ファーストインプレッション『Dinner Date』-不快感を満喫する

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[PLAYISM よりゲームソフトの提供を受けています]

PLAYISM で配信中のインディーゲームのインプレッションをお届けします。毎週火曜更新予定。

4本目の今回は『Dinner Date』です。タイトルの通りディナーのデートがテーマとなっています(後述)。開発はオランダはユトレヒト芸術大学文学修士号持ちの Jeroen D. Stout 氏による STOUT GAMES。同大学は(私を含め)あまり日本人には馴染みがないかもしれませんが、ゲームも含めた総合的なアート教育をほどこしているようです

プレイ時間: 約30分間
プレイ状況: 1周プレイ

 

話をしよう。
話をしよう。

 

内容を語る前に、そもそもなぜ私がこのタイトルに関心をもったのかについて。それは、辛辣きわまる怨嗟の声が内外から聞こえてきたからです。内側からは UnFreeMan を筆頭に思いとどまるよう"忠告"がありました。いわく、「なんかのセールで2ドルくらいで買ったんですがそれでもだいぶ笑えない感じだった」など。ロマンチックです。

非常に興味深かったのが GAME LIFE 誌に掲載されていた批評です。コンパクトかつ的確にゲーム内容をまとめつつ、

「捨て身のジョークだとしても大して笑えない」
「(『The Graveyard』や『Dear Esther』とくらべて)中身がないだけでなく二番煎じですらあり、本当に一発ギャグにしかなっていない」
「もしうっかりこの作品に興味を抱いてしまってもYouTubeで済ますべき」

と酷評しています。なるほど、じつに興味深い。

 

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『Dinner Date』はいわゆるところの映像作品であり、非ゲームの一つです。プレイヤーはスタート直後から、デートの約束をすっぽかされた27歳男性"ジュリアン・ルクセンブルク"の潜在意識となり「一人称」を追体験することになります。といっても劇的な展開はなく、ひたすらに愚痴や妄想のたぐいを並べ立てられるだけです。

プレイヤーがゲームに介入できる要素はきわめて少なく、特定のキーを押すことで時計を見る・パンを食べる・酒を飲むといったアクションを起こせるのみ。ストーリーのフラグは特定のアクションを起こすことで立ちますが、提示される選択肢は少ないため基本的に総当りで、パズル的な要素も一切ありません。

 

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さて、「アートだから」の免罪符1つですべてを容認すべきか? という議論があります。ここはじつに繊細かつ複雑なところで、私は今のところ結論を出すに至っていません。そもそもこの手のゲームをあまり数こなしていないというのが大きな理由です。

ひとまず、『Dinner Date』は"ゲーム"を期待してプレイすべきでないことだけは確かです。なぜなら内容はほとんど動かない一人称視点でのインタラクトと、それと並行し進む妄想と不平不満の物語だけだからです。待つだけゲーといえば最近『WAITING IN LINE 3D』が瞬間最大風速的にはやりましたが、あちらと違って数値的なものはもちろんありません。

ただ、存外本作は"ゲーム"しています。というのは『The Graveyard』が純粋に「移動」しかなかった作品であるのに対し、『Dinner Date』には(結果は変わらないとはいえ)複数の選択肢が用意されプレイヤーは任意にチョイスすることができます。墓場 VS デートの非ゲーム頂上決戦を執り行うとすれば『The Graveyard』に軍配を上げてしかるべきでしょう。

 

選択肢は多いようで少ない。 ちなみにスープは飲む必要なし。
選択肢は多いようで少ない。

ちなみにスープは飲む必要なし。

 

『Dinne Date』は VR ジュリアン空間です。しかし、本質はそこにありません。本作のコアは「ジュリアンの不快さ」にあります。

ジュリアンは27歳独身男性にふさわしいというべきか、逆に未発達というべきか、終始稚拙な想像を続けます。デートをすっぽかされた事実を受け入れるのか否かすら曖昧にし、いらつきの矛先を職場や住居などわけのわからない方向へ向けます。そもそもデートの場所に選んだのが豪奢と間逆な自宅で、しかも途中には「こんな家すぐに出て行ってやる」といった主旨の脳内発言すら飛び出します。とんだ矛盾なのですが、"彼"はきっとそれに気づいていません。

また、思考だけでなく行動もいちいち幼稚です。"Dinner"とは名ばかりで用意しているのはパンとスープとワインだけ。しかもワインにいたってはスクリューキャップです。価値観はそれぞれですが、渾身のデートに選んだとなるとよほどのこだわりがあるか無知かの二択で、きっと後者です。これはきっと STOUT GAMES の狙っているところでしょう。また、ワンシーンでは喫煙し、しかも灰を窓の外に落とし、さらにはワインボトルに吸い殻を捨てます(フラグを立たせるため強制)。プレイしていて不快感しか覚えません。

そう。本作の中核は「不快さ」にあります。それはジュリアンの行動に端を発するものであると同時に、プレイヤー自身の古傷をえぐるものでもあります。ゆえに、こうした後ろめたく残念な体験をしたことがなければ、「不快さ」を存分に味わうことはできません。

不快感を満喫し不愉快になるゲーム。それが『Dinner Date』です。ゲームは楽しくなる必要性もまた、ありません。

 

