HORIのアーケードスティック新製品「ファイティングスティックα」レビュー。新システムで生まれ変わった『GBVS』を使ってレポート


HORIの新作アーケードスティック「ファイティングスティックα」PS4/PS5対応版が6月23日に発売された。Xbox One/Xbox Series X版が先行販売されており、待望のPS版発売となる。家庭用環境がPS5へと徐々に移行しつつあり、PS5に公式対応する新モデルに注目が集まる中で発売された本製品。本稿では、格闘ゲーム好きの筆者が実際にそんなファイティングスティックαを使用してその性能をレビューさせていただく。なおプレイしたタイトルはCygamesの対戦格闘ゲーム『グランブルーファンタジー ヴァーサス』。最近大型アップデートで大きくバトルシステムが刷新されたタイトルということで、こちらの新システムについても実際にプレイしてみた感触を述べさせていただく。

【ファイティングスティックα】形状・質感

なお、筆者はアーケードスティックとして今までHORIのリアルアーケードPro.V HAYABUSA(以下、RAPV)をメインで利用してきているため、基本はそちらとの比較となる。まずは筐体から見ていこう。

上がリアルアーケードPro.V HAYABUSA、下がファイティングスティックα


全体的に横長のフォルムをしているRAPVに比べてファイティングスティックαは横に短く、その分奥行きが増した正方形寄りの、RAPNに近い形状となっている。全体はプラスチック製で、質感はほぼRAPVと同じ。同社の「ファイティングエッジ刃」やQanbaの「Obsidian」といったハイエンドモデルの金属筐体に比べると重厚感には欠けるが、各種RAPと同価格帯の製品ということでそこは問題ないだろう。

横幅が狭くなったことによりレバーを操作する手を置くスペースも若干狭くなっているが、普通の持ち方をしている限りは気になることはない。むしろ縦に長くなり、レバーとボタンの手前のスペースが広くなったことによる違いが大きく感じられた。RAPVは縦に短く、ボタンに置いた右手の手首付近は、筐体手前側の斜めの部分に接する形になる。これに比べてファイティングスティックαでは手首は完全に水平な天面に置く形になるため、プレイ中の手首の角度がやや異なる。手首が浮いた状態でボタンを押すスタイルのプレイヤーには関係ないかもしれないが、筆者はべったりと手首を天面につけるため、かなり違いを感じた。個人的にはファイティングスティックαの方が全体的に安定感を感じて好みであったが、ここは個人差もあるだろう。

RAPVでは、手首が斜めの部分に当たる
ファイティングスティックαでは、手首は水平になる


また、ファイティングスティックαではRAPNと同様に底面に滑り止めが貼られているのも安定感の向上に役立っており、RAPVではすぐにコントローラーの位置がズレていくのが悩みだったのが解消されている。筆者は基本的に膝置きのため、アケコンでゲームをする時は摩擦係数が高めのズボンを選ぶなどといった涙ぐましい努力が必要だったのだが、ファイティングスティックαではその心配がなくなっている。ちなみに膝置きで気になる重量は約2.7kg。RAPVに比べれば重いが、RAPNや刃に比べれば軽く、特に気になるような重さではない。

【ファイティングスティックα】入力装置

機能面に話を移すと、まずボタンとレバーはどちらもいわゆるHAYABUSA(2017)と呼ばれるモデルのもので、RAPやファイティングエッジ刃で使われているものと同じだ。ゲームセンターでよく使われる三和のレバーやボタンに比べるとレバーは柔らかめ、ボタンはストロークが短く反応が早いことが特徴とされている。ボタンの配置は山型の「ノアール配置」と呼ばれているもの。こちらもRAPNやファイティングエッジ刃で採用されているのと同じなのだが、HORI製品の中でも筆者の所持するRAPVは珍しくまっすぐの「ビュウリックス配置」となっているので若干の違いを感じた。正直手の置き方次第なのでなんとも言えないところではあるのだが、手の本来の形状からしてノアール配置のほうが自然で押しやすい配置なのではないかと思う。


HAYABUSAモデルのレバー/ボタンはゲームセンターの三和レバー/ボタンに慣れていると独特の癖があるように感じられるらしいのだが、RAPVを換装しないまま使い続け完全に慣れきってしまった筆者にとってはもはやこれがスタンダード。ちなみに、同じHAYABUSAレバー/ボタンでもRAPVに比べるとファイティングスティックαのボタンはさらに浅く柔らかく、レバーはちょっとだけ硬めに感じた。しかしこれは前述の手首の位置の違いや、使い込んだRAPVに対してファイティングスティックαは新品同様であることの差などがあるだろう。基本的には「いつものHAYABUSA」と考えておいて間違いない。しかし静音性に関しては明確な違いが感じられる。やや高めの音が響き渡るRAPVに比べてファイティングスティックαはレバーもボタンも操作音が低めに抑えられている。おそらく内部の構造の違いによるものなのだろうが、RAPVの大きな欠点のひとつであった静音性が(静音モデルというわけでもないのに)大きく改善しているのは注目のポイントだ。

