『Battlestation: Harbinger』レビュー 「FTLの子供たち」の養育費

宇宙艦隊RPG『Battlestation: Harbinger』はFTLライクの艦隊育成シミュレーションだ。ハックアンドスラッシュであり、ひたすら戦闘・強化をくりかえす。『Battlestation: Harbinger』は、戦略・戦術・強化を強固に結びつけ、高い中毒性をうみだした。

宇宙艦隊RPG『Battlestation: Harbinger』はFTLライクの艦隊育成シミュレーションだ。ハックアンドスラッシュであり、ひたすら戦闘・強化をくりかえす。操作量勝負を廃した艦隊戦。成長のよろこびを凝縮した艦船設計。その単純なルールが単調な反復作業に陥らぬよう、戦略を加えた点も見どころだ。逃げ回り、罠にはめ、勝てるときだけ戦うその姿は、小説「羅生門」を想起するほどシリアスなサバイバルである。戦略・戦術・強化を強固に結びつけ、高い中毒性をうみだした。

battlestation-harbinger-review-001Battlestation: Harbinger Extended Edition
開発元: Bugbyte Ltd.
プラットフォーム: PC(Windows/Mac/Linux)
発売日: 2016年2月25日
価格: 9.99ドル

本作はモバイルゲーム『Battlestation』シリーズ3作目を、Kickstarterで拡張したPC版にあたる。ゲーム内容の把握に役立つ背景を概要で紹介しておく。時は未来。所は宇宙。太陽系を超えて領土を広げる人類と、異星人国家との間で、外交が成立し衝突は避けられた。しかし、水面下の緊張は高まり、地球は敵対国家の奇襲をうける。それをからくも撃退したのが、人類最後の砦、宇宙基地バトルステーションだ。1作目・2作目はこの宇宙基地を防衛するタワーディフェンス(以下、TD)だが、今作はおもむきを大きく変えた。強襲偵察艦隊の提督となり、敵勢力圏で拠点発見・撃破のため、銀河を探索するのだ。

本作を語る上で、フォロー元『FTL: Faster Than Light』(以下、FTL)ははずせない。2012年9月に発売し、ローグライク・宇宙ゲーム市場は活気づいた。以降、『FTL』をフォローするゲームはあとをたたず、猫も杓子も名にあげるありさまは「FTLライク」という新興ジャンルである。本作はその流行にうまくあやかりつつも、独創的なコンセプトをもってプレイ体験を別のものとした。

 

ボトムアップ型コンセプト

『FTL』との相違点をあげれば、FTLライクの紹介は手短に済む。宇宙を舞台としたゲーム展開で、表層の類似点は多い。星系から星系へ移動し、艦隊同士で戦闘する構成だ。しかし、移動にまつわる物資の消費がなく、生存・探索といったローグライク要素が薄い。この違いは奇をてらったものではなく、本作のルーツを由来とする。

画像左: 移動パート。移動先の星系と、ワープアウトする位置を決めてジャンプする。 画像右: 戦闘パート。リアルタイム制ストラテジー。基本的には移動と戦闘のくりかえし。『FTL』のように移動先での選択式イベントはない。
画像左: 移動パート。移動先の星系と、ワープアウトする位置を決めてジャンプする。
画像右: 戦闘パート。リアルタイム制ストラテジー。基本的には移動と戦闘のくりかえし。『FTL』のように移動先での選択式イベントはない。

Battlestationシリーズはモバイルゲームからはじまった。1作目『Battlestation: Classic』は2014年5月公開。Androidのフリーゲームだ。内容はTD。宇宙基地の砲台を武装し、敵WAVEを撃退する。その評判をみてコンテンツを追加したのが2作目『Battlestation: First Contact』だ。同年10月、Android/iOSで発売。全5面構成で、1面は無料。以降は課金購入(1面3ドル、全面セットで6ドル)の基本無料モデルを採用する。こうしてゲームエンジンの開発とマネタイズを平行し、2015年8月、3作目『Battlestation: Harbinger』にたどりついた。

前作『Battlestation: First Contact』。敵WAVEを撃退するTD。研究方針をきめて時間経過で新武器をアンロックしたり、クレジットで艦船を購入もできる。エンジンだけでなくUIやBGM、アートワークを本作に継承した。
前作『Battlestation: First Contact』。敵WAVEを撃退するTD。研究方針をきめて時間経過で新武器をアンロックしたり、クレジットで艦船を購入もできる。エンジンだけでなくUIやBGM、アートワークを本作に継承した。

