『Thinking with Time Machine』 Greenlitも納得、貫禄のファンメイドMOD
『Thinking with Time Machine』(以下『TwTM』)は知らぬ者などいるはずのない名作パズル『Portal 2』の MOD です。熱心なファンにより創りあげられたもので、インディー・自主制作界隈でもおなじみ Mod DB にて公開されていました。
一番古いコメントのタイムスタンプは2013年2月。直後に開発者 Stridemann 氏によりつけられたコメントからは「2年もかかった……浮き沈みがあった……塞ぎこむこともあればインスピレーションをえることも……何度開発を投げ出そうとしたか……だがこの奇跡を完遂するための欲求が勝ったんだ。」と苦労がにじみ出ています。
『Portal 2』の発売日は2011年4月ごろ。Stridermann 氏の発言を額面通りに受けとれば、リリースまもなく着手したということになります。さすがに人生2年間をすべてささげたというわけではないでしょうが、それでも並々ならぬ執念を感じるところです。
『Portal 2』のファンメイド MOD そのものは少なくなく、国内の有志によりまとめられたサイト PORTAL2 MOD では、多くの作品が紹介されています。そのなかにはたんなるカスタムマップにとどまらず、新規のフィーチャーを用意しているものも多数あります。
そんななか『TwTM』が Steam Greenlight を通過し、プレイ無料の事実上の拡張パックとして Steam でリリースされた理由。それは、ゲームの発想と『Portal 2』のゲームシステムとのマッチング、そして味のある空気感にあります。
「これしかない」切り出し方と展開
『TwTM』は『Portal 2』の後日譚(もちろん非公式)という立ち位置です。本編をクリア済みの方ならば、起動直後から「そうきたか! いやこれしかないな」と納得せざるをえません。まずこの冒頭部の発想だけでも評価に値します。
ストーリーはあってなきがごとしではあるのですが、ごく一部で登場する「とあるキャラクター」のセリフは本作を説明するにあたり充分であり、むしろ説明過多により既存のファンが違和感をいだくことを回避しています。また、当然ではありますが本編の魅力の1つであったボイスアクターらによる”感情豊か”なかけあいはほぼありません。そこをキャラクターのすべてが AI であるということを逆手にとりロボットボイスで説得力を出すという手法をとっています。単純でありながらじつに有効です。
若干厳し目の味付けと適切な発想
『Portal 2』はパズルゲームではありますが、もともとが Source Engine だけにアクション要素を前面に押し出すことも可能です。本家でのCo-op プレイはその傾向があり、ほんのわずかにシビアな操作が要求されることもありました。
『TwTM』は純パズルというよりは、どちらかといえば若干のアクション要素が含まれています。とはいえ、FPS ファンからすれば児戯にも等しいレベルではあります。しかし、その繊細なスパイスがパズルの思考にからみつき、ほどよく難度を上げています。これは成功です。
本作のキモであるタイムマシン要素について軽く解説。Rキーで「レコード開始」、Qキーで「レコード停止」、Fキーで「再生」です。記録された動作は任意のタイミングで再生可能で、これにより本家『Portal 2』ではありえなかった状況を打破することができます。タイムマシンと銘打たれていますが、実質的な動作のイメージとしては「空間に生成されて動き回る3Dプリンター」といったところでしょうか。
発想としては世界初というわけではなく、国内のタイトルではPSP『己の信ずる道を征け』あたりがすぐに思い浮かびますが、それを『Portal 2』でやったことこそが『TwTM』の価値であり、コロンブスの卵なのです。
あくまでもタイムマシンを重視したレベルデザイン
『TwTM』が「2人プレイを1人でやるものか?」というと、完全にノーです。本作はそのようなものではありません。実際に『Portal 2』の協力プレイモードをすませた方ならば一目瞭然。『TwTM』はあくまでも、同作における「タイムマシン」を活用するパズルゲームです。
本家『Portal 2』にはじつのところポータルガン以外にたくさんのギミックがありました。しかし『TwTM』ではその多くが切り捨てられており、ポータルガンですら立ち位置は二次的。あくまでも主役はタイムマシンなのです。
もちろんポータルガンが活躍するシーンはありますし、それは後半になれば顕著にはなります。しかし、そもそもほぼ完成されたパズルゲームに新規の要素を追加する以上、なんらかの取捨選択をしなければ理不尽の沼に足を突っ込んでいたことでしょう。ひたすらに難しいだけな、本家クリア者向けのエンドコンテンツ(悪しざまにいえば「俺の考えたこの難しいレベルデザインをクリアしてくれたまえ」なスタンス)ではなく、製作者の提案するフィーチャーをプレイヤーに楽しませようというギリギリの舵取りが見え隠れします。好印象です。
やや不足の説明と調整、そしてボリューム
まず、ゲームの中枢にかんする説明不足について。序盤に入念な導入があるものの、それでも不足しています。タイムマシンの挙動について若干不明瞭な部分があるのです。具体的には「ポータルを開けた後にタイムマシンを起動するとポータルがキャンセルされる」こと。これはパズルの根幹に影響する部分でありながら、(おそらく)プレイの過程で学習するしかありません。なんでもかんでもチュートリアルを導入しろというわけではありませんが、少々釈然としないところです。
そのようなメタなルールについては「パズルゲームなんだから頭を使え」で片付けるにしても、ジャンプアクションやインタラクトで判定が厳しいことがあるのは擁護しづらいものがあります。「シビアなタイミング」なのではなく、「正解かそうでないのかわからない」を何回か誘発しました。これも残念なところです。ちなみに、いわゆる”詰み”状態(チェックポイントからリスタートするしかない)も1か所だけ遭遇しました。
プレイ無料の MOD ですから、ボリュームについてはその短さにケチをつけるほうが野暮というもの。しかし、どちらかというと短いことよりも水増しのほうが気になりました。何度も使いまわされる”肩車”要素や、ほとんど同じ作業を数度要求することなど、「どうせやるなら一回こっきりのネタにすればいいのに」と感じざるをえない部分がいくつかありました。
洗練された MOD の事例として
上述のとおり、『TwTM』には欠点・突っ込みどころも多々あります。しかし、ファンが創り手となり、作品に特徴を付与しあらたな楽しみを生みだすという意味ではまさしく MOD 文化的であり、賞賛に値します。
攻略等を見ずにぶっ続けでプレイすること3時間あまり。ボイスチャットで絶叫しつつ挑んだひとときは、『Portal 2』の魅力とポテンシャル、そしてファンの熱気あるいは狂気を存分に感じさせてくれました。
本編をプレイ済みならば、『TwTM』に挑戦しない理由はありません。荒削りながらも、無料(”基本無料”ではなく本当に無料)の追加コンテンツとしてとらえれば規格外です。