異性を呼ぶ場所ではないですね。
異性を呼ぶ場所ではないですね。

 

例えるべきかどうか少し自信が持てませんが、本作は広義の恋愛シミュレーションゲームです。気合を入れた(つもりの)デートにすっぽかされるサイドに回ったシーンだけにフォーカスした仮想戦闘といえます。

恋愛 SLG を大きく2つに分類するとすれば、主人公(=プレイヤーキャラ)の個性の有無に境界線があります。「恋愛」をシミュレートするならばどちらかといえば没個性のほうが望ましいでしょう。個性的な一人称のフィルターを通して見える視界はゲーマーに架空の恋愛すら与えません。真の意味で世界に没入することだけが求められます。

そして言うまでもなくジュリアンには個性があります。圧倒的な不快感の波を発生させ、プレイする者すべてに投げかける装置。それが『Dinner Date』という存在なのです。

 

時計を見る。 ロールプレイ的には必須です。
時計を見る。

ロールプレイ的には必須です。

 

不快さを魅力としてとらえる行為は異常ではありません。奇しくも私はちょうど『ライ麦畑でつかまえて』を読了したところだったのですが、非常に近しい性質を感じ取りました。同作の主人公は退学処分を食らった16歳。読み進めるにしたがって、堕落した素行や退廃的な思想、幼い誇張表現、そして『Dinner Date』にもあった疎外感などが読者に襲いかかります。

残念ながら『Dinner Date』が『The Catcher in the Rye』に比肩するとは思えません。ただ、方向が微妙に似たコンテンツなのです。「何をやっているんだろう俺(私)は」と受け取り手に感じさせ、考えさせる。規模にも品質にも差はあれど、つまりはそういう作品です。限界まで拡大解釈すれば、これもまた私の嫌いな言葉で言うところの"Narrative"というやつでしょう。

 

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ギミックとしての『Dinner Date』はそれなりの工夫がなされており、キー押下時のモーションは違和感がない程度にテンポがよく、また物語自体もほぼ小気味良く流れていきます。ゲームらしい部分で面白かったのは、Esc キーを押した際の効果音。なかなか洒落ています。また、多ヶ国語にも対応しており、「装置」としての意気込みは充分感じられます。

ただし、ではその「装置」のクオリティがいかがか? となると疑問符がつきます。まず大問題なのがグラフィックス。比較されがちな『The Graveyard』や『Dear Esther』のスクリーンショットを見比べると一目瞭然で、"映像"の側面でやや劣ると評価せざるをえません。とはいえ、そういった古さも味のうちなのですが。

もう1つ、微妙なところなのですが「装置」としてのジュリアンにも合格点は与えたくありません。こちらはもしかするとオリジナルの英語版と日本語訳とで印象が変わってしまっているのかもしれませんが(例: 900bpm → アップテンポの)、不快さ発生マシーンであるジュリアンの生々しさや息遣いがやや遠くにあるよう感じられました。どうせ妄想を聞かされるならもっとグロテスクでえげつない内容を体験したかったのです。

 

『Dinner Date』のキーアイテム「ワイン」。
『Dinner Date』のキーアイテム「ワイン」。

 

ところで、本作の紹介には以下の一節があります。

『Dinner Date』では、ワインを飲みながらプレイすることをオススメします。
ジュリアンはアルゼンチン・メルロー産のOtra Vidaのボトルを買いました。
これは、日常から離れたひと時を提供してくれる、フレッシュなワインです。
ぜひ、お近くの酒屋さんでお尋ねください。

こうしたテキストを目にするたびに「本当にそんなことするやついるのか?」とひねくれ者の私は考えてしまうのですが、幸いなことに自宅にワインセラーがあるので挑戦することにしました。残念ながら(当然ながら)同じ銘柄は見つかりませんでしたが、

 

こうですか!?わかりません!
こうですか!?わかりません!

 

まあつまるところ、そういうことです。酒を飲めばたいていのゲームは楽しくなります。ただし背徳の味になりますが。私が生きた証拠です。

PLAYISM での価格は480円。『The Graveyard』の Steam 価格が4.99USD であることを考慮すると順当でしょう。もし興味がわいたならば、ぜひセットで手にとっていただきたいところです。けっして"実況"プレイなどを観て満足してはなりません。それでは"実況"とやらをしている方の「一人称」を通すことになってしまいます。それではきっと480円にはなりません。『Dinner Date』はそのようなゲームなのです。覚悟してください。

 

プレゼントのおしらせ(終了)

最後に、読者の皆さまへプレゼントです。

本記事に言及する Tweet をしてくださった方のなかから1名様へ本作の PLAYISM 用コードをさしあげます。@GamersGeoJP (注: 本アカウントは@AUTOMATONJapanへ変更されています)をフォローしていただいた上で、ご応募の旨と弊誌 URL を明記しつぶやいてください。「もう持っているけど布教用にもう1つ欲しい」「『The Graveyard』っぽいのが好きだ」「とにかく虚無的な風情さえ堪能できればそれで満足だ」等、一番いいツイートをしてくださった方にお渡しします。締め切りは12月15日です。当選者の発表はコードの配信をもって代えさせていただきま す。

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