ゴア表現ありのガンシューティング。暴力と狂気が渦巻くポストアポカリプス。ローグライクの金字塔『FTL – Faster Than Light』。これらゲーマーの大好物に、スパイシーな難度をたっぷりかけたアツアツのタコスが、『Gunman Taco Truck』だ。人類最後のメキシコ人家族は、ホンモノのタコスを知らないカナダを目指し、屋台トラックで破滅のアメリカを駆け抜ける。現代のオレゴン・トレイルはチーズとサルサでメキシコ風味だ。
『Gunman Taco Truck』
開発: Romero Games Ltd.
発売日: 2017年1月28日
プラットフォーム: PC(Windows、Mac)、スマートフォン(Android、iOS)
価格: PC版11.99ドル、スマートフォン版基本無料
時は2020年。舞台は核の炎に包まれたアメリカ。人類最後のメキシコ人となった一家は、タコトラック(タコス屋台)でミュータントや暴徒が闊歩する無法の地を突き進む。目指すは安住の地カナダ。そこはまだリアルなタコスを知らないビジネス・フロンティアだ。迫り来る破滅から逃げるように、銃撃戦とタコス販売を繰り広げる。
本作の見どころは、「かぐわしい」という表現がピッタリのアートワークやシチュエーションだ。道中の銃撃戦にはローファイのヴィジュアルを活かしたゴア表現がある。暴徒の上半身をCEROやAppleのレーティングごと吹き飛ばし、こぼれたカネを奪い取り、残った下半身をトラックで轢く。街でのタコス販売も無法営業そのものだ。食の安全性がマイナスに振り切れており、道ばたで拾った謎の生きものをナマズと偽り売りさばくこともできる。タコスを買い求めるお客様はどこかでみた顔ぶれで、買えないときはAmazonレビューめいた悪評をたたきつける。底抜けに陽気なラテンポップのBGMが、こうしたヤバいジョークの嫌味を吹き飛ばし、陰惨なサバイバルを愉快な脱出劇に仕立てあげている。
世界観やシチュエーションでみれば、『Gunman Taco Truck』は映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」と「マッドマックス 怒りのデス・ロード」をサメ映画手法で融合した、刺さる人には刺さるとがった作品だ。しかし、本作の本質は“愛すべきバカゲー”という便利な区分におさまらない。慧眼な弊誌読者は、トレイラー動画からある人気ゲームを想起したであろう。『FTL – Faster Than Light』、後戻りにリスクがあるルールのターン制ローグライク。これが自営業ならではのシビアな裏方仕事とマッチし、アクション・オーダー処理・経営管理ゲームの醍醐味を浮き彫りにする。世紀末の飲食業はサバイバルそのものである。
アメリカ縦断ウルトラタコス
『Gunman Taco Truck』はスタート地点アメリカ西南部から出発し、ゴール地点カナダを目指すゲームだ。無法の荒野と化したアメリカには、辛うじて残った街がいくつかあり、タコトラックは街を目指してひた走る。道中はミュータントを撃退し、街ではタコスを売ってガソリンを買い、新たなお客様を求めて隣の街へ向かう。ゲーム展開の3パート「銃撃戦」「タコス販売」「マップ」が歯車のようにかみ合うことで、真っ赤なサルサの買い付けに悩みながら道路を血まみれにするという、混然一体のプレイフィールを生み出している。
「銃撃戦」パートは強制横スクロールのガンシューティングだ。プレイヤーはトラックの上下移動と、トラック上部に取り付けた銃での攻撃を担当する。画面右から大量の敵が押し寄せるので、トラックへ到達する前に撃ち殺そう。攻撃してはいけないようなキャラは存在せず、破壊衝動を存分に解放し脊髄反射で攻撃すればよい。無限マシンガンをバリバリと撃ちまくる爽やかなつくりだ。敵や障害物を倒すと、タコスの具材となる肉や、カネ、スクラップを落とすので、きっちり回収すべし。
「タコス販売」パートはオーダー処理ゲームとなる。街にはお客様が数人ほどいるので、注文されたタコスをつくる。ジャンル定番のスピードボーナスがあり、レシピブックを確認せず素早くつくればチップをはずんでくれる。材料を切らしたり、レシピを間違えたり、時間がかかりすぎると、お客様は帰ってしまう。タコトラックのまわりに誰もいなくなったら、ガソリンを買って次の町に出発しよう。
「銃撃戦」も「タコス販売」も、ジャンルのツボを押さえたつくりだ。そこかしこに練り込まれたジョークも存分に楽しめる。だが基本的にはどちらのパートもジャンルの最小要素のみで構成された内容となっており、既存の作品を超えるような目新しさはない。これは意図通りの設計で、次の行き先を決める「マップ」パートが加わり、はじめて光を放つようになる。街のショップはマーケットとファクトリーのどちらかひとつで、プレイヤーに「仕入れ」の選択を強いるのだ。マーケットでカネを払いタコス材料を補充するか、ファクトリーでスクラップを払いタコトラックを修理・強化するか。「マップ」パートの経営ゲームが、各パートにカネ、スクラップ、食材の管理要素を加えている。本作の本質は、銃撃戦で拾う肉の選別や、利益が少ない注文をお断りする、といったシチュエーションを自動的に生成する強固なゲーム設計にある。
