『Endless Space』 スペースを制するユーザーインタフェース

外交画面。技術交換やカツアゲなどもできるが、(あとで滅ぼすための)和平と宣戦布告がメイン。
外交画面。技術交換やカツアゲなどもできるが、(あとで滅ぼすための)和平と宣戦布告がメイン。

宇宙4Xターンベースストラテジー『Endless Space』は美しいゲームです。映像美術としても現存する宇宙ゲームの中で最高品質と評しても過言ではありません。210ページにおよぶ、付属のアートブックにおさめられているデザインの美的センスにも心打たれます。

ゲームとしては「ちょうど同じころに宇宙進出した他種族と銀河の覇権を争う」という、いわば古典的な4Xストラテジーです。入植できる惑星を探し(eXplore)、移民船で入植し(eXpand)、惑星開発・技術研究し(eXploit)、宇宙艦隊で敵国を滅ぼす(eXterminate)、4つのXでゲームをすすめます。

先に「古典的な4Xストラテジー」と称しましたが、ゲームプレイが古典的というわけではありません。むしろ、同一ジャンルの過去作と一線を画すあらたなマイルストーンたりえます。本作の特徴はずばり、UIにあります。

 


UIはゲームシステムである

 

銀河マップ画面。必要な情報を伝えつつ、ゲームのバックグラウンドにそったデザイン性。
銀河マップ画面。必要な情報を伝えつつ、ゲームのバックグラウンドにそったデザイン性。

 

すぐれたUIはあたらしいゲームジャンルを生み出します。たとえば横スクロール型2Dアクションならば始祖『スーパーマリオブラザーズ』の存在により、多くのゲーマーが操作法を直感的に理解できます。それに対し多くの4Xストラテジーはいまだに「国を動かす」ための一連の操作がやや不親切です。これは軽視できません。難しいジャンルと評される要因のひとつだからです。

艦隊の操作ボタン。抽象的で読み間違えることがなく、縦横に幅があるためクリックしやすい。
艦隊の操作ボタン。抽象的で読み間違えることがなく、縦横に幅があるためクリックしやすい。

英語が苦手な筆者の実体験を例にあげます。"Domain Surrender" (降伏勧告)と"Offer Surrender" (降伏宣言)を並べて表示するゲームでのできごと。敵に降伏勧告をせまるつもりが、"Offer Surrender" をクリックしゲーム敗北したことがありました。そのたびに「ああ、文字の横にたとえば"土下座マーク"があれば、一目でわかるのに」となげきました。

本作では、そのようなミスはおきません。大半の操作で使用するボタンには、意味をしめしたアイコンが使われています。マウスオーバー時のポップアップで説明をひとたび読めば、以降は見た目で内容を把握できるでしょう。文章内でも、リソースを単語ではなくアイコンで記述することで、読み間違いをふせぐとともに内容の理解を助けます。近年の高解像環境によって生まれた「空きスペースを制する」ことで、「宇宙を制する」UIになったのです。

ゲームとプレイヤーをつなぐ部分で不快感をあたえないよう配慮を徹底した結果、『Endless Space』は他ジャンルでたびたび感じられるような、プレイヤーの操作とゲーム内容の連動性と一体感を4Xストラテジーで生み出しています。マリオがマリオとの一体感であるなら、本作では国家との一体感です。

 

技術研究画面。研究内容のアイコン化はもとより、アンロックされる施設や国家特性もアイコンで概要が表示される。ポップアップは「インフィニット・スーパーマーケット」の説明。ひらたくいえばコンビニ。 「維持費はかかるが星系のモラルが改善する」とアイコンをまじえて説明している。
技術研究画面。研究内容のアイコン化はもとより、アンロックされる施設や国家特性もアイコンで概要が表示される。ポップアップは「インフィニット・スーパーマーケット」の説明。ひらたくいえばコンビニ。
「維持費はかかるが星系のモラルが改善する」とアイコンをまじえて説明している。

 


シーンの焦点に最高の映像を

 

アイコン化されたUIと対をなす美麗なグラフィックも、このゲームを語るうえではずせません。背景として表示されつつも、情報の視認性をそこねずゲームのバックグラウンドを豊かなものにしています。各シーンで描かれる星々の美しさに心ひかれることでしょう。

 

