きれいなディアブロ
『Diablo3』が発売されてから1年と少し、先日は拡張パック『Reaper of Souls』も発表され、コンシューマ版(日本語版も後日発売!)も発売されました。そんな中、『Diablo3』とはどんなゲームであったのか、その一側面について言及します。
まず、本稿で扱うのは PC 版『Diablo3』 Patch1.08 であることをご了承ください。価格は $59.99 (公式販売)、PC 版については日本語版が存在しないため、北米版を英語でプレイすることになります。 2012年発売と比較的新しいゲームにもかかわらず、要求スペックはかなり余裕を持った感じです。後期のCore2 Duoであれば、ビデオカードも安価なものでしっかり動きます。筆者含め何人かは「Dia3 出たら PC 買い換える貯金」をしていましたが、よい意味で裏切られました。
英語でプレイしなければならないのでハードルが高いと思われるかもしれませんが、最低限のプレイに必要な英語は、非常にわかりやすい単語だけです。 「Strength」や「Armor」がわかれば、あとはなんとなく流れでプレイできます。シナリオの英語やスキル説明に関しても、辞書を片手に単語を引 きながら読み解いていけば、十分に理解できる範囲です。『Diablo』 『Diablo2』をプレイした方であれば、ストーリーもなんとなくわかります。ああこいつか、と。
白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋しき
パーティープレイは非常に「快適」です。戦果であるドロップは各個人ごとに表示されるため、取り合いになることはありません。パーティーメンバーの ところへは、街にある Flag に触れれば、ボス部屋以外どこにいようと飛ばしてもらえます。また、回復スキル・サポートスキルがメインのクラスがないため、全員が攻撃役として参加する ことになります。
しかし、「このクラスはパーティーを組んだ時はこのように立ちまわって~」等の要素は、恐ろしいほど感じられません。せいぜい、「あのキャラ(クラ スですらない!)は硬いからとりあえず壁にして攻撃しよう」程度のスタンスでも問題なくプレイできてしまいます。サポートスキルもあるにはありますが、装 備が固まってきたパーティーのプレイでは「だからどうした」というレベルです。
重要なのはただ一点、各プレイヤーがそれぞれ最大の火力を発揮し、敵をどれだけ早く溶かしてゆくか。つまり、『Diablo2』で延々メフィストや バールを回している状態となんら変わりがありません。ボスはそこそこ硬いので、瞬殺具合は薄まりましたが。 Paladin の Aura や、Necromancer の Curse のような「他プレイヤーに気を使って状況を見て使うサポート」要素も、存在はするものの、存在感はかなり薄まっています。「このゲームは『World of Warcraft』ではない、『Diablo』だ」とでも言わんばかりです。
確かにゲームの仕様は非常によくできています。細かい部分の快適さや、クライアントの出来という意味では、今までプレイしたゲームの中でも別格で す。Authenticator の存在は少しの手間で大きな安心感を与えてくれますし、先述の通り動作環境も厳しくなく、1世代前のスペックで問題なく動きます。設定項目も、必要な設定 項目はひと通り揃っています。ゲーム情報はいつもどおり公式サイト内で大量に掲載されています。しかも今回はキャラクター情報が公開できるため、ビルドの 参考には事欠きません。ビルドは装備を買うコストで変えられるため、少し王道から外して気軽に楽しむこともできます。地面に落ちているゴールドを前作まで はポチポチとクリックして拾っていましたが、今作は近づくだけで手に入ります。
では肝心のゲーム内容はどうかというと、「今までの『Diablo』そのもの」としか言いようがありません。ある程度ランダム生成される同じような 風景のステージを無限に周回し、ボスを消し飛ばしてドロップを漁り、トレードし、また周回します。クラスごとに立ち回りの変化がありますが、スキルや装備 の細かい部分まで定まっている、カツカツなビルドはあまりありません。主力を決めて、そこにどう肉付けするかといった感じです。細かい部分のスキルや Rune のセッティングは柔軟性があり、そこから装備の方向性にも関わってきます。
しかも、スキルは Lv によってアンロックされるため、「振り間違えたからキャラを作りなおす」などという面倒なことをする必要はありませんし、「このスキルってどんなスキルだ ろう?」や、「ここにスキルがあるじゃろ?これとこのスキルを……」ということも気軽にできます。成長もランダム性は全くなく、全裸で同じレベルとスキル のキャラが並べば、必ず同じステータスになります。
ここから読み取ることができる、『Diablo3』の方向性として強く打ち出されているものは、「徹底的にムダや面倒を省く」ことです。装備とスキ ルを付け替えるだけで、ありとあらゆるビルドへと移行できます。ネタビルドや最初の育成がきついビルドでも、何十時間もかけてキャラを最初から作る必要は ありません。「装備?AH で買えばよろしい。PT プレイ?気にせず入って自分の好きなように、気の向くままに回ればよろしい。」確かに効率的で素晴らしいですが、果たしてムダなことや面倒なことは、排除 すべき悪なのでしょうか。
プレイ時間を長くとることができない、効率的なプレイがしたい。間違いなく筆者はそちら側の人間です。しかしこれはちょっとやりすぎではないか、あ まりにも綺麗すぎる、そんな思いもあります。Hardcore の場合多少状況は変わってきますが、根底に抱える問題をすべてクリアする代替案とにはなり得ません。
Paragon Level や Hellfire Ring、クラフト品も、最終目標としてプレイヤーの大多数が長い時間プレイを続けるに足るほど魅力的かというと、必ずしもそうとは言い切れません。 Paragon Level が上昇しようとステータス上昇値は容赦なく一定であり、Hellfire Ring を装備するよりも火力を乗せるRingにしたほうが快適になり、クラフト品は理論値までの道のりこそ長いものの、「そこそこ使える」レベルであればそこま で時間はかかりません。
これは完全に筆者の主観ですが、『Diablo3』はハック&スラッシュではなく、ハック&ハックだと思っています。高度に洗練された隙のないゲー ムバランスや、緻密に組み上げられたパーティー内の連携などは他タイトルに譲り、ひたすら自分の内面に解を求めるような側面を持っていると強く感じていま す。自分のプレイスタイルにもとづいて、自分なりの最適解を求める楽しみがあります。もちろんパッチによって強ビルドが一夜にして転落する可能性もありま すが、ありがたいことに最初からキャラを作り直す必要はありません。
金 金 金! 騎士として はずかしくないのか!
