『Gladiabots』アルファ版インプレッション。 戦いはプログラムだ、現代風の開発環境がうれしいAIロボットバトル


カルネージハート』や『アーマードコア・フォーミュラーフロント』、古くは『ロボクラッシュ』と、幾人もの中毒者を生み出してきたAIロボットバトル。敷居の高さはあるが、噛めば噛むほど味が出るスルメのようなゲームジャンルだ。本稿で紹介する『Gladiabots』は、このジャンルの直系の子孫であり、当時熱を上げたゲーマーは迷わず手にすべきゲームである。

『Gladiabots』は全滅戦に玉運びを加えた独自のルールを採用しており、このジャンルの過去作と比較してAIに対応を求める状況が多様となった。また直感的なGUIのプログラミング画面で、スムーズなAI開発が可能である。試合中はAIの動作をスローモーションで確認でき、トライアルアンドエラーに挑みやすい。ルールの変更、AI開発の利便性向上、分析機能の強化で、ジャンルの核にある「改善する楽しみ」がより強固なものとなった。

https://youtu.be/CJpvHoHwRhM

現在バージョン(アルファ4.2.2)で選択できるAIロボットは4脚戦車+マシンガンのみで、本体の設計はできない。この点はジャンル過去作と比べ不足を感じるが、次バージョン(アルファ5)では2脚型、フロート型に加え、スナイパー、ショットガンと種類が増える予定だ。PC版は価格を自分で決めるNYOP方式のドネートウェア、Android版は無料である。まずは無料で試し、気に入ったならドネートで開発支援してほしい。

『Gladiabots』
開発者: Sébastien Dubois
発売日: 未定。現在アルファテスト。
価格: 未定。PC版はNYOP。希望額4.99ドル。
プラットフォーム: PC(Windows/Mac/Linux)、Android OS

 

ロボットバトルからロボットスポーツに

『Gladiabots』の独自性は試合ルールとプログラミング画面にある。まずルールを見ていこう。ジャンル従来の作品は敵ロボットを倒す全滅戦のルールを採用してきたが、本作はフィールド上のリソース(球状)を拾い、自軍ベースまで運ぶ「玉運び」を追加した。従来の作品にはなかった独自のルールが追加されたことにより、AI開発に新鮮みがある。全滅戦のように安全に敵を除去するだけでなく、リソースを運ぶ敵にも対応しなくてはならない。また、退き撃ちスタイルの敵には玉運びのスコアで対抗することもできる。敵を安全な位置や距離から倒す単純なAIではなく、敵とリソースの位置を把握し攻撃と玉運びどちらを優先すべきかを判断できる賢いAIが勝つということだ。

試合は多対多のチーム戦形式。白色が自軍、赤色が敵軍。画面中央にある黄色い玉がリソースで、これを上下にあるベースに運ぶとスコアを得る。シングルプレイのミッションは、自軍全滅だけでなく、敵にスコア半数以上取得を許すと敗北する。
試合は多対多のチーム戦形式。白色が自軍、赤色が敵軍。画面中央にある黄色い玉がリソースで、これを上下にあるベースに運ぶとスコアを得る。シングルプレイのミッションは、自軍全滅だけでなく、敵にスコア半数以上取得を許すと敗北する。

しかし相手の全滅だけでなく玉運びが勝敗条件に追加されたことで、AIに組み込むべきシチュエーションへの対応も多様となった。より高度なAIの開発を助けるべく、『Gladiasbots』には直感的GUIをもつビジュアルプログラミングが用意してある。処理の優先順位が明白で、細かな状況対応を要する本作とマッチしている。仕組みはツリー構造で、分岐を左から順に判断する。Yesならそのノード(又はサブツリー)を処理し、Noなら右のノードを判断する。プログラミングの素養がなくとも「左からチェックする」と覚えれば問題なくプログラミングできる。

AI処理ルーチンの説明。丸ノードが条件判断で、四角ノードがロボットの実行。四角ノードに達しなければ分岐をさかのぼり、ひとつ右の分岐をあたる。
AI処理ルーチンの説明。丸ノードが条件判断で、四角ノードがロボットの実行。四角ノードに達しなければ分岐をさかのぼり、ひとつ右の分岐をあたる。

ジャンル過去作と比較し、AIに前進・後退を直接指定する本作は『カルネージハート』に近い。しかし、判断すべき状況の多様さと、優先順位を主眼とする開発は、『ファイナルファンタジー12』のガンビットを想起させる(もっとも近いのは『アーマードコア・ヴァーディクトデイ』のUNAC)。プログラムにコストやサイズの制限はなく、思う存分、状況を想定し対策を用意することが可能だ。もちろん、プログラムを組む際には視認性も頭の中に入れておこう。プログラムが正しく動作するかどうか、デバッグするのは作成したプレイヤー自身なのだから。

 

賢いAIをつくる試行錯誤のサイクル

試合が始まるとプレイヤーはロボットを一切操作できない。ロボットは自分がプログラミングした通りに動く。そこがこのジャンルの肝だ。勝負の行方はAIの品質にかかっており、品質を高めるには試行錯誤しかない。AIのプログラムを組み、実際に試合を実施して、試合の敗北にまつわる非効率な動作の原因を調べる。