シリーズのラインアップは本作の開発工程そのものだ。注目と資金をFTLファンから借りた「FTLの子供たち」が、カネの出所どおりFTLの亜種を目指したなら、それはトップダウン型コンセプトである。対して、前作のTDを延長し、固定式の宇宙基地を可動式の艦船に置き換えたところから設計がスタートした本作は、ボトムアップ型コンセプトだ。ローグライク要素が薄いのは、本作のプレイ体験が艦隊戦ストラテジーを核とするゆえである。

 

タワーディフェンス&艦隊育成シミュレーション

『Battlestation: Harbinger』の戦闘パート、艦隊戦ストラテジーはとっつきやすいルールだ。砲台のかたまり「艦船」を適切な位置に動かすだけでよい。向かってくる敵WAVEに対処するのではなく、自分から敵艦隊に向かうという違いはあるが、砲台の自動攻撃にまかせる点はTDの延長にある。戦闘後はその報酬で砲台の数を増やし、砲台そのものを改良し、そして砲台の土台となる艦船を購入する。この行程もTDの延長だ。こうして、戦闘・強化のハックアンドスラッシュを通じ、自分の艦隊を設計・育成するのが本作の醍醐味である。

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伝統的な形状の艦船とTDの相性はよい。平面に砲台スロットを配置でき、背景・UI・ルールが一致している。これは「ユニット設計」として多くジャンルが採用しており、枚挙にいとまがないため割愛する(代表例として『Starsector』をあげておく)。砲台の攻撃属性や射程を考え、実戦値が高い艦船をつくるのは愉快だ。本作はその点でぬかりなく、実に多数の種類を用意してある。対シールドのエネルギー弾、対船体の実弾、シールド貫通のミサイル。艦載機や対空砲、レーザーやトラクタービーム、そしてもちろん、イオンキャノンや核ミサイルもだ。

艦船設計。赤の八角形は360度旋回する主砲スロット。青の六角形は射角がある対空用副砲スロット。緑の丸型は艦載機スロット。艦船そのものに経験値はなく、砲台を個別にアップグレードする(画面右下)。
艦船設計。赤の八角形は360度旋回する主砲スロット。青の六角形は射角がある対空用副砲スロット。緑の丸型は艦載機スロット。艦船そのものに経験値はなく、砲台を個別にアップグレードする(画面右下)。

本作の特色は、それら砲台を個別に改良する方法にある。砲台の購入や、艦船の修理・購入はスクラップを支払う。それに対し、砲台の命中率や発射数、射程の改良はアップグレードポイントを支払う。どちらも戦闘や、後述する任務の報酬で入手するのだが、アップグレードポイントを手にする機会は少ない。強力な砲台をつけるまで温存するか、序盤から改良するか、悩ましい選択がある。

貴重なアップグレードポイントで改良した砲台には愛着がわく。ゆえに撃沈したときの喪失感は相当なものとなる。このロスト要素を艦船ではなく砲台とし、艦隊内で交換可能としたことで、フレキシブルな設計をもたらした。艦隊編成の自由度を損なわず育成要素を両立し、ハックアンドスラッシュのよろこびを約束する。

 

逃げて、あざむき、強者を喰らう生存戦略

本作の目玉は自分の艦隊をつくる行程だ。強力な艦隊で敵を蹂躙するのは愉悦だ。そこにいたる過程に苦労があれば、満足感はより大きなものとなる。この過程だが、コース料理のようなレベルデザインではない。敵戦力はこちらを大きく上回り、見境なく戦っていては命が足りないのだ。おおくのタクティカルストラテジーが戦場の敵をどう攻略するかという戦術に注力するなか、本作は撤退や鬼謀に重点をおき、それらより高い次元の「戦略」を用意した。

移動画面で敵拠点撃破の作戦を立案中。ワープアウトする場所を任意で決定できるので、こちらの得意な距離を選ぼう。なお、移動はターン制で、自軍・敵軍の艦隊が同時に動く。移動した敵の出現場所はランダムなので要注意。
移動画面で敵拠点撃破の作戦を立案中。ワープアウトする場所を任意で決定できるので、こちらの得意な距離を選ぼう。なお、移動はターン制で、自軍・敵軍の艦隊が同時に動く。移動した敵の出現場所はランダムなので要注意。

