『Transistor』 美しさを追究したシミュレーション&アクション
『Transistor』はAmir RaoとGavin Simonの二人組が立ち上げたゲームスタジオSupergiant Gamesによるアクション/シミュレーションRPG。2014年5月20日にSteamにてリリースされた。本体のみ1980円/サントラ付き2960円。『Bastion』の制作元だと聞けばピンとくる人もいるのではないだろうか。
なお、本稿に掲載しているスクリーンショットは、有志による日本語化パッチを適用し撮影したものである。2ちゃんねるの本作のスレッドなどで状況をご確認いただきたい。ちなみに、日本語化作業はGoogleスプレッドシートで管理されている。
受け継がれるこだわり
2014年3月に発表されたPV
筆者はこのPVにすっかり心をつかまれてしまった。とにかく美しい。実際にプレイしてみてさらにこの印象は強くなった。プレイ画面にはじまり、インターフェイス、カットインされるイラスト、音楽。どれをとっても並ならぬこだわりを持って創られていることが強く感じられる。前作『Bastion』でも美しさに対するこだわりは感じられたが、今作はもはや執念にも似たなにかを感じさせる創りこみといっていいほどだ。
インターフェイスは作中の世界観にあわせて動きから作りこまれており、メニュー、戦闘、インタラクション、いずれもSF的かっこよさを追求した素晴らしい表現。イラストの描き込み具合も尋常ではなく、単体で美術として成立しそうなレベルのものが惜しげもなく使用されている。音楽についても、ストーリーにあわせるかたちでボーカル入りの曲が多用されているばかりでなく、ボタンを押している間だけ主人公がBGMにあわせてハミングするなどという粋な機能まである。
総じて「美しさ」に関していえば、文句なしの逸品といえる。
ゲームシステム融合の試み
本作の戦闘システムはアクションとターン制ストラテジーの融合として設計されている。
戦闘が開始されるとマップが戦闘領域としてある程度の広さに区切られ、そのなかで敵と戦う形式だ。全滅させれば戦闘終了。基本はアクションだが、特殊スキル「Turn()」を起動すると時間が一時停止し、Turn()ゲージを消費して移動や攻撃を行えるストラテジーモードに移行する。ストラテジーモード終了後、ゲージが回復している間は基本的には移動しかできなくなってしまうので、使いどころを考える必要がある。
このシステムがジャンルを融合した戦闘システムのひとつの解として、文句なしに成功しているか? といわれると少し疑問が残る。
ベースとなるアクション部分にはプレイヤーのアクションのうまさを反映する余地が少ない。また、システムへの理解が進んでいないうちは回避不能のダメージをうける機会も多い。障害物などをうまく利用することである程度緩和されるが、それでもプレイスキルを実感しづらいのはストレスの原因となるだろう。ただ、ライフがゼロになってもスキルがひとつ使用できなくなるだけで戦闘は継続となるので、さほどシビアではない。使用できなくなったスキルはセーブポイントをいくつか経由することで回復できる。
ストラテジー部分に注目すると、だんだんとこの戦闘システムのキモがわかってくる。スキルはコントローラの4つのボタンにそれぞれ対応しており、さらに各スキルに別のスキルを副機能として組みあわせることができる。普通に使った場合と副機能として使った場合とで効果が変わるスキルもあり、Turn()ゲージの利用をいかに効率化して敵と戦うか、というスキルビルドの面白さがきわだってくる。このビルドの効率化によりアクション部分の立ち回りにも変化があらわれ、ストレスに感じる部分が減り始める構造になっているのだ。
システム全体として見た場合に、やはりアクション部分の重要性が低く、しかもおもにゲージ回復中に逃げまわる際に使われることになる。うまくやればアクションのみで完全勝利できる、といった場面はほとんどなく、どうしてもストラテジー部分主体になってしまいがちだ。逆に、背面取りやスキルの相乗効果など、ストラテジー部分におけるカタルシスは比較的強く、この部分で好みが分かれてくるのではないだろうか。
「リミッター」という、戦闘を意図的に厳しくして獲得経験値が増えるシステムもあるが、経験値でのレベルアップによる強化度合いを戦闘中に実感しづらい。ストーリーを進めるだけならあまり必要ない。周回によるやりこみ要素としても多少パンチが弱い。
カッコよさは"説明必要"かもしれないが
『Transistor』はストーリー面でも特徴的だ。初回起動し、スタート画面からボタンを押してゲームを開始するともう本編。オプションの類はすべてゲーム内メニューだ。昨今これほどホットスタートなゲームもめずらしいのではないだろうか。サイバーパンクめいたSF世界観の中、人気歌手であった主人公Redが、言葉を話す大剣を死体から引き抜くところから物語ははじまる。これはどうやらこういうことらしい、と想像力を働かせながらストーリーを追いかけていくのは気をつかうが、それに応じた物語的快感を得られる。非常によくしゃべる剣と終始無言な主人公の相棒関係はドラマとして見ていて楽しい。また、獲得できるスキルはそれぞれが"元人間"であり、過去のその人物との関係性もドラマ要因として面白い試みである。「カッコいいけどよくわからない」となるか「よくわからないけどカッコいい」と感じられるかが、本作を楽しめる境目になるのではなかろうか。
本作をひとつの作品として評価するとすれば「美術品のような美しい秀作だが、人を選ぶ作品」となる。サイバーパンクSFの世界観やイラスト、音楽などヒットする部分がないと厳しい評価となるかもしれないが、逆に少しでも惹かれるものがあればプレイしてみることをおすすめしたい。