『Age of Wonders 3』 4X-TBSとシミュレーションRPGを組み合わせた、まったく新しいファンタジー

ファンタジー4X-TBS『Age of Wonders 3』(以降AoW3)が03/31にリリースしました。同じく3月にリリースしたAAAタイトル『Titanfall』『Diablo3: Reaper of Souls』の影に隠れてしまったような印象はありますが、シリーズ最新作として古来からの洋ゲーマーに注目されていたタイトルです。Twitch.tvでプレイ動画を配信したところ普段より多くの視聴者が集まったので、その人気ぶりを実感しました。

 

私のTwitch.tvチャンネルの最大視聴者数をグラフにしたもの。平均は8~10人。
私のTwitch.tvチャンネルの最大視聴者数をグラフにしたもの。平均は8~10人。

 

4X-TBSとは『Sid Meier’s Civilization』シリーズをはじめとするストラテジージャンルの一つです。4XとはExplore(探索) / Expland(入植) / Exploit(拡張) / Exterminate(殲滅) の頭文字。ありていにいえばプレイヤーは国の王様となり、富国強兵に励み、ランダム生成されたマップで他国と覇権を競うというものです。

本作の特徴は、『ロード・オブ・ザ・リング』や『エメラルド・ソード・サーガ』のような壮大で美しいファンタジー世界を舞台に、人間・エルフ・ドワーフ・オーク・アンデッドといったファンタジー作品お馴染みの種族による国家が覇権を競いあい、やがて種族の垣根を超えた連合国になり、大国同士の戦争へと発展していくという叙事詩ファンタジーのような物語を、高いグラフィック品質で表現したところにあります。前作から10年以上経っており技術進歩の恩恵を十分に受けることができた要素と言えるでしょう。

 

『スターウォーズ』しかり、『ロード・オブ・ザ・リング』しかり、『マトリックス』しかり。映像技術の進歩がジャンルに活気をもたらします。
『スターウォーズ』しかり、『ロード・オブ・ザ・リング』しかり、『マトリックス』しかり。映像技術の進歩がジャンルに活気をもたらします。

 

もうひとつの特徴は、シリーズの看板システムである “シミュレーション RPG と 4X-TBS を同時に遊ぶ” そのゲーム性です。前作をご存知でない方のために、その「4X-RPG」と呼ぶにふさわしいジャンルをこれから紹介します。

 


〈探索〉〈入植〉〈拡張〉〈殲滅〉の要素があるロールプレイングゲーム

 

先に 4X-TBS と紹介しましたとおり、ゲーム内容は新しい土地を探索し、新しい都市を建設し、新しい施設・ユニットを開発し、敵国を殲滅する戦略ゲームです。難しそうに聞こえますが、 「部隊を移動させ、都市で生産し、研究内容を決め、最後にターンボタンを押す”」という行程を繰り返すだけです。最近の 4X-TBS と同様、指示が抜けている箇所をナビゲートしてくれるため、慣れないうちはそれに従って操作すればよいでしょう。

 

画面右下の地図の上にニュースが並ぶ。クリックするとまだ指示されていないユニットや都市、研究画面を案内してくれるので、ニュースを処理していればゲームが進む。
画面右下の地図の上にニュースが並ぶ。クリックするとまだ指示されていないユニットや都市、研究画面を案内してくれるので、ニュースを処理していればゲームが進む。

 

戦闘はタクティカルストラテジーです。ヘックス形のフィールドで、敵軍ターン・自軍ターンと交代でユニットを動かし、どちらか全滅するまで戦います。「弓矢や魔法の杖で遠くからダメージを与えたうえで騎兵で側面から攻撃する」といった具合の、ファンタジー世界ならではの部隊戦を楽しめます。

 

距離や障害物といった条件で攻撃力は下がるが、それでも敵から反撃を受けずダメージをあたえるレンジ攻撃は強い。レンジ攻撃で高いダメージを出しつつ、タンクで防御できるようにユニットを動かすのが面白い。
距離や障害物といった条件で攻撃力は下がるが、それでも敵から反撃を受けずダメージをあたえるレンジ攻撃は強い。レンジ攻撃で高いダメージを出しつつ、タンクで防御できるようにユニットを動かすのが面白い。