PSボタンやモード切替/キーロックスイッチ、R3L3ボタンなどが搭載されたサブパネルは天面上部に配置されている。誤操作を防ぐためとはいえRAPVではこれらのボタンは右側面に配置されており、非常に押しづらかったためこの変更も嬉しい。気合が入りすぎると誤爆しがちなオプションボタンも天面右上のかなり遠いところに配置されており、かなりエキサイトしない限り誤って押してしまうことはないだろう。そもそもこれらのボタンの誤爆を防ぐキーロックスイッチも存在するので、大会中などはこれをONにしておくことが無難だ。

RAPV最大の不満点だったと言ってもいい側面ボタン


【ファイティングスティックα】開閉式のメンテナンス性

最後にファイティングスティックα最大の特徴である開閉機構について触れよう。ファイティングスティックαはそのメンテナンス性・改造性の高さが特徴であり、つまみ操作のみでコントローラーの奥側を開き内部にアクセスすることが可能となっている。中にはUSBケーブルも収納されており、使用時は通し穴から外に出し、持ち運び時には巻き付けて中に収納する。レバーの取り外しにはドライバーが必要だが、ボタンのメンテナンスのみならば本体を開いてケーブルを外すだけ、完全に手作業のみでのメンテが可能。ボタンやレバーの換装を前提に考えているプレイヤーにとっても嬉しい仕様だ。

開封直後に撮った写真。USBケーブルが収納されている
手前側ではなく奥側から開く構造になっている
ボタンとレバーのメンテナンスは非常に容易


またこの開閉機構の副産物でもあるのか、天面のデザイン変更にも製品側で対応している。一度ボタンとレバーをすべて外す必要はあるが、前述のようにこのファイティングスティックαのボタンは手作業で取れ、レバーもネジを数本外すだけなので大した手間ではない。天面のシートのテンプレートはHORI公式より配布されており、印刷して切り抜いて挟むだけで好みのデザインのアケコンがあっという間に完成する。


【ファイティングスティックα】総評

「ファイティングスティックα」はハイエンド製品より低い価格帯を維持しながらも過去のHORI製アーケードスティックの強みを網羅しており、また新しく導入された開閉機構でメンテナンス性と改造性の高さも達成している。現状ではHORI製アケコンの「完成形」に近い製品なのではないかと思わせる出来の製品だ。筐体の重厚感、高級感においてはやはりファイティングエッジ刃に一歩劣るが、それが気にならないのであれば現在のラインナップでのいわゆる「ゴートゥーモデル」であることには間違いない。

【ファイティングスティックα】『GBVS』における使用感

なお筆者は今回アーケードスティックの比較をするにあたって主に『グランブルーファンタジー ヴァーサス』(以下、GBVS)をメインに遊んでいた。『GBVS』というゲーム自体はどちらかというとパッド操作にも優しい作りをしていて、コントローラーを選ばないゲームだ。テクニカル入力のコマンド操作についても、シンプルな波動拳コマンドと昇竜拳コマンドに関してはアケコンとパッドでほぼ操作精度の違いはない。

ただし奥義を発動するのに必要な真空波動拳コマンドの安定性に関しては、もちろん慣れの問題もあるのだが、個人的にはレバー操作に軍配が上がる。『GBVS』にはほとんど存在しないものの回転系のコマンドもパッドでは難しく、筆者はパッドでは半回転ですらやや苦手だ。格闘ゲームも家庭用版がメインとなりパッドプレイヤーが増え、パッドフレンドリーなタイトルも増えてきているが、やはりアーケードスティックの強みと需要はまだまだあるというわけだ。

全体的に癖のなく完成度の高いアーケードスティックである「ファイティングスティックα」は、RAPVからの移行という意味でもスムーズに『GBVS』で使用することが出来た。そしてひとつだけ明確にRAPVから改善した点があり、それはトレーニングモードでの操作性だ。『GBVS』ではトレーニングモードで相手キャラの操作を先んじて記録して再生するレコーディング機能が存在する。このレコーディングの記録と再生に使われるショートカットボタンがデフォルトではL3とR3(スティック押し込み)にアサインされているのだが、RAPVではこれがアケコンの側面に配置されており非常に押しにくい。トレモに限ってはかなりの頻度で押すボタンであるのでなかなか苦労していたのだが、ファイティングスティックαではこれらのボタンが天面上部に配置されており、格段に押しやすくなった。地味ながらもかなりのQoL向上である。

なお、『GBVS』は6月3日にVer2.80アップデートが入っており、キャラクター調整以外にもバトルシステムそのものに大きな変更が入っている。公式の大型オンライン大会である「GBVS Cygames Cup 2022 Summer」が今週末、7月30日(土)に控えていることもあり、現在かなり注目度の高い格闘ゲームタイトルとなっている。

