『HANGEKI』 「早送りボタン」がついたインベーダーゲーム
2014年8月11日にSteamでリリースされた『HANGEKI』は固定画面シューティングゲーム(STG)で久々の快作だ。対応プラットフォームはPC(Windows)。定価10ドル。
映像・音楽は及第点。6年以上前にリリースされた同ジャンル『ギャラガレギオンズ』『スペースインベーダーエクストリーム2』とくらべ、演出・スタイルはあか抜けていない。それら有名作に肩を並べる本作の特徴は、タイトル名である「HANGEKIシステム」でジャンルを再構成した点にある。
本作が切り捨てた「最後の1体」
固定画面STGについて復習しておく。敵は編隊単位(以降、本作中の表記にならいWAVE)で画面に登場し、最後の1体を撃破すると次WAVEが登場する。本作では最終WAVE後にはボス戦が用意されている。始祖『スペースインベーダー』から脈々と継承されてきた、いわゆるインベーダーゲームはWAVE単位の出現が骨子にある。
本作はそこにメスをいれた。WAVEごとにさだめられた数を撃破すると、画面内の敵を一掃する「HANGEKI」が任意で発動できる。「最後の1体を撃破する」行程をHANGEKIという早送りボタンで切り捨て、なかだるみの呪縛から解放した。
そして生まれたのが「可能な限りはやく規定数撃破しHANGEKIする」ゲーム展開だ。それをうながすよう敵攻撃に工夫がある。WAVEは登場後一定時間経過するまで攻撃してこない。そのあいだにHANGEKIすれば敵の猛攻をしのがなくてもよい。格言「攻撃は最大の防御」のとおりだ。
固定画面STGは安全と得点のリスク・リワードに悩むゲームから、初撃の最大火力をもとめるゲームに生まれかわった。歴戦のシューターにとっても未体験のあらたなインベーダーゲームであろう。
戦略を推奨する武器システム
さきに火力が重要とのべた。そこでHANGEKI以外の武装も紹介する。つねに連射するショットは前方攻撃のみで火力がとぼしい。このままではHANGEKIする前に敵の攻撃がはじまってしまう。そこで強力無比な武器の出番となる。
武器の使用には武器ゲージを消費する。ゲージはショットを当てるか敵を撃破したときに出現するアイテムで回収できる。そしてゲージ消費が多い武器ほど火力が高い。ゲージ=火力。ゲージ効率よい運用が敵撃破につながり先制HANGEKIを可能とする。
攻略の鍵となる武器をおさめるスロットには、戦術的攻撃を推奨する工夫がほどこしてある。ステージ開始時に武器を4種類選択するが、使用できるのは第1スロットのみ。ステージ中、敵を撃破してえられる経験値で次スロットをアンロックしていく。第4スロットのアンロックはステージ途中だから、序盤は使えない。クールダウン、ゲージ消費、火力、使い勝手が違う武器をどのスロットにあてるか。この悩ましさは、選択する楽しさと同義である。
敵攻撃パターンの暗記や敵弾幕をしのぐ精密操作はボス戦をのぞき重要ではない。ゲージ運用とスロット編成でWAVEを攻略するのだ。いかに避けるかではなく、いかに壊すか。闘争本能と破壊衝動を発揮できるプレイヤーにHANGEKIのカタルシスを約束している。
難「易」度のありかた
本作の全ステージクリアはやさしい。難度が低いという意味でも、簡単という意味でもない。過去に本誌で述べた「"優しさ"と"易しさ"のさかい目」を見極めた配慮がいたるところにあり、挑戦心をかきたててくる。
STGに不慣れなプレイヤーへの配慮の一例をあげる。ステージごとに残機20。視認性を高めた敵攻撃色の統一。WAVE中の敵機種類・攻撃種類の少なさ。WAVEが攻撃をはじめるのがおそい序盤ステージの構成からあきらかなように、本作は回避動作の負担をへらす一方で攻撃への意識をうながしている。
多彩な攻撃をもつボス戦と中盤ステージ以降のWAVEは手ごたえがあり、少々腕におぼえのあるシューターの挑戦心をかきたてる。ここで詰まるプレイヤーは救済処置のチャレンジモードに挑むとよい。クリアすると使い勝手のよい武器を入手できるうえ、チャレンジ内容で本作の攻略を深いレベルで学べる。
全ステージクリア後はタイムアタックに挑むとよい。本作のスコアは得点ではなくクリアタイムのみ。速攻撃破が攻略となる本作のプレイングを正しく採点している。ステージ選択時のグローバルスコアにトッププレイヤーのタイムとスロット編成が表示してあるので攻略ヒントにするとよいだろう。ステージの目標タイムをクリアし入手できる武器を集め、新たな戦略をつくるやりこみ要素が用意してある。
見事な誘導と配慮だ。シューターと名乗るコアゲーマーだけでなく、ジャンル未体験のプレイヤーやSTGから離れてひさしい層を受け入れる「難しさのなかのやさしさ」のお手本といえよう。なお公式ツイッターアカウントでは日本語翻訳予定が日本語で告知されている。「STG大国」日本のゲーマーに立ちはだかる言語の壁に配慮している。この熱意は賞賛に値する。
「インベーダーゲーム」史に残る完成度
本作の手触りは固定画面STGのなかでも新鮮な部類だ。独自のプレイ体験だけでよしとせず、ゲームシステムの周辺にも十分な錬磨がほどかされている。快作だ。
攻撃重視なゲーム展開に心地よいノスタルジーをおぼえた。『ギャラガ』のデュアルファイターで敵編隊を一掃し、次WAVEの編隊飛行までなぎ払った感動を思いだす。本作の計算された配慮をかんがみるに、冒頭にあげたような、あか抜けなさは"確信犯"であろう。古いシューターを感傷にひたらせる演出かもしれない。
思いかえせば、インベーダーゲームは万人に破壊の快楽をあたえた。適当に撃っても当たる、WAVEへの最初の攻撃だ。本作はその最初の攻撃を純化したゲームとして昨年に35周年を迎えたインベーダーゲーム史、そしてSTG史に名をつらねる価値がある。
本作のレビューは以上だが、オリジナルサウンドトラックについて言及しておこう。ゲームフォルダ内に.ogg形式で同梱されている。各ステージ中の楽曲名をまとめたので、プレイリスト作成時に参照していただきたい。
ブリーフィング | Doldrum | |
プラクティス | Horizon | |
ステージ1「Stratosphere」 | Rising Stome | BOSS: Pressure System |
ステージ2「SuperCell」 | Rolling Storms | BOSS: Downpour |
ステージ3「Speedway」 | Subroutine | BOSS: Null and Void |
ステージ4「Citadel」 | Black Thunder | BOSS: Rise of Lightning |
ステージ5「Hive」 | Eye of the Storm | BOSS: Thermal |
ステージ6「Nebula」 | Solar Empire | BOSS: Hyper Rail |
ステージ7「Arctic」 | Glacial Dance | BOSS: Deep Freeze |
ステージ8「Jungle」 | Forest of Illusions | BOSS: Night Lotus |
ステージ9「Underground」 | Forbidden Tower | BOSS: Hourglass |
ステージ10「Core」 | Final Hour | BOSS: The Core |
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