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『Returnal(リターナル)』は、『RESOGUN』や『ALIENATION』といったアーケードライクなタイトルの開発経験を持つHousemarqueが担う、完全新規IPのPS5専用タイトルだ。公式説明によると、本作のジャンルは「ローグライクTPS」。パーマデスや武器・マップのランダム生成といったローグライク要素、三人称視点のシューター、そして弾幕STGのような繊細なキャラクターコントロールを求めるゲームプレイ。これらを組み合わせた作品となっている。

※本稿はSIE提供のPS5ダウンロード版をもとに執筆している。



ループに囚われし宇宙飛行士


航行中の宇宙飛行士「セレーネ」は、謎の「白い影」の調査に向かう最中、未知の惑星に不時着する。人智の及ばぬ文明の痕跡が色濃く残る惑星「アトロポス」で調査を進めるが、謎のクリーチャーに襲われ死んでしまう。しかし次の瞬間、なぜか不時着した宇宙船の傍らで目を覚ます。なぜ死んでも生まれ変わるのか、この惑星の謎を明かすため、「ループ」に迷い込む。

基本的なゲームプレイのサイクルは非常にシンプルなもので、目覚める、探索する、死んだらまた目覚めるという流れになっている。死ぬと一部の恒久装備とアイテムを除いて武器はもちろん、取得したものは原則失われるため、一度のプレイの中でキャラクターを強化していく必要がある。

リスクとリターンの取捨選択


ゲームプレイのサイクルはシンプルながらも、強化要素やアイテムの仕組みについては複雑な側面もあるため、先にそれらについて説明しておこう。本作には、敵を倒すことで得られる「オボライト」(通貨アイテム)を使って、セレーネが着用するスカウトスーツの耐久値や武器の攻撃力を直接上昇させる施設「ファプリケーターポッド」もあれば、拾うだけでメリットを得られる「アーティファクト」と呼ばれるアイテムもある。だが、道中で目にするアイテムの大多数は、メリットとデメリットがセットで付与されるものとなっており、どれを拾うか頭を悩ませることになる。

デメリットの代表が、「悪性因子」と呼ばれるいかにも悪そうな名前の要素だ。これは回復を含む有効な性質を持つアイテムやコンテナ(アイテムが入っている宝箱)、オボライトを侵すもので、これに侵されたアイテムを拾うと、スーツの故障を誘発する。スーツの故障は、高所落下時にダメージを受けるようになったり、マップが暗号化されて確認しにくくなったりと、ゲームを進める上でさまざまな障害を引き起こし、3つ溜まると消費アイテムを一つ失う。

故障と同時にミッションタスクが追加され、これに成功すると故障は解消される。故障時や解消時に体力上限を開放するようなメリットを持つアイテムもあるので、積極的に悪性因子を持ったアイテムを拾っていくようなリスキーなプレイングも可能だ。悪性因子は「エーテル」と呼ばれるアイテムを使うことで除去できるが、持てる上限が設定されている上、消費する機会に対して入手できる数は少ない。

エーテルはマップ上で拾うか、一日一回、不時着した宇宙船「ヘリオス」から挑戦できるデイリーミッションで手に入れることができる。このエーテルに限っては、死んでも失われることはない。デイリーミッションは、本編で探索したロケーションのひとつを、いくつかの条件付きでプレイするもの。探索したエリアや撃破した敵の数に応じてスコアが加算される。このスコアを、フレンドやほかのプレイヤーと競うことができる。


もうひとつの大きな要素に、セレーネのスーツに寄生する謎の生命体「パラサイト」がある。これはメリットとデメリットが同時にもれなく付与されるもので、最大5体まで寄生させることができる。だが、それを除去するには、マップ上にランダムに配置された専用の機械のようなものかアイテムを使用する必要がある。これらはなかなかお目にかかれるものではない上、すべてを除去するかランダムで1つ除去されるかの二択しかないので、パラサイトの寄生には慎重な選択が求められる。

毎回リスクとリターンの取捨選択に頭を悩ませるのは面白いが、すべてがランダムゆえに、奥の深いビルドを生み出すことは難しい。さらに、アイテムの説明や用語の解説が不足しているように思えた。せっかくアイテムを拾っても意味がわからないものが多く、余計な心労を負っている気分になってしまう。

