世界で一番簡単なシムシティ『BitCity』紹介。一度押したらクセになる、クリッカー都市育成ゲーム

『Bit City』は、ひたすら画面をクリックしておカネを稼ぐクリッカーゲームに、都市育成ゲームの見栄えと要素をプラスしたタイトルである。在りし日の高度経済成長のように、ゲームを始めるとすごい勢いでビルが建て変わる。

都市育成シミュレーション『Sim City』で幕を開けた箱庭ゲームは、大きく分けて2つの方向に進化した。一方はジオラマエディタである。膨大な建物とと多彩な景観ツールにより自分の思い通りの都市デザインを築くことができ、プレイヤーの創造力をマシンパワーの限界まで受け止めてくれる。近年では人気作『Cities: Skylines』や『Planet Coaster』を見てもわかるように、オンラインのデザイン共有やプレイ動画といった、披露する遊びも加わった。

それらと別方向に進化したのが、今回紹介する『Bit City』だ。ひたすら画面をクリックしておカネを稼ぐクリッカーゲームに、都市育成ゲームの見栄えと要素をプラスしたタイトルである。在りし日の高度経済成長のように、ゲームを始めるとすごい勢いでビルが建て変わる。やがて成長は緩やかになり街の景観ができあがると、市長であるあなたは、きっとこんな言葉をこぼすだろう。「なんとみすぼらしい街だ。私が何とかしてやろう」と。

『Bit City』
開発: NimbleBit
発売日:2017年3月13日
価格:基本無料(課金通貨、ゲーム内広告表示)
プラットフォーム: スマートフォン(AndroidiOS

 

クリック連打で圧倒的成長

『Bit City』のルールはクリッカーゲームだ。ボタンを押しておカネを稼ぎ、ためたおカネでよりお金が稼げるように各種要素を強化していく。クリッカー系ジャンルの魅力は、クリックを連打するという実にシンプルな行程のあいだに愉快なイベントや場面転換が盛り込まれている点にある。本作はこのイベントを街の成長に置き換えている。

ボクセルでできたミニチュアのような街は、ゲーム開始時点で道路工事が完了し、区画整理も済んでいる。プレイヤーの目的は都市人口の達成で、やることは主に「区画を買う」「ビルドボタンを押す」のふたつだ。区画を買えば建物が建ち、毎秒おカネを生み出していく。画面下のビルドボタンを押せば、建物が無料で強化され、収入が増える。そうして、ためたおカネで次の区画を買う。

チュートリアル画面。マップのベージュ色ボタンが区画。区画は購入するたびに価格が跳ね上がるので、次々と購入することはできない。高騰に負けないようビルドボタンで建物レベルを上げ、市役所(青色)、銀行(黄色)、駐車場で収入ボーナスを購入しよう。

本作では建物がレベルアップするとランダムで建て変わり、それが演出の焦点となっている。収入は建物レベルに応じているので、見た目はただのスキンではあるのだが、沸き立つように様変わりする景観で、都市育成ゲームらしい見栄えの楽しさが凝縮されている。

画面下のビルドボタン。押せば街のどこかが「建設中」になって新たな建物ができあがる。

 

実質、都市育成ゲーム

驚くことに、本作は街づくりの要素が充実している。ルールこそクリッカーゲームだが、無心でクリックしたり、画面を放置し続けたりすることはない。次に買う区画を考えながら、街の隅々に目をくばるプレイフィールは、都市育成ゲームにかなり近い。

ステージが進むごとに街の規模は大きくなる。

まずは建物の種類と、そのバランスだ。区画購入時に「住居」「ビジネス」「公共サービス」の3つのグループから指定でき、街中の建物グループのバランスが偏ると収入が減る。もちろん、グループごとに建て替わる建物の見栄えは違い、都市景観に大きく影響する。

左より住居、ビジネス、公共サービス。建物の見栄えは150種類と豊富だ。レベルアップ時の建て替えと、建物の向きはランダムで、偶然が重なるとひどい見栄えの町並みができる。

街の見栄えにアクセントを加える自動車や飛行機を購入することもできる。これらの乗り物は時間経過でコインを担ぎ、クリックで臨時収入になる。街中にちらばったコイン集めが積極的な操作をうながすとともに、景観を味わう遊びにつながっている。この流れで頻繁に操作するマップは、スワイプやピンチイン・アウトの反応がなめらかでストレスを感じさせない。

マップは画像左の拡大から、画像右の全容までシームレスに拡縮する。画面タップはコインクリックが優先されるのでコイン集めに不快はない。

単調なほかのクリッカーゲームと比較すれば、こういった街の景観を楽しむためのアニメーションやツールは、演出パートと呼ぶには一線を画す作り込みだ。一方で、『Bit City』を経営面を極度に簡略化した都市育成ゲームだとすれば、本作の狙いが見えてくる。それは中盤以降のプレイフィールで明らかとなる。