 

このタクティカルストラテジー戦闘は『AoW』シリーズにかぎらず、20年前にリリースされたファンタジー 4X-TBS の開祖『Master of Magic』を始め、多くのタイトルで採用されています。戦力評価のぶつけあいによる戦闘ではなく、得手不得手あるユニットを組み合わせた部隊を1体づつ操作する戦闘が、多くのストラテジーファンを魅了してきました。

『AoW』シリーズの特徴は、その戦闘ユニットの中に「主人公」「ヒーロー」という特別なユニットが存在することです。マナポイントを消費する呪文や固有スキルを駆使し、敵部隊に大ダメージを与え、自分の部隊をサポートしていきます。それだけでなく、戦闘で得た経験値でレベルアップすると新たなスキルを得ることができるという成長要素があり、作業になりがちな戦闘に喜びを与えてくれます。ダンジョンで敵に勝利したり、中立国から依頼されたクエストを達成することで得たアイテムを装備することもできますので、アイテムドロップへの期待も高まります。

このレベルアップと装備という RPG 要素により、単調なタクティカルストラテジーが、キャラクターに愛着のわくシミュレーション RPG へと昇華しています。

 

レベルアップ画面。ポイントを消費してステータス上昇やスキルをアンロックする。スキルはキャラクターの職業によって決まる。
レベルアップ画面。ポイントを消費してステータス上昇やスキルをアンロックする。スキルはキャラクターの職業によって決まる。

 

クエストでなくとも、モンスターや野党を倒すと時折だがアイテムやユニットを入手できる。
クエストでなくとも、モンスターや野党を倒すと時折だがアイテムやユニットを入手できる。

 

レベルアップによるステータス上昇はコストパフォーマンスが低いので、アイテムによる底上げありがたい。ちなみに、アイテムを装備しても見栄えは変わらない。
レベルアップによるステータス上昇はコストパフォーマンスが低いので、アイテムによる底上げありがたい。ちなみに、アイテムを装備しても見栄えは変わらない。

 

ステージクリア型シミュレーションRPGであれば、損失したユニットの補充や新しいユニットの導入など、いわゆる兵站と呼ばれる部分はストーリーが進展することで自動的に行われます。しかし、このゲームはその兵站を自分で用意しなくてはいけません。予備のユニットを生産し、呪文や新ユニットの研究、そして、それらを運用するためのリソース工面を 4X-TBS としてプレイすることになります。

野党3人に対し2部隊12人を戦闘に参加させ安全を取るも、城壁建設が間に合わず都市の防衛戦で苦戦を強いられるも、王様であるプレイヤーの判断次第です。このように、シミュレーション RPG のストーリーをプレイヤー自身で作るのが『AoW』シリーズの魅力といえるでしょう。

 

『AoW2』と同様、野戦でも攻城戦でも、戦場となったヘクスに隣接した部隊は全て戦闘に参加する。
『AoW2』と同様、野戦でも攻城戦でも、戦場となったヘクスに隣接した部隊は全て戦闘に参加する。

 

数の暴力にさらされた敵国の兵士。主人公やヒーローを除き、極端なユニット性能差は無いので、部隊数が多ければ多いほど有利。
数の暴力にさらされた敵国の兵士。主人公やヒーローを除き、極端なユニット性能差は無いので、部隊数が多ければ多いほど有利。

 


進歩に乗り遅れたゲームデザイン

 

2つのゲームジャンルを同時にプレイするのですから、そのぶん敷居は高いようにみえます。しかしながら、4X-TBS 面の経済力学は ”都市を建て、その支配圏に〈金鉱山〉〈マナノード〉といったリソースパネルを含める” といった単純なしくみであり、税金の調整といったマイクロマネージメントも、都市数増加によるペナルティもなく、4X-TBS初心者がつまづきやすい要素を取り除いた、敷居の低いものとなっています。

 

