『D&D SoM』 VS 『ドラゴンズクラウン』 – ベルトスクロールACT2作の相違点
今夏、ある2つのタイトルがリリースされました。7月25日にPS3/Vita『ドラゴンズクラウン』(以下『ドラクラ』)、8月22日にPS3『ダンジョンズ&ドラゴンズ ―ミスタラ英雄戦記―』。両者ともにベルトスクロールアクションに属します。ただの偶然か示し合わせたことなのかは外様にはわかりませんが、同ジャンルにおいて稀代の名作と期待の新作がほぼ同時期に発売されたのです。
ヴァニラウェア代表取締役にしてデザイナーである神谷盛治氏は、かつてカプコンで『Dungeons & Dragons: Tower of Doom』の製作にもかかわった人物。他誌インタビューではかつてアーケードを席巻したカプコン製名作ベルトアクションを意識したことをにじませていました。
しかし、ほぼ同時に世に出たタイトルながら、決定的な違いが2点あります。そりゃあ17年も前のゲームと比べたら……という向きもあるでしょう。その通りです。それでも、「ベルトスクロールアクションの楽しさとはなんぞや」という問に立ち向かう際、絶対に避けては通れない相違なのです。
[以下、『ミスタラ英雄戦記』については筆者が『Dungeon&Dragons Shadow over Mystara』(以下『SoM』)を主にプレイしていたため、そちらを前提とします]
Y軸の扱い – ベルトゲーそもそも論
ベルトスクロールアクションを名乗る作品の多くは、ある1つの暗黙のルールを遵守してきました。それは、「Y軸(縦方向)の移動はままならなく、そして効果的である」というものです。古くは『くにおくん』シリーズ、そしてベルトスクロールの金字塔にして後に多大なる影響を与えた『ファイナルファイト』、あらゆるタイトルに当てはまります。
「Y軸をずらして攻撃する」というスタイルはベルトスクロールの原理です。敵の攻撃は通常X軸方向、つまり横に強く正面からの接近を許さず、縦からのアプローチを求めてきます。『イース』シリーズ”半キャラずらし”のようなものです。逆にいえば、敵の攻撃が縦方向に広がるものは例外であり、プレイヤーに求められる基本的な立ち回りから外れるということです。
『SoM』は完全にこのルールに則っていました。いうなれば古典的ベルトゲーです。比較的多いプレイアブルキャラや、スキル・アイテムから生まれる独特のパターン化などはありましたが、それらは根幹を強化するスパイスであり、原理原則を無視するものではありませんでした。縦をズラして攻撃する。ベルトスクロールの常識に、アイテムで一気に敵ライフを奪い去る爽快感や、スキルでボス敵すら文字通り無力化する全能感などが交わり、『SoM』は傑作の領域へ到達しました。
一方、『ドラクラ』はベルトスクロールの構文から完全に逸脱しています。レバー入力でのY軸移動は多少伝統的な”重さ”があるものの、攻撃を避けるための地味かつ重要な行動ではありません。『ドラクラ』における接敵や回避はおもに「イヴェイド(いわゆる緊急回避、ノーコスト)」で行われます。
映像がリッチすぎて軸がどうとか把握していられないという問題もありますが、それ以上にそもそもY軸移動の価値が低いのです。まず第1に、敵の攻撃判定が縦横に広いことが多々あること。第2に、イヴェイドが自由自在なタイミングでであらゆる方向に移動できるため、わざわざ細かな軸ずらしをする必要がないこと。これら2つの理由により、本作は繊細な移動で敵の攻撃を見切るという性質が失われました。
代わりに用意されたのが、イヴェイドにより発生する無敵時間です。さらに、敵攻撃を引きつけてから避ければさらに無敵状態が延びます。ようするに、敵のモーションを観察して喰らう瞬間に回避ボタンを押すゲームになったのです。
こうしたメカニズムは、ベルトアクションのそれではありません。どちらかといえば現代3D アクションに近いものがあります。つまり、『ドラクラ』は「奥行きが制限されていてベルトスクロール風に見える3Dアクション」なのです。
とはいえ、こうしたルールは決して珍しくはありません。現行機でも、Xbox360/PS3『スコット・ピルグリムVS.ザ・ワールド: ザ・ゲーム』や『Castle Crashers』もどちらかといえばY軸を軽視する傾向がありました。結局のところ、カプコン製ベルトゲーが20世紀に創造した「常識」が徐々に変質しつつあるだけなのです。ただし、それが「ベルトアクションゲーム」という一大ジャンルをさらなる高みへと到達させる進化なのかどうかは、筆者には判断しかねます。
マルチプレイ – 新旧対決
個人の趣味趣向は無視しましょう。さて、もう1つの重大な違いであるマルチプレイ。こちらは結論だけ先に言えば、『ドラクラ』が圧倒的に高品質でした。
ドロップイン・アウトに対応しているのはどちらも同じです。ただし、そのクオリティの差は歴然としています。もともとプレイヤーの参加と離脱の”シームレス感”を求めていた『ドラクラ』はほぼ成功したと評しても過言ではないでしょう。多少のカクつきが発生して「あ、誰か入ってきたな」と感じる程度で不快ではありません。
