『The Last Federation』 宇宙SFドラマシミュレーター
『The Last Federation』はユニークなゲームです。「外交ストラテジー」と、「ターンベース弾幕シューティング」の融合に挑戦しました。その挑戦は不出来なユーザーインタフェース(UI)と演出不足により完全に成功したとはいえないものの、高いリプレイ性とフレキシブルな難易度を持つシングルプレイはSFファン・ストラテジーファンの期待にこたえるでしょう。Steamでの定価は19.99ドル。
舞台は各惑星にそれぞれ違う異星人が住む星系。プレイヤーは先進種族ハイドラルの最後の生き残りとなり、これから宇宙進出する異星人同士の全面戦争をさけるべく「宇宙連邦」の設立をめざします。
このゲームは大きく2つのパートに分かれます。「外交ストラテジー」パートは、プレイヤーはAIが操作する異星人の国家に小さな影響をあたえ、国家全体におよぶ連鎖反応をおこします。これは民主主義シミュレーション『Democracy 3』、地球環境シミュレーション『Fate of the World』と似たシステムです。「風が吹けばおけ屋がもうかる」のことわざでたとえると、おけ屋をもうけさせるようにうまく風を吹きつけるゲームといえるでしょう。このゲーム力学は「バタフライ効果システム」として公式に紹介されています。
戦闘が発生すると「ターンベース弾幕シューティング」パートになります。トップダウンビューの全方位シューティングゲームのような見た目ですが、リアルタイムではなくターンベースです。『Flotilla』や『Frozen Synapse』のように、1ターンの行動を入力し、ターンを同時解決します。時間がかかるように思えますが、プレイヤーは1隻の戦艦を操作するだけなので、マウスクリックタイプのアクションゲームと同じようなテンポでプレイできます。正確無比な操作で敵の攻撃をいなす、いわば「Tool-Assisted Superplay」を内包することで、神がかり的なプレイングを達成した快感の一部を手軽に味わうことができます。
それら2つのパートにより、異星人国家への外交力をしめす発言力(ゲーム中はCredit)と各国家からの信頼度(ゲーム中はInfluence)を獲得し、そうして国家同士の友好度が変化します。そして、その間に他の国家はそれぞれの思わくで行動します。宇宙連邦の設立には大量の発言力と影響力、宇宙連邦に参入する国家の友好度が必要となりますが、時間がたつごとにあたらしい技術が研究可能となり各国のパワーバランスが大きくずれていきます。多くの異星人国家を宇宙連邦に参入させたいのであれば、バタフライ効果システムを意識して、小さな手数で大きな結果を生みだし、あらゆる国家に干渉しなくてはいけません。
信頼度、発言力、そして時間とのトレードオフを意識しながら国家間のパワーバランスをとるのが、このゲームの醍醐味です。
主役は異星人
異星人国家の機嫌をとりつつ、それらの友好関係をとりなすゲームですから、プレイヤーの注目はおのずと異星人国家に集まります。その異星人国家には、他のシミュレーションゲームにはない特徴的な要素が導入されています。それは「政治体制」です。
政治体制は国家ごとに違います。その相違により国家へのアプローチ方法が変化します。議会制国家は与党のみが政策を実施できるため、野党の政策を採用したければ野党を第一党にのしあがらせなければいけません。武将が支配する封建国家では政界のライバルとなる武将を決闘で殺害し機嫌をえなければいけません。これら政治体制の違いが異星人にキャラクター性をあたえています。
また、政治体制はAIルーチンにも影響をあたえます。上院議員の派閥、女王の機嫌といった政界の情勢により、AIルーチンは税金の配分や建てる施設を決定し、それが早すぎる侵略や無防備な惑星を生み出します。これもまた、異星人のキャラクター性を印象強くしています。
