『メタルスラッグディフェンス』 メタスラが到達した「パクリ」の一つ先

[追記 2014年5月21日 17:30]

本稿末尾にて本作の対人戦攻略を記述しましたが、さらに研究を重ねた結果「ジュピターキングはかならずしも必要とはいえない」という結論へ到達しています。実際、デッキに入っていない相手との対戦で連敗しました。戦法はおおまかにわけて2つ。

まず、速攻デッキ。一部ユニットはコストのわりに破壊力と進軍力が高く、初弾での制圧力が十分にあります。ユートム・サルビア・百太郎では返しきれない編成がありました。そのまま重ユニットを投入され、押し切られて敗北します。

もう1つが、空爆デッキ。ある一定度の戦力同士では敵本陣まで押し込めずタイムアップになることが多々あります。その場合ライフの多寡による判定があるようなのですが(詳細不明、双方ライフMAXの状態にもかかわらず負けがついたことがある)、ここでの勝利を狙うというもの。「デビルリバースモーデン」の特殊攻撃は敵陣にほぼ問答無用でダメージを与えられるほどの長射程のため、タイムアップ勝ちを目指す場合非常に有効な手札となります。ただしコストは950。HPも最大で14000にまで上昇しますが、壁役がなければ意外にあっさり溶けることに注意。

『メタルスラッグディフェンス』において一部課金ユニットの性能がたしかに優秀ではありますが、捕虜解放で手に入るキャラクターたちも捨てたものではありません。無課金勢だからといって勝てないわけではないのです。やはり『MSD』はすぐれたゲームといえるでしょう。

 


 

iOS/Android向け『メタルスラッグディフェンス』(以下『MSD』)は、SNKプレイモアの新作ゲームです。昨今、同社の社名を聞けばパチスロのイメージを持つ向きもありそうですし、実際主力はそちらのようなのですが(すくなくとも企業情報の事業内容の順序的に)、本作は『メタスラ』IPを使っているものの完全新作です。

 


ワンラインディフェンスとは

 

『MSD』は、いわゆるワンラインディフェンスと呼ばれるジャンルに属します。同ジャンルには『にゃんこ大戦争』、さらに巻き戻れば『カートゥーンウォーズ』あたりがあります。

ワンラインディフェンスとは、文字通り1ラインだけでの攻防をなす陣取りゲームです。古くはRTSに始まり、より洗練し競技色を強めたMOBA系が生まれ、そしてそれをひたすらカジュアルにしたもの。それがワンラインディフェンスです。

ルールは単純です。RTSでいうところの内政は極限まで簡略化され、1つのリソース・1つの内政ブーストのみ。あとはリソースを消費してユニットを生産し、かち合った相手のユニットと自動で戦闘。押し込んで相手陣地を落とせば勝利です。

 

単純至極。
単純至極。

 


模倣ではない。そのものである。

 

さて、いきなり言葉を選ばずに断言してしまいますが『MSD』はパクリです。とくに『にゃんこ大戦争』との類似点は”少なくない”どころか”似てい ないところを探すほうが難しい”な水準であり、企画の段階で「メタスラ使って『にゃんこ大戦争』やりましょう」と一発誰かがカマしたのではないかと邪推し てしまうくらいです。

ゲームの内容はおどろくほど他作品に似ており、ゲームフローですら似ています。シャレになっていないのはゲーム序盤の一部のパラメーター配分すら似通っている点。パクるにしても、むしろ適当に数値を入力したほうが楽なのではないかと思うくらいの徹底ぶりです。

それにしても『Threes!』VS『2048』騒動も冷めやらぬなか、こんなモロパクリのゲームを名作の名を使いリリースするとは! ……というのはしかし表層しか見ない浅薄な視座です。『MSD』はワンラインディフェンスとメタスラを融合させ、次のステージへと到達しています。

 

『MSD』は成立した。
『MSD』は成立した。

 

 


『メタスラ』とワンラインディフェンスの相性の良さ

 

もはやゲームファンにたいして語るまでもないのですが、『メタスラ』のドット絵は芸術であり、資産であり、遺産であり、ロストテクノロジーでもあり ます。狂気に片足を突っ込んだドットグラフィックスの躍動感は、2Dアクションの「動かして楽しい」を絵だけで成立させる数少ない事例の1つです。

しかし、本家『メタスラ』は残念ながらその絵”だけ”をひたすらに堪能するための器ではありませんでした。アクションゲームとして難しかったからで す。相当やりこんで慣れていないかぎりプレイヤーは操作キャラとその周囲の当たり判定にのみ集中することになってしましました。ゲームセンターで後ろから 眺めるぶんには申し分のない芸術作品だったのですが、それはゲームを総合的に満喫するという行為ではありません。

