『シャリーのアトリエ』 黄昏シリーズ第3弾 華麗なる転身、締め切りからの解放

PS3『シャリーのアトリエ~黄昏の海の錬金術士~』(以下『シャリー』)は、アトリエ「黄昏の大地」シリーズ3作目にあたるタイトルです。開発はみなさんご存知ガスト。発売日7月17日から1週間ほど経過し、そこそこ情報も出つくしてきた印象がありますので、ここに筆を執ります。

なお、本稿執筆段階でのプレイ時間は約60時間。1周目難易度「ハードコア」、2周目難易度「ディスペアー」でクリア済み。ただし、装備やアイテムはある程度吟味しましたが(10時間ほど)理想には程遠い状態であること、プラチナトロフィーは獲得していないことなどはあらかじめご承知おきください。

 


一気に下げられた敷居

 

「近代アトリエ」をPS3『ロロナのアトリエ』以降と定義した場合、本作には決定的な変更点があります。それは、日数制限を撤廃したこと。アトリエシリーズとしては例外の部類に入ります。

『アトリエ』といえば、刻々と・冷酷にめくられるカレンダーからのプレッシャーにつねにおいかけられながら、金銭・経験値・評価などをどう"時間"と交換するのか。その「等価交換」感が妙味でした。しかし、『シャリー』はそこをバッサリと切り捨てています。締め切りの概念はありません。「船を作ろう!」の段になって木材が集まらずバッドエンド、などということもありません。

この変更にはもちろん良し悪しがあります。まず悪い点は、いうまでもなく緊張感がなくなったこと。各章立てでストーリーが展開するためダラダラと進行するわけではありませんが(むしろ近代アトリエと大差ない)、それでもそのユルさは『アトリエ』シリーズに慣れていればいるほど物足りなく感じられるでしょう。たった数日を削るため効率を徹底的に追求する面白さは消滅しました。

その代わりにやってきた良さが「ゆとり」です。『シャリー』はゆったりと遊べるゲームなのです。たったひとつの操作ミスやエンカウントにイラッとしてやり直ししたりする必要はありません。徹頭徹尾、リラックスしてプレイすることが容認されています。

これは3つの点において評価できます。まず、そもそも日付の概念そのものが『アトリエ』慣れしているファンにとっては最終的に形骸化し、ただただ非情なセーブ&ロードを強要するだけの束縛であったこと。そして近代アトリエが延々採用していたので、そろそろ一度変化を入れるべきであろうタイミングであったこと。とどめが、アニメの影響です。

2014年春アニメで『エスカ&ロジーのアトリエ』が放映されていました。アニメの出来は細かいところで良く、個人的にはいろいろとクスリとさせられたのですが、それはさておきアトリエアニメを観て本シリーズに興味を持った者は少なからずいたと思われます。新規層の流入先は、おそらくゲーム『エスカ&ロジー』か、ちょうど新作としてリリースされる『シャリー』かの二択です。前者は若干シビアな味付けで、ゲーム慣れしていない人にはつらいかもしれません。一方『シャリー』にはそんな心配はありません。とにかくプレイタイムさえ重ねればたいていのエンディングは拝めます。

開発陣やパブリッシャーの思惑は知る由もありませんが、とにかく『シャリー』の難度下方修正はこれ以上ない絶妙のタイミングでなされました。マニアにとってはインターミッション、初心者にとっては導入向け。けっして単純な意思決定ではなかったでしょう。しかし私はこれを最大限評価したいと思います。

 

時間に追われない安心感。
時間に追われない安心感。

 


バトルの改善

 

時間制約の概念がなくなり、相対的に重要度が増したのがバトルです。ここでも職人芸が――あるいは適切な軌道修正が光ります。

なにより強調したいのが、全体的にテンポアップしたこと。アーランドシリーズ初弾『ロロナのアトリエ』にあったようなスローモーさはなりをひそめ、各演出がキビキビとしています。『エスカ&ロジー』と比較しても確実に改善されています。今回は近代アトリエと違い延々と採取&バトルを繰り返すことになるだけに、この改善は小さくありません。……とはいえ、後半の攻撃アイテム表現はあいかわらずやや過剰なのですが。

つぎにバランスです。一部例外はありますが、『アトリエ』のバトルといえばとにかく錬金術士のアイテムを徹底的に練りこんで敵にめがけて放りこむものと相場が決まっていました。しかし、本作では相対的に一般キャラクターのスキルが強化されており、普通にプレイするぶんには文句なく活躍してくれます。『黄昏の大地』シリーズ皆勤賞"ウィルベル"の強さは物語上の重要性とあわせてなかなかのインパクトでした。

しかし、そこは熱心なファンを見放したりはしません。最後の最後は錬金術です。すべてをくつがえす破壊力と回復力はアルケミストの手により成ります。時間経過によるエンディングの強制がなくなったため、この求道の間口も広がりました。良いことです。