ゲーム展開は大きく分けてふたつある。艦隊戦ストラテジーの戦闘と、自・敵艦隊が同時に移動するターン制の星系マップ移動だ。そしてフォロー元『FTL』のように、戦闘中、ワープゲージがたまればいつでも星系移動できる。敵が追撃することもあるが、星系移動時、戦闘フィールドの任意地点を選べるので、距離の仕切り直しができる。逃走ではなく戦術的撤退というやつである。

この戦術的撤退が有利となるよう、強烈なしかけを用意した。マップ上に点在する、人類の宇宙基地がそれだ。無数の砲台と強固な装甲をもつ要塞で、ここに敵を誘い込めば戦力で逆転できる。また、艦船の無料修理、不要な砲台の売却、報酬が大きい任務の受諾をできる戦略拠点でもある。これを基軸に戦術的撤退で勝てる状況をつくる行程が、「勝つか死ぬか」しかない単調さを廃し、艦隊戦ストラテジーを引き立てている。

敵に追撃させ、宇宙基地を盾にする図。移動と戦術的撤退をくりかえし、敵の数を削りながら艦隊を育成しよう。マップ深部の探索は拠点となる宇宙基地を目標とすればよい。
敵に追撃させ、宇宙基地を盾にする図。移動と戦術的撤退をくりかえし、敵の数を削りながら艦隊を育成しよう。マップ深部の探索は拠点となる宇宙基地を目標とすればよい。
救難信号で周囲の星系から敵艦隊をおびき寄せる図。宇宙基地でまとめて迎撃するもよし、手薄となった敵星系に進軍するもよし。
救難信号で周囲の星系から敵艦隊をおびき寄せる図。宇宙基地でまとめて迎撃するもよし、手薄となった敵星系に進軍するもよし。

戦術的撤退だけでなく、敵撃破時に入手する救難信号アイテムがあれば、周囲星系の敵艦隊をおびき寄せることもできる。また、マップに点在する傭兵を雇い、所定の星系まで連れていき、そこを拠点とすることもできる。こうした行程で移動のたびに物資を消費しては、戦略で得る優位より損失が上回る。ゆえに、本作は移動にまつわる物資の消費がない。つまるところ星系マップはローグライクの舞台ではなく、戦略地図なのだ。

 

練磨不足か、攻略要素か

本作のボトムアップ型コンセプトは見事に成功している。戦略・戦術・育成が強固に融合し、単純なルールながら単調な作業におちいっていない。こうした設計と、不快感がないユーザインタフェースが高い中毒性をうみだした。惜しいのは、その中毒プレイに耐えうるほどの中身がない点だ。そこにいたるまでプレイヤーを誘導する攻略要素が、底の浅さにつながっている。

問題は艦船・砲台をはじめとするゲーム内コンテンツにある。明確な最適解がすぐに見つかるのだ。艦載機が有能すぎて空母しか生存権がなく、他の艦種がつかえない。敵を撃破するだけで強力な武装が手に入り、宇宙基地での購入に意味がない。強力な艦船をいつでも購入できるため、艦船の選択に悩めない。これらは結果だけあげれば練磨不足だが、その発見は「攻略」である。プレイ動機の維持に役立ち、高いリプレイ性を実際にリプレイで体験させるしくみにもなる。だが、コンテンツ間の相互作用がなく、発見の先にある学習にはいたっていない。

対空砲が弱いものもあるが、艦載機がとにかく有用だ。敵小型機に対処ができ、ミサイルも迎撃し、砲撃戦での弾よけにもなる。その結果、艦船をすべて空母種にし、艦載機を優先して改良する育成しかできない。
対空砲が弱いものもあるが、艦載機がとにかく有用だ。敵小型機に対処ができ、ミサイルも迎撃し、砲撃戦での弾よけにもなる。その結果、艦船をすべて空母種にし、艦載機を優先して改良する育成しかできない。
プレイ回数を経て強力な艦船がアンロックできる。この仕様は不評で、スタジオは「アンロック速度をあげる」と回答した。アンロック式ではなく、プレイ中に困難な任務を達成して入手する「探索の報酬」なら、なお良いのだが。
プレイ回数を経て強力な艦船がアンロックできる。この仕様は不評で、スタジオは「アンロック速度をあげる」と回答した。アンロック式ではなく、プレイ中に困難な任務を達成して入手する「探索の報酬」なら、なお良いのだが。

