時は18世紀の帆船時代後期。英国海軍と海の荒れくれ者たちが壮絶な海上戦を繰り広げていた。砲撃を喰らい、粉々に吹き飛んでいく仲間を横目にラム酒をあおる海賊たち。その笑い声は実に豪快で、海で生きる男たち特有の快活さを感じさせる。視線の先に映るのは、せっかくの快晴なのだからと船を降り、無人島で紅茶をすする優雅な英国紳士たち。彼らが放棄したガレオン船は沈みつつあり、船内に取り残された船員たちの悲鳴だけがむなしく響き渡る。勝負を捨てた紳士たちは、束の間の茶会を終えると一人ずつ自害していき、勝利を確信した海賊たちが屈伸しながら雄叫びをあげる。
上記は筆者が『Blackwake(Steam)』のプレイ初日に遭遇した出来事の一部始終である。右も左もわからないリリース初期ならではのお祭り騒ぎだ。ボイスチャットで飛び交う言葉も「Ahoy!」「Aye aye, captain」など海賊気分全開で、戦況によって喜怒哀楽がめまぐるしく変化していく。早期アクセス開始から2週間が経過した今でもお祭りゲーの片鱗は残っている。ただし「お祭り」の性質は、勝負を無視した乱痴気騒ぎから、連携プレイが誘因する建設的なものへとシフトしつつある。
連携プレイといっても、距離を置きながらジリジリと攻める冷静沈着なネイバル・コンバットから、船首と船首のどつき合いまで、参加するサーバーによって振り幅が激しい。一人一隻ではなく、10人前後のプレイヤーが一隻の船を総動員で動かす本作においては、どんなプレイスタイルであっても、船長と船員の動きが噛み合ったときの喜びは格別である。逆にコミュニケーションを取れないと、不平不満だけが募っていく。ゲームの楽しさがプレイヤーの協調性に大きく左右される作品なのだ。
紅茶派とラム酒派の終わりなき戦い
本稿執筆時点で用意されているゲームモードは、TDM(チームデスマッチ)である。一番オーソドックスなルールは、大型帆船(ガレオン船)1隻と小型帆船2隻からなる小艦隊同士のデスマッチ。大型帆船は13人乗り、小型帆船は7人乗りで、最大27人対27人のマルチプレイ対戦が可能となっている。各マッチはチケット制であり、先に160チケットすべてを失った方が負けとなる。
サーバーを選んでマッチを開始すると、まず海軍と海賊のどちらにつくかを選択する。両者ともスペックの差はないが、回復用のドリンクが異なる。海軍が紅茶で、海賊はラム酒。ベバレッジを決めたら、続いて大型帆船と小型帆船のどちらに搭乗するか、そして自らを船長として自己推薦するかを判断する。船長は自己推薦したプレイヤーの中から、プレイヤー間の投票により選出される。自己推薦者がいない場合はランダムで選ばれるため、不本意ながら船長になってしまうことも。そんなときはメニュー画面の「辞任する(Resign as Captain)」または「推譲(Transfer Captain)」コマンドを選択してほかのプレイヤーにキャプテンの座を譲ろう。後述するようにゲームの仕組みを理解していないと、船長として満足にプレイすることは難しい。はじめのうちは一端の船員としてゲームの理解を深めるのがベターだ。
船上にスポーンした直後は武器を装備していないため、Mボタンで装備選択画面を表示。メインウェポン・サブウェポン・近接武器・スペシャルアイテムの項目に、それぞれ一つずつ装備品を割り当てていく。マスケット銃、ラッパ銃、迫撃砲といった武器は18世紀当時の仕様を再現しているため、リロード時間が非常に長い。スペシャルアイテムには回復ドリンク(紅茶・ラム酒)のほか、爆弾・投げ斧を選択できる。ちなみに紅茶とラム酒は体力を回復するだけでなく出血をも止めるオールマイティな飲料である。
ミクロ視点で働く船員
各船員に固定の役割が与えられるわけではなく、船長の号令に従って、適宜砲撃の準備や船体の修理に勤しむ。慣れないうちは構造がシンプルな小型帆船で働くのが良いだろう。大砲は舷側に配置されており(ガレオン船は船内前後部にも配置あり)、一定の手順に沿って準備を進める。ボタンひとつで砲撃できるような簡単仕様ではなく、まずは火薬と砲弾を別々に装填する。いずれも砲台のそばに置かれたサプライボックスから手動で運んでくる。
砲弾の種類はキャノン砲、ブドウ弾(対人用の散弾)、引っ掛け鉤(敵の操船を止めるグラップリングフック)の3つ。船長の指示に従って装填する弾を選ぶ。とくに指示がなければ、とりあえずキャノン砲を装填。込め矢で詰め込んだ後、大砲を砲門へと押す。これでようやく準備が完了する。砲撃時の注意点は、着火してから発射までにタイムラグが生じること。タイミングをつかむのに多少の慣れが必要だ。
サプライボックス内の弾薬が切れたら、船内の倉庫から新しい箱を運んでこよう。サプライボックスの残数には限りがあるため、弾を無駄にしていると長期戦で不利となる。なお在庫は船単位ではなく、チーム全体で共有している。
