『ペルソナQ』 ペルソナ&世界樹、至高の悪魔合体

[2014年6月25日 追記]

 

本稿末尾で「テキペディアが埋まっていない」としましたが、これは特定の条件を満たすことで遭遇可能な敵を見逃していたためでした。本作の追加コンテンツは7月2日リリースのもので"最後"とされており、ボスキャラの追加などはなさそうです。

お詫びして訂正します。大変失礼いたしました。

 


3DS『ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス』(以下『PQ』)は6月5日にリリースされたタイトルです。開発・販売はインデックスの「ブランド」から久方ぶりに法人へと転身したアトラス。お偉方の騒動はそこそこのインパクトでしたが、それはそれとして別にゲーム開発自体は着実に進んでいたようです。

本稿を執筆したのは6月10日、難度Normal(途中変更なし)でP3サイドクリア済み。プレイ時間は約60時間。将来的にリリースされるであろうダウンロードコンテンツ等の評価はふくまれていないこと、すれ違い通信やQRコードを使った遊びは未体験であることをあらかじめご了承ください。なお、筆者は『ペルソナ』・『世界樹の迷宮』両作のナンバリングタイトルはすべてプレイ済みです。

 


コアは『世界樹の迷宮』だが

 

本作のジャンルは名作『Wizardry』あたりの系譜の一人称視点ダンジョン探索、いわゆる「ダンジョンクローラー」です。より最近の日本人ゲーマー向けにいえば、同じくアトラスによる『世界樹の迷宮』シリーズのようなシステムがベースとなっています……というよりはそのものです。手書きのマッピング(一部はオプションで補助ありへ変更可能)・ダンジョン探索時の操作触感・そしてバトルシステムとその詳細、そのいずれもが「本作の根幹は『世界樹』である」と評してしかるべきものでしょう。

タイトルに『ペルソナ』と入っているうえ公式のプロモーションが『P3』や『P4』のキャラクターを強調したものであったため、それらのファンがまっさきに食いついたかもしれません。しかし本作はどちらかといえばゲームシステム面についてだけみれば『世界樹』ファンこそがなじみやすいであろう内容となっています。

とはいえキャラクターや世界設定は完全に近代『ペルソナ』のものであるため、それを未プレイのゲーマーが『世界樹』番外編として挑戦するのは厳しいものがあります。無論RPGとしての面白さがスポイルされるというわけではないのですが、ゲーム全体を楽しめるかとなると、答はノーだと断じざるをえません。

 

 


『ペルソナ』ファンの「教育」

 

では本作のおもな"最初の"対象はどこかというと、やはり『ペルソナ』ファンだということになります。それも比較的シビアなゲームを好まない、ライトな層ではないでしょうか。それはキャライラストのタッチが(なかば異様なまでに)軽いタッチになっていること、各トレイラームービーのノリなどからも推測されます。

『P3』や『P4』のRPGとしての難易度は普通にプレイするぶんにはかなり簡単な部類であり、どちらかといえば独特のジュブナイル・世界観を楽しむための舞台装置としてRPGがあった感すらあります。それらのファンにいきなり古典のDNAを触れさせては不要なアレルギーを引き起こしかねません。ですが、『PQ』はそのあたりの配慮もぬかりありません。

まず、当然ながらスキルや敵の名前などの基本的な表現が『ペルソナ』の構文にのっとっており、「設定がゲームへの理解をうながす」導線として成立しています。ゲームシステム的には『世界樹』とのミックスなっていますが、それらもなるべく『ペルソナ』ファン向けに演出されています。

また、最初のダンジョンの難度がかなり控えめにおさえられているのもポイントです。Normal設定では既存の『世界樹』ファンが肩透かしをくった気分になるような簡単さになっており、「マッピング? なにそれ。わざわざ自分でやるの?」な向きでも安心です。

ダンジョン設計におけるメタなやさしさも光ります。それは、ある一定度進めばほぼ確実に出入口付近へのショートカットが段階的に開通していくというもの。これは最初から最後まで変わりません。ほぼノーコストで迷宮から脱出できることもあいまって、奥へ奥へと1時間突き進んだ結果いきなり全滅させられ苦労が水の泡、ということは(プレイヤーがしっかりしていれば)まずありません。

 

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しかし急激に上昇してゆく難度

 

たしかに第一のダンジョンは簡単です。ろくにレベル上げすらせずとも、適当にマップを埋めながらショートカットを開放しつつ進めば多くのゲーマーにとってクリアはたやすいことでしょう。しかし、それは最初だけです。

『PQ』の恐ろしさにして真髄は、その驚異的な難易度曲線にあります。ようするに第二ダンジョン以降、急激に難しくなってゆくのです。仮に『世界樹』をディープにしゃぶりつくしたファンであろうとドン引……もとい、満足すること間違いなしです。一例として筆者のケースをご紹介すると「後半のとあるフロアを踏破した際、疲労感と吐き気で倒れそうになりました」。容赦という言葉はゲームの進行とともに失われるのです。