PS5ならではの射撃感覚

武器の強化要素としては、敵を倒すと武器の熟練度ゲージが貯まっていき、レベルがあがる。このレベルに応じた武器が、エリートなどの一部の敵を倒した際や、コンテナから出現するという仕組み。同じ武器を使い続ければ新しい固有能力が開放されることもあるが、基本的には一度のプレイで何度も持ち替えることになる。武器にもいくつかの種類があり、ショットガンやマシンガンのような想像しやすいものはもちろん、パイロンを打ち込むと謎のエネルギーでトラップのようなワイヤーが貼られ、敵へ継続ダメージを与えることができる「エレクトロパイロン・ドライバー」なるものまで用意されている。

視界を阻むエレクトロパイロン・ドライバーのエフェクト


同じ名前の武器にも個性があり、発射レートや、装填数の違いがあるため、単純にレベルが高いからという理由だけで武器を交換すると痛い目を見ることもあるだろう。特に発射レートには注意したい。いまよりもレベルの高い武器がドロップしたと喜び、ろくに確認せず進んだエリアが封鎖され、低い発射レートで俊敏に動き回る敵と対峙したときの絶望は二度と体験したくない。

本作にはプレイヤーのスキルを報いる仕様も含まれている。被弾せずに敵を倒し続けるとアドレナリンレベルが高まっていき(最大5レベル)、武器熟練度の上昇率アップやシールド付与といったメリットが得られる。また、本作の武器はエネルギーを発射するようなSF感溢れるもので、弾薬という概念は厳密には存在しない。一定のエネルギーを一度に撃つとオーバーヒートしてしまい、冷却時間が必要になる。冷却時にはタイミングよく射撃ボタンを押すことでリロード時間を短縮する「オーバーロード」というテクニックも用意されている。キャラクターコントロールや武器の使いこなしに慣れていけば、プレイが有利になると同時に、プレイヤー自身の成長を感じることができる。ささやかながら大切な要素だ。

武器はひとつしか持つことができないが、すべての武器に「セカンダリファイア」と呼ばれる、2つ目の射撃モードが付与されている。これは一度射撃するとクールダウンを挟むかわりに強力な攻撃を放つもので、敵へ自動追尾するホーミングエネルギーや、スナイパーライフルのように一点照準で攻撃するもの、グレネードランチャーのようなものまでが用意されている。こちらもランダムで付与されているので、高レベルの武器を手に入れたけれどセカンダリファイアは微妙ということもあり得るわけだ。

この2つのモードの切り替えはPS5のコントローラーに搭載された機能「アダプティブトリガー」を上手く使っている。これはL2・R2ボタンの抵抗力を制御するもので、本作では、エイムダウンボタン(L2ボタン)を半分押し込むと通常の射撃モード、深く押し込むとセカンダリファイアへ切り替わる。押し込みにはしっかりとしたクリック感があり、誤入力することはほぼないだろう。デジカメのシャッターボタンを想像してほしい。フォーカスが通常の射撃で、シャッターがセカンダリでの射撃というイメージだ。さらに、オーバーヒート中には射撃ボタン(R2ボタン)の抵抗が強まるようデザインされていて、戦闘中は見落としがちな残エネルギー量を触覚で把握できるという、新しい体験も用意されている。

STG譲りの弾幕&ド派手エフェクト


本作の難易度はかなり高めに設定されている。回復アイテムの数自体は多いが、そのほとんどが雀の涙ほどの回復量しか持たない。敵と武器の出現がランダムなため、突然たくさんの敵に対して貧弱なハンドガンでの応戦を強いられたりもする。そんな中でなんとか探索を進めていく緊張感は非常に高い。ボスへ辿り着く前に回復アイテムを使い切ってしまって文字通り「詰み」になってしまったり、いやらしい攻撃をしてくる敵がわんさか出現するエリアに足を踏み入れて後悔したり、心労はかなりのもの。コツコツと敵を倒し、武器の熟練度を上げ、体力上限を増やし、地道に努力をしても、強力なエリートが出現するエリアに閉じ込められて一瞬で死ぬことも珍しくない。

セレーネは物語と平行して徐々に狂気へ染まっていくような言動を見せるが、プレイヤーも同じだ。積み上げたものを何度もぶっ壊され、精神的に苦しい思いをすることになる。特に筆者はTPSの経験はあれど、STGはほぼ触れたことがなく、弾幕に対する対処法にかなり苦しんだ。本作をレビューする上で過去にHousemarqueが制作した2Dシューティング『RESOGUN』をプレイしたが、ゲームの乱戦で求められる一瞬の判断と繊細なキャラクターコントロールは、そこで経験したものに限りなく近く感じる。

