この惑星への入植計画は16年前に開始されたが、ある事故によってテラフォーミング工程は失敗し、人類のすべての努力は水泡に帰した。あなたは入植基地に残されたたったひとりの生き残りとして、すべての通信が途絶した惑星からの脱出のために奔走することとなる。あなたを手助けしてくれるのは、基地に残されたメインフレームのAI。そして、かつてこの入植基地で働いていた四名の技術者のホログラムだ。

彼らの導きに従い、入植基地の各セクションに残された廃墟を探索し、そこに残された手がかりをAIのもとに持ち帰ろう。それらは脱出用ロケットの部品として、あるいは技術者たちのホログラムの実在性を上げるためのデータとして活用される。再現されたホログラムたちは、自分が本物の人間ではないことに悩みつつも、あなたがこの閉ざされた惑星から脱出するために、それぞれの専門技術を活かすことを約束してくれる。あなたをサポートしてくれる心強く明晰なAIとの協力もまた、本作の見所のひとつだ。最後の時が迫るとき、あなたはひとつの重大な選択を採ることになる。

Alone With You』は、洗練されたSFの語りと廃墟探索のゲーム性が融合した、2Dアドベンチャー・ノベルとでも言うべき作品だ。物語は、どことなくポップなデザインの宇宙服を着込んだ人物が、崖の上から異星の風景を眺めているシーンから始まる。基地のAIからの通信が開き、メッセージは上部のダイアローグボックスに表示されるが、その内容は現在の惑星の状況と、いま今しなければならないことの概要となっている。

このカットシーンの後、すぐに操作をはじめることができるが、まずプレイヤーは本作のドット絵の動きに感心することになるだろう。どう表現したものかわからないが、ありていに言えば、カメラから離れていくにつれてキャラクターは小さくなっていき、近づくにつれて大きくなってくる。ドット絵自体はSFC世代のタッチだが、この遠近感の表現は、固定カメラを用いた初代プレイステーション世代の作品のグラフィックの省略法と似たものを感じさせ、独特でおもしろい。

基地に戻ってAIと会話をすると、強まりつづける酸性雨の影響のために、唯一残された基地自体じたいもあと三週間程度しか持たないであろうことが明らかになる。AIはプレイヤーに、投棄されて無人化した入植のための施設を調査し、脱出船の部品を見つけと、さらにそれぞれの施設で起こったことを突きとめるように要求する。AIの話によれば、すでに死亡した技術者をホログラムによって再現することができ、彼らに脱出船の制作をまかせるのだという。プレイヤーはAIからの指示を受けながら、点在する各施設に向かい、そこに残された遺物をつぎつぎとスキャンしていくこととなる。

昼間の調査を終えると、AIによって収集されたデータの整理が行われる。その結果によって再現されたホログラムは、各施設で働いていた四名の技術者のものだ。夜になると、ホログラム空間のなかで技術者との面談が行われる。プレイヤーは彼らが現実には死亡していることを知っており、またホログラムたちも、自分たちが過去の記録から再現された亡霊のようなものでしかないことを自覚している。それでも彼らはプレイヤーがこの惑星から脱出することに協力的であり、個人的にも友情を育もうとしてくれる。

探索パートでは、画面上のオブジェクトに近づいてスキャンすることができる。画像は事件の被害者。

彼らの話や探索から徐々に明らかになってくるのだが、この入植計画が破綻したのは、「The Rift」と呼ばれる壊滅的な出来事のためだ。その出来事から以降は、ほとんどすべての記録が失われてしまっている。ホログラムの技術者たちは施設に残された記録から再現されているため、記録に残っていない自分たちの死因は覚えていないのだ。そこで脱出のために調査を続けながら、彼らの遺品などを探っていき、彼らに死の経緯を伝えていくのも目的のひとつとなってくる。こういった話題に接したときの彼らの人間らしさは驚くほどで、テキストを読んでいる限り、彼らが故人を再現したホログラムだとは到底思えないほどだ。