GDC 2013で「失敗だった」との発言があったりと、なにかと物議をかもした Auction House ですが、筆者は非常に気に入っています。ドル決済の RMAH についても同様です。理由は非常にシンプルで、『Diablo2』発売から12年経ち、当時学生だった筆者も、今では通勤片道1時間半の身です。一日のプ レイ時間からゲームの寿命を見積もる必要があり、ゲームにかけられるリソースも少なくなりつつあります。他方、現金ならある程度の自由が効きます。ゲーム をしゃぶりつくすために現金が使えるのであれば、時間よりも現金の投入を望みます。
では具体的にいくらなのか。執筆中の「ものすごいざっくりしたレート」は、大体1ドルあたり 25M ゴールドといったところです。直接ドルとゴールドを交換するか、宝石をドルで買いゴールドへと換金するか、実際に購入する場合はその時効率のよい方を選び ます。決済方法によってドル円のレートも異なりますが、数千円分のゴールドで、とりあえず Inferno 入りしても生きのびることができる装備一式が揃います。しかも、公式サービスであるが故に、現金が絡む場合に避けられない、詐欺のようなトラブルに遭遇す る確率は非常に低くなります。
筆者自身が今装備しているものを、自力のみで手に入れようとするのは、筆者のプレイ時間では不可能でしょう。ゴールドでのトレードも、前提となる資 産が必要になります。やはり、筆者のプレイ時間では同程度の装備にはなりません。しかし、RMAH に月数千円注ぎ込めば、時間の余裕があるフレンドに置いてきぼりにされることもなく、ボイスチャットでダラダラとだべりながら快適で楽しいゲームプレイが できるのです。そう、たとえそこでドロップしたアイテムがゴミであろうとも。
とはいえ、無節操に買っても面白くありません。現在のキャラスペックと手持ちの金額、出品されている品から最適な投資先を導きます。サブディスプレイで、Twitchの配信を追いかけ、先駆者のビルドを探り、フォーラムを周り、消化し取り入れていきます。プレイ時間は圧縮され、平日1日2~3時間でもそれなりのスペックの、自分が作り上げたキャラを所有できます。
AH周りのすべてが無味乾燥な荒野かというと、必ずしもそうではありません。人間がやることですから、やはり「面白いもの」が生まれることもありま す。とりあえずフレンドとノリで装備一式買ったら 100M 単位でゴールドが消えていたなど日常茶飯事です。しかもそういう時にかぎってビルドの「練り」が足りなくてイマイチ感が溢れだしたりします。DPS が2万ぐらい上がる Skorn をちょっと奮発して購入したけど、やっぱりカエルちゃんには勝てなかったよ……だったりとか、そもそも Life Steal つけ忘れたとか。徹夜で狩りまくった後に、目標の部位とは違う部位のセットアイテムに入札してしまって途方に暮れるフレンドの姿もありました。ああ、やっ と見つけたと思って入札したらもっと安くて性能のいいものが表示されていたこともあります。ここでふと思い立って「一体いくらパッケージ以外で Blizzard の経営に貢献したのか」を軽く計算してみました。
これは月額支払のゲームこれは月額支払のゲームこれは月額支払のゲームこれは月額支払のゲームこれは月額支払
自己催眠も終わったところで、レシートメールを取りまとめて計算してみましたが、$130 と思ったより使っていません。妻曰く「ガチャ2ヶ月分」。某オンラインゲーム等で「ちょっと見たい部分がある装備」を手に入れるためにそれなりの額を注ぎ 込んでいた時のことを考えると、めまいがするレベルです。ペース的には月に $20 を半年ほど、何かちょっとスイッチが入っちゃった月に追加で $10 支払った記憶があります。主な投資先はソロで MP 6~7がちょうどいい難易度の Witch Doctor と、パーティーでそこそこ回ったり走ったりことができる Barbarian です。投資額は2013年春~夏頃の相場観で一部位 100M 程度です。
拡張パックとその後に向けて
スキルの増加、装備の増加、クラスの増加。そして『Diablo2』でもあったような、ゲームの根幹を揺さぶるパッチ。2007年に Activision Blizzard となった後も、『Diablo3』発売直前の2009年まで『Diablo2』のパッチをリリースしていたこともあり、また、『Diablo2』と違い、 『Diablo3』は RMAH の取引手数料が Blizzard に利益を生み出しています。これにより、引き続き継続したアップデートが望める息の長いタイトルになるのではないでしょうか。
現在の課題は決して少なくありませんし、根深い問題も多く抱えています。しかし、だからこそ、この後どのようにアップデートしていくか、拡張パックはどうなるのか。周辺事態も含め、長い目で見ていくべきでしょう。我々プレイヤー全員が「終わった」と言ってしまったら、本当に『Diablo3』は死んでしまうのですから。