『Fates Forever』 モバイルでMOBAブームを起こせるか
2014年7月3日、iPad専用MOBA『Fates Forever』がリリースされました。開発および運営は、モバイルゲーム向けソーシャルプラットフォームOpenFeint(すでに閉鎖)創業者であるJason Citron氏が新たに立ち上げたHammer & Chisel。
MOBAといえば『Dota 2』や『League of Legends』など、PC向けのジャンルといったイメージが強いですが、じつはモバイルでもいくつかリリースされています。一度に複数のユニットを操作することがないため、RTSのなかでもタッチ操作と相性が良いのです。『Fates Forever』について説明する前に、iOS向けMOBAの代表作を3つ紹介します。
シンプルなMOBAからモバイルに最適化されたものまで
おそらく、最初に登場したiOS向けMOBAは『Pocket Fleet』だと思われます。宇宙を舞台とするシューティングで、相手チームの母艦を撃沈することが勝利条件です。戦略的なゲームというよりも、どちらかというと対戦型シューティングゲームといった印象が強く、機体の操作になれるまでは楽しいとは感じにくいかもしれません。
最大12人が同時に参加でき、チーム戦や旗取りなど4つのゲームモードが用意されています。クロスプラットフォーム対応で、PCブラウザ版やAndroid版も同じアカウントでプレイできます。全盛期に比べるとプレイヤー数は減りましたが、いまでも対戦相手探しに困るほどではないです。
2012年11月、Gameloftより『Heroes of Order & Chaos』がリリースされています。ゲームシステムや見た目は『DotA』や『League of Legends』に近く、「ようやくMOBAらしいタイトルがモバイルに登場した」といえました。スマートフォンで遊べる同ジャンルとしては最も知名度が高いのではないでしょうか。
モバイル向けMOBAのなかでは最もヒーロー数が多く、合計42体が登場します。日本語に対応しているため、日本のプレイヤーと対戦する機会も多いのではないでしょうか。スキンやヒーローなどが手に入るロト(ふくびき)があり、ある意味「モバイルらしい特徴」を持つ作品です。もちろんAndroid版もあります。
その後、ターン制MOBA『Arena of Heroes』や、ユーモアあふれるキャラクターが登場する『Hero Bash』などがリリースされましたが、なかでも印象的だったのはZynga運営の『Solstice Arena』です。
『Solstice Arena』はモバイルで遊ぶということを最優先に考えて創られており、1試合にかかる時間は10分程度です。ミニオンは登場せず、スキルも最初からすべて使用できます。空いた時間の暇潰しに最適なMOBAとして、海外ではそれなりにヒットしたものと推測されます。
見た目を変えるスキンはアプリ内課金で購入しなければなりませんが、ヒーローはすべてゲーム内で手に入るポイントでアンロックでき、モバイル向けFree to Playタイトルにしてはめずらしく課金要素が少ないというのも特徴です。
iPad向けMOBA『Fates Forever』
『Fates Forever』は、3vs3のチーム戦を楽しむiPad向けMOBAです。2レーンのシンプルなマップが1つ、動物をモチーフにした10体(近日中に4体追加予定)のヒーローが登場します。すべてのヒーローは4つのアクティブスキルと1つのパッシブスキルを持っており、プレイヤーレベルに応じてアンロックされるRelicを1つだけ装備できます。このRelicは回復や移動速度の上昇などさまざまな効果のものがあり、使うタイミングによっては戦況が大きく変わることもあります。
ゲームシステムに関しては、ほかのモバイル向けMOBAと比較すると特徴的なものではないかもしれません。しかし、ヒーローやRelicの説明すべてに動画が用意されており、たとえ英語が読めなくても見た目で理解しやすいよう工夫されている点は、ほかとは比べものにならないほど優れているといえます。また、洗練されたUIデザインも素晴らしいです。
すべてのモバイル向けMOBAは、同じ問題点をかかえています。その1つとして、「AFKの多さ」が挙げられます。スマートフォンであれば、ゲームプレイの途中で電話がかかってきたり、外出先で充電が切れそうになったりと、さまざまな理由でゲームから離れることが考えられるでしょう。
『Fates Forever』にも放置プレイヤーは存在しますが、iPadのみ対応ということだけあって、ユニバーサルアプリのMOBAに比べると少なめです。デバイスを限定したことでプレイヤー数が増えにくいのではないかという不安もあるものの、公式フォーラムのにぎやかさを見るかぎり、現時点では心配する必要はないのかもしれません。
もう1つの問題点、それはマッチメイキングシステムです。ほとんどの試合は、どちらかのチームが一方的に勝利するような展開となります。最後に「GG」と言いたくなるような互角の戦いは、めったに起こりません。PC向けMOBAでもありえることですが、モバイルの場合はとくにひどく、なにを基準にマッチメイクされているのかが不透明なものも散見されます。『Fates Forever』のマッチメイキングシステムも、すぐれているとはいいきれません。
ただ、たとえチームメイトがAFK状態であっても、勝てる可能性はゼロではありません。逆転勝利こそPvPの醍醐味であり、快感を得られる瞬間でもあります。むしろ、不利な状況であるほど燃える方もいらっしゃるでしょう。私もその1人です。
ベータテストに1年をかけただけあって、大きなバグは見当たりません。しかし、完璧というわけではありません。たとえば、マップにはジャングルがあり中立クリープが出現するにもかかわらず、プルやスタックといったテクニックが使えない・試合中に味方とコミュニケーションをとる手段がなく、テキストチャットはおろかラジオチャットすらない・など。ヘビーなMOBAプレイヤーからすると物足りないと感じる点があるかもしれません。ただしこれは、iPadで遊ぶことを考慮し、なるべく短時間で勝敗が決まるようあえて戦略の幅をせまくした結果とも考えられます。このあたりは「今後のアップデート次第」といったところでしょうか。
一緒に遊べる友達がいれば、パーティを組んでボイスチャットを使えますが、いわゆる「野良プレイ」ではどうすることもできません。もちろん、ルールを理解しているプレイヤーがそろえば、言葉を必要としないチームワークが生まれることもあります。
冒頭でも述べましたが、モバイルで遊べるMOBAは増えています。しかし、どのタイトルもリリース時以外はストアランキングの上位に食いこむことは少なく、右肩下がりで圏外へと落ちていく傾向にあります。すくなくともiOS/Androidに限っては「まだこれから」のジャンルだといえるでしょう。それでも、タッチ操作との相性の良さもありますし、Free to PlayのMOBAは登場し続けるはずです。すでにSuper Evil Megacorpは『Vainglory』のベータテストをスタートさせていますし、CD Projekt REDは『The Witcher: Battle Arena』をiOS/Android/Windows Phone向けにリリースを予定しています。たとえ今は認知度が低くても、近い将来にはモバイルでも人気のジャンルになるかもしれません。
Hammer & Chiselは巨額の資金(820万ドル)を『Fates Forever』に投入しています。そして、公式フォーラムでは、CEOのJason Citron氏とデザイナーのZacCitron氏がユーザーと積極的に対話しており、すでにいくつかの要望が今後のアップデートで反映される予定となっています。どのオンラインゲームでもローンチ時はにぎわいますし、莫大な開発費をかけたからといって必ずヒットするわけでもありませんが、現時点でiPadでプレイできるMOBAのなかでは『Fates Forever』が最も「今後の可能性」を感じさせる作品であるといっても過言ではないでしょう。
すべてのヒーローをアンロックできるLaunch Bundle(2000円)を購入した私は、『Fates Forever』のプレイヤーが増え続けることを願ってやみません。