『FFオリジン』レビュー。アクション全振りですべてを解決する、豪快で爽快な混沌の物語
『STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN』(FFオリジン)は、『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)の一部を異説として再創生したアクションRPGだ。開発はスクウェア・エニックスと、コーエーテクモゲームスがタッグを組んでいる。コーエーテクモゲームス側では、『仁王』や『ディシディア ファイナルファンタジー』(2015年)などを手がけたTeam NINJAが携わっていると説明すると、なんとなくジャンルが想像できるだろう。エグゼクティブプロデューサーには野村哲也氏が名を連ねている。アクションRPGとして作られており、主人公ジャックは仲間と共にカオス討伐を目指してダンジョンに潜っていく。
「とにかく楽しいアクションゲーム」というのが、本作を数時間遊んで持った感想だった。豪快で爽快な楽しいアクションが、どの武器を選んでも途切れることはない。敵を圧倒する雑魚戦は楽しく、一方で冷静さが求められるボス戦では自身の成長と達成感を得られる。この印象は、クリアまでずっと変わることはなく、クリア後もなお、本作のジョブを、アクションを、もっと知りたいと思い続けている。
まずお伝えしたいのが、本作は決して「死にゲー」に類するものではないということ。たしかに、キューブ(いわゆる篝火)にて限られた数の回復アイテムを補充したりキャラクターを成長させたりするシステムなど、ソウルシリーズを連想させるものはある。だが、実際のところ、ノーマルに値する難易度「ACTION」であれば敵の殺意はそこまで高くはない。筆者は、この「ACTION」で基本的にプレイしていた。開発陣はメディアインタビューで、たびたび本作を「高難易度アクション」と呼んでいた。ただし、何度も死を繰り返すというよりは、敵を理解するまでは死にやすい程度の難易度に留まっている。ボス戦で何度も死ぬことはあれど、普段からアクションに慣れていれば歯ごたえがある「高難易度アクション」として楽しむことができるだろう。
敵に叩き込むアクションは多ければ多いほどよい
本作の雑魚敵は、かなりひるんでくれる。攻めの姿勢を維持することで敵の動きを封じ、通常攻撃で溜まったMPを使ってアビリティを放ち、トドメを刺すのが基本的な枠組みだ。逆に、守りの姿勢を見せてしまうと、敵の連続攻撃や、ガードできない強力な攻撃にジリジリとHPを削られてしまう。いかに攻撃を叩き込むか、能動的に攻撃を仕掛けて自ら敵の隙を作り出していくかを考えるタイプのアクションだ。
となると、プレイヤーキャラクター(ジャック)の攻撃の幅が、本作の楽しさの大きな部分を占めることになる。それを自覚してか、ジャックに与えられた攻撃の数やバリエーションはかなり多い。そしてそのほとんどが楽しいと感じられるものに仕上がっているのが本作の大きな魅力のひとつだ。
本作は『FF』らしく、ジョブが存在する。標準ジョブの「剣士」や「格闘士」、上位ジョブの「侍」や「シーフ」、最上位ジョブの「忍者」や「ナイト」などだ。これらはレベルアップで得られるジョブポイントをスキルツリーに割り振ることで、アクションや、特殊効果を開放していく。また、武器種も多く、大剣や斧、魔法を繰り出す棍から格闘士のグローブまで用意されており、多くの武器種と多くのジョブを掛け合わせることで、さまざまな遊び方をプレイヤー自身が模索できる。
たとえば、侍であれば、居合斬りで一気に間合いを詰めて敵を切り裂いたり、シーフでは敵の攻撃を盗んで攻撃したりと、攻撃を叩き込む手段がこれでもかと用意されている。そのひとつひとつが爽快なエフェクトで表現されており、さまざまな武器を試し、楽しみつつ物語を進めることができる。
また、それぞれのジョブのアビリティ開放は上位ジョブへ行くほど時間はかかるが、標準ジョブであればさほど時間はかからず、すぐジョブレベル上限へ到達するようにデザインされている。また、ジョブ「アサシン」でプレイする には「シーフ」と「モンク」の開放が必須など、上位ジョブの開放には関連するジョブを育てる必要があり、別のジョブを遊ぶ動機をしっかりと用意している。筆者はこの手のゲームでは同じ武器種やジョブにこだわることが多いが、本作をクリアするころにはほとんどの上位ジョブが高いレベルに到達していた。