他方、『メタスラ』の絵作りが魔的な緻密さを誇っていたことも有名です。普通では気づくはずもない、気を止めようがない部分まで異常なくらい描きこ まれており、モーションひとつひとつに愛情と執念が込められています。たった1つの面でしか使用されない、いわばワンオフのアニメーションに何十枚と費や していることすらありました。ちなみに、「フィオ・ジェルミ」のとあるやられモーションで乳首が見えているか否かで、某BBSのスレッドが軽く炎上してい たことを見かけたこともあります。

 

動く動く、全部動く。 不気味なくらい動く。そして細かい。
動く動く、全部動く。

不気味なくらい動く。そして細かい。

 

 

ようは、本家アクション『メタスラ』はそのグラフィックを楽しみづらかったのです。ですが『MSD』は違います。ゲームシステムが単純であるがゆ え、プレイヤーは否が応でもキャラクターに釘付けになります。単一の画面を眺めることになるうえ、内政が拡充するまではやることがないからです。これは結 果的に『メタスラ』奇跡の映像をプレイヤーへ伝える時間へと昇華されました。けっして他のワンラインディフェンスではありえなかったことです。

また、視覚的に旧来のファンがとっつきやすいという点も見逃せません。これは単純にアセットが使いまわされているという意味ではなく、直感的な話で す。『メタスラ』といえばワンショットワンキル、殺るか殺られるかの醍醐味があります。その印象がワンラインディフェンスの「兵は使い捨て」のイメージに マッチしているのです。マルコが、ターマが、モーデン兵が、カニが、あっという間に溶けても「ああまあメタスラだし」で納得せざるをえません。とても自然 に受け入れることができます。

『MSD』は何よりもその映像に価値があります。ゲームのすべてを無視しても、ただそれだけでプレイに値するほどです。

 

大戦争だ。
大戦争だ。

 

 


ただのパクリでは終わらない

 

たしかにゲーム冒頭部はやや引いてしまうくらい他のタイトルに似ています。しかし、突き詰めていくと独自色があらわになってきます。

まず、やけくそなくらいのユニット数がコアに鎮座しています。課金キャラクターも相当数あるものの、『メタルスラッグX』あたりまでに登場したキャ ラは敵味方問わず全員使えてしまうのではないか、というくらいのボリュームです。そしてその性能にコンパチはほぼなく、「見た目通り」の差異があります。 コスト・HPはもちろん、リーチ・攻撃力・移動速度、いずれも”原作再現”とでも呼ぶべきたたずまいです。

この時点で他作品の追随を許さない『MSD』には、さらにオリジナリティがくわえられています。画面タッチでの特殊攻撃、生産ユニットデッキの幅広 さ(10種、スワイプ選択が必須)など。結果的に、上述の”魅力”とはやや矛盾しますが、旧来のワンラインディフェンスとは一線を画する「操作の忙しさ」 の妙味を構築するにいたりました。原作アクションほどタイトではないけれど、ぼーっと画面を眺めて片手間にプレイすることは許さない、そうした絶妙の味付 けとなっています。

また、背景画像やBGMが尋常でない骨格を形成しているため、表裏総計24面をプレイしても、ほとんど使いまわし感を受けません。むしろ、「ああ、こんなのあったな」と思い出させてくれる、”メタスラ追体験システム”として機能しています。驚くべきことです。

 

飽きない。 飽きることを許してくれない。
飽きない。

飽きることを許してくれない。

 

 


最高のエンドコンテンツ「オンライン対戦」

 

『MSD』にはオンライン対戦が実装されています。すくなくともGame Centerを使ったiOS版についていえばマッチングはお世辞にも具合がよいとはいえず、ラグもひどいもので、真剣勝負のツールとしては残念な出来栄え ではあります。ですがそれでも『MSD』の対戦は面白いのです。

ワンラインディフェンスは性質上単純にならざるをえません。しかし『MSD』の場合ユニットの数が尋常ではないため、たんなる「デッキの比べ合い」ですらゲームとして成立してしまうのです。

無論、バランス調整は良くありません。破綻しているとさえ言っていいでしょう。特定の有料ユニットがいなければまず勝てません。それでもなお、10 戦に1度くらいは「まさかこんな戦術があるとは!」と驚かされるのです。私が勝手に定石化していた戦法が、意表をついた戦略でくつがえされたときの心地よ さ、どう表現すればよいものか。清々しい負けというのは存外めずらしいものです。

ただ、バランスもそうですが、いくらなんでもどうにかならないのかという部分があることも否めません。レーティングがほとんど機能しておらず、一方 的なゲーム展開になりがち(というより拮抗することの方が稀)である点、それゆえ「負けそうになったら切断」する方がたいへん多くいらっしゃる点、オンラ インラダーがチーターでうめつくされている点、その他もろもろ。

とにかく、素材は最高なのです。気軽でありながら真剣に楽しみうる、至上の土台です。あとは、せめて公明正大・公平なマッチングさえ成立してくれれ ば言うことはありません。複数のデッキ管理と変更や、ユニット単位のコスト制(『連邦vs.ジオン』のようなもの)を採用してもらえれば一番なのですが、 それは望みすぎというものでしょうか。

 

敵前逃亡は銃殺だって学校で習わなかったか?
敵前逃亡は銃殺だって学校で習わなかったか?