だがそれを乗り越えた先にある体験は非常に魅力的だ。良いアップグレードやアーティファクトを手に入れ、ステータス増し増しの状態で強力な武器を拾ったときの全能感はとてつもない。「今自分に勝てないものはないのでは?」と本気で思うほどで、エリア探索が捗る。STGでパワーアップアイテムをたくさん取れたときのようなフィーバー感は、本作のプレイの中で一番楽しい時間だった。何度も死んだのは、きっとこのときのためなのだろう。

これを一度知ってしまうと、あの全能感をもう一度手に入れるべく、何度も死を繰り返すことに対する抵抗が薄くなっていく。全体的にエフェクトは派手で、敵の弾幕で画面が埋め尽くされるような場面も見られるほど。拾得する武器によっては自分のエフェクトで敵が見えないなんてこともあり、フィーバータイムの楽しさを助長している。裏を返すと、ジリ貧状態ではエフェクトが邪魔極まりないと感じるところもある。

姿を変えつつも、わかりやすい構造の惑星


プレイヤーがほぼすべての時間を過ごすことになるマップは、原則ドアで区切られた小さなエリアの組み合わせで構成されている。各エリアの地形は決まったアセットがランダムで展開され、そこに置かれるアイテムやスポーンする敵がさらにランダムに配置されていくというシステム。エリアの中には敵が出現するものとしないものがあり、アイテムやコンテナだけが落ちているエリアや、進入すると封鎖され敵を倒すまで開放されないエリアなど、複数のバリエーションが存在する。

中には、ひとつのエリアから複数のエリアへアクセスできるような、一見すると複雑に見える場所も存在する。物語を進めていく中では、目標となる地点が大まかにマップに示されている上、どのドアが目標へ繋がっているかがマップの表記でわかるので、最速で目標へ近づきたいなら、ひたすらそのドアをくぐり続ければ良い。画面右下に表示されるミニマップのほかに、タッチパッドを押せばいつでも詳細なマップを見ることができる。複数の層で構成されたエリアなどで役に立ってくれる。方向音痴の筆者でも、マップを開いている間はゲームがポーズされるので、余裕を持って現在地を確認することができた。


「姿を変え続ける惑星」とプロモーションされているが、何度も繰り返していると、だいたい知っている構造が続く惑星になってくる。前述の通り、本作はなかなか難易度が高く、何度も死を繰り返すことになる。リプレイを繰り返す中では、ある程度の勝手が理解できるデザインのほうが却ってわかりやすい。キャラクターの移動速度も疾走感のあるもので、繰り返しによる移動ストレスが少なく、リプレイ性を高めることに成功していると言える。物語を進めていくと移動が簡単になるような仕掛けがあるのも嬉しい。

また、本作では複数の異なるロケーションを冒険することになる。プレイヤーが最初に探索するのは、「深緑の遺跡」という、その名の通り草木の生い茂る緑豊かなマップだ。このマップのボスをクリアすると次のロケーションへ向かうといった具合で、すべてクリアするまでに6つのマップを探索することになる。各ロケーションは、一度のプレイの中では、次の場所に移動すると再度戻ることはできない。もちろん死ぬとヘリオスの傍らからスタートすることにはなるが、次のロケーションや後半のロケーションへスキップできるワープポイントのようなものが、ランダムながら設定されることもある。よって、すべてを毎回プレイする必要はほぼない。かといって、後半のロケーションにワープしてばかりいると、キャラクターは強化されない状態で終盤の敵へ立ち向かうことになるので、物語を進めるのは難しい。選択を誤ればすべてが無に還ることになる。

断片的な情報から全容を把握していくストーリー

本作はカットシーンの種類が極めて少なく、プレイ中のセレーネの言動、エリア内に落ちている「スカウトログ(過去のセレーネが残した音声記録)」、そのほかホログラムや石版に記された記録によって物語や惑星の全容が少しずつ明らかになっていく。断片的な情報からプレイヤーの中で咀嚼していくような体験であり、徐々にぼやけた輪郭が見えてくるような感覚だ。ただし、完全にストーリーを終えてもその感覚は残り続けるかもしれない。

