『Skyward Collapse』 「出来レース神話」の妙味
『Skyward Collapse』はプレイヤーが神となり、フィールドに手をくわえることで人々をあやつる、いわゆるゴッドゲームです。プラットフォームはPC(Windows・Mac・Linux)、定価は5ドル。ゴッドゲームの代表作『Populous』の生みの親、ピーター・モリニューが開発を手がける『Godus』とくらべ、注目度は天と地の差ほどひらいていますが、その内容は肩をならべるに値します。
本作のキャッチコピーは「ターンベースストラテジックゴッドゲーム」。ひらたくいえば、神の視点で戦争を管理するゲームです。ちなみにギリシャ・北欧・日本(ダウンロードコンテンツ)の神話をモチーフとしていますので、世界観になじめる日本人ゲーマーも多いことでしょう。その北欧神話で語られる神々の戦争「ラグナロク」をつくりだすのがゲーム目標となります。
"完璧"な戦争
舞台は天空に浮かぶ小さな島。プレイヤーは造物主となりターンベースでフィールドを操作し、2つの国を戦争させます。ユニットが死ぬ、または施設を破壊すると得点となり、規定ターン内に目標点を達成すればゲームクリアです。
しかし、プレイヤーは「ユニットを操作できません」。ユニットは視界内の敵を盲目的に攻撃します。4Xストラテジーに例えると、いわゆる4つ目のX「殲滅」が自動処理されるようなものです。よって、プレイヤーは残り3つのX「探索」「入植」「拡張」を操作し、間接的に戦争へ介与することになります。
特徴的なのは、プレイヤーがその2つの国をどちらも操作すること。つまりは、この神々の闘いは出来レースなのです。どちらか1国が滅亡するとゲームに敗退するため、ときには手心をくわえ、パワーバランスをたもちつつ、それでいながら目標点に達するよう適度に殺しあわせます。これは、4Xストラテジーの手法を用いて完璧な戦争をデザインするソリティアとでもよぶべき、一風変わったルールです。
神の摂理を乱すトリックスター
当然、すべてが予定調和であればなにもドラマは生まれないでしょう。しかし神話には状況をかきみだす「トリックスター」の存在がつきものです。本作でも、彼らの手により舞台が混乱させられ、予想を裏切るドラマティックな物語が展開されます。その舞台とは、プレイヤーが制御するパワーバランスそのものです。規定ターンごとにおきる様々なランダムイベント、ゲームが進むごとに追加される「神」の効果により、混沌は加速します。
それにより、先にあげた「完璧な戦争のデザイン」は早々にくずれさります。まさにタイトルどおり、天空の崩壊(Skyward Collapse)です。やがてはゲームに負けないよう、劣勢の国は新しい村を逃げるようにつくりつづけることとなるでしょう。規定ターンまでに目標点を達成できないなら、さらなる混沌をまねくことになっても大量得点を獲得しなければなりません。たとえば、神を殺してでも。
最終ターンを終えたすえには、最善策をとりつづけた果ての達成感と、ラグナロクをよしとする造物主の満足感があります。もしかすると、現存する神話もこのように生まれたのかもしれません。えてして物語というのは過剰に平和な世界からは生まれづらいものです。
新しいことが良いとはかぎらないが、その道のマニアには触ってほしい
リソースの因果関係が分かりづらいユーザーインタフェース。「神殺し」を達成しても物語として一枚イラストすら表示しないという演出のとぼしさ。大地をつくるゲームにしては視認性が低いフィールドなど。視覚的な欠陥がゲームに傷をつけていますが、それでも、唯一無二のプレイ体験が損なわれるほどの欠点ではありません。
プレイ体験を一言であらわすと「新しい」です。
4Xストラテジーとしてみれば、1人で2国を操作することでパワーバランスを制御するという遊びかたに心をひかれます。前例はそれほどないでしょう。そしてゴッドゲームとしてみても、一方的に滅ぼすだけではなく、また繁栄させるだけでもなく、その間にある混沌状態を楽しむという、これまた前例のないであろう遊びかたを提示できています。『Skyward Collapse』は、4Xストラテジーを、そしてゴッドゲームを語るに外せないエポックメイキングな作品である――筆者はそう考えています。
本作は、従来の4Xストラテジー、従来のゴッドゲームに食傷気味なゲームマニアへのラブレターとなりえます。いささか悪筆で読みづらいものの、そこに記された「物語」は、ジャンルのファン、そして神話世界が好きなゲーマーの琴線にふれることでしょう。完璧なゲームとはいえませんが、『Populous』を最新ゲーム技術でリメイクした『Godus』に引けをとらない輝きがあります。