難度MAX、怒りのタコ・ロード
タコトラックに差し迫った危険は3つあり、それぞれのパートで対応しなければならない。戦闘はどんどん激化し、タコトラックは修理・武装強化しなくてはならない。タコスを食べないお客様は餓死してしまう。骨相手に商売はできない。最後に、ガソリンタンクは大体1都市を移動する分しか確保できず、しかもガソリン代はどんどんあがる。後戻りにリスクがあるローグライク、というジャンルにそった調整である。『Gunman Taco Truck』はそれだけで満足せず、各パートのレベルデザインにも調整を丹念にほどこしている。難関をウンザリするほど用意するのではなく、プレイヤーのゲーム熟達度を厳格に測る難度をもって、タコスのレシピは物語へと昇華する。
銃撃戦は序盤こそ穏やかな難度だが、中盤から敵の耐久力が跳ね上がり、終盤は飛び道具での攻撃や、破壊不能の障害物も多数出現する。敵の対処が間に合わず、タコトラックのヘルスを犠牲に、スクラップや具材を回収せねばならない。タコス販売も展開にあわせてレシピ種類がふえるだけでなく、「サルサ追加」「オニオン抜き」といったカスタマイズが入り、在庫管理を狂わせる。マーケットの品ぞろえはゲーム序盤から悩みの種だ。タコスの具材が全種類そろったマーケットはなく、同じ街での荒稼ぎを禁じている。
生き抜くことが困難な世紀末らしい難度だが、攻略の手掛かりは明快な形で用意されている。それはタコスのレシピだ。暗記してスピードボーナスを達成すれば、カネに余裕ができガソリン代を確保しやすくなる。後戻りするリスクを払えるようになり、道中でスクラップを回収する機会が増え、タコトラックの強化にメドが立つ。ルートやショップの品揃えは毎回ランダムだが、タコスのレシピは変わらず、確実に上達していく。自然と、銃撃戦や強化パーツの知識といった、他の要素も身につくというわけだ。
レシピ暗記や具材の管理の他に、ガンシューティング、タコトラックの強化、ルート選択。単品ではさほど難しくないが、どれかに長けていれば他要素のミスを補える、というものではない。『Gunman Taco Truck』は、難度をランダムエンカウントで運任せにするのではなく、プレイを重ねて攻略する足がかりをつくることで、ゲーム攻略の行程をうまくデザインしている。この責任ある高難度が、タコスのレシピ暗記といった知力、銃撃戦の反応速度といった体力をそなえたプレイヤーに、ルートやショップの品揃えといった時の運をつきつける。ただ痛いだけの辛さではなく、辛さのなかにヤミツキとなる旨さがある『Gunman Taco Truck』は、ゲーマーのためのジャンクフードである。
世紀末タコス伝説
9歳の少年がデザインしたゲームを、少年の親でもあり『DOOM』の生みの親でもあるジョン・ロメロが形にした本作『Gunman Taco Truck』は、サバイバルやローグライクの湿っぽさを吹き飛ばす楽しいポストアポカリプスだ。笑顔の絶えない珍道中だが、タコスに欠かせないチーズやサルサを切らしたときの焦燥感は、ジャンル他作品の追随を許さない。バリバリ撃ちまくるガンシューティング。火薬の匂いがするタコス。惜しむことなく振る舞われるジョークとゴア演出。こうした知能指数がみるみるさがるコンテンツの数々を、とことんシリアスな飲食店自営業で見事にまとめあげた。
『FTL – Faster Than Light』や『Out There』のような、読み物としての楽しみはないが、B級映画オマージュのアートワークやシチュエーションが場景を力強く訴えている。インモラルやパロディをウリとした粗製濫造のゲームにみえるが、強固なゲーム設計と、緻密なレベルデザインで、プレイ体験が安っぽくなることはない。とはいえ、見た目のアクの強さはプレイを始める前の敷居となろう。まずは基本無料のスマートフォン版を手にされたし。120円でフルゲーム版にアップグレードでき、課金でタコトラックを強化もできる。PC版にはインストールフォルダにBGMデータがあるので、日常でもメキシカンな雰囲気に浸りたいゲーマーはそちらもお勧めだ。
本作唯一の欠点は、タコスが無性に食べたくなることである。ああ、近くにタコスはないものか、タコトラックは来ていないものか。いっそのこと自作してみてもいい。レシピはゲームで覚えたが、あの謎の肉は『Gunman Taco Truck』でしか手に入らない。