ボードゲーム『Quantum』 戦略を尽くし運をつかむ サイコロ宇宙4Xストラテジー

ボードゲーム『Quantum』は4Xストラテジーを正6面体に凝縮した宇宙制覇ゲームだ。デザイナーはゲームデザインの専門書「ルールズ・オブ・プレイ」をKatie Salen氏と共著したEric Zimmerman氏。筆者が入手したのは2014年初頭であり、弊誌年末特集のTOP3ゲームにビデオゲームというくくりがなければ、そのひとつに加えている。本作の魅力は4X要素の探索を"可能性の探索"とし、ダイスゲームの醍醐味をゲーム設計で確約した点にある。

quantum03

スポンサーリンク

Quantum
デザイナー: Eric Zimmerman
販売: Fun Forge
発売日: 2013年10月24日
対象年齢: 13歳以上
ゲーム時間: 30分(2人)~90分(4人。熟練すれば60分)
定価: 45ユーロ。

日本未発売。一部ボードゲームショップにて輸入品あり。Amazon.comで個人輸入可能。

 

 

コンポーネント一覧。
コンポーネント一覧。

4Xストラテジーは国家の成長を題材にしたゲームだ。未開の地を"探索"し、新たな土地に入植することで領地を"拡張"し、領地の資源で施設や研究を"開発"し、他国を"殲滅"する行程で、国家は成長していく。代表作をあげるとすれば『Sid Meier's Civilization』シリーズだろう。だが、このゲームジャンルはビデオゲーム特有のものではない。上記をモチーフにした「シドマイヤーズ シヴィライゼーション ボードゲーム」をはじめ、ボードゲームでも数多い。また、スペースオペラを愛する方であれば、宇宙を舞台にした4Xストラテジー「Eclipse」をあげるだろう。例にあげたそれらのゲームと比べ、本作の、コマ・ボード・カード種類の少なさは特記に値する。単純なルールの相乗作用で豊かなプレイ体験となるようゲーム設計に工夫がほどこされているのだ。

 

その工夫は功を成し、アメリカで開催されたインディーゲームの祭典「IndieCade 2012」でゲームデザイン賞を受賞(当時のタイトルは『Armada D6』)するなど、発売前からゲーム設計で注目をあつめてきた。ボードゲーム情報ポータルサイトBoardGameGeekから飛べる複数のレビューサイトでも、ゲーム設計が好評だ。

 

外寸。奥行き、幅ともに305mm。新書サイズの漫画単行本4冊より少々大きい。 高さ76mm。厚めの漫画単行本4冊分。
外寸。奥行き、幅ともに305mm。新書サイズの漫画単行本4冊より少々大きい。高さ76mm。厚めの漫画単行本4冊分。

 


サイコロがうみだすゲームコンセプト

 

ストーリーはゲームコンセプトに説得力をもたせる要素のひとつだ。後記するゲームルールの理解をうながすのに役立つと考え、ここにかいつまんで紹介する。なお、ストーリー全文は公式サイトのルールブック、またはBoardGameGeekに投稿されたファンメイドの日本語版ルールブックを読まれたし。

 

quantum14

"物質を変貌させるQuantum D6の開発に成功した人類は、その量子装置が必要とするエネルギー確保戦争で地球を破壊した。生き残った人類は方々の恒星へ進出し、やがて4つの国家となり緊張が高まった。和平交渉は失敗し、量子装置を用いた艦隊による恒星間戦争へと突入した。"

 

コンセプトは惑星・艦隊・量子装置だ。5つの惑星にクォンタムキューブ(以降キューブ)を建設すればゲームに勝利する。キューブは惑星を艦隊で包囲して建設する。ゲームの焦点は艦隊を駆使したキューブの建設・妨害である。量子装置でスカウト艇から宇宙要塞へ即座に変貌する艦隊をダイスで体現したことで、本作の見栄えは風変わりなものになった。先にあげた写真にある盤上のダイスは、すべて宇宙艦隊なのだ。ダイス目の1は宇宙要塞。ダイス目の6はスカウト艇。など、ダイス目は移動力・戦闘力をあらわすほか、テレポートや輸送など艦種固有の特殊能力をしめす。

 

ダイス目1は宇宙要塞。1マスしか移動できないが、最強の戦闘力を誇る。特殊能力は「追加攻撃」。全艦種で唯一、1ターンに2回攻撃できる。 ミニチュアとくらべ見た目でイメージしにくいが、プレイすると、徐々にこれが宇宙要塞に見えてくる。
ダイス目1は宇宙要塞。1マスしか移動できないが、最強の戦闘力を誇る。特殊能力は「追加攻撃」。全艦種で唯一、1ターンに2回攻撃できる。ミニチュアとくらべ見た目でイメージしにくいが、プレイすると、徐々にこれが宇宙要塞に見えてくる。

 