当然だが敵を翻弄する手段はあればあるほど良い。ひとつのアクションに固執してしまいアクションに飽きが来るようなこともなく、物語の最後までぎっしりとアクションが詰まったゲームに感じられる。
レベルデザインも、敵のいる場所へ血を求めていれば、自然とゴールへたどり着くようになっている。ソウルシリーズよろしく、こちらからは開かない扉や、通り道を作るように仕掛けを壊す必要がある場所、ショートカットなどはあれど、大きく迷うことはない。敵のいる場所が道標になり、新たな敵を辿ることが正解のルートであり、不自然に強い敵がいれば、宝箱があるのではと推測できる。
戦いの中でプレイヤーが成長するボス戦
一方のボス戦は、様子が変わる。当然ボスは簡単にひるんではくれないし、攻撃は即死級のものが多く、自らの体力ゲージは常に意識しておく必要がある。いかに攻撃を叩き込むか、から、いかに攻撃を喰らわないか、に戦いの主軸が変わってくるのだ。
このアクションの手法は、『モンスターハンター』などのハンティングアクションに近い。まずは敵の動きを見極めて猛撃を避け、生存できる時間を増やし、あっという間に倒されないことが大切になってくる。自キャラを回復するポーションの数がそもそも限られていることもあり、緊張感のある時間が続く。そうしてボスの動きを少しずつ理解していき、攻撃の機会を伺う流れは、戦いの中で成長するプレイヤースキルを顕著に感じ取ることができる。言ってしまえば「覚えゲー」なわけだが、ボスの体力を削ると形態が変わるようにすることで、緊張感を増し、単調さは軽減されている。
なお、本作はジャックを含め、3人のパーティを組むことができる。仲間に「レゾナンス」と呼ばれる指示を出すことで、仲間が強力なアビリティで敵を削ってくれたり、ヘイトを取ってくれたりする。自身の立て直しや、ダメージソースとしてかなり有効だ。一方で、これはハンティングアクションあるあるだが、味方への攻撃に巻き込まれる事故もある。筆者は一部のボスで、意図的にパーティメンバーを外していた。
また、敵の攻撃をいなす手段が多彩な点も素晴らしい。ステップやローリング、武器を用いたガードはもちろん、ソウルガードと呼ばれる、敵の攻撃を吸収するようなガード方法も用意されている。これはガードしている間にブレイクゲージ(なくなると一時的にダウン状態になるゲージ)を消費するが、ガードに成功するとMPの最大値が増えるほか、一部の攻撃を吸収してインスタントアビリティとして使用することができる。
特にボス戦では、ブレイクゲージを気にしつつ、敵へ反撃の機会を伺う立ち回りをするうえで上手く機能する。ステップで良いポジショニングを探ったり、攻撃や状況によって武器ガードとソウルガードを使い分けたりと、攻撃以外のアクションも楽しい。
敵の攻撃はかなり親切に表現されている。敵の強力な攻撃は頭上に「ほのお」といった具合で言葉として表示されるだけでなく、ガードできないものは赤色、逆にソウルガードで吸収できるものは紫色という風に色分けされているため、視覚的にわかりやすい。
キャラクターとリンクした豪快さ
そして、本作で大きなポイントとなる「残虐と豪快」にも触れたい。敵へ攻撃を加え、ブレイクゲージを削り切ると敵はダウンし、ソウルバーストと呼ばれる確殺攻撃を仕掛けることができる。ソウルバーストで敵が赤黒い結晶となり爆発四散する姿は、リッチな演出も入ることで爽快感はかなり高い。同時にダウンしている敵は一度のソウルバーストで一気に倒せたり、近くの敵のブレイクゲージを削れたりと、その恩恵はしっかりと用意されている。ソウルバーストをしまくる姿は、もはやある種の『無双』シリーズのようだ。
また、敵がダウンした時点で、武器を振り上げていようが、アビリティを繰り出している最中だろうが、ソウルバーストのボタンを押せば発動できる点も良い。ソウルバースト自体が独立せず、ジャックのアクションの地続きなものとして感じられる。
敵を倒し、刃や防具に付着した血がぬらぬらと光る描写(設定でオフにできる)も、そのアクションの性格と相性が良い。カオスを倒したい理由として「飢えや乾きのようなもの」と答えたジャックのように、渇望の赴くままに血と暴力を求める豪快なアクションは、物語やキャラクターを体験に反映させ、感情移入を加速させることに成功している。
ミッションの道中ではボスのように怯みにくい中ボス的な魔物も存在する。攻めの姿勢を重視する雑魚戦と、冷静さが求められる立ち回り重視の中ボス戦、ひとつのダンジョンでも緩急のあるアクションがあり、飽きることはない。これらを豪快で爽快かつ、たくさんのアクションで彩ることで、テンポ良く、どこを切り取っても楽しいアクションゲームに仕上がっている。
