『Captain Forever Remix』レビュー アニメのつづきは空想で。「クーソーしてから寝てください」を再現する新作シューティング
土曜の朝のテレビアニメで想像をかき立てられた子供たちが、空想の宇宙を大冒険する。『Captain Forever Remix』はそんな稚気あふれる極彩色と愉快な見栄えの中に、豊かなプレイフィールをもつ新作シューティングゲームだ。キーボードで宇宙船を操縦しながら、同時にマウスで宇宙船を設計する。別ジャンルの操作をキーボードとマウスで二分し、直感的なユーザインタフェースとレスポンスを実現した。
本作の特徴は、この独創的な操作系がつくるプレイフィールと、それをひきたてるアートワークだ。子供たちのごっこ遊びがつくりだす宇宙は、空想とアニメとゲームが同心円上にあった幼少期の記憶を呼び起こす。説明よりも印象強い共感をもって、新感触に親しみやすさをもたらし、プレイ体験を補完した。
『Captain Forever Remix』
開発元: Pixelsaurus Games
発売日: 2016年6月4日
価格: 14.99ドル
プラットフォーム: PC(Windows/Mac/Linux)
タイトルにリミックスとあるとおり、本作にはオリジナルゲームが存在する。元の『Captain Forever』は2009年に公開されたフリーゲームだ。本作の開発元はEA系スタジオから独立した開発者たちで、オリジナルの制作者を含んでいない。両者の関係はリミックス化のライセンス契約のみとなる。
リミックスという言葉が意味する「再編集」の範囲はさまざまだ。本作のケースでは、積極的に新しい価値を付加する、広義の意味にあたる。オリジナルのゲーム設計はそのまま、映像・音楽といったアートワークを強化し、さらに、オリジナルが流通品レベルの品質となるには欠けていたピースを加えてゲームを完成させた。旧作に光を当てつつ、新作としてプレイに値するリミックスの好例だ。
つくって、こわして、またつける。ビルディング&シューティングゲーム
本作の大筋は避けて・撃って・壊すシューティングゲームである。それと同時に、パーツを集めて、強い宇宙船をつくるビルディングゲームでもある。この2要素をキーボードとマウスに分け、同時にプレイさせたのが本作の正体だ。
プレイヤー本体はCFと書かれたコアブロックで、WASDで旋回と前進後退、スペースバーでビームを撃つ。このキーボード操作はコアブロックだけでなく、エンジン、砲台など、マウスドラッグで船体にとりつけたパーツも連動する。重量・推力バランスの狂いや、船体をまきこむ火線といった設計ミスにも正直に反応し、ただ「つける」だけでは正しく機能しない。敵との戦闘や戦利品の回収でパーツが増減すると、まっすぐ飛ばすだけでも難しくなる。
ビルディングゲームは設計とテストを繰り返し実用性を高める行程が魅力だ。本作はこのトライアルアンドエラーをそのままゲームにした。設計中でも宇宙船を操縦でき、直感的に調整箇所がわかるのだ。案ずるより産むが易し、簡単にある程度のモノがつくれる―― だが、次の敵船がやってくるので、操縦しながら設計をつづけることとなる。キーボードとマウスで各操作を分け、設計・テスト・実用を同時にこなすプレイを許容した。
2つの操作系に割り当てられたゲームが相補する、シンプルながら強力なゲーム設計だ。ビルディングゲームには時間制限やパーツ整理を、シューティングゲームには状況に応じた機体の構築や応急処置を加えている。また、宙にうかぶパーツを船体で押して運ぶ。パージしたパーツをマウス操作で敵前方に投げる。など、操作系が可能性を発想させる「遊び幅の余裕」もある。ジャンルが融合しつつも個性を残す独創的なプレイフィールを、お祭り感あふれるアートワークで強調し、ハチャメチャという雰囲気で肯定した。
太陽が凍ったワケは、ママがエアコンつけてくれないから
本作のプレイフィールを象徴するアートワークこそが、リミックス化の最大の貢献だ。カートゥーン調の敵キャラクター。背景にうかぶ愉快な太陽系。レゴブロックのように規格化されたカラフルなパーツ。これらは、キャプテンフォーエヴァー=姉ナタリーと、キングケヴィン=弟ケヴィンが描く、現実と空想の壁が曖昧な子供たちの宇宙である。オープニングからエンディングまでつづくふたりのやりとりは、想像力豊かなゲーマーに幼少期を思い出させる。
前章にあげた独創的なプレイフィールは、元の『Captain Forever』で確立されたものだ。オリジナルの制作者は続編を開発していたが、そのプレイフィールに適した雰囲気をつかめずにいた。リミックスの開発者もその点に苦心していたようで、様子が公式ブログに記してある。
リミックス化の方針がつかめず、悶々とキャラクター案を羅列するスケッチブック。その脈絡のなさから子供の落書きを想起した開発者は、その落書きの源泉が「土曜の朝のアニメに出るキャラクターたちをつかった創作」であることを思い出した。このやりとりを経て完成した最初のイメージイラストは、本作に欠けていたピースの具現化そのものである。アニメ版「キャプテン・フューチャー」OPテーマ「夢の舟乗り」の歌詞そのまま、大人になると失ってしまう夢の空を想起する。幼少期の空想経験の共感を、オリジナルに欠けていたコンテンツとしたのだ。
映像のディティールから伝わるメタフィクションが、カラフルでデフォルメが効いたパーツとその設計に、時空を越えた共感をもたらしている。新しさを懐かしさでつつみ、操作の混乱といった不快感をとりのぞく。といった点でも成功したが、雰囲気とプレイフィールの合わせ技はオリジナルにはないプレイ体験を生みだした。それはゲームを通じた子供だった頃の追体験だ。ナムコのTV-CM「クーソーしてから寝てください」にあるような空想経験をもつゲーマーは、甘く、切ない記憶を掘り起こされることだろう。
キャプテンフォーエヴァーと恐怖の宇宙大王ケヴィン
『Captain Forever Remix』はオリジナルの持ち味をそのままに、新たな価値を付与し、製品化に成功したリミックスの好例だ。独創的なプレイフィールに、幼少期の記憶という共感を後付けし、新しさと懐かしさが混在する強烈なプレイ体験をもたらしている。
設計・テスト・実用を一画面につめこんだ濃密なプレイが、マウスとキーボードを同時につかうだけで堪能できる。設計ひとつで宇宙船の性能は大きく変わり、砲撃戦から白兵戦まで戦い方はさまざまだ。単純な操作系とルール群から数多くのシチュエーションがうまれ、遊びの発想を許容する。このプレイフィールを愉快なアートワークとメタフィクションをもって補完し、説明を越えた共感で本日のレトロゲーム愛好の本質、「思い出の追体験」に昇華した。
そのプレイ体験こそが、本作序章で述べた製品化のピースである。キャプテンフォーエヴァー、キングケヴィン、プレイヤーの3者が共有する空想経験は、アメリカのアニメ番組帯「サタデーモーニングカートゥーン」という文化からうまれた。2016年現在終了ゆえ、追悼の哀愁も含んだリスペクトを感じ取れる。
こうした思い出がアメリカ特有のものでないのは、ニチアサキッズタイムをはじめとする数多くのアニメタイムをすごした日本の子供たち(と大きなお友達)ならば自明であろう。『ラクガキショータイム』を想起する本作のハチャメチャなお祭り感に、奇抜さではなく馴染み深さを覚えたなら迷わず手に取られたし。子供の頃は空を飛べたゲーマーにおくる、未体験なのに懐かしい新作シューティングゲームだ。