ここで注目したいのが、セレーネ役の声を務める小山茉美さんの演技だ。「Dr.スランプ アラレちゃん」シリーズのアラレちゃん役を代表に、数多くのアニメ作品のキャラクターを演じたほか、多数の映画吹き替えを担当する大御所声優である。本作でも謎のループの中で思い悩み、徐々に正気を失っていく中年女性宇宙飛行士の存在感に深みを持たせている。


物語を紐解いていく中で、マップの中に突如として現れる民家を何度か探索することになる。ループの謎を解く手がかりとなるが、驚くことにゲームプレイが普段と大きく異なる。まず視点が一人称になり、武器やHUDは存在しない。暗い部屋にテレビだけ点いていたり、手を伸ばしたドアが突然閉じるなど、空気感もホラーテイストで、かつて小島秀夫氏が手掛けた『P.T.』のような装いだ。民家の中では、さまざまなオブジェクトにインタラクトしていくことになる。このような閉鎖的な空間では後述の3Dオーディオが真価を発揮し、上の階や別の部屋からの物音は恐怖心を煽る。ホラーテイストの演出として丁寧に作られているものの、ゲームプレイがあまりにも特異で、ゲーム本編から浮いてしまっている印象は否めない。

次世代機を活かしたプレイ体験

本作はPS5専用タイトルということで、PS5ならではの機能を上手く使った仕掛けが用意されている。通常射撃/セカンダリファイアの切り替えに活用されているアダプティブトリガーもそのひとつだが、それだけではない。たとえば、環境表現として、ハプティックフィードバック機能と、3Dオーディオ機能を活用している。ハプティックフィードバックとは、コントローラーの振動機能をより繊細にしたもの。カットシーンの中で宇宙船のエンジンが炎上して空回りしているカラカラとした感触や、プレイ中にオボライトを吸収したときの身体に吸い込まれる感触が、ダイレクトにコントローラーを通して伝わってくる。最初こそ感動するものの、徐々に慣れていってしまうのが悲しいところだが、繊細な振動による表現で、キャラクターの体験をより感じ取れるようにしてくれる。

3Dオーディオは、ざっくり言うと360度から音を感じ取れる機能のこと。執筆時点では、対応するヘッドホンかイヤホンが必要だ(テレビスピーカーで使用可能にするもある)。最初に訪れる「深緑の遺跡」では、怪しくうごめく草木や、降りしきる雨の音に包まれているような感覚を覚えるだろう。プレイヤーの背後にワープして回り込んでくる敵の位置も、音によって直感的に方向がわかる。総じて、音の定位性を重視したFPSタイトルと同じような感覚でプレイすることができた。設定項目に音の高低のチューニングが用意されていることからも、音に対するこだわりが感じられる。筆者が愛用しているゼンハイザーのイヤホンIE 40 PROは、高音域がかなり尖って聞こえるが、設定で低音を強めることで、バランスの良い好みの音にすることができた。

3Dオーディオが有効になっているかは設定画面で確認できる


また、超高速SSDの恩恵により、ロード時間は文字通り一切感じない。死んだときやエリアを移動するときはもちろん、大きくビジュアルが変わるロケーションの移動も、一切だ。何度も死ぬ本作の中で、ロードによるリプレイの煩わしさはなく、ゲーム的なストレスにのみ晒されるのは嬉しい。

注目に値する「ローグライク x 弾幕TPS」の試み

本作のプレイを通じて、何度も絶望と苦しさを味わった。ボスをギリギリ倒せなかったりイージーミスによって道半ばで倒れたりと、苦労して伸ばしたHPゲージや強敵からドロップした武器が水泡に帰す悔しさが、手汗とともに滲み出る。「あのエリアへ寄り道しなければ」「悪性因子を厭わず回復しておけば」「パラサイトを除去していれば」。どんな後悔を持ってしても失ったものは帰ってこない。ループのたびに変化する取捨選択の中に正解があったかさえ、知る由もない。だが、ブラックボックスだからこそ、存在するかもわからない正解を探す旅は魅力的でもある。

そうした中で展開される弾幕STGのような素早い判断の連続と、ド派手なエフェクトにより彩られたTPS体験が、何度も探索したくなる楽しさを確固たるものにしている。物語にはっきりとしない部分が多いことや、場合によって極端な高難易度が続くことが難点であると感じたが、ローグライクと弾幕TPSの組み合わせは、それだけでも注目に値するだろう。『Returnal』は、「新感覚ローグライクTPS」と銘打つにふさわしいゲームプレイを構築しつつ、PS5の機能を存分に活かすことで、次世代機ならではの体験に仕上げられている。

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