ハックアンドスラッシュの導入も、本作の特徴のひとつだ。といっても、物語のクリアまでは気にしなくても良い。お馴染みの「さいきょう」を選択すれば所持している装備から強力なものを勝手に選んでくれるし、物語を進めるだけで、敵を十分倒せるようになっている。なお、本作は装備品のレベルがキャラクターの強さであり、ジョブ自体のレベルはあまり関係ない(ジョブのPERKによって、HP上昇などがあるので一概には言えないが)。
装備の見た目もリアルタイムで反映されるため、カッコいいコートとハットに心踊らせていたら、見た目が好みでない強い装備を手に入れて複雑な気持ちになったり、中二心をくすぐる暗黒をまとった短剣を手に入れて無駄に振り回してみたりと、ビジュアル的に楽しむことができる。
また、各ダンジョンにはサブミッションも用意され、アイテムを手に入れることでジョブや武器の効果を更に強化できるほか、クリア後はさらなる高難易度へ挑戦できる。ただし、残念ながらストーリーをクリアし、サブミッションや追加ミッションを終えてしてしまうと、レベリングや装備掘りなど、プレイがマンネリ化してしまうことは否めない。せっかくなので、このアクションやハクスラ要素を活かすという意味でも、有料で配信予定の追加ミッションにも期待したいところだ。
『FF』であること
本作は初代『FF』 の「異説」であり、その要素は随所に見られる。ジャックたちの冒険のはじまりには、この先の冒険へ期待に胸を膨らませる象徴的なシーンのオマージュも含まれている。
また、各ミッションのステージは過去の『FF』作品をモチーフにしている(関連記事)。だからといってそれらが大きく主張することなく、プレイヤーの歩く場所をまるっとオマージュで作り上げつつも、「知っていればニヤリとできる」程度のファンサービスに留まっている。サウンドも、聞き馴染みのあるフレーズを挟みながらも、作品全体の世界観を損なわず、収まりが良い。
物語もしっかり描かれ、後半にかけておこなわれる怒涛の伏線回収は見どころがあり、『FF1』プレイヤーの筆者は、異説として受け入れられる内容であった。光と闇、普遍的な存在を題材にしつつも、突き抜けたハイファンタジーにせず、ジャックたちの衣装や持ち物をモダンにするなどの工夫も見られ、愛着も湧きやすい。
また、「カオス」という言葉に大きく反応したり、「お前はカオスなのか」と魔物に叫んだりと、ジャックに僅かなシュールさやエグみを感じるが、それにしっかり意味を持たせる物語となっている。また、本作はミッション制を導入しており、カットシーンは原則、ミッション冒頭とボス戦前後のみで構成されているため、アクションを楽しむ時間が邪魔されることはない。このテンポ感も、本作を最後まで楽しく遊べる要因のひとつだ。
ただし、グラフィックは難アリだ。筆者はPS5で本作を遊んだが、 プレイアブルシーンをよく見ると、全体的にジャキジャキしている印象がある。靄がかかったような表現は意図しているものかわからないが、暗いフィールドは視認性が悪い場所も少なくない。アクションの完成度が高いだけに、大きな欠点となっているのが惜しい。
すべてはアクションのために
ここまで述べてきた通り、本作はとにかくアクションに気を遣って作られている。PS5のDualSenseのアダプティブトリガー効果が、デフォルトでオフになっていることも驚いた。たしかにオンにすると、スピーディで咄嗟の判断が求められる本作のアクションでは邪魔になるように感じた。
本作はミッションを受けてダンジョンを探検するというゲームサイクルの中に、街中を歩いての会話や(簡易的な会話機能はある)、世界を自由に歩き回るような、寄り道的な要素はほぼ存在しない。一歩間違えば、奇妙で淡白なゲームと認識されかねない、挑戦的なスタイルだ。
だが、本作はどこまで行っても「アクション」がひたすらに楽しい。ジャックの性格も、赤黒い結晶も、シンプルなレベルデザインも、メリハリのあるカットシーンも、それらすべてがアクションの下支えとしてしっかり機能している。
3Dアクションの持つさまざまな楽しさを内包し、テンポ良く世界観と物語をしっかりと伝えるゲームデザインの全体像が、本作を奇妙さから救い出し、整合性の取れたひとつのアクションRPGとして確立させている。よく手に馴染む剣を手に取り、敵を楽しく殴りたいと思うなら、本作をプレイしない手はない。そう言えるほど、筆者は本作を気に入っている。