 

 


パクリの先に見えたもの

 

人類の進化とはパクリの積み重ねでもあります。あらゆる分野においてヒトはパクリを繰り返して歩みを進めてきました。ゲームも例外ではありません。 たとえば「ローグライク」と表現されるゲームを語る者が、元祖『Rogue』を経験済みであることがどれだけあるでしょうか。ましてや当時の空気を知る者 など間違いなくマイノリティです。

しかし、それでよいのです。パクリは、(流動的な)ある一線を超えさえしなければ容認されるべきです。たとえそれがパクリ元にダメージを与えるよう なものであろうとも。現代は、そのラインを法律が不完全ながらも規定しようとしているのですから、無闇に排斥するのは正しくありません。

『MSD』はパクりました。それはもう否定しようがありません。ですが、『MSD』は深化させました。ワンラインディフェンスを次のレベルへ、『メタスラ』を次の世代へ。理想的な模倣のあり方、それが『MSD』の本質であり、私はそれを最大限評価します。

ユニット課金待ったなし。これはIPの摩耗などではありません。新時代の『メタスラ』です。……まあ、本作でSNKプレイモアが潤ったならデザイナーの復帰と新作(絵)をさきに願ったほうが健全かもしれませんが。

 

時代の扉。
時代の扉。

 

 


おまけ: 安田的鉄板戦術(対人編)

 

内容はver1.0.0におけるもの。戦闘にかかる捕虜は全解放が大前提です。

ユニットは「ジュピターキング」「オオミンコンガニ(茶)」「エリ」「百太郎」「アラビア馬賊兵」「3tトラック」「カニの巣」「ゾンビマルコ」「ユートム」「サルビア」。

 

このように(勝ち星を)かせぐのだ ※ 一部ユニットは有料です
このように(勝ち星を)かせぐのだ。※ 一部ユニットは有料です

 

ゲーム開始後、内政を80~160まで張ります(敵との間合により変動)。相手が初手に「土嚢」を撃ってきた場合、200まで張ってもいいかもしれません。

こちらの初手は原則的に「サルビア」、ついで「ユートム」。しばらくしてから「オオミンコンガニ(茶)」。壁役が確立し次第「百太郎」。歩兵中心の 先手攻撃はこれでほとんど返すことができます。極端な速攻をされた場合、「エリ」と「アラビア馬賊兵」で追い返します。とくに「アラビア馬賊兵」は、事実 上の無課金で手に入る”移動攻撃型「土嚢」”とも呼べる性能で、シナリオを進めるうえでは圧倒的な性能を発揮します。

さて、このゲームの対戦は突きつめると(おそらく・現段階の安田が知るかぎり)「ジュピターキング」をいかに進撃させるか? という内容になります。「ジュピターキング」を倒すことは至難であり、しかるに足止めと追い返しが重要になります。

足止めについては、自動生産系ユニットが活躍します。ここでは「3tトラック」と「カニの巣」。敵ユニットがいると「ジュピターキング」が進軍でき ないという性質を利用し、間断なく軍を垂れ流し、前に進むことを許さないという戦法です。むろん次々に自軍は溶けますし、それにともない敵にAPを与える ことになりますが、そもそも「ジュピターキング」が出る段階では内政は拡充しきっているのでどちらも無視できます。

押し返しで重要になるのは、ノックバック性能のある特殊攻撃を持ったユニットです。ここでは「ゾンビマルコ」。ゲロビームは圧倒的なリーチ・攻撃力 があり、かつ「ジュピターキング」の間合い外から当てることができるうえ、「ゾンビマルコ」自体も「ジュピターキング」の攻撃一発では沈みません。弱点 は、ゲロビームの初期チャージに時間がかかること。押されきると危険です。なお、メタスラアタックも押し返しとして機能しますが、双方が最速で撃ちあう展 開になった場合有効ではありません。

対戦相手の性質によるかもしれませんが、「ジュピターキング」(最重要)「百太郎」「3tトラック」「カニの巣」「ゾンビマルコ」「サルビア」はお そらく鉄板です。あとは残りの枠をより重いユニットやノックバック攻撃を持つユニット、あるいは「マミーゲート」に変えるという案がありえます。上述の構 成はあくまでも万能型であり、本作の対戦の本流である”後半勝負”では若干弱い部分があることはお忘れなきよう。

私の戦術を突き崩す方を強く求めます。なお直近の戦績は10戦10勝0敗、被切断回数カウント不能。このゲームは、それくらい本気でやるに値します。

 

私の敗北と、「完全新作」を切望するものであります。
私の敗北と、「完全新作」を切望するものであります。

 

Nobuki Yasuda
Nobuki Yasuda
記事本文: 133