『マインクラフト ダンジョンズ』は“遊びやすさ極振り“アクションゲーム。キッズをいざなう全年齢向けハクスラ

マイクロソフトは5月26日、『Minecraft Dungeons(マインクラフト ダンジョンズ)』を発売する。本稿ではマイクロソフトから提供を受けたWindows 10向けのアーリーアクセス版のプレイを踏まえて、『マインクラフト ダンジョンズ』の感想を述べていく。

マイクロソフトは5月26日、『Minecraft Dungeons(マインクラフト ダンジョンズ)』を発売する。対応プラットフォームはPC(Windows 10)/PlayStation 4/Xbox One/Nintendo Switch。また本作はXbox Game Pass対応タイトルでもある。通常版の価格は2640円。また本編に加えて、ヒーローマント、プレイヤースキン 2 つ、ペット、発売後に利用可能になる DLC パック 2 つを含んだヒーローエディションは3960円。

『マインクラフト ダンジョンズ』は、見下ろし視点で展開されるダンジョン探索ゲームだ。『マインクラフト』の世界観をベースにしつつ、ダンジョン探索やルート要素を取り入れた作品となっている。舞台となるのは、邪悪な村人の王の悪行により荒廃した世界。世界の人々を助けながら、邪悪な村人の王の野望を阻止するため、「英雄」であるプレイヤーが立ち上がる。ゲームシステムとしては、いわゆるハクスラ型となっており、ダンジョン内で敵を倒すことや宝箱を開けることで出てくる装備を付け替えながら、自キャラを強化していく。装備にはレアリティが振り分けられており、強さの値や効果はそれぞれ異なる。装備を集めながら敵を倒し、ダンジョンを進んでいくのだ。


『マインクラフト ダンジョンズ』が、どの程度『マインクラフト』なのかという点にもふれておこう。世界観はもちろんのこと、剣と弓を用いた戦闘や、エンチャントを筆頭としたシステムのベースは『マインクラフト』にルーツがある。ただし、今作はダンジョン探索に特化されている。ハブエリア(キャンプ)にいる鍛冶屋や行商人以外にNPCは登場せず、建築要素もない。おなじみのアイテムやモンスターは、今作にあわせて最適化され登場する。クリーパーは接近すると爆発したり、エンダーマンが恐ろしかったり、原作の特徴は抑えられており、原作ファンはニヤリとする部分も多いことだろう。

本稿ではマイクロソフトから提供を受けたWindows 10向けのアーリーアクセス版のプレイを踏まえて、『マインクラフト ダンジョンズ』の感想を述べていく。なお本作は最大4人までのオンライン・ローカルCo-opに対応しているが、今回はシングルプレイのみの感想となっているので留意してほしい。結論から述べると、『マインクラフト ダンジョンズ』はとにかく遊びやすさに注力されたハクスラゲームである。極めて優等生的で、不快さで減点する機会はほぼなかった。ただし、遊びやすさに振り切られたゆえに生まれたデメリットも存在している。その両方についてふれていこう。

徹底した遊びやすさ

遊びやすさという点でまず言及しなければならないのは、マップデザインである。本作ではエリア選択をして、エリアの最終地点に到達することでクリアするセッション形式が採用されている。自動生成がまじえられたマップを探索していく。時に広大で時に複雑なダンジョンを進んでいくわけだが、いかなる時も目標設定が極めてはっきりしている。次の目的地はUI・ミニマップ両方で表示されており、方角だけではなく地点単位でこまめな誘導がおこなわれる。目標達成が設定されている際には、その目標が明示される。目新しさはないものの、この丁寧な目票提示によりマップ内で迷子になることはない。ダンジョン探索ゲームにありがちな、「行くべき方角はわかっているが、どう行けばいいのかわからない」現象とはあまり縁がない。ダンジョン探索において生まれがちなストレス発生を防いでいる。


戦闘面においては、遊びやすさを考慮した簡略化が垣間見える。というのも、本作ではほかの有名ダンジョン探索ゲームと比べて戦闘に絡む要素が少ないのだ。本作での基本アクションは、近接攻撃と遠距離攻撃とドッジロールの3種類。そのほかスキルとして機能するアーティファクトなるアクセサリーが存在しており、こちらは回復にペット召喚、範囲攻撃など幅広い効果をもたらすが、戦闘における戦術はシンプル。スキルツリーといった要素も存在していない。ジョブの概念もない。わかりやすさという点では、迷わない設計になっているだろう。


回復アイテムも極めてシンプル。時間経過で使用可能なポーションと、“フィールドで即時使用する”食べものだけ。インベントリに存在するのは装備アイテムのみで、効果付与のアイテムや素材といった概念は存在しない。使用意図が不明なアイテムは存在しておらず、不要な装備はワンボタンでエメラルドに変えることが可能。インベントリの整理に時間を食われないということだ。なお装備品については剣、弓、鎧の3種類。アーティファクトなる性能の異なるアクセサリーは、一度に3つまで装備できる。、こうした点でも簡略化がなされている。装備品のルート(Loot)についても、フィールドで手に入るほか拠点でエメラルドーを使い即座に入手できる。必ずしも探索が必要なわけではない。

