『Geometry Wars 3: Dimensions』vs.『Waves』 ツインスティックシューターの王座統一戦

『Geometry Wars 3: Dimensions』はシリーズ過去作からネームバリューとプレイフィールを継承する。「ツインスティックシューターの王座」が約束された出来映えだ。

『Geometry Wars 3: Dimensions』はシリーズ過去作からネームバリューとプレイフィールを継承する。「ツインスティックシューターの王座」が約束された出来映えだ。だが、同ジャンルの暫定王者『Waves』がそれに待ったをかけた。

 

geometrywars3c

  • Geometry Wars 3: Dimensions
    発売日: 2014年11月25日
    販売: Activision
    開発: Lucid Games
    価格: 15ドル
    プラットフォーム:PlayStation 3, PlayStation 4, Xbox 360, Xbox ONE, PC(Windows, Mac, Linux)
    なお、日本ではsteamで購入できないが、Gamesplanetでダウンロードコードを購入し、steamでアクティベート可能。
     
  • waves
    Waves
    発売日: 2011年11月16日
    開発: Squid in a box
    価格: 5ドル
    プラットフォーム: PC(Windows, Mac, Linux)

 

 

 

 

 

ツインスティックシューター(またはマルチダイレクショナルシューター)は、左スティックで移動、右スティックで攻撃するトップダウンビューのシューティングゲームをさす。『アステロイド』『サンダーフォース2』『ザンファイン』といった全方位に移動・攻撃できるSTGが、ツインスティックというインタフェースで直感的な攻撃を得たとおもえばよい。

 

geometrywars

このジャンルの看板作は『Geometry Wars: Retro Evolved』だ。発売日は2005年11月22日。XBox360のローンチタイトルで、当時としては珍しいダウンロード専売タイトルであった。そのうえで、高解像度・高フレームレート動作でハード性能をみせつけるとともに、映画『トロン』のようなネオンやブラー、幾何学モチーフを多用したビジュアルが、次世代機に夢見る「未来感」を満たし好評を得た。

 

 

映画『トロン』の影響をあらわす一例として、『Far Cry 3: Blood Dragon』に登場する弓を紹介する。 「”弓は未来ではない”と君は考えるだろう。だからネオンをつけた。ネオンは未来だ。ゆえにこの弓は未来だ」 ネオンは未来のメタファーとして用いられている。
映画『トロン』の影響をあらわす一例として、『Far Cry 3: Blood Dragon』に登場する弓を紹介する。「”弓は未来ではない”と君は考えるだろう。だからネオンをつけた。ネオンは未来だ。ゆえにこの弓は未来だ」ネオンは未来のメタファーとして用いられている。

 

このフランチャイズは2008年『Geometry Wars: Retro Evolved 2』を最後に沈黙し、開発の「Bizarre Creations」は2011年にスタジオを閉鎖した。これにより『Waves』の挑戦を防衛できず、暫定王座の座を与えることとなった。6年ぶりの新作『Geometry Wars 3: Dimensions』は、そのオリジナルスタッフが再結集したことをセールスポイントにしている。

 


正規王者の仕上がり

 

『Geometry Wars 3: Dimensions』のゲームモードは2つある。クラシックモードとアドベンチャーモードだ。それぞれ『Geometry Wars: Retro Evolved 2』と、『Geometry Wars: Galaxies』のギャラクシーモードを継承する。クラシックモードはシリーズファンへのサービスといった位置づけゆえ、本稿では割愛する。

アドベンチャーモードの見どころはステージの一新だ。ステージが平面から曲面となったのだ。具体的には物体の表面で幾何学戦争(Geometry Wars)を繰り広げるのだ。自機移動に同調しステージとなっている物体が回転するため、自機ではなく物体となったステージを操作しているかのような錯覚を生みだすのがおもしろい。この特徴は見栄え・演出だけでなく、ゲームルールも拡張している。従来作は画面端が壁となり逃げ場をうしなったが、物体表面のステージでは新たな次元(Dimension)へ逃げだせるのだ。画面端の排除とひきかえにうまれた「カメラから見えない面」は死角となり、理不尽と感じる突然死をもたらすが、それは退路確保に意識を配分する新たな楽しさともいえる。

 