 

カメラの向きを変えられないなら、建物をどかせばいいじゃない

圧倒的成長を遂げた「あなたの街」だが、中盤以降は区画の価格があがり、レベルアップまでの時間も伸びていく。成長は徐々に遅くなり、街の景観がさだまってくるだろう。市役所で「オートビルド」を購入すると、市長の仕事は街を眺めてコインを回収するだけとなる。ここから箱庭ゲームのスタートだ。

本作の肝は、ゲーム攻略を景観デザインのチュートリアルとしたところにある。ゲームクリアと別に設けられたボーナス目標がそれだ。目標達成で課金通貨Buxを大量に得られ、収入強化をアンロックできる。この目標に「野球場をふたつ保有する」といった建物に関するものがあり、プレイヤーは区画の「建て替え禁止」機能を使用することになる。ゲームを効率良く進める過程で、気に入った建物を残して景観をつくる遊びをうながした。

画像左はボーナス目標。今回の目標は、街にスタービットコーヒーが4件あれば達成。目標達成で得たBuxは、永続ボーナス(画像中央)の購入や、収入ボーナス付き建物(画像右)のアンロックに用いる。

カメラモードにもひねりがある。カメラの向きが固定してあり、街の好きな一面を切り取ることができない。良い絵を撮るために、ファインダーに映る建物を建て替え禁止で選定するのだ。カメラを構えて、車のコインを取り除きつつ、建設中のクレーンが消えるまでシャッターチャンスを待つ。気付かぬうちに時間が流れ、区画の購入に十分なおカネがたまるだろう。ゲームテンポの鈍化は、こうした景観をデザインする「ゆとり」を意図したものである。

カメラモード。絵の上下にボカシがかかるミニチュア効果付き。被写体への角度を10度~45度、5度単位で変更できる。浅く撮るほど遠くまでファインダーに入り、自動車のコインや建設クレーンを隠すのが難しい。手前の建物を低く、奥を高くすれば、それらしい絵になるぞ。

幹線道路は商店街にしよう。住宅街にはコンビニが欲しい。などなど、わきあがる都市への思いが街づくりのルールとなる。さらにステージクリアが更地からやり直す機会となり、デザインの再挑戦をうながしている。頭の中に完成予定図を描くところから始めるのではなく、すでにある見栄えの改良を繰り返すことで、『Bit City』は箱庭ゲームの醍醐味「景観デザイン」に到達するもっとも易しいルートをプレイヤーに提示している。

 

想像力のサンドボックス

『Bit City』はクリッカーゲームの演出を選定し、都市の景観をデザインする、ユニークな箱庭ゲームだ。現在主流の『Cities: Skylines』や『Planet Coaster』のジオラマエディタを、「創造」を表現するサンドボックスとするなら。本作は、プレイヤーにつくりたい景観を気付かせるという意味で、「想像」を喚起するサンドボックスである。高級マンションの隣にログハウスができたとき。スタービットコーヒーに囲まれた喫茶店ができたとき。手入れを重ねて住み心地が良さそうな町並みができたとき。頭の中に浮かび上がるボクセル都市の物語が、クリックするだけの簡単な市長業に豊かな彩りを加えるだろう。

スタービットコーヒー(茶色と緑色の建物)に囲まれた個人経営の喫茶店。

最後に、課金コンテンツについて。課金通貨Buxの購入にもひねりがある。ゲーム中に入手できる分と別に、ゲーム展開を通じて「貯金箱」に貯まっていく。その貯金箱を購入すれば格安で購入できる。強くてニューゲームは収入倍率が増えるので、周回プレイすればゲーム展開が加速し貯金箱も膨れていくぞ。まずは無料プレイで試し、気に入ったなら貯金箱の購入をオススメする。

Hikaru Nomura
Hikaru Nomura

高校卒業後、ペンキ塗り・コンビニバイト・警備員・システムエンジニア・ネットショップの店長などで食いつなぐ。趣味はスーパーカブにまたがってのドライブ、海外SF小説(オールタイムベストは『スキズマトリックス』)、ゲーム実況、たまに同人活動。

宇宙ストラテジーと格闘ゲームを好む。リズムゲームとビジュアルノベルは苦手。FPSは酔う。中段や弾幕は見えない。Arcen Games信者であり、Stardockian(Stardock信者) でもある。英語は苦手だが、気合で翻訳して遊ぶ。

ゲーム大会の最高成績は2013年トライタワー末塔劇『チェンジエアブレード』部門第4位。

オールタイムベストゲームは『ニュースペースオーダー』。

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