砲撃を受けて船体が破損した場合、すみやかに復旧作業へと移ろう。船体に穴が空くと浸水し、放っておくと船が沈む。修理用ハンマーで穴を塞ぎ、ポンプを使って排水せよ。また帆(sail)が破損すると旋回能力が大幅に下がるため、こちらも放ってはおけない。火災発生時にはバケツでの消火作業を優先しないと火が広まっていく。このように、ひとたび集中砲火を受けると人員を復旧作業に総動員することになり、攻撃面が機能しなくなる。いち早く戦線に復帰するためにもチームワークが欠かせない。
復旧が間に合わず船が沈むと、チケットをロスし、前線から離れたリスポーン地点に戻される。なお海に落ちても船が残っていればロープをつたって甲板に戻れるが、沈没した場合はなす術がない。諦めてメニュー画面の自殺(Suicide)コマンドからリスポーンしよう。
大砲の撃ち合いだけでなく、船首の衝角で敵船に突撃、あるいは鉤で船同士が繋がると白兵戦に発展する。鉤で繋がれたグラップリング状態では、両サイドとも死亡時のリスポーン時間が大幅に伸びる。全滅した方の船は沈み、勝利した方はチケットとサプライボックスを獲得する。なお大型帆船は大型帆船、小型帆船は小型帆船同士でしかグラップリングできない。またグラップリングで繋がっている間は大砲によるダメージを受け付けない。
マクロ視点で戦況を見渡す船長
船長の主な仕事は、船員への指示出しと帆船の操舵である。船員への指示出しは、ゲーム内コマンドを使って「発砲準備」「穴の修理」「突撃準備」といった号令をかけるか、ボイスチャットで直接声をかける。プレイヤーの統率力が問われるわけだが、船長の声が子供であったり、「話し方が癪にさわる」という理由で反乱が起き、キャプテンの座から引きずり降ろされるケースもある。人間同士でプレイしている以上、単に的確な指示を出せば良いという話でもなさそうだ。
また船員への号令だけでなく、チーム内の船長同士でコミュニケーションを図り、各船の立ち回りを決める必要もある。全体、チーム、自船、範囲内チャットを使い分けながら連携を取るため、海外サーバーで船長になるには英語でのボイスチャットが必須といえる。片言でも良いので用語を覚えておくと、スムーズに連携を取れるだろう。「ポート・サイド(Port Side)=左舷」「スターボード・サイド(Starboard Side)=右舷」だけは押さえておきたい。なおボイスチャット無しの国内サーバーも存在するが、やはり味方の意図を汲みづらいという欠点がある。それにボイスチャットの方が発砲のタイミングを伝えやすい。
操舵自体は簡単なのだが、自船の大砲・旋回砲の位置を把握していないと的確なポジショニングができない。ゆえに船長は船員として船の構造に慣れ親しんだ上で挑戦すべき役割である。基本的な立ち回りとして、敵船の舷側に入ってしまうと一斉射撃を受けるため、相手の射線上で止まらないよう旋回し、直角あるいは斜め向きに対峙することが好ましい。また小型帆船とガレオン船では火力の差が激しく、前者が後者に単独で挑むのは無謀であることも忘れてはならない。
船長はマクロ視点で戦場を見渡せるが、船体のどこに穴が空いたのか、どの大砲がスタンバイOKなのかといったミクロ視点での状況把握が難しい。一方の船員は自分の持ち場以外にまで気を回す余裕がない。マッチごとに変動する天候や昼夜サイクルによっては視覚情報が大幅に閉ざされるため、自船と敵船の位置関係を視認するのも困難だ。このように一人のプレイヤーが全体像を把握できないのは、おそらく意図的な仕様である。船長から船員へトップダウンで指示を出し、連携を図ることで初めて一隻の艦船として機能する。
混戦への備え
最初のうちは、そもそも敵味方の区別がつかないという問題に直面するだろう。本作にはキャラクターのカスタマイズ機能があり、性別・髪型・肌色などを選択できるのだが、海軍も海賊も遠目には違いがわからない。とはいえ混戦時に敵味方を瞬時に判別できないのは致命的。キャラクターカスタマイズ画面で衣装・帽子の特徴を掴んでおくと混乱せずにすむ。またマッチ中にQボタンを押すとチケット残数を確認できるほか、味方船・味方プレイヤーの上部に名前が表示される。攻撃すべき相手なのか悩んだら、とりあえずQで確認しよう。
『Blackwake』のゲームプレイは細かい作業に分解されており、そのひとつひとつは極めて地味である。だが一人一人が作業に追われ、全体を見渡せないという制限があるからこそ、プレイヤー間の連携が促される。一人ではどうにもならない困難をチームワークで乗り越えていく達成感こそが本作の魅力なのだ。
あるいは、連携を取れず崩壊していく様を、ラム酒片手に傍観する悪趣味な楽しみ方もできるだろう。いずれにせよ本作は、コンテンツそのものではなく、プレイヤー間のコミュニケーションと「ゲームを楽しもうとする気持ち」に大きく依存しているため、コミュニケーションが生まれないと途端に退屈なゲームになる。これから本作を手に取るプレイヤーには、素敵な海賊・海軍仲間と一人でも多く巡り会えることを願っている。