本作の攻略要素がそういった発見のみにとどまったのは残念でならない。リプレイ性をもちながらも、そのプレイ体験をおさめた器の底が浅すぎる。さらに、プレイ回数を稼ぐアンロック要素がそれを無理強いし、本作がもつ輝きを目にする前にうんざりさせられる。具体的には、真面目に2時間プレイするより、難度ハードで10分ほど自爆をくりかえしたほうが、新たな艦種をはやく手にできるのだ。

本作の訴求対象がハードコア層であるなら、練磨不足を攻略要素とする手法は最善ではない。しかし、モバイルゲームを主戦場とするカジュアル層には適している。このわかりやすさでストアレビューを得て、Android版を1万本以上販売した。その評判とユーザーの支持が、Kickstarter企画の成功につながっている。

 

低予算開発のあたらしいモデル

『Battlestation: Harbinger』は小粒ながらやみつきになるFTLライクだ。羅生門めいたみじめなサバイバルが、ハックアンドスラッシュの戦闘・強化に強烈な動機をもたらした。コンテンツの練磨不足、特に自爆を良しとするアンロック要素は残念な代物だが、強固なゲーム設計で差し引きプラスだ。艦隊育成シミュレーションを心ゆくまで楽しんでほしい。

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本作はそのプレイ体験だけでなく、ボトムアップ型コンセプトも独創的だ。これは低予算環境に妥協せず、あらゆる手をつくした開発計画をバックボーンとする。PCゲーム界参入の鍵となるKickstarterの成功は、モバイルのフリーゲーム、基本無料モデル、売り切りモデルでリサーチがあってこそだ。公式サイトでシリーズ1作目を「プロトタイプとして作成したが、早い段階で多くの人に愛された」と回想している。また、発売直前、大型掲示板Redditのコメント読み上げ動画をYouTubeに投稿するなど、コミュニティの確立にも抜け目がない。安易な考えでアーリーアクセス・クラウドファンディングにたよらず、シリーズとスタジオのブランドを同時に育成した点は好感をもてる。

PC版発売後、Steamフォーラムメーカー公式フォーラムよりも繁盛している。ハードコアゲーマーの極北、PCゲーマーの洗礼というやつで、焦点はやはりコンテンツの練磨不足についてだ。それらの受け答えに前向きなあたり、セールスの成功をおさめたように見受けられる。サポートを継続し、ハードコアゲーマーを満たす練磨がなされたなら、低予算開発の好例となろう(SteamSpy調べ: 3月12日時点で所持者約9000人)。

モバイル版のUIは完成度が高い。アップデートでPC版と同様の内容となり、アイテム売却や「早送り」ボタンといった仕様不足の不満が解消した。
モバイル版のUIは完成度が高い。アップデートでPC版と同様の内容となり、アイテム売却や「早送り」ボタンといった仕様不足の不満が解消した。

本稿で購入を検討された読者にむけて、PC版・モバイル版(Android/iOS)の差異を記す。PC版9.99ドルに対し、モバイル版は3.99ドル。そのモバイル版は3月17日のアップデートでPC版と同様の内容となった。これはKickstarterの企画どおりである。PC版の独自要素は、Full HD環境、艦船個別の移動指示だ。アップデートの頻度も高い。プレイ環境や財布、そしてサポート面から選択されたし。

Hikaru Nomura
Hikaru Nomura

高校卒業後、ペンキ塗り・コンビニバイト・警備員・システムエンジニア・ネットショップの店長などで食いつなぐ。趣味はスーパーカブにまたがってのドライブ、海外SF小説(オールタイムベストは『スキズマトリックス』)、ゲーム実況、たまに同人活動。

宇宙ストラテジーと格闘ゲームを好む。リズムゲームとビジュアルノベルは苦手。FPSは酔う。中段や弾幕は見えない。Arcen Games信者であり、Stardockian(Stardock信者) でもある。英語は苦手だが、気合で翻訳して遊ぶ。

ゲーム大会の最高成績は2013年トライタワー末塔劇『チェンジエアブレード』部門第4位。

オールタイムベストゲームは『ニュースペースオーダー』。

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