2017年の現在においては、AIが心を持ちうるかという問題は未解決だ。本作の時代設定である2066年においては、もはやその問題はクリアされ、心すらも完全に再現されているように見える――少なくとも彼らが話している内容から類推する限りは。そういうわけで、彼らの死因とその経緯を死者に伝えるという、興味深い設定がSF的に実現するわけだ。このプロットとそれを語るためのテキストはすばらしい品質で、ほとんどマヌエル・プイグの会話体小説に匹敵するレベルである。

会話パート。植生エコシステム開発担当者と、ディレクターの任務について話しているところ。

ゲームとしての欠点を挙げるとすれば、日々の作業の単純な繰り返しからくる中盤の退屈な冗長さだ。プレイを開始してしばらくすると、昼は各施設を探索し、夜は面談を行うというサイクルのなかに、ゲームプレイが落ち着いてしまう。また、探索パートに時間制限のようなものはなく、ゲームオーバーの可能性もない。すべての日付は、ゲーム自身が制定した厳密な時間割りのなかで進んでいく。こういった要素のために、危機が迫っているという感覚を覚えることができないのだ。正直に告白すると、一日の終わりに表示される日付の表示を見るたびに、まだ終わるまでにこれだけ時間がかかるのか、とため息をついてしまったことは確かだ。

しかしながら、終盤にかけて急変をみせる物語の展開と、なによりもテキストのすばらしさがこの欠点を覆い隠してくれる。四人の技術者の究極的な死因が明らかになったとき、プレイヤーキャラクターは彼らにその経緯を説明する。この会話のシーンは、そのような事態は現実にはあり得ないのだが、しかしもしも現実に起こったらこんな反応をするだろう、という納得の感覚を充分に与えてくれるものだ。また、この面談自体がきっかけで、次第に歪んでいくホログラムとAIの関係性も興味深いものがある。

本作においては、AIはほとんど人間の心を持っていると仮定していい。そして、メインフレームのAIの至上の目的は、基地に暮らす人々の安全と幸福を確保することだ。しかしながら、未曾有の災害によって入植計画が破綻してしまい、人々の幸福というものが事実上存在しなくなってしまったとき、AIはいったい何を基準にして自身の行動を決定するのか。

もちろんその判断は、入植者最後の生き残りであるプレイヤーの存在が考慮に含められた、ごく現実的なものである。そして生存者一名というこの極限的な状況において、AIが最後に提示するふたつの選択肢は、いずれもプレイヤーの安全と幸福のために練られたものである。それだけに、プレイヤーが実際の選択肢を前にしたとき、それは現実的な価値判断という意味合いを大きく越えた、重大な問いかけとしていつまでも心のなかに残り続ける。逐語訳すれば「あなたとひとりで」というような意味になるタイトルが、この局面を暗示していたことは、ここまでくれば充分に納得されるだろう。

古今東西のさまざまなフィクションによってAIは描かれてきたが、筆者の知る限りでは、一緒に仕事をしたいと思わせるのは本作のAIが一番だ。指示の言葉は的確でわかりやすいし、成功したときには褒めてくれるし、なによりも、こちらと友達になろうとしてくれる。

『Alone With You』は、SF的な文脈に身を置きつつも、人間の心の動きに焦点を絞ることで普遍的なテーマを描くことに成功している。ゲームとして見た時の中盤の退屈さは見逃しようのない欠点だし、大胆な言い方をすれば、探索パートを省いてノベルゲームにしてしまっても良かったのではないかとまで思えることも確かだ。しかしながら、事態が展開し、最後の時間が迫っているというリアルな危機感をやっと感じさせてくれる終盤から、エンディングにおけるAIの問いかけのシーンまでは、物語の快楽を充分に与えてくれる。本作は、洗練されたSFの物語をビデオゲームの形式で味わいたい方に、自信をもって勧められる佳作である。