PS4『とってもE麻雀ぷらす』 ― これくらい雑でかまわない
アークシステムワークスによる『とってもE麻雀ぷらす』 は、国内 PlayStation 4 との同時発売タイトルの一つです。いうまでもなくジャンルは麻雀、価格は1500円。マルチプレイはローカル・オンラインともに存在せず、ソロプレイ専 用。なお、『E麻雀』シリーズは PS Vita やアーケード版がリリースされている、れっきとしたアーク IP です。ただし残念ながら 『GUILTY GEAR』や『式神の城』のキャラは登場しません。
なお、PS4ローンチタイトルで麻雀と関連するものとしては『龍が如く 維新!』がありますが、ここでは割愛します。朝の5時からマルチの卓が即座に埋まってびっくりした、とだけ述べさせていただきます。
すべてにおいて雑
このゲームをプレイしたときに真っ先に感じるのは「雑さ」でしょう。パッケージヒロインのうちの一人”朝霧ましろ”がゲーム中では別のイラストレーターの手がける絵になっているという軽い左ジャブが入ったかと思うと、山盛りの「雑さ」が押し寄せてきます。
対局前の投げやりな会話・そこのメッセージスキップで発生する妙なウエイト・(あまり真剣に聞かないとはいえ)さすがに擁護が難しいボイスアクターの演技等々、ゲームすなわち麻雀に入る前から、作品にたいするこだわりと予算のなさがひしひしと伝わってきます。
ただし、これは「荒削り」なる褒め言葉もあるように、一概に悪とは言い切れません。
麻雀として
無論、雑です。非常に気になったのがドラ表示牌まわり。おそらく世にある麻雀ゲームのなかでも指折り数えるほど小さな画像になっており、自宅の50インチテレビをもってしても凝視しなければ判別できませんでした。いったいどのような意図があったのか推測しかねます。
それくらべるとまだマイルドな事柄ではありますが、各種カットインでドラ表示が隠れるのも麻雀ゲームとしていかがなものかといった風情です。配牌時即座にドラを認識できないのがこれほどのストレスとは今まで知りませんでした。
麻雀そのものの部分で致命的だったのは、ルールの不明瞭さ。チャプター1でいきなり赤五4枚というインフレを通り越した斬新さをありきたりな半荘戦 の上に醸しだしたかと思うと、チャプター2では赤五は1枚へ。しかも何の説明もなく東風戦へ変更。赤五の枚数の変化は正確には把握できませんでしたが、と にかく東風戦/半荘戦についてはゲーム開始直後に目視確認する必要があります。画面右上に表示されているのをお忘れなきよう。
ルールのブレはまだあります。ほぼバグ(または開発陣が昨今の麻雀ルールを正しく理解していなかった)と断定していいのは、オーラストップ親の上が り止めがないこと、そしてラス巡に鳴けてしまうこと。たしかにそういったルールもありえなくはありませんが、普通にプレイする分には「妙な挙動だなあ」と いぶかられるだけです。
ほかの細かいところだと、選択牌の河の状況が色分けして表示されるという親切さや、自分の手番までの時間に特定の手牌へフォーカスできるという快適さがある一方、鳴きが入るとカーソル位置がキャンセルされてしまうという不親切があるなど、いろいろと評価に困ります。
なお、ルール面で興味深かったのはダブロン無しの頭ハネであること。「高校のどこかで麻雀打っている」という設定のわりにはややストイックです。
イカサマ麻雀として
大変に凡庸です。古典イカサマ麻雀・脱衣麻雀にあった「能力」をそのまま引用してきています。『とってもE麻雀』ならではのイカサマはほぼありません。
イカサマアイテムはアーケードモード(ストーリーモードに該当)をプレイすることで手に入るポイントを消費し購入する形式なのですが、この帳尻が まったくあっていません。ドラを含む手役を配牌に仕込む系統のものが5000以上(天和のみ5万)の一方で、リーチ一発ツモアイテムや配牌入れ替えアイテ ムは2000。イカサマ麻雀に興味のある方ならば、このアンバランスがご理解いただけるはずです。
イカサマ麻雀といえばアイテム使用もさることながら、キャラ特性も重要な要素です。しかし、本作にそれはおそらく存在しません。速攻キャラ・ドラ爆キャラ・鉄壁キャラ・役満キャラ……。そんなものはありません。
プレイヤー以外の AI のルーチンはきわめて没個性的で(というより個性を感じることができない)、どのチャプターでも全員が同じような打ち方をしてきます。おどろくべきことに、オヒキのモブキャラ”女子学生”と”男子学生”まで同様です。