『キン肉マン』王位争奪編のソルジャーチームvsフェニックスチーム戦を想起させる立方体ステージ。
『キン肉マン』王位争奪編のソルジャーチームvsフェニックスチーム戦を想起させる立方体ステージ。

 

旧作のゲーム性をそのままに、別作品かと見まちがえてしまうような新要素を導入した本作は、シリーズの復活作と呼ぶにふさわしい。しかし、目新しさに慣れてくると、旧作の欠点をそのまま引きつぎ、プレイフィールの改善がなされていない点が気にかかる。『Geometry Wars: Galaxies』のギャラクシーモードからそのまま移植したドローンと、シリーズ作を重ねるごとに低下する自機の火力だ。

ほとんとこれでいい。
ほとんとこれでいい。

アドベンチャーモードで登場するドローンは、さまざまな能力で自機を援護する。しかし、アドベンチャーモードは規定点数に達したら次のステージがアンロックされるルールだ。得点倍率をあげるチップを自動的にあつめるドローンを選択をするのがステージクリアの近道となる。索敵に時間がかかる、または動きが速い敵が大量に出現する、といった一部の例外をのぞき、ドローンを模索する楽しみがうすい。この点は、シリーズ初心者への救済処置と考えればまだ我慢できる。

 

 

しかし、自機の火力低下により爽快感が喪失したのは問題だ。ある種の敵WAVEを全滅させると、一定時間自機のショットが強化される。だが、ステージが物体の表面となり視界がせばまったにもかかわらず、自機ショットは視界外にでると消失してしまうのだ。つまり、ショットの有効射程が狭くなったことで相対的に弾数が減ってしまい、爽快感の喪失へとつながった。本作が、逃げながら自機を追う敵を攻撃する、いわゆる「引き撃ち」しつづけるゲーム展開なのは過去作とかわらない。弾数が減り火力が下がった分、その引き撃ちで生き延びる時間も短くなってしまった。もちろん、YouTubeで動画投稿するようなトッププレイヤーにあわせた調整といえばそれまでだが、その調整で「難しくておもしろい」なったならまだしも、9年前の『Geometry Wars: Retro Evolved』と比較すると爽快感が喪失し、難しいだけのゲームとなったようにみえる。

 

『Geometry Wars: Retro Evolved』との比較。物体ステージが狭い視界を生み出し、ショットの射程が短くなった。 それに対し、ショットの発射間隔に大きな違いはなく、画面に残るショット数が減った。自機がパワーダウンしたように感じる。
『Geometry Wars: Retro Evolved』との比較。物体ステージが狭い視界を生み出し、ショットの射程が短くなった。それに対し、ショットの発射間隔に大きな違いはなく、画面に残るショット数が減った。自機がパワーダウンしたように感じる。

 


暫定王者たる理由

 

ここで暫定王者の『Waves』を紹介する。奇しくも、先にあげた『Geometry Wars』シリーズの開発「Bizarre Creations」がスタジオを閉鎖した年に発売した本作は、『Geometry Wars』の後継者としてツインスティックシューターのファンに受け入れられた。その件について開発は苦い思いをしているようだが、トロンのようなビジュアルで、かつ同じジャンルゆえ致し方ないといえよう。

 

『Geometry Wars: Retro Evolved 2』に準拠したゲームモードをもち、敵パターンも似たものが多い。 steamストアページにプレイフィールの違いを明記していないため、クローンゲームとして見落とされているかもしれない。
『Geometry Wars: Retro Evolved 2』に準拠したゲームモードをもち、敵パターンも似たものが多い。steamストアページにプレイフィールの違いを明記していないため、クローンゲームとして見落とされているかもしれない。

 

しかし、本作が後継者としての評判を勝ち得たのは、見た目や発売時期といった表面的な要素だけではない。『Geometry Wars』シリーズのプレイフィールを改善したからだ。積極的に敵へと向かう攻撃的なスタイルは、『Geometry Wars』で延々と引き撃ちを強いられたファンのフラストレーションを解消した。

 

窮地をスローモーションでねばり、ボンバーで一掃する。 このカタルシスと得点システムが中毒性を生みだした。
窮地をスローモーションでねばり、ボンバーで一掃する。このカタルシスと得点システムが中毒性を生みだした。