3人以上のボードゲームで気になるゲーム脱落の有無についても紹介しておく。本作はライバルへの妨害を艦隊の破壊のみとし、ライバルのキューブを破壊できなくした。勝利ポイントを加算のみにすることで著しいポイント差をふせぎ、全員に勝利の可能性をもたらしている。また、キューブの建設が早い者勝ちという明快なものになり、移動力で敵艦隊をあざむくか、戦闘力で敵艦隊をとりのぞくか、という駆け引きをうみだした。ライバルの脱落がなく参加者の戦力が空き惑星にあつまりやすい設計で、ゲームがすすむごとに奥深くなる戦略を味わえる。

 


4Xストラテジーを内包したルール

 

本作は4X要素をルールに内包している。4X要素の利点は、各要素が連動して有利な状況をもたらすところにある。拡張は開発を有利にし、開発は殲滅を有利にする。といった具合だ。プレイングの焦点が段階的にすすむため、プレイヤーがゲーム展開を学ぶのにも役立つ。本章ではルールに内包された4X要素を要約して紹介する。

 

4人用の開始位置。
4人用の開始位置。
  • ゲーム開始
    ゲームにもちいるマップパネルを配置する。マップはすべて開示しておりゲーム中に変動しない。
    ダイスを3つ振り、それを艦隊ダイスとする。艦隊を自分の惑星の四方に配置する。
    ターンは手番交代制で、3アクションで終了となる。
  • 艦隊の移動
    ダイス目が移動力となる。移動に1アクション消費する。
    また、各艦隊は1ターンに1回、艦種に応じた特殊能力を使用できる。
    これはアクションを消費しない。
惑星四方にある 	緑の合計が8。
惑星四方にある緑の合計が8。
  • キューブの建設
    惑星四方にある自分の艦隊の合計移動力が、その惑星レベルと一致すればキューブを建設できる。
    キューブの建設には2アクション消費する。自分のキューブがすでにある惑星には建設できない。
    キューブを規定数の惑星に建設した時点でゲームに勝利する。
  • 技術の研究
    キューブを建設、または1アクションで研究点を加算し規定点に達するごとに、進歩カードを1枚入手する。進歩カードは、戦闘力の強化やキューブ建設の支援、艦隊保持数の増加など、永続的な効果をもたらす。
進歩カード。その効果はゲームのルールをくつがえす。
進歩カード。その効果はゲームのルールをくつがえす。

 

  • 戦闘
    艦隊を移動させ、相手の艦隊と同じマスに入ると発生する。
    戦闘ダイスを振りあい、艦隊ダイスと出目を足す。その数が同数以下なら攻撃側の勝利となり、相手は艦隊を失う。
    艦隊を破壊すると制覇点を得る。規定点に達成すると即座にキューブを好きな惑星に無条件で建設できる。
     
    緑の駆逐艦(ダイス目3)が3マス移動し、赤のフリゲート艦(ダイス目4)に攻撃。 	攻撃側の黒ダイスと、防御側の白ダイスはともに出目2。赤は艦隊を破壊された。
    緑の駆逐艦(ダイス目3)が3マス移動し、赤のフリゲート艦(ダイス目4)に攻撃。攻撃側の黒ダイスと、防御側の白ダイスはともに出目2。赤は艦隊を破壊された。

 

上記が、艦隊再建など細かいルールを省いた要約だ。艦隊の移動と特殊能力はゲームを進める手法にあたるので別として、その他のルールは4X要素そのものといえる。キューブの建設は"拡張"、技術の研究は"開発"、戦闘は"殲滅"にあたる。キューブを建設して研究カードを入手し、以降のキューブの建設や戦闘を強化するあたりは、本章冒頭に説明した4Xストラテジーの展開と同じだ。残りの"探索"だが、ほかの要素とは一線を画している。マップを探索するのではなく、艦隊ダイスを振り直すことで新たな選択肢を得るのだ。

 

写真手前はプレイングボード(筆者が和訳したコピー紙版)。半分以上が手番の処理や、艦の特殊能力といったマニュアルの要約だ。 各プレイヤーごとに別のイラストが記されており、雰囲気作りに役立っている。
写真手前はプレイングボード(筆者が和訳したコピー紙版)。半分以上が手番の処理や、艦の特殊能力といったマニュアルの要約だ。各プレイヤーごとに別のイラストが記されており、雰囲気作りに役立っている。

 


可能性を探索する

 

本作の探索要素は1アクション消費の艦隊ダイス振り直しにある。これが現状を打開する新たな選択肢をもたらす。探索要素をマップではなく艦隊にしたことで、画期的なプレイ体験をうみだした。コマを宇宙船のミニチュアではなくダイスとした風変わりな見栄えは、ここに帰結している。ダイス目6は"スカウト"という探索ユニットを想起する名称を与えられているが、これは移動力ではなく、アクションを消費せず艦隊ダイスを振り直せる特殊能力が由来だ。

 

艦隊ダイスの振り直しで、移動力・戦闘力・特殊能力の選択肢が広がる。
艦隊ダイスの振り直しで、移動力・戦闘力・特殊能力の選択肢が広がる。

 