試合中、自軍ロボットをクリックすれば、攻撃の命中率を左右するマシンガンの射程距離だけでなく、AIが今何を判断・動作しているかもわかる。再生速度をスローモーションにすれば、問題を引き起こした箇所を見つけやすい。ノードのつなぎ忘れや、判断条件の設定ミスといったヒューマンエラーもあれば、対策を要するシチュエーションを新たに発見することもある。

自軍の一番下のロボットをクリックした図。現在取っている行動と目標対象だけでなく、攻撃の命中率範囲も表示される。画面右下にはロボットのAIが表示され、どのように判断し、行動したかが一目瞭然だ。
自軍の一番下のロボットをクリックした図。現在取っている行動と目標対象だけでなく、攻撃の命中率範囲も表示される。画面右下にはロボットのAIが表示され、どのように判断し、行動したかが一目瞭然だ。

先の要領で問題箇所が判明したら修正だ。試合中にAIそのものを見ていたなら、変更を要する箇所は明らかであろう。「どこが悪いか」がすぐにわかり、「どう直すか」に注力できる。ここで、ジャンル初心者には、「1回の改善で変更する箇所はひとつまで」というルールを推奨する。複数箇所を変更すると、正しく改善できたか判別しづらいためだ。また、正しく機能していた箇所に不具合を混入するのを防ぐためでもある。試合は早送りもでき、変更後のテストも短く済む。1回1変更ルールでも、AIがどんどん賢くなる実感を得られるだろう。

 

愛情を込めて、手塩にかけて、最高のAIを出荷しよう

ミッションモードはチュートリアルから始まる。以前作成したAIに手を加えていけるので、継続的な改善とフラットなレベルデザインが一致している。
ミッションモードはチュートリアルから始まる。以前作成したAIに手を加えていけるので、継続的な改善とフラットなレベルデザインが一致している。

AIロボットバトルは、試行錯誤を通じて改善を楽しむジャンルである。『Gladiabots』は、現代風の開発環境と、以前作成したAIが別のミッションでも使える仕様で、その改善の行程にさらに光を当てた。直感的に操作できるプログラミングはAIの機能追加が簡単で、困った状況に対応する「パッチ」を当てやすい。また段階的に難度が上昇するミッションモードはパッチ作成と相性が良い。ゲームを基礎から学べるようロジックパズルを模しており、巧みな配慮が光る。

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ミッション後半ではスコア阻止の要素も加わり、難度はぐっと高くなる。画像は敵の数を減らす行動を優先しすぎた図。とはいえ、スコア阻止を優先するとロボットの数が減る。より高度な判断ができるよう改善するなり、各ロボットにちがうAIを割り振るなり、対策を考えるのが楽しい。

本作をロジックパズルとすると、ルールに玉運びを加えたことで対処する状況が多様になった点は特筆に値する。敵スコアの阻止と、自軍の生存を天秤にかけるシーンは、従来作の全滅戦よりも内容に深さがある。ストーリーを負うキャンペーンはないが、改善の感動が揺らぐことはない。ミッションが終わった後のお楽しみも用意してある。自分のAI同士で試合するトレーニングでチューニングを続け、自信作でオンラインプレイに挑める。

お疲れ様です。第2稿でほぼOKでした。新たに追加した画像キャプションを「オンラインプレイはサーバにデータをアップして待つ非同期方式。マップとAIを設定した対戦希望データを作るだけでよい。他のプレイヤーがプレイすれば、試合結果が受信される。受信した相手AIに違うAI設定で再戦を挑むことはできず、シングルプレイと比べて改善の手ごたえは得にくい。」と微調整したいと思います
オンラインプレイはサーバにデータをアップして待つ非同期方式。マップとAIを設定した対戦希望データを作るだけでよい。他のプレイヤーがプレイすれば、試合結果が受信される。受信した相手AIに違うAI設定で再戦を挑むことはできず、シングルプレイと比べて改善の手ごたえは得にくい。

現在バージョン(アルファ4.2.2)ではロボットが1種類だ。移動速度や射程がそろうためAIのバリエーションは乏しい。ロボットそのものを設計したいゲーマーは不満を感じるだろう。次バージョン(アルファ5)はマシンガンと4脚だけでなく、スナイパーと2脚、ショットガンとフロート脚が登場する予定だ。また、ロードマップではマップエディタも予定している。AIロボットバトルのファンは安心して今すぐ手にされたし。次バージョンや製品版を早く手にしたい方は、ドネートで開発者にエールを送ろう。


高校卒業後、ペンキ塗り・コンビニバイト・警備員・システムエンジニア・ネットショップの店長などで食いつなぐ。趣味はスーパーカブにまたがってのドライブ、海外SF小説(オールタイムベストは『スキズマトリックス』)、ゲーム実況、たまに同人活動。 宇宙ストラテジーと格闘ゲームを好む。リズムゲームとビジュアルノベルは苦手。FPSは酔う。中段や弾幕は見えない。Arcen Games信者であり、Stardockian(Stardock信者) でもある。英語は苦手だが、気合で翻訳して遊ぶ。 ゲーム大会の最高成績は2013年トライタワー末塔劇『チェンジエアブレード』部門第4位。 オールタイムベストゲームは『ニュースペースオーダー』。