牌交換をして一色手を目指したとき妙に手が進まなくなるといったイカサマ麻雀ではありがちなツモをのぞき、本作の「イカサマ」は一発ツモアイテムと牌交換、そして後述の天和積み込みアイテムにのみ集約されています。
評価に値する点として、一発ツモアイテムの効果が確約されていないことがあげられます。山にない場合、つまり河だけでなく他家の手牌の中にもあり枯 れている場合には一発ツモが発動しません。そして、それでも手牌の中にある場合は放銃してくることがあります。妙なところで誠実な動作です。また、一発ツ モはあくまでも自巡が回ってくるのが条件であり、他家の事情次第では封殺されることすらあります。これはイカサマ麻雀として新鮮さを感じるところです。
力強い水増し
この手のゲームにたいして指摘するのも酷な話ですが、一応念のため指摘しておくと水増し感が強くあります。
6キャラそれぞれ5チャプター、トータルで30。山なし谷なしオチなしな寸劇をこなし、CERO と各種倫理を尊重した寸止めグラフィックスを拝見してゆく。本作においてこの工程が楽しいかといわれると難しいところです。
というのも、前述のとおりキャラクターそれぞれの麻雀にまったく個性がないからです。なにかしら打ち筋に特徴があるのならば、5つのチャプターをこ なすごとに次の新鮮さが待ち受けていたかもしれません。がしかし、残念ながらそれは『とってもE麻雀』の範疇ではなかったのです。
また、チャプターごとのクリアルールも単調で、結局のところすべての面について「イカサマアイテムを駆使して他家を箱下にして終わり」で説明できてしまいます。イカサマ麻雀愛好家が好む、イカサマ vs. イカサマの熱気などはありません。
めずらしく、良くいえば鳴き主体の、悪くいえば覚えたての中学生みたいな闘牌は、その並列化された AI の動作とあいまって本作の水増し感を強化しています。
それでも麻雀なら面白い
本作は1500円支払うに値するのかと問われると答に窮します。しかし、そんなゲームは山ほどあります。
それに、少なくとも私は『とってもE麻雀ぷらす』を1500円分は楽しみました。「麻雀どころか麻雀牌さえ扱っていれば何でも面白くなる」というだけかもしれませんが、それでも楽しんだという事実はゆるぎません。
重要なのは、これくらい雑なゲームが PS4 というコンシューマゲーム機の次世代を担うハードでローンチタイトルとしてリリースされたこと。大作至上主義はゲームを殺す最大の癌です。コンパクトで簡 素で雑なものが脇を固めていて何の問題がありましょうか。発売日直前の Like数が1桁だったこと、発売後の今でもキャラ紹介が「Coming Soon…」のままなこと、いずれも瑣末な事柄にすぎません。
『とってもE麻雀ぷらす』が2月22日発売されたという事実。それを受容する寛容の器が今、求められています。
遅くなりましたが、発売前に公開されていたティーザートレイラーをごらんください。
背筋の凍る嘘関西弁が光ります。
攻略 (以下購入者向けTips)
問題はチャプター5です。対面に6万点差をつけて、かつ箱下にくだすのが条件です。
一発ツモアイテムと牌交換アイテムを通常通りに駆使すればいつかはクリアできるかと思われますが、最も試行回数を減らせると考えられるのは天和積み込みイカサマの利用です。一撃で殺しきれる可能性が高いうえ、ポイント差条件を間違いなく満たすことができます。
購入に5万ポイントかかるので軽々には使えません。しかしポイントはチャプター5の半荘戦をひたすら速く(つまり場を流すことを主眼に)プレイすれば2,3回で貯まるはずです。
このイカサマはあくまでも天和であり、自分が親のときに使わねばなりません。つまり、自親が回ってきた段階で対面の点数を1万6000以下まで削る必要があります。ここで注意しなければならないのが、上家・下家の箱割れです。
そこで、親番が回ってくるまでなるべく場を平らにしておき、かつ対面だけをできるかぎり(いっそ100点でもかまわないので)へこませておく必要が あります。AI 同士で勝手に炎上して振り込みあうシチュエーションが散見される本作においては、大きく点棒を失っているモブ学生にたいしては意図的に差し込むのも戦略の 一つです。
親番が回ってきて、対面の点棒が1万6000を割っていた場合。決め台詞とともに天和アイテムで消し炭にしてあげましょう。ちなみに私が友達とプレイしていた際に口をついて出てきたのは「死ね! 虫けらのように!」でした。