911 Operator』は、緊急通報ライン(911)の電話オペレーター兼通信指令係として、配属された街の秩序を守るシミュレーション/ストラテジーゲームである。対象プラットフォームはWindows/Mac/Linux(Steam)。開発を担当したポーランドのインディーデベロッパーJutsu Gamesには、実際の通信指令係として経験を積んだメンバーが複数人在籍している。また本作は警察および救急隊の監修を受けており、不正確な描写が含まれないよう、十分な配慮がなされている。

プレイヤーは通報ラインに寄せられる案件に対応し、通報者と緊急隊の両方に適切な指示を下していく。そもそも緊急隊の派遣が必要かどうか、必要であればどのユニットを向かわせるのかを適宜判断するのだ。人口の多い都市になるほど緊急案件の発生率が上昇するが、ユニットの数は限られている。街全体の安全を優先するため、ときとして通報を後回しにする、あるいは無視するという判断にも迫られる。

ストラテジーゲームとしては非常にシンプルなつくりで、操作方法は左クリックでユニットを選択、右クリックで派遣先の指定、マウスウィールのスクロールで拡大・縮小と、片手だけでも十分処理できる。ゲームプレイは任務編とマネジメント編に分かれており、任務編ではオペレーターとして1日8時間の勤務をこなす。マネジメント編ではユニットの編成、隊員の雇用、車両・アイテムの購入により次の任務に備える。ゲームの進行速度は通話時以外いつでも変更可能。デフォルトの進行速度であれば10分ほどで1日の業務が終わる。もともとはモバイル向けのリリースも想定されていたため、こまかく区切りをつけ、隙間時間でも十分遊べるようになっている。

通報者だけでなく現場からのレポートにも目を向ける

 

真偽と緊急度を見極める電話オペレーター

オペレーターとしての1日は、各ユニット(警察・救急・消防)の待機地点を指定することから始まる。どの地域で事件が発生しても、すばやく現場に向かえるよう分散して配置する。通報は電話または文面で寄せられ、電話経由の通報に関しては、数秒以内に応答しないと無視したことになる。緊急案件を無視または時間内に処理できなければ、オペレーターの評判(レピュテーション)ポイントが下がる。1日が終わった時点で累計評判ポイントがゼロを下回ると任務失敗。人命に直結する案件ほど不対応時のマイナスが大きいため、優先度をつけて冷静に判断しよう。

電話での通報が寄せられたら、まずは4W(いつ、どこで、誰が、何を)をヒアリングして緊急度を測る。ヒアリング内容は会話の選択肢から選べる。盗難にあったのが1週間前であれば緊急ではないし、怪我を負ったのが5分前であっても傷が浅ければ救急車を送る必要はない。むしろ緊急ではない案件にまでユニットを派遣すると評判が落ちる。また通報者の勘違いであったり、いたずら電話であったというオチもあるため、流れ作業で対応していると現場に余計な負担がかかる。反対に応急処置の案内や、話し合いだけで解決すれば現場の手を煩わせなくて済む。かといって通話が長引くと他の通報に対応できなくなるため、会話をいつ終えるかの見極めが大事となる。通報の中には片言しか話せなかったり、近くに犯人がいて言葉を発せられないケースもあり、一筋縄ではいかない。

 

臨機応変な対応が求められる通信指令係

通報内容を把握したら、警察・救急・消防隊を適宜派遣する。隣人トラブル、喧嘩、強盗、麻薬取引、スピード違反、酔っ払い運転、交通事故などは警察が対応。負傷者がいる場合は救急隊を、火災や化学薬品の取り扱い時には消防隊を送り込む。また路上での喧嘩ひとつをとっても、相手の人数、武器や負傷者の有無によって派遣すべきユニットの種類・数が変動する。騒音トラブルかと思いきや老人がテレビをつけたまま孤独死していたり、スピード違反で切符を切る最中に相手が発砲してきたりと、現場の仕事は予測不可能な出来事の連続である。交戦がエスカレートすればバックアップ要請が入り、けが人が増えれば追加の救急車が必要となる。こうしたシチュエーションの変化に合わせて、迅速かつ的確な指示を出せるかが街の安否を左右する。

震災時には交通事故が多発する

1日の業務を終えると、評判ポイントの増減および収支結果が発表される。案件処理件数に応じて報酬が支払われ、雇用中の緊急隊員数によって支出額が決まる。たくわえた資金は、マネジメント画面で隊員の雇用や、車両・アイテムの購入にあてられる。各隊員の運転能力・職務能力によって案件の処理速度に差が出る。隊員が経験を積んで昇格すると、各種ステータスとサラリーが上昇する。またアサルトライフル、ショットガン、防弾チョッキ、救急キットを装備させると、さらなる業務効率化を図れる。

車両は種類によって移動速度、乗車スペース、逮捕者・怪我人の輸送スペースが異なる。輸送スペースが大きいほど現場と輸送先(警察署・病院)との往復回数が少なくて済む。大型車両は輸送スペースが大きいかわりにスピードが遅い。バイクは小回りがきくが、輸送スペースがない。ヘリは遠地への派遣に向いているものの、初動が遅い。こうした車両および隊員のスペックを考慮しながら、最適なチーム編成を考える。業務をこなして評判と収入を増やし、ユニットを増強する。これを日々繰り返すことで街の秩序を堅固なものとするのだ。

結果表示画面
チーム編成画面

 

東京は世界屈指の高難度マップ

本作のゲームモードは「キャリアモード」と「フリーモード」の2つ。「キャリアモード」ではキャンペーン用のマップでプレイし、評判ポイントを一定値まで増やせばクリアとなる。配属先は、人口数十万人規模の街から、シカゴやニューヨークといった大都市まで全部で6つ。大地震や爆破テロなどマップ固有のイベントも用意されている。

「フリーモード」では「OpenStreetMaps」からマップをダウンロードし、好きな街でゲームを遊べる。東京や大阪など日本のマップもプレイ可能だ。自分の故郷や愛着のある街で遊べばモチベーションも上がるだろう。ちなみに東京は道路が入り組んでおり通報数も多いため、高難度のマップとなっている。唯一の救いは、交番の数が圧倒的に多く、逮捕者の輸送が苦にならない点だろう。なお発生するイベントはマップによって変動しない。日本の都市部だからといって自殺や孤独死、あるいは地震の頻度が増えるといったことはない。

難易度はイージー・ノーマル・ハードの3つ。ノーマルまではユニット数に対する案件発生数に余裕があるため、キャパシティの限界に挑みたい方は初めからハードモードに挑戦するのが良いだろう。どの難易度でも、通報の種類は限られているため、数時間もすれば同じ内容の繰り返しとなる。反復作業により応急手当の手順を覚えられるという教育的なメリットはあるものの、通話内容をパターン化してしまえば緊張感は薄れてゆく。このバリエーションの少なさがネックではあるが、過酷なオペレーター業務を、タスクがノンストップで降り注ぐストラテジー/シミュレーションゲームという枠組みに落とし込んだ意味で、興味深い作品である。

なお作中の電話音声は英語のみ対応。日本語字幕については有志による翻訳作業が進んでいる。