アストロ坑夫からスペース外交官まで、なんでもやって地球に帰る宇宙サバイバル『The Long Journey Home』紹介
「熱すぎる!まるで地獄だ」
「ついにドリルがイカれやがった」
「いったい何でこんな目に遭わなきゃならんのだ?」
そう、ことの始まりはアルファ・ケンタウリへ向かうワープだ。すでにワープ航行は確立された技術で、何も問題はないはずだった。船にプロトタイプのシールドジェネレータを付けた、という以外はいつもどおりである。それがなぜ、地球からはるか3万8000パーセク(約12万4000光年)も離れた場所へと飛ばされることになったのか。
Daedalic Entertainment開発の新作ゲーム『The Long Journey Home』は、宇宙の不幸に見舞われた4人が命がけで地球に帰る、長い、長い旅路の物語である(関連記事:弊誌ニュース)。その旅路は困難をきわめた悲痛なものだ。ブラックホールやパルサーの宇宙線でボイルされ、エイリアン惑星で病気にかかり、強大な宇宙人にカツアゲされて、全員命を落とすことになる。だが、悪いことばかりでもない。親切な宇宙人に助けてもらえたり、科学者が本領を発揮することだって、たまにはある。そして、乗組員とプレイヤーの心を刺激する、深遠なる宇宙の神秘が待っている。さあ、宇宙サバイバルの幕開けだ。
ビデオゲーム黎明期のゲームを最新技術で
ゲームの一連の流れを見てみよう。宇宙船で星々をめぐり、スキャンでめぼしい惑星を発見したら、着陸船(ランダー)で上陸して採掘や探検する。プレイヤーは宇宙船で星から星へと移動する「星系パート」と、着陸船で惑星を採掘・探検する「惑星パート」をそれぞれプレイするのだが、内容はオールドスクールな慣性制御ゲームである。星系パートはスラスターで宇宙船の慣性を操作し、惑星や恒星の重力にあらがってうまく衛星軌道に乗せる。惑星パートでは『Lunar Lander』(ATARI/1979年)のように、着陸船のスラスター出力を惑星の重力と拮抗させ軟着陸を狙う。ビデオゲーム黎明期ならいざ知らず、今となっては「ミニゲーム」級のプレイ体験なのだが、『The Long Journey Home』はこの化石めいたアクション要素をメインとし、最新技術で一級品のゲームにした。
まずは、本作の顔である映像体験である。これについてはスクリーンショットやトレイラー動画を見てもらいたい。幻想的とすら言える美しさに、数々のBGMが彩りを加えていく。息を飲む見どころの連続で、宇宙がまだフロンティアだった時代―― ビデオゲーム黎明期にゲーマーが宇宙や未来に抱いた夢を想起させる。
プレイ体験にも現代のゲーム技術を加えてある。慣性をコントロールすべくスラスターをふかすと燃料が減る。着陸船や宇宙船が危険にさらされたら船体が減る。さまざまな要因で生存に関わる数値を失うので、それら数値をおぎなうべく、惑星から惑星へとめぐり資源を採取せねばならない。このサバイバル要素で星系パートと惑星パートは連続したものとなっており、地球への長い旅路をスリルあふれるものにしている。
面白いのは、4人の乗組員が状況にあわせてエスプリのきいたジョークをこぼし、苦痛すれすれのシビアなミッションをユーモアで克服していく演出だ。映画「オデッセイ」の主人公のように不屈の精神をもって状況を楽しみ、5人目の乗組員であるプレイヤーを励まし続ける。それにしても、乗組員のジョークはどれも苦笑を誘うものばかりだ。「このミッションは私の偉大な成果になるか、私のキャリアを笑いの種にする」
一期一会のお客様には、倍の値段をふっかけよう
地球へ帰る手段は突き詰めるとカネである。カネがあるということは誰かと取引するということである。その相手は、人類文明よりはるかに発展した宇宙人たちだ。彼らは我が物顔で宇宙を飛び回り、新参者の人類を品定めしている。彼らの助力なくしては、地球に帰ることなどできやしない。
マップは10を越える星団で構成されており、それぞれの星団を支配する宇宙人がいる。地球に帰るには星団と星団をつなぐワープゲートを使わねばならず、宇宙人に使用料を払うことになる。宇宙人との取引は本作の根底にあり、彼らに気に入られているか、嫌われているかで物語は大きく揺れ動く。複雑な事情とともにクエストを受けることもあれば、問答無用で砲火を浴びることも。
特徴的なのは宇宙人とのトレードだ。正しい価格を提示してくれず、宇宙人は必ずふっかけてくる。こちらも負けじとふっかけて値段交渉するのだが、余裕がない状況では足もとを見られてしまう。また、数々の種族と付き合うことになるのだが、八方美人はオススメしない。相手が小型船ならそれほど強くない武器でも十分に狩れるので、おいしいアイテムを回収できるそ。弱小勢力をカモにすればゲームは大きく進むだろう。もちろん、あとで親玉に追いかけ回されるときもあるのだが。
異星人との交渉は乗組員の特技を活かすシーンでもある。エイリアン惑星のキノコは、そのまま売るよりもフルーティなワインに加工した方が高く売れる。宇宙人から買ったパーソナルシールドを分解すれば、宇宙船の強化パーツにできる。アイテムの売買と活用を通じて宇宙人と地球人がつながり、彼ら宇宙人の物語に踏み込むかどうかで乗組員の命運は左右する。
本作はサバイバルアクションと、ストーリーベースのRPGを、きわどいバランスで両立したゲームだ。リトライで知識とスキルを磨き、不運に対抗する点が攻略の肝となる。映像はただ鑑賞するにとどまらず探検の場となり、物語は読むにとどまらずゲーム攻略の鍵になる。ランダム生成マップの旅路だが、その旅路の挑み方はプレイヤーに委ねてあり、あなただけの軌跡を描くことができる。
21世紀のレトロゲーム
『The Long Journey Home』は、減点制で採点すれば高得点のゲームだ。どの要素も高品質で、特に映像面は文句がない。トレイラー動画が琴線に触れたならそのまま手に取ってほしい。プレイするほど明らかになる宇宙人たちのバックボーンも魅力があり、旅路の寄り道で人助けもしたくなる。プレイ体験の古臭さは好みが大きく分かれるところだが、映像体験と物語体験で80年代スペースオペラを描き、その当時のゲーム―― レトロゲームの雰囲気をピカピカに磨ききっている。なるほど、乗組員が口にするジョークは、今日のゲーム配信文化におけるレゲー実況のようにも見える。
本作のたったひとつの不評点は惑星パートの単調さにある。数度体験すれば目新しさがなくなるものの、操作はおそろしくデリケートで失敗したときのダメージが大きい。着陸船を強化するまでは、ここが最大のイライラポイントになるだろう。また、全体的に燃料や船体の消費量が多く、追い詰められた状況で敵対的な宇宙人と遭遇することも多々ある。これからファーストプレイするゲーマーには、発売後に追加した低難度モードの「ストーリーモード」を強くおオススメしたい。さあ、21世紀の最新技術で30年前のゲームを楽しもう。最後に一つ。武器は絶対に手放すな!