国家シミュレーションゲームの様々な変数を「異星人」として擬人化することで、ただのAIから主役キャラクターへと昇華させた結果、意外なゲーム体験が生まれました。それらAIたちにプレイヤーの対戦相手をさせるのではなく、『ガンパレードマーチ』の学校パートのような即興劇をさせることで、個性的な異星人国家の権力闘争・領土問題が複雑に入り組んだ宇宙SFドラマをプロシージャルに(半自動的に)生成したのです。
プレイ内容に応じて様々な模様を見せる物語が、このゲームの魅力です。
UIと演出の問題
「宇宙SFドラマのプロシージャル生成」というユニークな魅力を持つゲームですが、残念ながら誰にでも楽しめるような作りではありませんでした。ゲームを理解するためのとっかかりが欠けていたのです。
まずはゲームシステムを説明しないUIです。異星人国家へ狙った影響をあたえるために様々な変数の連鎖反応を意識しなくてはいけませんが、その変数の関係をしめす関連図が存在しないのです。私も、初プレイ時は、軍備がたりず国が滅びるときにどうプレイすれば事態が改善するのかすら分からず、フラストレーションしか感じませんでした。これは、なんらかのチュートリアルがあれば解決できたことです。先にあげたゲームの醍醐味である「国家間のパワーバランスをとる」ために、すべてのプレイヤーに変数の関連を調べるトライアンドエラーを強いるのは、不親切と評さざるをえないのではないでしょうか。
次に、宇宙パートでおこるイベントに画像表示の不在問題。これにより、各イベントがどのような内容なのか直感的には想像しづらいものとなっています。
国家が開発できる未来技術に対して一切説明がないのも減点要素です。「グルーオンコンピュータ」、「スペースエレベーター」、「フォトンメカニクス」といった技術を名前だけで想像しなくてはいけません。
エンディングの淡泊さもほめられたものではありません。ゲームクリア時の各国情勢タイムラインをしめすリザルト画面すらなく、宇宙連邦への加入国数による変化もほぼない数十行のコメントを読むだけでゲーム終了となります。エンディングに用意されたボーカル曲はからはアンバランスさがにじみでます。徒労感をおぼえるのは筆者だけではないでしょう。
これら深刻な演出不足と不出来なUIにより、かわりばえのない宇宙マップをながめること――たとえるなら写真がない新聞をななめ読みし、新聞の株価ページのような数字の羅列から現実を感じとったような気になるだけに時間をついやすがごとき所業――を強制されます。「慣れれば楽しめる」かもしれませんが、ゲームシステムだけで勝負できると考えたメーカーの甘えがこのゲームが持っていたポテンシャルをつぶしてしまったといえるでしょう。
本質的な出来は良く、将来性もある
開発側の妥協がこのゲームにつけた傷は大きいものの、その傷をみないことにすれば外交ストラテジー、ターンベース弾幕シューティング、そして個性豊かな異星人と、ユニークで新しいゲーム体験を楽しめます。リリース直後からバグフィクス・バランス調整・新要素追加といった更新が頻繁におこなわれており、UIの改良も少しずつですが導入されています。このまま順調に更新が続けばそ大きな傷が小さくなるかもしれません。
実際に、5月19日にリリースされたVer1.020では国家を構成する変数の一部に他変数への作用が表示されるようになりました。また同日、拡張第1弾『Betrayed Hope』の今夏リリースを告知し、その記事に上述のような改善を続けるとありました。
このゲームは高い理想をかかげるほど面白さが増し、厳しい現実の前に直面し妥協する喪失感が味わえます。クリアするだけなら、外交しやすい国を優遇し、邪魔な国家を徹底的に攻撃して発言力を稼ぎ、宇宙連邦を設立した後は残りの国家をすべて滅ぼせばよいでしょう。しかし、すべての種族を宇宙連邦に加入させるという高い理想を持ってしまったなら、正義のヒーローを気取って気に入らない国をぶん殴り、取り巻きの賞賛を得る手法は使えません。
バタフライ効果システムに翻弄され、国家間の制御を失ってしまったそのとき、かかげた理想を馬鹿げた理想と割り切りるか、1種類でも多くの種族を救うべく混乱に身を投じるか。宇宙ステーション大使館で国家間の謀略が渦巻くテレビドラマ『Babylon 5』など、宇宙SFドラマの主人公になった気持ちで理想と妥協を楽しんでください。