【GBVS】Ver2.80 新システムの解説

Ver.2.80で追加された新システムは大きく3つで、どれも奥義ゲージを利用するもの。厳密には奥義ゲージ50%を使用する「タクティカルムーブ」が2種類と、奥義ゲージ100%を使用する「オーバードライブ」となる。タクティカルムーブのひとつめは「ラッシュ」。打撃無敵のダッシュで、ほとんどの通常技からキャンセルして出すことが可能なほか、ダッシュの終わり際に相手が近いと自動で攻撃に派生する。この派生攻撃はヒット時アビリティでキャンセル可能なためコンボを伸ばすのに使え、ガードされても有利なので攻め継続にも有用。ただしあくまで打撃無敵のため飛び道具抜けには使えず、投げにも負ける。コマンド成立時から打撃無敵ではなく、出始めは被カウンター判定なのにも注意が必要だ。

ふたつめのタクティカルムーブは「バックシフト」と呼ばれる無敵のついたバックステップだ。こちらはラッシュと違って出始めから完全無敵のため、固められている時や被起き攻め時の読み合い拒否に使われるのが主な想定用途だろう。ちなみにバックシフトの性能は全キャラ共通ではなく、無敵のついた切り返しアビリティを持たないキャラクターのバックシフトは、バックシフト後の硬直が短めとなっている(無敵フレーム自体は変わらない)。

最後の新システムは奥義ゲージを100%使用して強化状態に入る「オーバードライブ」。コマンド成立時から完全無敵でキャラクターの周りに衝撃波を放つのだが、この衝撃波はヒット時に相手を吹き飛ばすほか、ガードされてもガードクラッシュのようなモーションで相手を大きくノックバックするため、発動が切り返しに使えるようになっている。ただしそもそも衝撃波がヒットもガードもしない位置で発動した場合や、避けられてしまった場合は硬直に反撃が確定する。

オーバードライブ中はさまざまな恩恵があり、単純な火力アップの他にも「通常攻撃に削りダメージ付与」「相手からの削りダメージは無効」「システム中段(オーバーヘッドアタック)の発生が早くなる」「アビリティの簡易入力とテクニカル入力の性能差がなくなる」などの効果が発生する。奥義ゲージ100%消費で発動するが効果中も奥義や解放奥義を使用することは可能で、使用した時点でオーバードライブは終了する。奥義ゲージ自体はなくなっている扱いなのでタクティカルムーブを使用することは出来ない。また、奥義ゲージが変化した「オーバードライブゲージ」が時間経過で徐々に減っていきなくなった時に終了となるが、このゲージは相手の攻撃がヒットした時も大きく減少し、大体3回触られた時点でオーバードライブ終了となる。ただしオーバードライブ自体が奥義ゲージ100%を要求する以上ある程度試合が進んだ状態で使用されることが多く、その状態から3回触られたら大抵の場合すでに負けているのであまり気になる仕様ではない。

オーバードライブのもたらす多くの効果のなかでも特に通常技の削り付与がかなり強烈であり、攻めの圧力がかなり増す。オーバードライブには相手の削り無効も付いているので、先に発動されると削りを嫌がってオーバードライブを発動し返したい心理が強く働くが、前述のように読まれると反撃が確定する。画面端ではコンボ火力が跳ね上がる本作においては画面端での攻め継続手段は重要で、ガードさせても大幅有利が取れ攻め継続できる上に削りダメージが付与されるオーバードライブは、切り返しとしてだけではなく攻撃的に発動するのも選択肢として非常に強い。もちろん、避けられずにガード以上が確定するような連携に組み込む必要はあるが。

【GBVS】奥義ゲージの使い道が増え、さらに奥深く

格闘ゲームにおけるゲージの使い道といえば、暗転する超必殺技以外には各種必殺技の強化版の発動に消費するというのが定番だ。しかし『GBVS』は独自のクールタイムシステムにより強化版アビリティの使用にゲージが関係なく、長らく奥義ゲージは「1試合に1回奥義を打つためだけに使うゲージ」であり、ゲージ管理の要素が薄いゲームであることが度々問題点として指摘されてきた。Ver2.80ではこれが一気に改善し、ゲージ管理が奥深くなった。奥義ゲージの用途が増えたことから試合前半からアビリティを多用することや、前歩きでのゲージ回収などを意識する必要も出てきた。

筆者が今回メインで遊んでいたユエルはアビリティに無敵技が2つありもともと切り返しが強く、突進技もそこそこ優秀なためバックシフトやラッシュの出番は少なく、奥義ゲージはほぼ攻め継続のオーバードライブに回すプレイスタイルになっていた。逆に切り返しに乏しく中距離を軸に攻めを展開したいメーテラなどはバックシフトを多用するプレイヤーが多かったイメージだ。このように、キャラクターによって奥義ゲージと新システムの活用方法にすでに幅があり、今後もプレイヤーの研究と開発が期待できるだろう。

ひとまずVer2.80最初の「答え合わせ」が今週末の「GBVS Cygames Cup 2022 Summer」にて行われることは間違いない。アップデートからおよそ2ヶ月、新システムを取り入れたトッププレイヤーたちがどのような戦いを見せてくれるのか。YouTube『GBVS』公式チャンネルにてTop8以降の全試合が配信される予定となっているので、見逃さないようにしよう。