スクエニ新作ADV『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』レビュー。どこまでも気味が悪い、数奇な怪作(ネタバレなし)

『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』レビュー。できるだけ本作の体験を損ねないように配慮した上で、『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』の筆者感想をお届けする。

スクウェア・エニックスは3月9日、『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』(以下、パラノマサイト)を発売した。対応プラットフォームはPC(Steam)/Nintendo Switch/iOS/Android。開発はスクウェア・エニックスと株式会社ジーンが担当。


スクウェア・エニックスのスタッフとしては、『スクールガールストライカーズ』『探偵・癸生川凌介事件譚』などのシリーズを手がけた石山貴也氏が、シナリオとディレクションを担当している。なお本作の制作や宣伝はスクウェア・エニックスの第四開発事業本部が担当。『インペリアル サガ』を手がけてきた奥州一馬氏がプロデューサーを務めるなど、座組としては、普段はモバイル向けの運営型ゲームを手がけることが多いチームが、売り切りのアドベンチャーゲームを作ったというのも面白い。

本作に興味があるなら何も読まず閉じるべし

筆者はスクウェア・エニックスからSteam版コードの提供を受け、本作をプレイしクリアした。結論からいうと、本作は陰鬱で強烈な個性を放つ作品であった。つまり、おすすめということだ。本作では、変わった仕組みがいろいろと用意されているため、事前予習なく遊ぶのが一番楽しめる。なので、推理小説が好きだったり、オカルトが好きだったりと、興味のある方は何も調べずさっさと購入するのがいいだろう。価格も2000円ぽっきり(3月23日までは20%オフ)。とはいえ、どういうゲームかわからないまま購入するのが怖いという方向けに、できるだけ本作の体験を損ねないように配慮した上での、筆者感想をお届けする。





『パラノマサイト』は、アドベンチャーゲームだ。ジャンル公称は「ホラーミステリーADV」。筆者的には「ホラー半分・ミステリー半分のアドベンチャーゲーム」という表現がふさわしいと思う。両ジャンルが詰め込まれているといえるし、どちらもやや中途半端ともいえる。しかし後述するが、そうした歪さが本作の魅力であるともいえる。ちなみに筆者は、ホラーゲームは大の苦手。いくつかジャンプスケア演出(プレイヤーを急に驚かせるような演出)にチビりそうになったが、基本的にはホラーが苦手なプレイヤーでも楽しめる程度の怖さの塩梅であることを記したい。


現実と虚構の狭間の気味の悪さ

筆者は、本作の特徴を「気味悪く、遊びやすく」と表現したい(なお本稿では、気持ち悪い、と気味が悪いをほぼ同じ意味で使っている)。『パラノマサイト』は、とにかく気味が悪い。そもそも世界設定から気味が悪い。本作は“現実の世界を舞台に、怪奇現象が展開される”のだ。東京都墨田区・本所という実在の場所を舞台に、本所七不思議という歴史的に存在する怪談をベースに、呪いをめぐる陰鬱な物語が展開される。現実の世界の延長線上で、オカルトなフィクションが描かれており、現実と創作の垣根が曖昧になっており、とても気味が悪い。

 
 


この気味の悪さは、本作では「人がよく死ぬ」ことで拍車がかかる。登場人物が次から次へところっと死ぬのだ。しかも結構エグめに死ぬ。そして嫌に生々しい内容の事件も発生する。そして登場人物たちが負の感情をむき出しにする。現実と虚構の狭間に物語をそびえ立たせるだけでも気持ち悪いにもかわらず、そこに「死」と隣合わせにされることで、その不快感は加速する。CEROレーティングD(17才以上対象)なだけある。ちなみに本作はマルチエンディングが採用されており、自キャラが死んでしまいそこで話が終わってしまうこともある。死んでも直前からやり直すことが可能であるが、単に死亡シーンが気持ち悪いので筆者は終始緊張していた。


そして筆者が本作でもっとも気持ち悪かった要素をあげるとすれば、それは「問答無用に他者を殺さなければいけない」状況にも遭遇すること。自分の意図とは関係なく、呪いにとりつかれたキャラたちは、自己保身に走った場合は無我夢中で他者を殺害する。死に際の演出はしっかりと描かれるサービス精神旺盛。キャラがすぐ死ぬだけならまだしも、自キャラ≒プレイヤーが他者への殺害を否応なく強いられるのも気持ち悪いポイントが高い。