なお、ダンジョンクローラーあるいは『世界樹の迷宮』として難易度というものをとらえた場合、通常は戦闘のシビアさに帰結しますが『PQ』は若干毛色が異なります。コツをつかまないとバトルパートで苦戦することには相違ありません。しかしそれ以上に難しい要素があります。それはパズルです。

本作を難しくしているのは、『世界樹』にはそれほど採用されてこなかったパズル要素にほかなりません。マップに点在するヒントからの推理、詰将棋めいたFOE(シンボルエンカウントのボス敵、倒すのは困難)回避、マップ構造を把握しての移動などなど。ダンジョンは敵とまとめて踏み荒らす存在ではなく、謎解きの舞台として鎮座しているのです。まさしく「Q」であり、「ラビリンス」の名を冠するにふさわしい迷宮ぶりです。

ラストダンジョンのパズルはなかなかえげつなく、丸一日以上もの連続プレイで朦朧としていた私はなかば総当りで前進するだけの機械となりはてていました。ラスボスを倒し流れるスタッフロール、薄れゆく意識のなかで思いました。「これで本当にクリアかな……」「誰だよこのマップ設計したのは……」。

そのせいでエンディングの内容は覚えていません。近いうちにまた確認するつもりです。

そのほか重大なポイントとして、ショートカット・一方通行地点を通過するさい、かすかに音が流れるという要素があります。視覚的にだけでなく、聴覚的にも注意をはらわなければゲームの攻略に支障がでかねないクリティカルな場所を見逃しかねません(見逃しました)。神経を使うところです。

 

 


『世界樹』と融合したバトル

 

ラビリンスで迷い力尽きる快感は文句なしとして、バトルパートも負けてはいません。『世界樹』シリーズのシステムをベースにしながらも、その内容は『ペルソナ』との"合体"へと昇華されています。画面のレイアウトはただただ『世界樹』ライクですが、その実態は秀抜です。

まず、弱点を突くこととクリティカルを出すことのメリットは「次のターンに発動するスキルのコストが0になる(ブースト状態)」「総攻撃を出すチャンスとなる」「戦闘終了時にあらたなペルソナを獲得する可能性が上がる」となっており、新しい手触りを感じます。これは脈々と受け継がれてきたプレスターンバトルの新機軸と表現することもできるでしょう。

あわせて、敵の攻撃を回避することのメリットが「ブーストをキャンセルされないようにする(ブースト状態で攻撃を受けるとブーストがなくなる)」に集約されており、ここも極端に回避のメリットが高かった他の『メガテン』シリーズとは異なるところです。「とにかくスクカジャスクンダ連発したらいいんだろ?」というわけにはいきません。

『世界樹』的な要素としては視覚的な部分以外にも多くあります。まず「縛り」があること。『ペルソナ』サイドのバフ・デバフ等とはべつのバッドステータスとして存在しています。また、ファンにはおなじみ「味方へのダメージを肩代わりするスキル」「追撃系のスキル」などもちゃんとあります。いずれも『ペルソナ』系スキルとのシナジーが見込めるため、戦闘の幅はけっしてせまくありません。

ただ、ストーリーの進行だけにフォーカスすればバトルの難度自体はやや低めに味付けされており、ラスボスですら例外ではありません。パズルのこともあってラストダンジョンの戦闘は8割がた回避して突き進んだのですが、それでもそれほどの印象はありませんでした。『メガテン』シリーズとしてみた場合この「簡単さ」の発生源は属性にかかる調整です。無効・反射系持ちが(現状)存在していないというだけでずいぶんとイージーな手触りになっています。

つまるところ明確に苦戦しうるのは倒すことを想定していないFOE戦くらいのものであり、逆にいえば、そうした調整がまさしく「『PQ』らしさ」なのです。今後追加配信されるに違いないダンジョンや敵はもちろんそのかぎりではないのでしょうが。

バトルについて唯一の不満点は、ゲームスピードを最速にしても少し遅く感じられたところ。一般的なRPGからすれば速い部類ではあるのですが、『世界樹』に慣れていると物足りないかもしれません。とはいうものの単純作業めいた戦闘を強要されるシチュエーションはほぼ絶無ですので、これはこれで許容範囲内です。

 

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『ペルソナ』の空気感

 

空気作り・世界作りはもはや見ての通りであり、まさしく『ペルソナ』のそれです。デフォルメ化が進んだタッチのキャライラストも『ペルソナ2』が『3』へと大変身したことを思い返せば、順当な進化ととらえられなくもありません。