比較のため従来作における探索を紹介する。それはマップの探索と同義で、立地条件そのものといえなくもない。さらに、国家が衝突する中盤以降では重要性はやや薄れる。例にあげた2作「シドマイヤーズ シヴィライゼーション ボードゲーム」・「Eclipse」でも、探索を新たなマップパネルの開示としている。

前章で触れたとおり、『Quantum』のマップは最初から開示されており、一見すると探索がないようにみえる。それがなければ、あとに続く拡張・開発・殲滅で取れる選択肢に差は無く、初期条件が勝敗を分かつ味気ないゲームとなろう。だが、自分の手番で艦隊ダイスを振り直す行為が、新たな選択肢を得る探索として機能する。ゆえにマップは新たな選択肢を隠匿する役割から解放され、最初から開示されたのだ。本作はその探索要素の担い手を変更するつくりで利点を2つうみだした。ひとつは、キューブの建設競争やライバル艦隊の排除が激化する終盤でも選択肢を探索できる点。もうひとつは、マップをゲーム開始から変動しない、チェスや将棋の盤上と同じく静的にすることで、戦略を思案する敷居をさげた点だ。

ゲーム情報はすべて公開されている。マップはゲーム開始時に開示されており、手札はなく、プレイヤーの手番にライバルは行動できない。自他の隠匿情報による駆け引きをなくし、近い将来を含めた選択肢の数を減らしたことで、艦隊ダイスを振り直して可能性の探索に賭ける判断を容易にした。また、探索や艦隊損失時の艦隊ダイス振り直しは遠い将来を不確定なものとし、思考量をカジュアルな難度にとどめている。

ダイスをもちいる本作は運の要素は大きい。運と戦略は真逆のようにみえる。しかし、従来作が探索してから戦略を立てるのに対し、現状で戦略を尽くし運にゆだねる可能性を見極めてからそれを選択する点が大きく違う。運と戦略の順番を逆にし、その関与を戦略できる点はまぎれもなくストラテジーゲームだ。

 

盤面だけでなく、プレイヤーボード上のコンポーネントも、そのターン中に入手できる進歩カードも公開されている。 公開されていない情報は、プレイヤーの頭の中にある戦略と、ダイスを振った出目だけだ。
盤面だけでなく、プレイヤーボード上のコンポーネントも、そのターン中に入手できる進歩カードも公開されている。公開されていない情報は、プレイヤーの頭の中にある戦略と、ダイスを振った出目だけだ。

 


ダイスゲームの醍醐味は「人事を尽くして天命を待つ」にあり

 

『Quantum』は勝利に必要な出目を考えてからダイスを振る"ダイスゲームの醍醐味"を、4X要素で確立したボードゲームだ。進歩カードや艦隊の特殊能力などの戦略を尽くし、戦闘・探索という運以外の要素をすべて排除したとき、ダイスの一投が興奮をうみだす。そのシチュエーションをもたらす多くの配慮を、15分ほどのイントロダクションで済む簡単なルールで実現したことは称賛に値する。

ファーストプレイの印象は「運と戦略のバランスが良い」の一言に尽きるが、その詳細は奥深い。艦隊コマとして用いた正6面体のように、一度にすべての面を目にするには展開するしかなく、各面のつながりが断たれてしまう。本稿も例外ではなく、今回はゲーム設計を中心に4Xストラテジーという刃物で展開したが、それにより断たれてしまったものがある。艦隊の特殊能力をパズルゲームのように組み合わせて手数を減らすひらめき。複数の進歩カードの相乗効果によるゲームパワー。宇宙要塞がライバルの艦隊を次々と撃破し、制覇点でキューブを得たときの優越感。などなど、例の枚挙にいとまがない。その全容に興味をもたれた人は是非ともゲームプレイされたし。そうすれば、ダイス目1の背面に6があるといった立体的な法則を体感できるだろう。

SFファンの心を惹きつけるアートワークとゲームコンセプト。単純なルールと豊かなリプレイアビリティにハイテンポな進行。それらを求めるボードゲームファンは、海外ボードゲームの個人輸入予定リストに『Quantum』を加えていただきたい。また、ビデオゲームファンは4X要素を考察する一例として覚えていただきたい。ランダムマップや立地条件程度の意味合いでしかなかった4Xの"探索"を、ゲーム終盤の重大な要素へおしあげた希有な作品だ。4Xストラテジーゲーマーの友人にも、本作を紹介してほしい。

 

できるだけ運にたよらず勝つ手段を考える。運に頼るときは可能性を最大にする。 運ゲーの象徴ともいえるダイスへの印象が180度かわるプレイ体験だ。ライバルのダイスの一投にも目が離せない。
できるだけ運にたよらず勝つ手段を考える。運に頼るときは可能性を最大にする。運ゲーの象徴ともいえるダイスへの印象が180度かわるプレイ体験だ。ライバルのダイスの一投にも目が離せない。

 

ニュース

Indie Pick

インタビュー

レビュー・インプレ

Devlog