金鉱山の近くに都市を作るだけでゴールド算出が増える。ゴールドは施設・ユニットの生産や維持費に用いる。滞り無く生産しつづけるため、常に金鉱山を追い求めることになる。
金鉱山の近くに都市を作るだけでゴールド算出が増える。ゴールドは施設・ユニットの生産や維持費に用いる。滞り無く生産しつづけるため、常に金鉱山を追い求めることになる。

 

このゲームデザインは前作『AoW2』をほとんどそのまま継承したものであり、シリーズのファンであれば馴染みのあるものです。無難な選択と言えますが、悪く言えば10年前のゲーム力学をそのままもってきた代物であり、前作から何も進歩が見られないのが気になります。今の 4X-TBS ファンを満足させるほど深みのあるものとは思えないのです。

たとえば、支配圏を作ることでリソースパネルを確保する「要塞」は、都市数増加によるペナルティが無いため都市の下位互換でしかなく存在意義がありません。また、都市で建設できる施設でリソースを増加させる類のものは、現在の都市出力へのパーセントボーナスではなく直接数値のため、リソースパネルとの相乗効果がありません。

シミュレーション RPG 面から 4X-TBS 面への恩恵をあまり感じないのも疑問です。主人公やヒーローがレベルアップで得るスキルは戦闘用が主で、内政用ヒーローとして育てることができません。シミュレーションRPG面では頼りになる大将ですが、4X-TBS面の視点では、手間がかかる戦闘ユニットという位置付けどまりです。

たしかに、より深い都市経済システムや内政用ヒーロの存在など、それらの要素を導入すればゲームデザインが複雑化し敷居を上げることになるでしょう。しかし、経済力学への理解が足りず中盤以降に国家出力で負ける問題と、それを学び、序盤から中盤以降を見越して計画する楽しさは表裏一体です。先を見据えさせないほど底を浅くすることで敷居を下げた結果、前作『AoW2』からの10年間で進歩した4X-TBSジャンルの水準を下回ってしまったのが残念でなりません。

先を見据えさせないことで敷居を下げるゲームデザインはUIにも現れています。たとえば、研究画面はテックツリーが表示されないため”次の、次の研究”を知ることができず、大きな目的をもって研究を進めることができません。この研究画面も前作と同じ仕様ですが、テックツリー表示の導入による改善の余地はあったはずです。

 

前作AoW2と同じレイアウトの研究画面。テックツリーがないので最適解が見つからず、結果、考えることを放棄して、なんでもよくなってくる。
前作AoW2と同じレイアウトの研究画面。テックツリーがないので最適解が見つからず、結果、考えることを放棄して、なんでもよくなってくる。

 

野党との戦闘で目にする交渉画面。選択肢で外交に大きくかかわる国家アライメンドが光側・闇側へと傾くのだが、そんな重要な値なのに交渉画面で現在のアライメント値が表示されない。
野党との戦闘で目にする交渉画面。選択肢で外交に大きくかかわる国家アライメンドが光側・闇側へと傾くのだが、そんな重要な値なのに交渉画面で現在のアライメント値が表示されない。

 

そして、最も顕著にその弊害が現れているのが、ゲーム開始時の主人公選択画面です。種族と職業が表示されますが、その説明に数値の表示が無く、フレーバーテキストにすぎない背景の説明が長々と記されています。確かに背景が豊かであれば感情移入の助けとなりますが、それ以前にゲームとしての情報を概要として表示すべきです。種族の基本ステータス、職業によって入手できるスキル、魔法の素質で入手できる魔法、これらの説明が無いため主人公に適した戦略を立てることができず、たくさん用意された主人公に見た目の違いしか感られません。

 

ゲーム開始時の主人公選択画面。項目にマウスオーバーしても、具体的な有益な概要は表示されない。容姿以外の違いがわかるような情報を提示してほしかった。
ゲーム開始時の主人公選択画面。項目にマウスオーバーしても、具体的な有益な概要は表示されない。容姿以外の違いがわかるような情報を提示してほしかった。

 

「知らないほうが幸せ」という言葉もありますが、その結果、かゆいところに手が届かない不親切なゲームになってしまったのは本末転倒と言えるでしょう。

 


