『Enter the Gungeon』レビュー ――いままでに撃った銃弾の数を覚えているか?

『Enter the Gungeon』は表題のとおり銃だらけのゲームで、忘れていた古い夢を、もうこれ以上はいらないくらい完全に、叶えてくれる。開発元はDodge Roll。リリース日は4月5日で、執筆時点での価格はSteamにて14.99ドル。PS4でも発売されている(日本語版は4月20日)。

さまざまなビデオゲームに銃が横溢している理由はいろいろあるが、そのうちのひとつは、子供のころに割りばしと輪ゴムでまにあわせていた、人々の「銃を撃つ」という古くからの夢を叶えさせてくれることだろう。『Enter the Gungeon』は表題のとおり銃だらけのゲームで、忘れていた古い夢を、もうこれ以上はいらないくらい完全に、叶えてくれる。開発元はDodge Roll。リリース日は4月5日で、執筆時点での価格はSteamにて14.99ドル。PS4でも発売されている。

この記事のなかでという言葉を何回使うことになるかわからないが、本作における銃に関連したアイテムやグラフィックの数より少ないことは確かだ。そもそも名前が「ダンジョン」ではない。「ガンジョン」である。二言はない。開発者たちは真顔で名付けたのだろう。

物語としては、忌まわしい過去をもつ四名のキャラクターが、「ガンジョン」の奥深くに眠っているという「過去を始末する銃」を手に入れるために深部へと向かうというもの。彼らが「ガンジョン」に挑むことになった経緯は、(銃を撃つのに忙しすぎて)あまり頻繁には語られない。

プレイヤーは任意のキャラクターを選択して「ガンジョン」に潜り、『The Binding of Isaac』シリーズめいた見下ろし型のランダム生成マップのなかで、弾幕STG的な砲弾の嵐に身をさらすことになる。ソルジャーはトランシーバーで弾薬を要請でき、ハンターはクロスボウを最初から持っている。パイロットはピッキングツールを所持しているし、プリゾナーは銃身を詰めたショットガンを持っている。各キャラクターに操作性の違いはない。

筆者はキーボードとマウスでプレイした。キーバインドは単純であり、ソフトウェアそのものが原因で入力遅延が発生することは万に一つもない。断言するが、このアクションゲームにおいて操作するキャラクターが死んでしまうのはすべてプレイヤーの責任である。本作のすばらしい操作性については、ここで字数を費やすより実際に体験してもらうべきだろう。ようするに、マウスカーソルで照準を合わせ、左クリックで撃てばいい。

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このゲームでは撃つのとおなじくらい避けることが肝要だ。部屋のなかにはテーブルが配置されていて、これをひっくり返して一時的なカバーとする。動きながら右クリックをすれば、その方向にむかってドッジロールを行い、一秒に満たない短いあいだだけ無敵効果を得られる。どうしても避けきれないと悟ったら、デフォルト設定でQキーを押せば「ブランク」というアイテムを消費し、画面上の弾幕をすべて一掃する。

以上の回避策をうまく使いこなしても、フロアあたり一発か二発の弾をくらうのは間違いない。それくらいで済めば、まだいい。最初のフロアをクリアするまでそれなりの時間がかかり、次のフロアはさらに時間がかかる。難易度は上がっていく。しかし飽きがこないのは、周回プレイを重ねるたびに少しずつ自分がうまくなっていく感覚と、上手くなったことに対するゲームからの褒賞がとてもいいバランスで保たれているからだ。たとえば、一度もダメージを受けずにフロアのボスを倒せば、体力のコンテナがひとつ増える。より先へと進めるようになり、回復アイテムを買わずに済み、そのぶん銃につぎ込める。やればやるほどアンロックされていく新たな銃、「ガンジョン」の内部で出会うさまざまなキャラクター達、そして快適な操作性が相まって、気がつけば週末の日が暮れていく。パブリッシャーのDevolver DigitalがTwitterでとりあげた、Steamにおける秀逸なユーザーレビューが、本作のすべてを表現しているといっても過言ではない。