本作の特徴に「コンボ」がある。敵を3体すばやく破壊すると得点の倍率があがり、破壊できなければ倍率は1倍に戻る。そして、ここからが重要だ。倍率が10倍になると自機周囲の敵を一掃する「ボンバー」が装填される。つまり、敵を30体すばやく破壊すればボンバーが使用できるのだ。プレイヤーの観点から説明すると、敵が30体いそうな場所にめがけて突撃し破壊すれば、自機を追う敵はボンバーで一掃できる。そしてボンバーで倒した敵もコンボとしてカウントされるため、次のボンバー装填のためのコンボがはじまる。しかし、コンボが途切れるとボンバーも途切れてしまう。自機周囲の敵は先のボンバーで一掃している。ゆえに、あらたな敵の密集地にむけて突撃し、コンボを継続してボンバーが装填される条件を満たすのだ。この窮地に活路を見いだす攻略は、STGにあかるいゲーマーなら『サイヴァリア・リヴィジョン』を想起するだろう。

さらに、敵に向かう攻撃的なスタイルを後押しする2つの要素がある。自機周囲の得点倍率が2倍になる点と、ゲージ消費で使用できるスローモーションが発動中に得点倍率が2倍になる点だ。これを組み合わせると、敵に突撃して肉薄し、スローモーション中にショットやボンバーで大量撃破すれば高得点を得ることができる。これは本作の遊びかたと正しくマッチした得点システムといえよう。

本作の欠点をあげるなら、BGMの少なさだ。曲数が少ないのもあるが、本作の、闘争心をかきたてる攻撃的な内容にみあうアップテンポのBGMが1曲しかなく、その曲も3分で終わる。自分でBGMを変更できるなら、筆者はBizarre Creations閉鎖時にサウンド制作会社が公開した「Geometry Wars Retro Evolved 2 – Megamix」にするだろう。ハイテンポなゲームにはアップテンポなBGMがふさわしい。

 


勝敗は判定にゆだねられた

 

視覚表現やBGM曲数、マルチプレイの種類といった違いはあるが、2作を決定的に隔てているのはプレイフィールだ。敵に追い詰められないよう壁を取り除いた『Geometry Wars 3: Dimensions』に対し、『Waves』は敵に追い詰められないよう自分から敵を撃破する。両者ともトロンのようなビジュアルのツインスティックシューターで同じようにみえるが、プレイヤーが得る体験は正反対となっている。

『Geometry Wars 3: Dimensions』の物体上で戦う視覚表現はとてもクールだ。2D格闘ゲームにおいて『ストリートファイター4』がもたらした「見栄えの新しさ」に近い。しかし、もし、あなたが『Geometry Wars: Retro Evolved』から数えて9年もこのジャンルをプレイしており、プレイフィ-ルの変わり映えなさに落胆しているなら『Waves』を手にとることをおすすめする。もちろん、これは優れているのはどちらかという話でなく、プレイヤーの嗜好にあわせたゲームがあるという話だ。本稿をきっかけに、この2作を吟味していただければ幸いだ。自分にあっていそうなタイトルをプレイしてもいいが、両方遊んで比較してもいいだろう。

 

 

superverse

余談だが、ツインスティックシューターの前段階にあたる全方位STG『アステロイド』を、色濃く受け継いだ『SUPERVERSE』が本年リリース予定だ。ポリゴンの先祖にあたるベクタースキャンをもちいた『アステロイド』は1979年にリリースされた。そこから36年の時を経てビジュアルや演出だけでなく、プレイフィールの進化をまのあたりにする機会といえよう。筆者は期待している。

Hikaru Nomura
Hikaru Nomura

高校卒業後、ペンキ塗り・コンビニバイト・警備員・システムエンジニア・ネットショップの店長などで食いつなぐ。趣味はスーパーカブにまたがってのドライブ、海外SF小説(オールタイムベストは『スキズマトリックス』)、ゲーム実況、たまに同人活動。

宇宙ストラテジーと格闘ゲームを好む。リズムゲームとビジュアルノベルは苦手。FPSは酔う。中段や弾幕は見えない。Arcen Games信者であり、Stardockian(Stardock信者) でもある。英語は苦手だが、気合で翻訳して遊ぶ。

ゲーム大会の最高成績は2013年トライタワー末塔劇『チェンジエアブレード』部門第4位。

オールタイムベストゲームは『ニュースペースオーダー』。

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