簡略化がもたらす物足りなさ

配慮と簡略化によって実現された遊びやすさが特筆すべき点となっている本作であるが、もちろん簡略化によるデメリットも存在する。そのひとつが、育成という要素をばっさりと削ぎ落としている点。前述したように、本作にはスキルツリーやジョブといったシステムが存在しないことにより、ストーリーをクリアした後は、装備を充実させることがメインの目標となる。キャラクターにはレベルの概念が存在するが、レベル上昇で得られるのはエンチャントポイント。このエンチャントポイントを使用することで、装備ごとについている潜在能力を解放していくかたち。そのアーティファクトポイントは、装備を売ることで返還される。エンチャントポイントはレベルアップの特典ではあるものの、育成要素と呼ぶべきかは怪しいところ。本作がアクションRPGではなくダンジョンクローラーと表現されているのは、そうしたシステムが関係しているのだろう。


また素材やクラフトといった概念もないので、装備の付け替えのみが探索のモチベーションとなる。いい装備を得て、その場でエンチャントポイントを注ぎ込み潜在能力を強化し、手持ち武器にしていく。もちろん、装備効果やエンチャントの組み合わせによって、ビルドを形成することは可能。筆者の場合、攻撃を当てた敵を引き寄せるハンマーに、スタン効果のあるアーティファクトを組み合わせて、ハメ殺し武器を作成した。毒と炎をまとわせた弓を作り、遠方から自らの手を汚さず敵を消耗させる武器を作るのも楽しい。武器と防具とアーティファクトとエンチャントによって、ビルドを構築することはできるが、ジョブやスキルツリーなどが排されている関係で、その幅はある一定以上は広がらない印象だ。

つまるところ、シンプル化されたことにより、ハクスラとしての奥行きはあまり感じられず、その奥行きの欠如が単調さを呼び込んでいる側面がある。アクションとしての気持ちよさは常に担保されており、武器に対応して繰り出されるアクションの幅も広い。ボスを含めた敵の動きはなかなか賢く、鉄板だと思えるビルドを用意しても時に一筋縄ではいかない。戦闘そのものは楽しいのである。が、育成もクラフトも存在しないことにより、探索の動機付けには乏しさを感じざるをえない。

意図的な物足りなさ

一方で、散々述べてきた簡略化については、意図したものであることがゲーム内の随所から感じ取れる。丁寧なチュートリアルと、迷子を生み出さないマップ、脂を削ぎ落としたシステム。絶対にプレイヤーを迷わせないという意思を感じる本作は、明らかにゲーム上級者ではない子供に手を差し伸べている。つまるところ、『マインクラフト ダンジョンズ』は全年齢向けなのだ。


もちろん、ジョブやスキルツリーといったシステムが存在したとしても、普段は『マインクラフト』に親しむ子供たちと向き合うことは可能だ。一方で、ジョブやスキルツリーのないシンプルさが、遊びやすさにつながっている点も否定できない。抑えるべき項目が少なく、理解しやすく、迷いづらいからだ。探索の動機付けの欠如も、本作では4人Co-opが目玉要素として押し出されていることから、友人と遊ぶことを動機づけとして考慮していると考えれば納得できる。育成要素のあるRPGとしてひとりでじっくり遊ぶのではなく、戦闘が楽しいアクションゲームとして複数人でプレイするという遊び方は、本作にこれ以上なくフィットする。さきほど全年齢という言葉を出したが、間口の広さは低年齢層だけでなく高齢層や非ゲーマーも恩恵を受けられる。子供向けという点だけでなく家族で遊べるゲームとして考えれば、プレイヤー層の幅を広くするための「簡略化」に強い意義を感じるのだ。

もちろん、遊びやすさは簡略化のみで担保されているわけではない。ゲームの土台は極めて洗練されている。本作はMojang Studiosグループのひとつであるスウェーデン・ストックホルムの小さなスタジオで開発されているが、Microsoft Game Studios作品らしい丁寧さにあふれている。日本語音声は吹き替えで、UE4で描かれる世界は耽美。UIも整理されており、戦闘を含め“動かす楽しさ”は常に感じられる。何よりも、『マインクラフト』のエッセンスが違和感なく落とし込まれている。細部の洗練度でいえばAAAクラスと表現しても差し支えない。完成度が高いからこそ、要素の簡略化が“至らなかった”のではなく“選択されたもの”だと解釈できる。


『マインクラフト ダンジョンズ』は、完成度が高く、幅広い層にとって遊びやすいタイトルになっている。一方で、既存のハクスラ作品を遊んだユーザーが、同ジャンルの次ゲームとして期待を寄せると、その奥行きに肩透かしを食らう可能性はあるだろう。筆者は、本作を「キッズを対象とした、ハクスラへのいざない」であると考えている。本作は奥行きや幅こそ狭いものの、十分にハクスラの楽しさを感じられるゲームになっているからだ。本作でハクスラの楽しさを知ることで、キッズがやがてより複雑な『Diablo』シリーズや『Path of Exile』、『Grim Dawn』に手を出す。人々がどんどん湿地に溺れていき、ジャンル自体がさらに活性化していくことを筆者は夢想している。世界的人気IP『マインクラフト』の冠を使って、ハクスラの楽しさを広めていきたい。本作の完成度の高さと間口の広さ、そして奥行きの狭さからは、マイクロソフトとMojang Studiosの、秘めたる決意が感じられるかもしれない。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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