根底を流れる『ペルソナ』世界は、きっちりと『P3』と『P4』のミックスレイドに成功しています。ゲーム開始数時間後には原作とは異なるパラレルワールドである、すなわち番外編であることを示唆しながらも、元ネタを随所に散りばめつつ、そして最後の最後までスパイスが織りこまれています。これは非常にすぐれた点であると同時に、『P3』『P4』未プレイだと「何が何だかさっぱりわからない」を誘発するリスクともいえるでしょう。しかしながらゲームのメインは結局のところダンジョン探索ですので、少しもったいないですが最悪テキストは攻略に必要な部分以外全スキップでもゲームに支障はありません。

ストーリーは謎めきながらもほのぼのとした調子で進行します。原作とは少々趣が異なるキャラクターたちが奔放に描かれており、ここは好みが分かれるところかもしれません。ただし、ネタバレになるので詳述は避けますが「締めるところは締める」をまさしく遂行しています。終盤の展開は深夜に思わず一人盛り上がるくらいの内容でした。

BGMとSEは完全に『ペルソナ』です。とくにコメントしようがありません。

 


よくぞここまで練り上げた

 

『ペルソナQ』のトレイラーを最初観たときの私の感想を正直に告白すると「なんだこりゃ、へんなもん作って……」でした。しかしどうやら『世界樹』ライクらしいということを知り、また『ペルソナ』シリーズのファンでもあったため、結局嬉々として購入しました。

それは正解でした。30時間ほど連続でゲームをプレイしたのは久々です(おそらく『エスカ&ロジーのアトリエ』以来)。『ペルソナ』として、『世界樹』として、その番外作品として、きわめて秀逸な内容となっています。この合体では事故は起きていません。緻密に計画立てられた「合体成功」です。

細かいあら探しをしたところで、より多くの細かな親切さが光る。どんなにつらくとも面白さ勝る。古きと新しきを適切に混ぜあわせる。ファンを意識する。プレイヤーをゲーム的にも精神的にも丁寧に殺しにかかってくる。それが『ペルソナQ』であり、「2014年に出たアトラスの新作」としてほとんど非の打ち所のない、じつにすばらしいゲームでした。『P3』と『P4』経験者には躊躇なくおすすめできる、『世界樹』のみの経験者には原作ごとのプレイを推奨できる、そんな秀作です。

 

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「やりこみ」の要素について [ネタバレあり・注意] (以下6月18日執筆)

 

さて、では『PQ』があまねくメガテニスト・世界樹の旅人らを完全に満足させうるかというと、Ver1.1の時点では少し厳しいところがあります。最大の理由は、上述のとおり本作の難しさがパズル要素に集約されているから。いかに難しいとはいえ、一度正解を知ってしまえばあとはただのトレース作業です。周回プレイ時はパズルを放棄して(FOEをゴリ押しで倒す形で)一部進行できるものの、そこには爽快感よりも虚無感が先にたちます。P3とP4ではキャラ同士の会話内容がそれなりに異なるため2周目の楽しみは間違いなくあるのですが、今度はパズル要素が少々めんどうくさく感じられるのです。

また、"現代的な調整"と評価することもできますが、レベル上げやペルソナ全書埋めが楽すぎます。主人公のレベルをカンストさせるだけならばものの2,3時間しかかかりません。ペルソナ全書についてはファンにはおなじみの特殊合体(例: バロン+ランダ=シヴァ)で若干苦戦できるものの、それでもやはり数時間でコンプリートしてしまいます。「そういうゲームではないのだから」という開発者らのメッセージと解釈するにしてもいささかものたりないものがありました。

 

中途半端にレベル上げした結果。 ただし2軍は全員レベル99。
中途半端にレベル上げした結果。
ただし2軍は全員レベル99。

 

ではバトルは? アトラスを知る誰もが戦慄した「人修羅の地母の晩餐にアボイドスリーパ」のような展開ががあるか? となると、これまたノーです。鍛えぬかれた高校生たちの前ではラスボスをふくむすべての敵は数ターンで溶かされます。さらにいうと、パズルとして洗練されていたダンジョン探索パートにたいし、それに比肩するかたちの深奥さをバトルが内包しているか――つまり"パズルとしてのバトル"が成立しそうか? という問についても現段階では疑問があるといわざるをえません。現状実装されているスキル群では最適解が明々白々だからです。

とはいえ失望するには時期尚早です。クリア済みの方ならお気づきのとおり「テキペディア」は埋まっていません。この空欄はほぼ間違いなく、今後追加されるコンテンツで対峙するボスらにより埋められることでしょう。そして、スキル構成も抜本的な見直しが必要になるような新規要素がくわえられるかもしれません。そう、『真・女神転生IV』のように。

『ペルソナQの』の迷図は、「本当にどうしようもないバトル」という最後のパズルのピースがはまることで完成すると私は信じています。

Nobuki Yasuda
Nobuki Yasuda
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