気味の悪さを中和する遊びやすさ

一方で、この気持ち悪さは、奇妙にもさまざまな要素によって緩衝されている。その主たる例は、小林元氏のイラストだ。小林氏は『すばらしきこのせかい』シリーズや『スクールガールストライカーズ』シリーズのキャラクターデザインを担当。塗りが映えるポップなイラストに定評がある。本作のキャラたちは、それぞれ造形は違えど、みなかわいらしい。各キャラクターの視覚的なかわいさによって、話の気持ち悪さがほどよく中和されている(とはいえ、キャラ死亡時イラストは小林氏のイラストとしても過去最大級に気味が悪いが)。キャラデザが気持ち悪ければ筆者はプレイに耐えられなかったかもしれない。それほど本作は気持ちが悪い。

  


遊びやすさという点では、システム面の充実にも言及しておきたい。本所七不思議は、それぞれの呪いや背景、経緯が複雑。土地勘がなければ七不思議の舞台となる墨田区について理解するのも苦労する。しかしながら、本作ではゲーム内に膨大なデータベースが揃えられており、非常に理解しやすくなっている。このデータベースの物量はかなり多めで、人物から設定まで、ストーリー上では説明しきれなかったところも、データベース側で完璧に補完されている。基本的にはいつでもアクセスできるため、わからなければすぐにデータベースを見ればいい。データベースのUIも直感的で、さくっと見ることができる。本作は話としては少々複雑であるが、その話を自分のペースで噛み砕くことができる。

またバックログについても、さくっと確認可能。こうした点は、昨今のアドベンチャーゲームでは標準搭載されている機能ながら、“当たり前”がちゃんと用意されている点は好感がもてる。繰り返しとなるが、本作の話や世界設定は非常に気持ち悪い。データベースでの資料を読むことで詳細がわかり、気持ち悪さがさらに増すシーンもある。一方で、遊びやすさは担保されており、気持ち悪いシナリオを読み進める万全のサポートがなされている。この配慮に満ちた遊びやすさと、気持ち悪さの二面性が本作の魅力であり、あるいは気味が悪いところである。なお、筆者の確認した範囲ではスキップ機能は存在しなかった。ただ、細かくシーンごとにアクセスする機能が存在し、テキスト速度を変える機能が存在することから、さほど気にはならないだろう。


ゲームプレイにまでおよぶ気味の悪さ

本作は、非常に丁寧に物語が展開されていく一方で、ゲームプレイは非常に変調的で一筋縄にいかない。ゲームプレイが長時間同じテンポで進むことはない。一貫性のないギミックをこなしていく時間もある。ミニゲームのようなギミックをこなしたと思えば、そのミニゲームそのものに意味がなかったり、時には突飛なアイデアを求められたり。そもそもとして、冒頭で述べた「ホラー半分・ミステリー半分のアドベンチャーゲーム」というのも、どっちつかずだ。芯が感じられない。気味が悪い。


繰り返すが、本作のシナリオの出来はなかなか良い。話としてはグロテスクであるが、終盤になるにつれて伏線を回収し見事に物語は収束されていく。反面、ゲームプレイとしてはつかみどころがなく歪である。しかしながら、その歪さもまた、気味の悪さという点で『パラノマサイト』の個性たらしめている。遊べば遊ぶほど、ゲームプレイ面は意図的に芯を作らなかったのではないかと思えてくる。

なお、ボリュームとしては普通に遊べば7~8時間、コンプまでは10時間といった内容。アドベンチャーゲームとしてそれほど長くないものの、とにかく刻一刻と状況が変わり間延びする時間がない。プレイ中の体験密度は高い。

傑作か怪作か

以上が、本作についての感想である。肝心な要素は自分で確かめてほしいということで、具体的な要素をあげなかったため、かなり抽象的で窮屈な文章になってしまった。が、それでも本作がなかなかに気味の悪い作品であることが伝わったのではないだろうか。本作における気味の悪さは、視覚的や表現な一面ではなく、居心地の悪さに近い。ところどころ巻数が抜けた漫画が並んだ本棚を見ているようである。つかみどころがない。一方で、このつかみどころのなさが、意図的も築き上げられたものであると感じる。そしてその構築は職人じみている。ああ、気味が悪い。

 


筆者は『パラノマサイト』を気味の悪いゲームであると思うし、同時に非常に面白いゲームであると思う。筆者が近年遊んだアドベンチャーゲームの中でもトップレベルにお気に入りだ。しかし面白いアドベンチャーゲームだったからといって、傑作と呼んで褒め称えるのは、このゲームには似合わない。

夜中にふと友人に悪意と善意両方からプレイを勧めたくなるような、誰かのゲームライブラリに無断で勝手に入れておきたいような。日常にふと潜むような悪意と居心地の悪さを掻き起すような、奇妙な「怪作」であったことをここに記したい。活字を読むのが好きならば、この気味の悪い体験をするにこしたことはないだろう。

パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』は、PC(Steam)/Nintendo Switch/iOS/Android向けに発売中だ。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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