4Xストラテジーが生み出す新しいファンタジー観

 

先の話にあげた 4X-TBS 面の敷居の下げ方が、ゲームの深みや快適さを損なってしまったところは否めませんが、「自分でストーリーを作るシミュレーション RPG」という 4X-RPG 特有の面白さは損なわれておりません。迫る外敵に対し軍備を拡張し、その維持費に逼迫されぬよう金鉱山を追い求めて都市を建設し中立国を侵略していくという、自転車操業の国家運営は楽しいです(マナは余るので、呪文でユニットを量産するのをすすめます)。

戦闘も、種族特性やユニット性能のかみあわせがあり、采配一つ間違えるとユニット損失につながるのが面白いです。しかもそれが、複数部隊を同時投入した大規模な攻城戦で、戦力が拮抗したものであれば、手に汗を握るほど楽しくなります。ハイファンタジーを題材としたタクティカルストラテジーが好きな方であれば、ファンタジー4X-TBS屈指のグラフィック品質でそれをお楽しみいただけることでしょう。

面白いことに、今回紹介した『AoW3』を始め、近年はファンタジー 4X-TBS 豊作の傾向があります。昨年リリースの『Elemental: Fallen Enchantress – Legendary Heroes』は、4X-TBSとシミュレーションRPGを高度に融合させたゲームとして高い評価を受けています。リードデザイナーのデレク・パクストンは『Sid Meier’s Civilization 4: Beyond the Sword』に収録された(世界で一番遊ばれたMODの異名を持つ)ファンタジーMOD『Fall from Heaven 2』のデザイナーですので、ご存知の方もおられるでしょう。

 

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また、今月4月には宇宙 4X-TBS『Endless Space』で好評を得た Amplitude Studios が、ファンタジー 4X-TBS『Endless Legend』のアーリーアクセスを予定しています。勝利条件が変わっており、敵国すべてを滅ぼすという、いわゆる征服勝利がありません。世界が崩壊する前に宇宙へ進出するか、世界の崩壊を食い止めれば勝利となるため、敵国と力を合わせるふりをしつつ出し抜くゲームとなっております。

 

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ファンタジー4X-TBSというジャンルでも、それぞれ切り口が違います。古典『Master of Magic』から20年経った現在、剣と魔法、文明と野生、光と闇という糸が4X-TBSという織り機で編まれ、全く違う模様のタペストリーになったのは興味深いです。ラリィ・ニーヴンが小説『ウォーロックシリーズ』で「枯渇する資源としてのマナ」を発明しファンタジー観を一変させたように、4Xストラテジーという概念が新たなファンタジー観を与えたように思えます。

事実、J-RPGにテックツリーの概念を持ちだしたかのような小説『まおゆう魔王勇者』や、Fall from Heaven 2に歴史偉人MODを追加導入したかのような漫画『ドリフターズ』と、ファンタジー世界に4Xストラテジーという新しい風が吹き込んでいるのは間違いありません。もし興味がございましたら『AoW3』を通じ、この新ファンタジー観を味わってみてください。

 

おっぱい。こういうのあるとやる気が出ます。やっぱり映像の力は偉大です。
おっぱい。こういうのあるとやる気が出ます。やっぱり映像の力は偉大です。
Hikaru Nomura
Hikaru Nomura

高校卒業後、ペンキ塗り・コンビニバイト・警備員・システムエンジニア・ネットショップの店長などで食いつなぐ。趣味はスーパーカブにまたがってのドライブ、海外SF小説(オールタイムベストは『スキズマトリックス』)、ゲーム実況、たまに同人活動。

宇宙ストラテジーと格闘ゲームを好む。リズムゲームとビジュアルノベルは苦手。FPSは酔う。中段や弾幕は見えない。Arcen Games信者であり、Stardockian(Stardock信者) でもある。英語は苦手だが、気合で翻訳して遊ぶ。

ゲーム大会の最高成績は2013年トライタワー末塔劇『チェンジエアブレード』部門第4位。

オールタイムベストゲームは『ニュースペースオーダー』。

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