惑星管理画面。左半分の詳細に対し、右半分に情報は何もない。惑星そのものの様子を美麗グラフィックで表示することで宇宙ゲームとしての雰囲気をかもしだしている。
惑星管理画面。左半分の詳細に対し、右半分に情報は何もない。惑星そのものの様子を美麗グラフィックで表示することで宇宙ゲームとしての雰囲気をかもしだしている。

 

戦闘画面は戦術カードを用いた半自動戦闘。操作せずとも、数秒ごとにカメラアングルが変わる。
戦闘画面は戦術カードを用いた半自動戦闘。操作せずとも、数秒ごとにカメラアングルが変わる。

戦闘画面では宇宙艦隊同士の大規模な砲撃戦を鑑賞できます。戦闘での勝利はいうまでもなく喜びたりえます。本作は、そこからさらに見栄えがする視点を自動で探すカメラシステムと、迫力あるグラフィックでプレイ意欲をかきたててきます。拡張コンテンツ『Disharmony』で登場する艦載機追随式のカメラ視点は、敵艦に肉薄し爆撃攻撃するシーンを堪能できます。これは「はやく艦載機を開発しよりダイナミックでスペクタクルな戦闘シーンを鑑賞したい」というモチベーションとなりえるのです。

戦闘シーンに最高のグラフィックを導入することで「もっと派手な戦闘シーンを見たい」という動機を生み出し、その動機のために戦争し、戦争するために内政する……そんなゲーム力学を構築しました。さらに、内政のUIの不快感を取りのぞき、"ごほうびCG"にたどり着くまでの敷居を下げたこともつけくわえておきましょう。

 

艦載機を追随するカメラ。矢印キーでカメラの切替えられる。 能動的に視点を探すことで従軍カメラマン気分を味わえる。
艦載機を追随するカメラ。矢印キーでカメラの切替えられる。
能動的に視点を探すことで従軍カメラマン気分を味わえる。

 


4Xストラテジーの新たなマイルストーン

 

本作は映像美術による動機づけでプレイヤーのモチベーションを明確にしています。さらに、すぐれたUIがプレイヤーをサポートすることで、過去作のメーカーが甘んじて受け入れてきた「4Xストラテジーは難しい」という負のイメージを打ちやぶりました。これは、4X要素に5つ目のX、「エクスペリエンス(eXperience、詳細は弊誌佐々木の記事をごらんください)」をもたらしたとしてもよいでしょう。『Master of Orion 3』の野望はUIの失敗によりついえましたが、本作はUIで宇宙を制しています。

もちろん欠点はあります。戦闘結果が情報不足で予想しにくい、戦闘と惑星以外の演出が乏しく世界設定を想像しにくい、ゲームを中断するとその時点の各国国力を表示するのでカンニングになる、などです。しかし映像とUIに重点を置いた開発の方向性は誤っていません。グラフィックは時の流れとともに陳腐化するでしょう。しかしUIは腐りません。今後発売する4Xストラテジーのそれは、本作と比較されうるでしょう。

『Endless Space』は、ストラテジーファンや宇宙ゲームファンはもちろんのこと、ジャンル未体験のゲーマーに入門用としておすすめです。とくに『Sid Meier's Civilization』シリーズなど既存の有名タイトルで挫折したゲーマーにこそ、本作はおすすめできます。最新技術による美、UIの美、そして宇宙の美が、プレイヤーの審美眼を満足させることでしょう。

 

拡張『Disharmony』のロゴと同じ構図。 筆者お気に入りのスクリーンショット。
拡張『Disharmony』のロゴと同じ構図。
筆者お気に入りのスクリーンショット。

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Hikaru Nomura
Hikaru Nomura

高校卒業後、ペンキ塗り・コンビニバイト・警備員・システムエンジニア・ネットショップの店長などで食いつなぐ。趣味はスーパーカブにまたがってのドライブ、海外SF小説(オールタイムベストは『スキズマトリックス』)、ゲーム実況、たまに同人活動。

宇宙ストラテジーと格闘ゲームを好む。リズムゲームとビジュアルノベルは苦手。FPSは酔う。中段や弾幕は見えない。Arcen Games信者であり、Stardockian(Stardock信者) でもある。英語は苦手だが、気合で翻訳して遊ぶ。

ゲーム大会の最高成績は2013年トライタワー末塔劇『チェンジエアブレード』部門第4位。

オールタイムベストゲームは『ニュースペースオーダー』。

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