“このゲームはおれのセックスライフのようだ。いちばんはじめにやったときは長くもたなかったので、何度も何度もくりかえし励んだ、そしていまだに長くはもたない。”

この強力な周回プレイ性を決定づけるものはなにか? これもまた銃である。プレイを続けるうち、どうしても新しい銃が見たくなるのだ。本作における「銃」の定義は現実のそれより広く、「それを握って人差し指を引けば、筒からなにかが発射されるもの」程度の括りでしかない。新しい銃を手に入れるとまず試し撃ちをするのだが、発射されるのは豆鉄砲、雪玉、枕、Tシャツ、封筒、蟻、蜂、にわとりの卵(敵に当たると孵化する)、ボンバーマン的な爆弾、ユニコーンの角から発射される虹、NESの光線銃から発射される鴨(完全にNESの『Duck Hunt』)など混沌をきわめている――もちろんふつうの弾丸を放つまじめな銃も登場するが。

強調しておきたいのは、すべての銃に長所と短所があり、思考停止してひたすら撃っていればいいという一挺が存在しないことだ。ザコを一掃するのに役立っていた銃が、フロアボスの弾幕パターンのためにまったく役に立たなくなり、あわてて持ち替えたべつの銃に慣れようとしているうちに何度も被弾してしまう――なんてこともよく起こる。強い銃が存在するのではなく、あくまでも銃を使いこなすプレイヤーの技術が問題なのであり、そのことを理解しているプレイヤーは心地よい口惜しさに後押しされてクイックリスタートを繰り返すことになる。

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いったい何が開発陣をそこまでこだわらせたのかはわからないが、本作のアイテム、グラフィック、ストーリーはかなりの割合で銃に関連している。体力回復アイテムのハートは赤い弾丸だし、宝箱を開ける鍵は灰色の弾丸だし、前述のアイテム「ブランク」は青い弾丸である。ザコ敵は基本的に弾丸だし、すべてのボスの攻撃手段は銃である。物語の根幹にかかわる「過去を始末する銃」も銃で、それを手に入れるためにプレイヤーが駆使するのも銃で、フロア移動のためのエレベーターは内部がくり抜かれた巨大な弾丸であり、ショップで使える通貨の単位も弾丸である。

この執念じみたこだわりようについては何と言っていいかわからないが、とにかく何でもいいから銃に関連させておけという大味なアートディレクションがそれなりの功を上げているのは確かだ。全体としてプレイヤーは「ガンジョン」にいるのであり、さまざまな銃を手に入れたうえで、謎めいた「過去を始末する銃」を手に入れなければならない。しつこく繰り返される銃のモチーフはそのことを強く意識させる。バリエーションを増やすためだろう、ローブを着た魔法使いやスライムなども敵として登場するが、そのあたりの「まあ、魔法とかがあればカラフルだし、スライムは銃は撃たないんじゃないかな」的な大味さも愛嬌があり、批難されるほどでもない。

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『Enter the Gungeon』はとても丁寧に作りこまれたアクションゲームで、見下ろし型2Dローグライクにおけるひとつの達成だ。秀逸なピクセルアートや、雰囲気をよく掴んだ自然な日本語訳、周回プレイを推奨するさまざまな要素などによって、万人にその面白さが伝わるようにできている。この記事のなかで銃という言葉を何回使ったか数える気も起きないが、筆者が本作で銃を撃った回数の1 / 1000にも満たないのは確かである。

Syohei Fujita
Syohei Fujita

5歳の誕生日に『ポケットモンスター』の『緑』を買ってもらった時から、ビデオゲームは私と共にありました。煎じ詰めればじつに単純なインタラクティビティと光の明滅に、なぜ我々はここまで驚喜することができるのか?この興味深い問いを少しずつ解き明かしていくつもりです。……もちろん普通のレビューも書きます。なんにせよ、すべてのコンテンツは受け手が自分の人生を忘れるために作られますが、驚くべき豊かな未来において、ビデオゲームはその目的を完全に達成すると思います。

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