よりシンプルな部分として、"難しさ"のバランス感覚も絶妙でした。1周目ハードコアはその名に恥じぬハードコアっぷりで、「あなたたちはシリーズファンなんだからこの難度を選んだのだろう、ならばきちんと錬金してから出直したまえ」といわんばかりのボスが数体登場します(ちなみにシリーズにはめずらしくゲームオーバーからのタイトル画面送りもあり)。それでいながら無茶な一点突破を要求してくるのではなく、手持ちの素材から創意工夫すればたいていなんとかなるのです。

さらに特筆すべきは2周目専用難度のディスペアー。クリア後アイテム引き継ぎ自体は近代アトリエのお約束でしたが、そこにあらたな難度をくわえてきました。周回プレイといえばえてして緊張感のないだらだらとしたバトルが続くもの。しかしディスペアーでは最初のザコ敵"食料ウサギ"(ドラクエでいうところのスライムに相当)すらも思わず目が覚めるような戦闘力に設定されています。私のように適当なアイテムしか継承せずに2周目を始めると、きっと地獄をみることでしょう。また、ストーリー上きわめて重要なボスの強さがいささか投げやりな水準に達しており、「2周目だからといってダレさせないぞ」という心意気を感じさせてくれます。

包括的に評価すると、『シャリー』のバトルは近代アトリエの集大成としても過言ではないでしょう。本稿執筆段階ではまだその深奥までもがあばかれたわけではありませんが、それでも「多くのプレイヤーを確実に納得させる」という一点はもはや不動です。あとは、追加コンテンツでやってくる無茶なボスたちがどれくらいの威厳を発揮してくれるか。気になるのはそれくらいです。

 

とくにテンポの良さを強調しておきましょう。この決め技ですら10秒以内です。
とくにテンポの良さを強調しておきましょう。この決め技ですら10秒以内です。

 


錬金システムの進化

 

じつのところ、本作は『エスカ&ロジー』と比較して錬金パートがそれほど大きく変化したわけではありません。日数の制約がなくなったぶん素材の吟味などはしやすくなりましたが、それは本質的ではありあません。近代アトリエに慣れているプレイヤーならば、すんなりと入ってゆけるでしょう。ただしそれでも、繊細な違いが2つあります。キャラクターの違いと、「効力」の意義です。

『シャリー』は、最初に主人公"シャリステラ"と"シャルロッテ"のどちらかを選びます。この点だけでいえば『エスカ&ロジー』と同じなのですが、錬金において微妙な違いがあります。選択キャラによって、調合に使えるスキルが若干違うのです。最終的にはおそらくほぼ大差なくなるとは思われますが、今後研究の余地がまったくないのかというとそれはわかりません。

そして、本作の錬金をあらたなフィールドに持ち上げたのは「効力」です。あっさりと必要十分な「効力」に達していた近代アトリエとは異なり、『シャリー』における「効力」は青天井で限界値は999。詳細は省きますが、この数値を達成するためといっても過言ではない「チェイン」システムが追加されました。

べつにそこまでこだわらなくても簡単にクリアくらいできますが、こだわるのがアトリエ……いえアトリエファンです。あたらしく目の前にぶら下げられた「効力」という名のニンジンめがけて走らせる、なんともにくらしい新要素です。念のため繰り返しますが、マニア向けです。

ただ、上述したように新規のアトリエファンが流入することを考慮すると、さすがに深化しすぎたきらいがあることもたしかです。チュートリアルをぱっと見ただけではなにがなんだかわからないでしょう。チェインについていえば私もわかりませんでした。しかし、それすらも「締め切りをなくす」根治療法で対応しているととらえられます。やはり、『シャリー』のゲームパートは根本的に各要素がかみあい、完成度を高めているのです。

 

にらめっこしはじめると終わらない。ゲーム後半に登場する選択肢の数はこの画像の比ではありません。
にらめっこしはじめると終わらない。ゲーム後半に登場する選択肢の数はこの画像の比ではありません。

 


おそらく完結したストーリー

 

アトリエといえば(たいてい)3作で終わる、そんな傾向があります。であれば『黄昏の大地』シリーズは『シャリー』で完結、ひとまずそうみてよいでしょう。

伏線は大量に残されたままですが、エンディングの段階でとにかく大筋は解決します。『黄昏の大地』が生まれた原因、孤高の錬金術士"キースグリフ"の行動と思想、その他もろもろ。とりあえずけりがついた形です。

ここで評価したいのは、不明点は残されたままとはいえとにかく完結させたという点です。謎につつまれていた『黄昏の大地』の発生原因を非常にシンプルかつ説得力のある形で説明してのけたのは見事というほかありません。3作ともやっていれば、なるほどと膝を打つこと間違いなしです。