部屋に入るという点においては『SoM』もいい線をいっており、ほぼ互角です。しかし、退出にかかる仕様がひどすぎました。『ドラクラ』が気軽にいつでもどこでも(いわゆるRage Quitも含む)止められるのに一方、『SoM』は他のプレイヤーに大きな負の影響を与えつつ強引に切り上げるかクリアしきるしかありませんでした。さらに、10月1日のアップデートで修正される前までは「コンティニュー画面では退出できない」という目に余る仕様でした。
これはマルチプレイのマッチングの部分だけを切り出して議論しても無意味かもしれません。なぜなら、20年近くも前に生まれた『SoM』はプリミティブなアーケードゲームとしての複数人数プレイが設計されている他方、『ドラクラ』はまず現代的なマルチプレイありきのゲームに仕立て上げられているからです。
かつてアーケードシーンで輝いていた『SoM』はソロプレイが原則で、対面でのマルチプレイができる環境はそれほど整っていませんでした。もちろんマルチはマルチで素晴らしく楽しいのですが、「いきなり知らない人が乱入してくるので一緒に楽しもう」というスタンスではありません(ちなみに99年のセガ『SPIKEOUT』はそれができます)。また、ゲーム自体もプリミティブなアーケードゲームのシビアさを踏襲しており、そもそも途中乱入すること自体がゲームを破綻させるリスクさえありました。
そのような内容をそのまま「移植」してしまうとどうなるか。初心者はベルトアクションに秘められしY軸の妙味やパターン化の奥深さを知ることはできず、コンティニューを連打するしかありません。ゲーム自体が難しい上に意思疎通の手段がほぼ無いため、上級者は初心者救済・引率することもできません。これでは面白みが伝播しようがないでしょう。途中乱入した部屋で、呪いの剣1を連コインしながら解呪している様子を見て(呪いの剣1は特定回数振ることで伝説の剣となるが、ランダムでダメージを受ける)、「ああ。このゲームのネットワークマルチプレイは成立していないのだ」と痛感しました。
つまるところ、『ミスタラ英雄戦記』のマルチプレイはすでにアーケード版をやりこんでいたファン向けになっていたのです。ゲームシステムやバランスについては、現代的なマッチングやマルチプレイを想定した調整はほとんどなされていません。「わかる人が集まればとても楽しめるが、初心者が混じるとゲームが壊れかねない」。こうした味付けはけっして歓迎されたものではありません。
『ドラクラ』は違います。まずゲームの根幹部分にハック&スラッシュ的なアイテムハントとレベルやスキル振りなどの成長要素を据えることにより、参加と退出の敷居を下げています。また、面クリア型でありながら「1面から順番にクリアしてゆき最終的にラスボスを倒す」ようなよくあるアーケードスタイルではなく、「面をクリアすれば一区切り。連続してプレイすればボーナス」という設計を採用することで、プレイヤーは心地よく長時間プレイすることができるようになっています。
他者が参加するメリットをなるべく大きく、逆に退出するデメリットをなるべく小さく。プレイヤーがオンラインへ繰り出すにあたり、ひとまずぶつかるであろう精神的障壁を限りなく薄く低くしようと腐心した形跡が『ドラクラ』には見受けられます。
一期一会の精神が求められるのはこの手の協力ゲームには共通しています。しかし、あまりにも高尚で高潔すぎる精神をプレイヤーに強制する仕組みは褒められたものではありません。ゲーム部分の面白さは別として、マルチプレイ設計は完全に『ドラクラ』に軍配が上がります。なお、直近のアップデートでPS3/Vita間のクロスプラットフォームに対応し、さらに品質が向上しました。……とはいえ、「それは最初から対応しておけよ」と突っ込まれても致し方のない部分ではありますが。
「ベルトアクション」として
『SoM』と『ドラクラ』は「ジャンル: ベルトアクション」としてひとくくりにされがちです。しかしその中身は大きく異なります。ざっくりと要約すると
- ・『SoM』は伝統的ベルトアクション。ただしマルチの設計はゲームシステムと相まって微妙。
- ・『ドラクラ』はベルトアクション風の3Dアクション。マルチプレイは良好。
です。筆者自身もベルトアクションゲームのファンですので、『ドラクラ』にはイグニション時代からずっと期待していました。ただ、いざ蓋を開けてみたら中身はほとんどベルトアクションではありませんでした。しかしマルチの具合がなかなかよろしかったのでこれはこれでよし、と前向きに受け止めることができたのです。
オールドゲーマーが『ドラクラ』をプレイしたらその大雑把なゲーム性に呆れるかもしれません。一方、次世代を担うゲーマーが『SoM』をプレイしたらやもするとシビアすぎると感じられる内容にげんなりするかもしれません。それは仕方のないことなのです。じつは両作は、見た目よりはるかに「違うゲーム」なのですから。
(画像はすべて Amazon.co.jp より [1][2])
[ご参考]
弊誌ライター UnFreeMan がかつて自身のブログで『ドラクラ』のインプレッションを執筆しております。マルチプレイをしていない段階での感想ではありますが、内容的には正鵠を射ておりますので、未プレイの方はぜひご参照ください。
ドラゴンズクラウン 感想 – ゲヱム日々是徒然
http://unfreeman.hatenablog.com/entry/2013/08/12/230148