3月11日に同社は『EverQuest』シリーズ最新作となるはずであった『EQN』の開発中止を発表。理由は「求められているクオリティに達することができなかった」としている。結果として『EQN』本編がなくなり、実験場であった『Landmark』がこの春正式リリースを迎えるという逆転した結末を迎えてしまった。
本サイトのお若い読者であれば、MMORPGの開発中止そのものは大して珍しくない話に見えるかもしれない。とくに日本ではブラウザゲームの一大ブームを経て、昨今のソーシャルゲームやスマホで手軽に遊べるアプリに市場が移りつつある中で、国内外を問わず多くのゲームメディアが当時『EQN』の開発中止を伝えたのは、やはり同タイトルの持つブランド力ならではであろう。初代『EverQuest』は『Ultima Online(UO)』や『Asheron’s Call』『Dark Age of Camelot』らと並ぶMMORPG黎明期の押しも押されぬ代表作。『UO』には欠けていた重厚なストーリー性、豊富なクエストを実装することで、言い方は少々悪いが中毒的な面白さを備えたMMO作品だった。
MMORPGというジャンル自体には世界的に注目を集め、かつ現在もサービスを継続している『World of Warcraft』や『Guildwars2』『The Elder Scrolls Online』などの大規模タイトルもあるが、いずれも既にサービス数年目を迎えており新鮮さは失われている(コンテンツとしての魅力は損なわれていないが)。先述のとおりライトなソーシャルゲームに市場の中心が変わりつつあり、大型タイトルの新作発表が少なくなっていく中で「いずれあの『EverQuest』が帰ってくる」という希望が絶たれたことは、本当に衝撃的なニュースだったのだ。
いささか寂しい話になってしまったが、何はともあれ困難を乗り越えて『Landmark』は生き残ったのだ。詳細はいまだ発表されないものの2016年春の正式サービス開始は公式アナウンス済みである。『EQN』がもつファンタジーの香りを強く残す世界で少しの冒険と、たっぷりのビルド&クラフト要素を堪能したいという建築愛好家たちには、ぜひとも『Landmark』に降り立ち、あっと驚くような素敵な作品を生み出してほしい。