キャラの台詞回しなど細部に不満は残りますが、それでも全体をとおしていえば充分に合格点へ達しています。今後新展開になるのか、それとも残った秘密のベールを暴くストーリーを続けるのか、いずれにせよ本作は『黄昏の大地』のゴール地点の物語として認識してよいでしょう。

蛇足ですが、ストーリー上「オートマタ」(automatonの複数形)が重要なキャラクターになることも付け加えておかねばなりません。

 

引き続き重要なポジション、オートマタ。さらに、今回は物語の決まり手のひとつに格上げされています。
引き続き重要なポジション、オートマタ。さらに、今回は物語の決まり手のひとつに格上げされています。

 


ほかが良いからこそ際立つ不満点

 

さて、全体的に出来が良かっただけに目立つアラもあります。

なぜこんなことが起こってしまったのか……。
なぜこんなことが起こってしまったのか……。

まず、フリーズバグ。これは擁護しようがありません。きわめて再現性が高いうえ(安田個人でも7回試して7回発生しました)、その入力が単純極まりないのです。しかも2種類あります。具体的には、「ゲーム中PSボタンからゲームを終了するとフリーズ」・「ゲーム後半のとあるボスを倒してからセーブするとフリーズ」。その後PS3のシステムリカバリが発動します。どうしてこんなバグが残ってしまったのか、皮肉ではなくすこし興味があります。PS3の個体差でしょうか?

ただし、この問題はすでに公式により認識されており、7月26日に修正パッチが配信される予定です。それにしてもこれは若干残念な不具合といわざるをえません。玉に瑕の典型例です。

ラスボスの威厳がないのも問題でした。前作『エスカ&ロジー』では、アニメ版で延々エンディングに登場していた某キャラクターが圧倒的な存在感を放っていました。行動理念・正体・視覚的演出・ゲーム中の強さ・そして杉並児童合唱団を採用したBGM。すべてがあわさり、事実上のラスボスとして立ちふさがったのです。

その点、『シャリー』のラスボスはあまりにも淡白です。『黄昏の大地』の諸悪の根源とすらよべるキャラクターをこんな形で消化してしまうのはもったいないというほかありません。これまたネタバレになってしまうので詳述は避けますが、とにかく「だれこいつ」という感想しか出てこないのです。後ろで私のプレイを観ていた妻ですらがそう言っていたので、たぶん多くのプレイヤが―「だれこいつ」と言ったと推測されます。

そのなかでも一番致命的だったのは、BGMであると考えます。『エスカ&ロジー』のそれとくらべ、あまりにも「一般的なラスボス曲」なのです。黄昏を完結するにふさわしい楽曲だったのか? ひとそれぞれ趣味はあるでしょうが、個人的にはいささか不満が残りました。

そして最後に、周回プレイ時のスキップの遅さです。これはもはや近代アトリエに延々つきまとう呪いのようなものなのでなかばあきらめているのですが、分野によっては90年台からつきつめられているホスピタリティなのですから、そろそろ改善していただきたいところです。たとえば『ヴァルキリープロファイル2』にあった「セレクトボタンでイベントごと全部スキップ」は、もはや周回プレイゲームでは実装必須ではないでしょうか。

 


ガスト20年の集大成

 

『シャリー』限定版にはサントラが同梱されています。そこにはガスト20周年の文字がプリントされています。『マリーのアトリエ』からはや17年……光陰矢のごとしです。

本作は、まさしくガストとアトリエを集約したと評するべき内容です。バグは修正予定ですし、ラスボスは安田の趣味ですし、スキップの遅さはそもそも2周以上しなくてもたいていのプレイはできるので問題ありません。つまるところ、本作には隙らしい隙は見当たらないのです。

2013年度のマイ・GotYに『エスカ&ロジーのアトリエ』をノミネートしたくらい、アトリエシリーズには思い入れがあります。『シャリー』が発表されたのち即座に予約をいれ、Googleカレンダーに発売日を記入し、その後数日「シャリー」と予定を入れていたほどです。実際数日つぶれました。

そう、本作は私の期待に応えてくれました。確実に発生するフリーズという難点すら、「ならPSボタン押さなきゃいいだろ」ソリューションでPS3をつけっぱなしにしたくらいです。それだけの誘引力を秘めていました。

『シャリーのアトリエ』は、ガストの集大成に相違ありません。かつ、アトリエマニアとアトリエ初心者、どちらでもきっと満足できます。

ただし、入門者のかたへひとつだけアドバイスさせてください。それは、「物語が続き物である」ということ。過去作をプレイするのがヘビーすぎるのならば、ネットの海にただようネタバレを漁るか、『エスカ&ロジー』についてはアニメを先に観ることをおすすめします。

 

(画像出典: 『シャリーのアトリエ』公式サイト スクリーンショット

Nobuki Yasuda
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